カテゴリー「グラム陰性菌」の記事

2018年6月 8日 (金)

Acinetobacter baumaniiとStenotrophomonas maltophilia

先日、十二指腸潰瘍穿孔術後の遺残膿瘍のグラム染色を見ていると下記のようなスメアに遭遇しました。

2 膿瘍(1000倍)

細長くて多く散在しているグラム陰性桿菌と大きく太めのグラム陰性球桿菌とグラム陽性球菌。術前からCMZの投与が開始され、今回は発熱の熱源検索のため提出です。スメアを見たところこのような所見があり報告をしました。

上部消化管の遺残膿瘍のため、細めの陰性桿菌はPrevotellaやPorphyromonas、太めのグラム陰性球桿菌はAcinetobacterを推定しました。妥当性を得るためにカルテ情報を見たところ、遺残膿瘍には2週間もドレーンが留置されています。PrevotellaやPorphyromonasを想像して嫌気培養をしてNo growth。しかし、BTB乳糖加寒天培地には多くのグラム陰性桿菌がは2種類確認されました。陽性球菌と思ったのはAcinetobacterでした。

Acinetobacterはたまに陽性に染まることがある菌のため、鑑別に上げるときには注意が必要です。

結局同定の結果、Acinetobacter baumaniiとStenotrophomonas maltophiliaの2菌種。なるほどという結果でした。

A_baumanii A. baumanii(少し黄色い)

S_maltophilia 緑色が濃い(血液寒天で黄色くなる)

ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌ですが、BTB乳糖加寒天培地上では少し形相が違います。

グラム染色所見で推定菌を外したのですが、カルテ情報を良く読んでみると「なるほどね」と思い、繰り返し標本を見ていました。
ところで、A, baumaniiとS. maltophiliaは違う菌ですが、共通していることもあり、内容は以下です。

・自然耐性があり一部の抗菌薬は効果が無いこと
・人工物に関連した感染症が多く、長期留置している患者から分離されやすいこと。
・ICUといった抗菌薬の選択圧の高い場所に入院している患者に多く分離されること。
・悪性腫瘍や免疫不全など、日和見感染を容易に起こす患者が多い。

などなど。

Clinical Microbiology Review 2012年 Stenotrophomonas maltophilia: an Emerging Global Opportunistic Pathogen

Clinical Infectious Diseases 2006; 42:692–9 The Epidemiology and Control of Acinetobacter baumannii in Health Care Facilities

薬剤耐性で言えば、S. maltophiliaはカルバペネムやCAZを含めたβ-ラクタム薬は内因性耐性で全て効果が期待できません。切り札のカルバペネムでさえだめなんだから、培養結果が本当に重要です。A. baumaniiは耐性度は菌株ごとに違いがあるのですが、3世代セフェムのうちCTXやCTRXといったものは自然耐性です。

耐性菌であるため感染すると治療が難渋化しますが、人工物に関連した感染症も多いので、デバイス管理をしっかりとし、不必要なデバイスは抜去することが大切です。

検査室に必要なスキルとして・・・

AcinetobacterとS. maltophiliaはデバイス関連感染に多いので、提出された背景や理由についてしっかりと把握すること、検出されたら耐性菌のことも想定して、今使っている抗生剤について調べ、変更する抗生剤について処方提案を行う。

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2017年10月18日 (水)

グラム染色所見を用いたグラム陰性桿菌の菌種推定

月刊化となっていますグラム染色道場。本当に申し訳ありません。

ブログに書けない内容はfacebookやJ-IDEOにも書いていますので、一緒にご覧ください。

facebook:https://www.facebook.com/GramStainGym/
さて、表題にも示したように「グラム陰性桿菌の菌種推定」は本当にできるのか考えものです。教科書や参考書を見ると、グラム陰性桿菌は”短い”とか”長い”とか、”湾曲ている”とか”直線状”とか、目を凝らして見ないと区別が無理なんじゃないかと思うものばかりです。

