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猛暑があり、大雨がありと日本の気候は日々変動が多いです。
皆様、体調には十分気を付けてお過ごしください。
さて、今回は先日の臨床微生物迅速診断研究会で報告した内容をfixさせて話をしていきます。
グラム染色所見を確認する上で菌の形態的特徴を掴むことは菌種推定には欠かせないと思います。中でも、らせん桿菌はその形状が良く解り、グラム染色初心者でも菌種推定が容易な菌の一つと思います。
らせん桿菌で思いつくのがCampylobacterですが、ヒトに感染し発症するCampylobacterではCampylobacter jejuniが有名ですね。Campylobacter腸炎は日本の食中毒を起こす菌の中では1番多い菌です。この菌は鶏肉や牛肉、ミルクなどの生食を介して感染する菌です。鶏肉の汚染度を調べたところ80%以上汚染されていたという報告もあり、しっかりと加熱をして食べることが食中毒の防止になりますね。また、鶏肉を食べていない場合でも、一緒に調理した鶏肉を下処理したまな板は洗ったかとか、焼く前の菜箸を使いまわししなかったのかなど聞くことも診断価値を上げるためのコツかもしれません。やはり問診は大事です。
(http://www.nhs.uk/Conditions/Food-poisoning/Pages/Causes.aspx)。
経験上、Campylobacterは急性心筋炎を起こすこともあり、Campylobacter腸炎後3-5日で胸痛出現した場合は少し鑑別に上げても良いと思います。これはまた後日まとめて公開します(JACC Vol. 59, No. 9, 2012,Update on Myocarditis February 28, 2012:779–92など)。
さて、便の塗抹でCampylobacter腸炎を診断できるのか?ということを調べました。
当院で4500件あまりの外来患者さんの便を調べたところCampylobacterが3%ほど培養で分離されました。たった3%なので有用性の高い検査かどうか問われると、もともこもないですが、まあらせん桿菌が見えた場合に診断可能だと思い集計をしました。
培養で分離された検体について調べるとグラム染色でCampylobacterが確認されたのは45%程度。年齢構成で調べると小児と成人では差はありませんでした。感度と特異度を算出したところ、感度44%、特異度99%、PPV86%、NPV98%でした。感度は低めですが、特異度が高くCampylobacterが見えた場合は診断価値が高い検査であることは解りました。これは各報告を見てみると同じような結果でしたので特に話題性は無いかもしれませんが平均的なものであることが解りました。Campylobacterは後染色にはサフラニンを用いるよりフクシン(パイフェル)を用いる方が見やすいです。
便のグラム染色で見えたCampylobacter(12時の方向)
これでは少し物足りないので、便中の白血球数も一緒に考えました。Campylobacter腸炎の場合は病理学的にも白血球が出現しやすい状態ですので、白血球の出現頻度について考察しました。白血球出現率は63%と菌を見つけるより高い感度で診断できるのが解りました。これは小児より成人の方が多く見られました。ただし、便中に白血球が多く出現する腸炎の市中感染の起炎菌としてShigella、Salmonella、EHECなどがあります。そのため特異度は高いとは言えません。
(Pathology (August 2004) 36(4), pp. 343–344,Clinical Infectious Diseases 2001; 32:331–50)
便中に白血球が多数出てきます
これをどう使うのか?ですが。潜伏期間と便中白血球にらせん桿菌の確認を加えることでCampylobacter腸炎の診断に役立つことが解りました。外来で発熱を伴う下痢症の患者で潜伏期間は3-7日の間、便のグラム染色で白血球が多く見えた場合は、もう気持ちMAXでCampylobacterを探し、らせん桿菌が見えればCampylobacter腸炎は確定的となります。
ただし、ヒトから分離されるらせん桿菌は色々報告があります。
例えば、Helicobacter cinaedii(らせん回数が多いが4つ程度。主に血液から分離されることが多い)
F中病院のHさんからお借りしました
Brachyspira pilosicoli(らせん回数がかなり多く、長い。たまに血液から分離される。)
M病院のTさんからお借りしました
などがありますので、らせんの回数や集族しているかどうかの鑑別ポイントをしっかり押さえる必要があります。
困った例ではヒトに常在するCampylobacterが検出される場合があること(JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY, Feb. 2005, p. 585–588)。Campylobacterはjejuniだけで無いのでしっかりと同定が必要です。
真中のらせん桿菌(Campylobacter curvus)
便からCampylobacterが分離されることが少ない施設ではグラム染色自体全くしないという施設もあると思いますが症例を絞ってしてみるのは良いPracticeを産むきっかけになるのでは無いでしょうかね。皆さんの施設でもCampylobacter見つけ隊を結成してみてはどうですか。
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