E, faecalisとE. faeciumを分ける理由
本当にブログを書く時間がなく、Googleも2ページ目に登場しなくなりました。
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先月の更新日を見ると4/18。もう月刊グラム染色道場と化しています。
先日、ある研究会に参加させて頂きました。
グラム染色について頂く相談の中に「グラム陽性桿菌と思いましたが同定したらStreptococcusでした。どうしてですか?」というものが多くあります。確かに球菌なのに桿菌に見えるとは、これはややこしいです。
久々の投稿です。皆さん心配をおかけしてすいません。師範手前は健在ですのでご安心ください。
最近、相談が増えてきたものの中にメーリングリストやSNS、研究会等で腸球菌の感受性、特にアミノグリコシド高度耐性(HLAR)試験があります。
過去ログ(2011年)に記載していたのですが、ブログ史上初めてのリバイバルをすることにします。(http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/hlar-59a0.html)
少しだけ追加修正もしました。
感染性心内膜炎の項はα-Streptococcus(Streptococcus Viridans group)、次いでEnterococcusの順で記載があります。双方とも急性というか亜急性で持続菌血症を起こしている場合に感染性心内膜炎へ発展することは良く知られています。α-Streptococcusはもともと口腔内に多く住み、虫歯の原因にもなる菌です。エナメル質を融解しやすく、弁膜に付着しやすいという話のあります。
さて、心内膜炎の治療薬についてアミノグリコシドの併用について記載があります。
しかし、連鎖球菌群はアミノグリコシドに自然耐性を示すため、感受性の判定基準を決めているCLSIでは、α-StreptococcusやEnterococcusにはアミノグリコシドの判定基準はありません。当然、S. penumoniaeやS. pyogenesにもありません。
ガイドライン上でアミノグリコシドの併用が推奨されている理由の一つにはシナジー(相乗)効果があり、。α-Streptococcusでは第一選択薬のPCGのMICが0.12μg/ml以下であるか、0.5μg/ml以上であるかで治療方針が変わっているようです。
シナジー効果は菌の細胞壁にあるペニシリン結合蛋白(PBP)へPCGの親和性を上げる(弁膜内への移行性も亢進させる)ことや耐性化防止を目的にしています。どうやら、PCGを継続使用していると耐性化が進み(MICの上昇)、生体弁の場合に弁膜内への移行も下がり治療効果が落ちる可能性が出てくるという理屈です。なので、アミノグリコは併用薬として標準的に用いることが必要になるようです。これはPCGだけでなく、VCMの時も同じです。
これはEnterococcusに関しても同じである。
・E. faecalisはペニシリンの親和性が良く第一選択薬として使用される機会が多い。
・E. faeciumはペニシリンの親和性が悪く、PCGを第一選択薬として用いる機会が少なく、VCMが選択される機会が増えます。
・Enterococcusはα-Streptococcusと違い、セフェムの親和性が悪く、in vitroで感受性に出ても(MICが低い)、in vivoでは治療に適さない。
そして、Enterococcusのところにはアミノグリコシド高度耐性という名称が出てきます。
高度耐性といっても元々耐性では無いかと思われる方が多いと思いますが、この高度耐性試験という言葉には意味があるようです。ゲンタマイシン(GM)について説明します。
・アミノグリコシド低感受性とはGMのMICが256μg/ml以下のものを指す。
・アミノグリコシドの耐性機序の中でもMICが256μg/ml(256-384μg/ml)以上のものがあり、PCG(この場合はABPCとして書かれている)との併用効果が見られなくなる。
つまり、GMのMICが256μg/mlより高い場合(次のMIC値は500μg/ml)は併用しても臨床的意義が下がりますよということになります。
つまり、CLSIの判定基準を参照するとGeneral Comments3には、『ABPC、PCG、VCMとの併用効果判定をするためにGMとSMの高度耐性試験を行いなさい。』と記載される訳である。
さて、高度耐性試験は実際ルチンでされているのでしょうか?恐らく殆どの施設でEnterococcusが出てきたからと言って実施している訳でありません。当院でも菌血症時には全てする程度です。
試験が難しいからでしょうか?