先日、クラコソグランプリで出ていたので思わずネタを作ってFBに流したところ44,000人に読まれるといった盛況ぶりで本人もびっくりです。

Photo

本当にこち亀の中川さんが困るくらい似ていて区別がつくのかつかないのか悩みます。
最後にもありますが、緑膿菌と大腸菌が容易に区別できれば、本当に良いですよね。

大腸菌は直線的で柵状のものが多く見え、緑膿菌は湾曲したものが混じり、フィラメント化のものや細い感じのものがありますので、良く見るとその違いが分かります。

ただし、緑膿菌の中には大腸菌にそっくりさんがいて、私達を惑わせます。

ただ、緑膿菌が出そうな人はどういう人か?と意識してみていくと、太い緑膿菌であっても、単純に「あ、大腸菌かな」では無く、「緑膿菌の可能性あるよな。」に変わることでしょう。
Clinical pearlとして

「細く見えると緑膿菌の可能性が高い」→抗緑膿菌作用の抗生剤を検討
2_2 典型的な細みのある湾曲の菌体

「太く見えるのに大腸菌の可能性があるが、一部緑膿菌のこともある」→患者背景を見ながら抗緑膿菌作用の抗生剤にするか検討
全て抗緑膿菌作用の抗生剤で開始する方法もあるのですが、折角グラム染色をしているだから所見を無駄にしたくないですね。

緑膿菌がでそうな人とは
・入院期間が14日を超えている人
・慢性気道感染症などもともと緑膿菌の既往がある人
・抗生剤の曝露歴が頻回にある人

他にもあるでしょうがコモンで遭遇するのは多くがこのような人では無いでしょうか。
また、太い緑膿菌に遭遇するのは

・尿から出た緑膿菌
Photo_2

・バイオフィルムたっぷりの緑膿菌
2

・乾きが悪い血液培養陽性の緑膿菌
23

いずれにせよ、日頃からの鍛錬が必要ですね。

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2014年9月12日 (金)

カルバペネム耐性腸内細菌は五類感染症になるぜよ

明日から高知であるHICA医療関連防止セミナーに伺います。初めての会なので不安とわくわく感の錯綜です。

http://www.jsmi.gr.jp/sterilization/HICA2014kouchi.pdf

それはそうと9/9の官報でカルバペネム耐性腸内細菌感染症が感染症法での届出疾患になることが報告されていました。実際には9/19から発生した感染症は届出対象になります。経緯はここが参考になります。(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000044962.html

他には、水痘(入院を必要とするもの)、耐性アシネトバクター感染症、播種性クリプトコッカス症の4つが追加になります。
詳細は http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html
Photo 9/12付で厚労省のHPに掲載されています。

定義は「メロペネムなどのカルバペネム系薬剤及び広域β-ラクタム剤に対して耐性を示す腸内細菌科細菌による感染症である。」と記載されています。今回はメロペネム耐性が一つのポイントになっています。

詳細な基準としては、検出される検査材料別に分けられ、血液や髄液のような無菌材料は全てになりますが、喀痰や尿などは医師より感染症と診断されたものになります。
こういうのは発生数は少ないですが対象となります

1
感受性の基準は以下の通り

ア)MEPMのMICが2μg/ml以上、または阻止円が22mm以下となるもの。

または

イ)IPMのMICが2μg/ml以上(阻止円が22mm以下)のもので、かつCMZのMICが64μg/ml以上(阻止円が12mm以下)のもの。

IPMは検出感度が悪いことが以前から指摘されていますので今回はCMZとの組み合わせで少し検出感度を上げることになりそうです。MICや阻止円はCLSI基準でも新しいものが採用になりMICは2μg/mlでカットオフにされています。

少し疑問点が出てくると思います。

・MBLやKPCのような耐性機序の確認は必要なのか?
→カルバペネム耐性腸内細菌はMBL、KPC、OXAといった大きく異なる酵素を持ったものが混在しているため1つの方法では耐性菌かどうかのスクリーニングは困難である。また中小規模の施設ではPCRでの確認も困難であるので問われていない可能性がある。カルバペネムのような最終的な治療薬に対して耐性化した腸内細菌が問題になる。
2

来年からCLSIに掲載されるCarbaNP法はこちら(http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/carbanp-2f1b.html

・MICが2μg/ml以下のカルバペネマーゼ産生菌もいるのでは無いのか?それは対象にならないのか?
→確かに耐性機序を調べる目的でスクリーニングするとMICが2μg/ml以下のものは検出されることがあります。現段階では耐性化どうかが焦点になっているので耐性機序については確認されても定義を満たさなければ報告対象にはなりません。ただし、それで感染対策をしなくて良いのか?というものでは決してありません。感染症法の届出疾患と治療と感染対策は少し別に考えていかなければなりません。

・カルバペネムの感受性は測らないといけないのか?
→測ると殆ど感受性になるので、初めから測らない施設もあると思いますが、測らないと引っかかりません。今や15年前は認知度が低かったESBL産生腸内細菌は毎日のようい見るようになりました。腸内細菌は健常者にも多く存在し、カルバペネム耐性菌の多くはプラスミドにより耐性遺伝子の授受が行われます。緑膿菌のMBL産生菌の場合は日和見感染菌であり、腸内細菌には遺伝子を授受しにくかった傾向もあり伝播は院内でしてしまうことが多かったのですが、腸内細菌はそのようにはいきません。少し危機感を持って対応するためカルバペネム耐性かどうかはしっかり把握する必要があります。

・MICが2μg/mlを超えるものであってもカルバペネマーゼを出さないものがあるのではないか。
→確かにグラム陰性桿菌の中にはβ-ラクタマーゼを多量に産生(ペリプラズムの部分に酵素を多量に貯留することが指摘されています)するものがあり、カルバペネマーゼを産生しなくても2μg/mlを超えるものは散見されます。スクリーニングをしても例えば変法ホッジ試験でも陽性反応に出てしまい判定が難しくなります。

・多剤耐性緑膿菌(MDRP)との関係はどうなるのか
→確かにMDRPの基準にIPMのMICが16μg/ml以上というのがあります。これとは少しというか大きな差があります。今回、基幹定点報告から全数把握に変更される耐性アシネトバクターも同じですが、腸内細菌の方が検出頻度も高くより厳しい基準になっているのかもしれません。

全てが捕まらないかもしれないが、どこかで基準を決めて今後蔓延しないように監視すること、大きな病院へ精査が偏ることなく地方衛生研究所でもしっかりと精査が可能になるように法整備をすることが目的とされているように思います。

3 CLSIカルバペネムワーキング資料より転載。

日本では微生物検査室がしっかりと検出し、感染防止対策に貢献していることもあり耐性菌は他国より少ないことも考えられています。しっかりと日常から耐性菌の検出を行うことは大切ですが、より微生物検査室にかかる負担が大きくなり、国もその辺はしっかりとフォローして欲しいと思います。

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2014年8月22日 (金)

CarbaNPテストをしてみました

先日、K大学のT先生とM先生、I先生のご厚意でCarbaNPテストをする機会を頂きました。

カルバペネムは絶対的な抗菌活性を示す抗菌薬として位置づけされることが良くあります。特にグラム陰性桿菌に対しては殆ど感受性を示すので最終兵器として臨床現場でも使われることが多いと思います。また、一般的にはグラム陽性菌+グラム陰性菌+緑膿菌+嫌気性菌の複合感染菌が疑われたり、重症患者であったりと使う場面を限って使われる機会も増えてきました。

1990年代からカルバペネマーゼを検出するためのスクリーニング法が色々と出てきました。

・チオール化合物を利用し阻害反応を見るもの:2-MPA法、SMA法
・キレート剤で亜鉛活性を無くす方法:EDTA法
・カルバペネム活性の低下を肉眼的に観察するもの:変法ホッジ試験

いずれもディスク拡散法を利用した方法です。

変法ホッジ試験は数年前からCLSIのドキュメントにも記載されているスクリーニング方法で、E. coliのATCC株を用いて、ミューラーヒントン培地とカルバペネムのディスクを使い、カルバペネマーゼの産生を見るものです。クローバーリーフ試験とも言い、カルバペネマーゼ産生菌であれば阻止円が歪みクローバー状の切れ込みができると陽性と判定する方法です。