そうでもありません。現在は自動機器で出るものもあれば、Etestでも測れるし、ディスク拡散法でもチェックが可能です。今回はディスク拡散法を紹介します。
GMとSMは通常、腸内細菌などで感受性しているディスク(BD製ではGM10というもの)では無く、高度耐性用として販売されています。それほど高価な商品ではありません。このGM10というのは1枚のディスクに含有されているGMの濃度を示します。高度耐性用はこの濃度が違いGM120という120μg/ml含有のディスクを使用することになります。
GM120のディスクはミューラーヒントン培地(MHA)を使用して、通常の感受性の方法を使い、好気条件の35±2℃で16-18時間培養しディスクの径が6mm以下(阻止円が見られない)であれば耐性と判断します。256μg/mlじゃ無いじゃないかと相談を受けることもありますが、GM120とはGMのMICが512μg/ml以上であることを示します。よって高度耐性の確認になります。SMの高度耐性はGMと少し違い、SMのMICが1024μg/mlという意味です。
通常、分離される腸球菌のうち2-4割ほどの分離率である高度耐性株ですが、感染性心内膜炎を考慮するような病態での時は実施した方が臨床に即した形での報告となります。
また、一部ではEnterococcusであればβ-ラクタマーゼ産生菌の報告もあり、心内膜炎という重症疾患でPCGを使う場合はβ-ラクタマーゼの有無を検討を考慮すべきでしょう。
米国の感染性心内膜炎のガイドラインを見て見ると、治療期間は生体弁で標準4週間、人工弁では標準6週間になります。アミノグリコシドなので副作用も出現しやすく、TDMを実施して治療に役立てるようにとも記載があります。またonce daily doseでは無いので、このTDMは非常に重要になります。SMのTDMは残念ながらコマーシャルラボでもTDMを実施していないので、少々使いにくいかもしれません。
薬効のこと、検査のこと、治療期間のこと、経過のことを含めて考察することは、ICTの活躍の場面では無いかと思います。また、アミノグリコシド高度耐性株でもペニシリンのMICが0.1-1μg/ml下がることが分かっています。体外試験の結果であり実際には使用されないケースも多いと思います。
前述したように、手前味噌ですが、当院では血液培養から腸球菌が出た場合、β-ラクタマーゼの有無、GM高度耐性は全てチェックすることを数年前より行っています。万が一後で感染性心内膜炎が見つかった場合にも備え万全の体制で診療支援を行っています。やはり、重症化が予測される疾患の場合は、ある程度先読みして検査を実施することも必要になるのでしょう。
皆さん、試験の意味と行うタイミングについてしっかりと考え導入をしていきませんか。
写真は血液培養からの腸球菌(E. faecalis)とGM高度耐性試験を実施した画です。GM高度耐性は感受性と耐性を並べてました。腸球菌は連鎖が短く、E. faecalisはやや楕円になり肺炎球菌に類似するのが特徴です。E. faeciumは少し違います。
参考文献)
・CID 2003,36,615-621.
・Circulation 2005,111,e394-e434
・JAC 2004,54, 971–981.
・CID 2000,31,586-589.
先日、日本薬学会134年会のシンポジウムで話する機会を頂きました。
メインテーマは『MRSAをみつめてたたく』~MRSAの実態と対応策~
私は『MRSAの報告時に考えること』というタイトルで話をさせて頂きました。
元々、基礎系の研究者が多い学会だそうで、その中で臨床の話を取り上げる機会が少ないそうで、今回は臨床検査技師という更に貴重な職種として参加することになりました。
学会の規模は非常に大きく、参加者が約1万人だそうです。環境感染学会の8千人も多いなあと思いましたがそれをも凌ぐ学会だそうで、宿泊施設も争奪戦だったと聞きました。
さて、話した内容は下記の通りです。
1.検査室でMRSAをどの時点で推定、または決定して報告しているか?
臨床現場で起こるMRSA感染症のうち、重要な疾患はいくつも存在するが、菌血症(敗血症)は合併症を含めて最重要となる感染症の一つです。
例えば、血液培養陽性となった場合にどのようにMRSAと決定していくのでしょうか。
機械で血液培養陽性のシグナルが鳴ると、まずは培養液を直接グラム染色します。ブドウ球菌は名前の通りグラム染色所見でブドウ状の陽性球菌となります。同じ陽性球菌でもStreptococcusやEnterococcusはレンサ状に確認できるので、この時点でStaphylococcusの可能性が示唆されます。問題はS. aureusかCNSかですが、当院はバクテアラートを使用しているので、S. aureusは好気ボトルで小さい大きな集塊を確認することが多く菌種推定に役立ちます(J Clin Pathol 2004;57:199–201)。培養液はそのまま寒天培地に塗布して発育した集落を同定感受性検査の結果でMRSAと判定します。MRSAの確定はセフォキシチン(オキサシリンは少し感度低くなっている)の感受性を確認することで確認検査は不要です。更に、感受性検査まで待てない緊急度の高い状況ではセフォキシチン含有のスクリーニング培地を用いたり、PCRでmecAの確認をしたりとしています。何事もそうですが、早期に適切な治療を開始することが大切です。
2.VCMのMICが2μg/mlの株は本当に多く存在するのか?