感度と特異度が90%を超えるため良いスクリーニングには向いているとされています。

Kpc1 KPC-2(左側と右側) 中国にて今から5年前にしました。

20131228_144830 IMP-1/6(左側)、右側はESBL産生菌

ただし、中央に置くディスクはエルタペネム>MEPM>IPMの順に検出率が向上します。エルタペネムは現在日本で使用されていない抗菌薬ですが、ディスクは既に販売されていますので購入することは可能ですなようです(すいません調べていません)。

最近は色々な相談を受けて実際してみますが、MBL産生菌であれば綺麗に陽性反応を示しますが、ESBLやAmpCが過剰産生された菌に関しても陽性反応が出てしまう傾向があるようです。少し技術が無いと判定が難しくなります。

Photo 変法ホッジ試験の偽陽性(J. Antimicrob. Chemother. (2010) 65 (2): 249-251.)

複合酵素を同時に産生している場合は偽陽性、偽陰性となる例も出てきます。偽陰性については亜鉛含有量を増やすと良くなるという報告もあるようですが市販培地を使うのであれば対応が困難になりそうです。

先日、CLSIの来年度のドキュメントの概要が臨床微生物学会のHPに掲載されていました。カルバペネマーゼ産生菌についてはCarbaNP法の掲載が決まったようです。
(http://www.jscm.org/kokusai/2014_clsi.html)

少し調べてみました。フランスの研究者であるNordmanさんとPoirelさんがカルバペネム耐性菌を見つけるスクリーニング方法として考えた方法です。反応原理は極めてシンプルです。(EID,vol18,No.9,2012,1503-1507)

pH指示薬であるフェノール赤による色の変化でカルバペネマーゼの産生を確認するものです。細菌検査をされる方であれば、身近にTSI培地というものがありますがあの色の変化です。陰性は赤のまま、陽性は黄変するのを肉眼的に観察します。

菌は1白金耳に溶菌剤を混和して30分間インキュベーション。上清みを採取して指示薬+イミペネムを混合した液体と混和して2時間以内に判定をするものです。

Dsc_0233_2 左が陽性(P. aeruginosa IMP-1)、右が陰性(ESBL CTX-M)

反応時間が2時間以内と書いていますが、酵素活性が高いものは5-15分もあれば十分に見ることができます。また、1度に複数検体の処理をしても手間はかからないこともあり大量処理も可能です。

ムコイド株の場合は反応が遅く出ることがあり2時間は必要であるとか、カルバペネマーゼの種類によっては偽陰性になることがあるという報告もありますが、今のところ日本で検出率が高いIMP型の場合はESBLやAmpCが混合していても検出可能なようです。(Antimicrob. Agents Chemother. September 2013 vol. 57 no. 9 4578-4580)

Carbanp60
・遺伝子検査の場合は機材の導入や技術が必要になる。遺伝子の存在=耐性とは限らない。

・変法ホッジ試験も少し熟練技が必要。また複合酵素産生株は判定が難しくなる。偽陰性もある。

・SMA法はMBLの特異的な検出法であり、KPCの検出には向いていない。

どの臨床検査も100%の成績を保持することは困難であり、色々な検査法を検討してより確実な結果が出せるようにしていくべきだと思います。

CarbaNP法ですが、実際やってみての感想です。少しだけコツがありますが、これなら細菌検査室がある施設であれば可能かと思います。皆さんも機会があればトライしてみてください。
本日は誕生日に更新できて光栄です。皆様、ブログを今後ともご愛顧下さい。よろしくお願いします。

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2014年8月 5日 (火)

Campylobacter見つけ隊

ブログ更新が滞っておりまして読者の皆様にはご迷惑おかけしております。

猛暑があり、大雨がありと日本の気候は日々変動が多いです。
皆様、体調には十分気を付けてお過ごしください。

さて、今回は先日の臨床微生物迅速診断研究会で報告した内容をfixさせて話をしていきます。

グラム染色所見を確認する上で菌の形態的特徴を掴むことは菌種推定には欠かせないと思います。中でも、らせん桿菌はその形状が良く解り、グラム染色初心者でも菌種推定が容易な菌の一つと思います。

らせん桿菌で思いつくのがCampylobacterですが、ヒトに感染し発症するCampylobacterではCampylobacter jejuniが有名ですね。Campylobacter腸炎は日本の食中毒を起こす菌の中では1番多い菌です。この菌は鶏肉や牛肉、ミルクなどの生食を介して感染する菌です。鶏肉の汚染度を調べたところ80%以上汚染されていたという報告もあり、しっかりと加熱をして食べることが食中毒の防止になりますね。また、鶏肉を食べていない場合でも、一緒に調理した鶏肉を下処理したまな板は洗ったかとか、焼く前の菜箸を使いまわししなかったのかなど聞くことも診断価値を上げるためのコツかもしれません。やはり問診は大事です。
(http://www.nhs.uk/Conditions/Food-poisoning/Pages/Causes.aspx)。

経験上、Campylobacterは急性心筋炎を起こすこともあり、Campylobacter腸炎後3-5日で胸痛出現した場合は少し鑑別に上げても良いと思います。これはまた後日まとめて公開します(JACC Vol. 59, No. 9, 2012,Update on Myocarditis February 28, 2012:779–92など)。

さて、便の塗抹でCampylobacter腸炎を診断できるのか?ということを調べました。
当院で4500件あまりの外来患者さんの便を調べたところCampylobacterが3%ほど培養で分離されました。たった3%なので有用性の高い検査かどうか問われると、もともこもないですが、まあらせん桿菌が見えた場合に診断可能だと思い集計をしました。

培養で分離された検体について調べるとグラム染色でCampylobacterが確認されたのは45%程度。年齢構成で調べると小児と成人では差はありませんでした。感度と特異度を算出したところ、感度44%、特異度99%、PPV86%、NPV98%でした。感度は低めですが、特異度が高くCampylobacterが見えた場合は診断価値が高い検査であることは解りました。これは各報告を見てみると同じような結果でしたので特に話題性は無いかもしれませんが平均的なものであることが解りました。Campylobacterは後染色にはサフラニンを用いるよりフクシン(パイフェル)を用いる方が見やすいです。

2 便のグラム染色で見えたCampylobacter(12時の方向)

これでは少し物足りないので、便中の白血球数も一緒に考えました。Campylobacter腸炎の場合は病理学的にも白血球が出現しやすい状態ですので、白血球の出現頻度について考察しました。白血球出現率は63%と菌を見つけるより高い感度で診断できるのが解りました。これは小児より成人の方が多く見られました。ただし、便中に白血球が多く出現する腸炎の市中感染の起炎菌としてShigella、Salmonella、EHECなどがあります。そのため特異度は高いとは言えません。
(Pathology (August 2004) 36(4), pp. 343–344,Clinical Infectious Diseases 2001; 32:331–50)

500 便中に白血球が多数出てきます

これをどう使うのか?ですが。潜伏期間と便中白血球にらせん桿菌の確認を加えることでCampylobacter腸炎の診断に役立つことが解りました。外来で発熱を伴う下痢症の患者で潜伏期間は3-7日の間、便のグラム染色で白血球が多く見えた場合は、もう気持ちMAXでCampylobacterを探し、らせん桿菌が見えればCampylobacter腸炎は確定的となります。

ただし、ヒトから分離されるらせん桿菌は色々報告があります。

例えば、Helicobacter cinaedii(らせん回数が多いが4つ程度。主に血液から分離されることが多い)
Photo_2 F中病院のHさんからお借りしました

Brachyspira pilosicoli(らせん回数がかなり多く、長い。たまに血液から分離される。)

Photo_3 M病院のTさんからお借りしました

などがありますので、らせんの回数や集族しているかどうかの鑑別ポイントをしっかり押さえる必要があります。

困った例ではヒトに常在するCampylobacterが検出される場合があること(JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY, Feb. 2005, p. 585–588)。Campylobacterはjejuniだけで無いのでしっかりと同定が必要です。

2_2 真中のらせん桿菌(Campylobacter curvus)

便からCampylobacterが分離されることが少ない施設ではグラム染色自体全くしないという施設もあると思いますが症例を絞ってしてみるのは良いPracticeを産むきっかけになるのでは無いでしょうかね。皆さんの施設でもCampylobacter見つけ隊を結成してみてはどうですか。

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2013年5月31日 (金)

それって結石ないですか?

尿のグラム染色結果で至急対応ってのがたまにあります。

急性腎盂腎炎の場合で症状が重い事は良く経験することでしょう。 

尿のグラム染色所見を見る上でポイントとなるのが腸内細菌の分布と菌数、菌種の数です。

尿路感染症では大腸菌から始まって、大腸菌に終わるほど大腸菌感染が多いことが知られています。他には肺炎桿菌や腸球菌もありますが、病態が複雑になるにつれてProteusや緑膿菌の占める割合が増えてきます。病態が複雑になるというのは神経因性膀胱や尿路変更、尿路閉塞があったりとどうしてもカテーテル留置が必要なケースがあります。

このProteusや緑膿菌はカテーテルに関連して出てくる菌として良く知られています。

グラム染色所見ではどう見えるんでしょうか?

Proteusも緑膿菌も集塊状に見えることが多いと思います。理由は分かりません。バルン留置に伴う膿尿のせいでしょうか?菌の外膜の構造上の特徴でしょうか。緑膿菌の外膜は脆弱しているので塊易いと聞いた事があります。

私信でうすが、Proteusと緑膿菌の違いほど、属レベルの菌種を区別しづらいものは無いと思っています。私も良く間違えます。良く見れば菌の太さや集塊の大きさに若干の違うがありそうですが、確信をつくためにそういう時は画像所見を活用したり、医師に『これ結石無いですか?』と聞いたりします。

2×1000 腎盂尿からのProteus mirabilis

結石とProteus...何の関係が?

微生物検査をされている方は良く知っていると思いますが、Proteusは尿素分解反応が陽性の菌です。尿路に出来る結石の主成分は尿素ですので尿路結石による複雑性尿路感染症の場合はProteusが関与することが散見されます。

尿にProteusが出てくるのが確実に分かる現象もあります。紫尿バック症候群がそれですよね。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23359394

7 紫尿バック症候群

Proteusの中でも分離例が多いのはP. mirabilisと思いますが、このP. mirabilisは元々テトラサイクリンを除いてどの抗菌薬も感受性が良いことが知られています。テトラサイクリンに関してはtet遺伝子という能動的排泄機序による耐性化がありますので効かないということです。最近気になる事はこのP. mirabilisのESBL産生菌分離率が上がっていることです。

2002年のイタリアの報告では52%であったと驚異的な数値報告(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC140357/)があります。日本ではどうか?2003年から2004年にかけて中村らが近畿地区調べたところ5%であったと報告(http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0800030231.pdf)がありますが、最近の報告では金山らが37.8%であったと報告(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20609568)しています。着実に市中での増加傾向を辿っていますが、P. mirabilisのESBL産生菌はdomesticな拡がりを見せているようで特定の地域や医療施設での分離が多く目立っているようです。

既にESBL産生菌が蔓延しつつあるProteusですが、患者背景に注意しながら治療にあたらないといけないようです。施設内のアンチバイオグラムなどを参考にしながら対策を進めていくと良いでしょう。

Photo

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おもむろにfacebookのページを作成してみました。

拙い英語で簡単に紹介しております。興味のあるユーザーの方は『いいね!』を押して下さい。

www.facebook.com/GramStainGym

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2012年1月11日 (水)

やっぱりグラム染色は抗菌薬の適正使用に欠かせない その1

こんな状況に皆さん遭遇するでしょうか?

脳外科医:今、手術でこんなの採れたけど、合う抗生剤の情報が欲しいんだ。

私:脳膿瘍ですか?それとも硬膜外膿瘍ですか?、または術後の方?

脳外科医:神経症状がはっきり無い患者だけど、MRIでリング状の造影効果があるので脳膿瘍に間違い無いんです。外傷後や手術後ではありません。

私:じゃあ、採取時の特徴は何かありますか?

脳外科医:臭いは特に無く、膿瘍の周囲にガスを認めたくらいです。

私:そうですか。最後に抗菌薬の前投与はありますか?MRI撮影後なので。

脳外科医:はい。他院から転送されてきましたが、既にCTRXが数日間投与されていたようです。血液培養は一応出したのですが。結果未だですよね。

私:判りました。スメアは10分後に報告しますので、しばしお待ちください。

まず、この時点でどういったスメアを期待するのか?菌が出てくる場合はどういうものが見えるのか、まず頭の中を整理するのが大切です。

たとえば陽性菌か陰性菌かです。

特に、脳膿瘍などの重症化した疾患には本当に迅速に原因菌の検索が必要になると思います。

今回は手術や外傷のような創傷に伴う感染では無いので、ある程度菌が絞られます。やはりコミュニケーションは大事です。

で、見えたのが下記。

うーんと思いますが、どういった菌が予測され、この菌が原因菌である場合は、結果報告する際に何かアセスメントすべき事項はあるでしょうか?

たまに問題を出さないとマンネリ化するので、今回は問題にしました。

一応答えはその2で作る予定です。忘れていたら指摘下さい。

10001 ×1000(その1) 10002 ×1000(その2)

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2011年8月 8日 (月)

熱の原因と抗菌薬の相談

ICTを通じて感染症のコンサルトを受けることが多いのですが、必ず患者さんの背景、今の状況、今後の方針、問題点などを聞くようにしています。

不明熱というより感染症かどうか分からないので聞いてこられる例も多いです。

これは先日、外科術後にあった例ですが。

微熱が続いているという相談内容です。熱源の検索としては画像診断をしたが明らかにリークなど手術に伴うものは無いとのことです。一応、画像をこちらでも確認しましたが問題点はありませんでした。

尿バルンを留置していて、もしかしたら熱の原因が尿路感染なのかもしれないということで、尿路感染を起こしてるかどうか確認していくことにしました。

一般検査は?潜血(+)、白血球(+)、亜硝酸(-)。バルンも入れているし、白血球の有無はあまり充てになりませんし。原因菌と菌量を確認して参考にすることにしました。ただ、沈渣では細菌(+)。沈渣で菌の定量は出来ませんのし、菌の種類が分からない。その見えている細菌って何だろうということです。しかも亜硝酸が(-)。

これはグラム染色を見る価値があるということで研修医と一緒に確認しました。

1000×1000

グラム陰性桿菌ですね。ということは分かりましたが推定菌までは難しいようです。

じゃあ、見た染色を言葉に出して言いましょう。グラム陰性桿菌で、細い?少し塊も。

尿路感染で良くあるのは? 大腸菌ですとは分かっているようです。

大腸菌は既に分かっているスライドです。比較してみましょう。

600


ちょっと大きいので分かりやすいです。

これを目に焼き付けて前のスメアを見ますと

1


このようになります。少し細く小さい菌なので緑膿菌を含めたぶどう糖非発酵菌であると予測出来る場合があります。また、塊がある。バルン挿入している。何より亜硝酸が(-)ですので益々可能性が高まるわけです。

一般定性で亜硝酸が(-)になる主要な菌は緑膿菌や腸球菌。亜硝酸を還元する能力は腸内細菌群のように無いことがキーになると思います。

やはりこの場合は複数菌無いかどうか確認する必要があり、最後にアンチバイオグラムからCAZが適当と考え治療開始となりました。

追加で、『あ、先生!血液培養出ていませんよ。薬入れる前に採取してね』と伝えました。採取して貰えましたが結果陰性でした。

やはり現場でしっかりと話しないと双方の意見が繋がりませんよね。

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2011年7月28日 (木)

ハズレなんだろうか

j個人的に喀痰グラム染色所見を見た時のコメントは1検体ずつ分けることが多いです。

菌をそのまま推定した肺炎像(例えば、肺炎球菌性肺炎の可能性あり)とか、多菌種貪食像のため唾液誤嚥性肺炎を疑う、上皮や好中球が縮小し過ぎて雑多な菌が多いので逆流性誤嚥を疑うなど・・・

どこまで臨床で把握されているか分かりませんが、検査室内で翌日発育してくるだろう菌を想定してコメントを残すこともあります。培養でどの菌を引っ掛けて報告するのか考えるためです。

さて、先日は逆流性誤嚥?とコメントした喀痰グラム染色ですが、腸内細菌群の疑いと追加コメントをしましたが・・・・

翌日発育してきたのは、マッコンキー寒天培地に赤色集落。フムフム、腸内細菌なので同定・感受性と進めれば、更に翌日”Aeromonas hydrophila”と。してやられたとオキシダーゼ試験したところ(腸内細菌は必ず陰性なので)陽性になりました。

これでめげてもダメと思いグラム染色像を再確認しました。でも私にはこれが次に出てきてもAeromonas hydrophilaと言える器量はありません。でも、逆流性誤嚥と報告したまでは良かったのでは無いかと。

200 ×100

10002 ×1000

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2011年6月13日 (月)

Eikenella corrodensが出たと伝える時

先日、胸水から菌が発育しました。ダイレクトに出たのでは無く増菌培養から。
少し話題はずれますが、感染症を疑って胸水培養する場合、グラム染色で見えない事も多く、遠心した処理検体を直接培養するのに加えて液体培養も実施します。胸水をカルチャーボトルにダイレクトに入れて出すとグラム染色が出来ませんので、スピッツに別に1本採取することを忘れないようにしなければ
なりません。

で、出た菌は下のようでした。

1000検体直接塗抹(1000倍)見えません。

1000_2増菌培養の塗抹(1000倍)


『グラム陰性桿菌ですが、染色性が悪く細い桿菌。緑膿菌かも知れないけど、集塊は見えないので、緑膿菌じゃ無いと思うんですが』という検鏡をした部員からコメント貰い見たが、私も同様の意見。こういった場合の報告って困りますよね。取り合えず分かってること、はっきり言えることを整理して伝えてみましょう。

①グラム陰性桿菌である。
②腸内細菌では無いと言うことが推測される。
③今の状況から緑膿菌などの非発酵菌は外せない。
④よっぽどレアな菌じゃ無ければ明日までに推定菌種が言える(この時、血液寒天、チョコレート寒天、マッコンキー寒天は必須!)

とりあえず、この順番で報告してます。何故なら①→④に行くにつれてマニアックになり、臨床微生物に興味が無いなら何言っているのか分からないと思うので、向こうの時間に合わせて報告様式を変えるようにしております。

検体を採取するに至った背景を聞くと、右肺炎に右胸水貯留。細菌性の胸水を疑い提出したとのこと。抗菌薬の投与も無く、緑膿菌の既応歴は無いとのこと。うーん。非定型だがインフルエンザ菌も想定に入れておこうという事になりました。胸水穿刺後にMEPM投与開始。ここでの問題はMEPMはどうか?でしょう。

翌日、こんなの出てきました。


Dsc01596

培地上の発育性を見ていると、もうこの菌しかありません。集落の中心部から周辺にかけてのcorrding 形成です。同様の培地上の特徴はなく、同定する前に報告可能かと思います。一応、βラクタマーゼ陽性のものがある、EM、CLDM、MNZは耐性であるなど、薬剤耐性のことを合わせて言うことは大事です。つまり、マクロライド、CLDM以外であれば耐性はあまり気にせず、ペニシリンを中心としてオーソドックスな治療が期待出来るということになります。MEPMまでは必要ないと思うので患者さんの状態と相談しながら、de-escalationも選択することが出来ると思います。

それは、Eikenella corrodens と言っても分からない医師も多く(感染症を専門に診てないとほぼ無理でしょう)、病原性、症例として報告が多いのか、薬剤耐性はどうかなどのプチtaxonomyは必要でしょう。同時に同定上の注意事項など覚えると良いでしょう。
教科書的にはHACEK group bacteriaと言われるが、培養条件は微妙に違うのは書かれておらず。同定はCarduobacterium,Actinobatillusのように難しく無く、むしろ集落の特徴を知っているとH. influenzaeより容易である(同定かけなくても分かる)。元々はBacteriodesだったので発育性も違うようです。

教科書的には、元々口腔内の常在菌なので膿胸を起こすことは稀で無いので起炎菌の可能性が高いということを加えると良いでしょう。ついでに気道疾患がベースに無いのか確認するのが大切です。肺炎、歯性感染症、頚部膿瘍などの疾患がメジャー疾患のようです。

インタラクティブな会話を日常的すると刺激的な毎日を送れます。

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