VCMが2μg/mlの株はVCMが使えないという話がある。これは通常投与量でVCMのAUC/MICが400を下回ると治療効果が落ちるという裏付けからきています(CID,2004; 38:1700-5,AAC, July 2007, p. 2582–2586など数々)。確かに近年のPK/PD理論からそう言えます。VCMのMICが2μg/mlのものがそんなにあるのでしょうか?また年々増加しているのでしょうか(MIC Creep)?
当院の結果ではVCMのMICが2μg/mlを示したものは2012年は12%。2011年は8%なのでVCMのMICは少し分離率が上がっていると思います。ちなみに当院の2012年のAUDは7なのでそれほど多く使っているとは思えません。2013年にはMRSA感染症に対して何例か使用をしましたがVCMで治療成績が悪かったものはありませんでした。感染事例として認められたものは全てMICが1μg/ml。中にはCA-MRSAやPVL陽性株も混在していました。VCMを長期間使用していたので副作用で継続使用出来なかった事例については感受性結果を見ながら代替え抗菌薬で全て治癒しました。
果たしてMIC2μg/mlのMRSA感染症は難治化するのか?ということに対して結論づけることが出来ませんでしたが、今のところ当院ではVCMの初期治療で問題となるMRSA感染症は少ないということは分かりました。
問題はVCMのMICが2μg/mlのMRSAが本当にどの程度存在するのか?です。例えば、Etest法を使うとMICが高く出る、自動機器によって高く検出されるという報告あります(AAC, Dec. 2008, p. 4528,JCM,July 2009, p. 2013–2017など)。
実際、MICが2μg/mlとなったMRSAの感受性をしっかり測り直すと3%しか無かったよという報告もあります。そもそもディスク法だけでVCMの感受性を測定し続ける施設もまだまだあるようですが、CLSIでは既にディスク法のカテゴリーはMICとの相関が取れないので測らないようにとなっていることが知られていない現実があると思います。MRSAの感受性は実際どの方法で実施されているのか?確認をする。特に治療が奏功しない場合には再検討することが必要と考えます。
3.DAPの感受性は正しく報告されているのか?
日本で一番新しい抗MRSA薬としてダプトマイシン(DAP)がある。この抗菌薬はCaイオン濃度に依存するため、感受性試験においてはCaイオン濃度が正確に保たれている必要があります。ディスク法での感受性は確立されていないので、全てMICの測定により判定を行うことになります。MICの測定は微量液体希釈法のみ推奨されていますが、Caイオンが50μg/ml以上添加されていることが条件になります。こうするとこのために微量液体希釈法を採用しないといけないのか?という難問が出てきます。簡易的にMICを測定する方法にEtest法がありますがMICが低めに出るという報告があります(AAC, June 2006, p. 2126–2129)。低めに出る要素として菌量が少なかったり、寒天培地が合わなかったりするようです。菌量の調整を目視で行う場合にはかなりバラツキがでるので、しっかり濁度計で測定することで少しは改善されるようですが、かなり菌量測定をシビアにしないといけないようです。また、寒天培地はCaイオン濃度がしっかりと添加されているものかどうかの確認が必要で、
DAPのストリップに含有されているCaイオン+寒天培地に含有されているCaイオン≧50μg/ml
ということが前提になるようです。S. aureusの場合はDAPのMICが1管差バラツキが生じるようですので、感受性の判定については問題視されませんが、ただしMIC2μg/mlの以上の株(耐性株)が2μg/ml以下(感受性)と判定されることだけは避けなければいけません。
http://products.sysmex-biomerieux.net/product/pdf/DPC2AG027
DAPを長期間使用することで菌表面の電荷が変化して耐性化しますが、VCMのようなペプチド系抗菌薬の使用でもその現象は起こるようです。今後も注意深く確認していく必要があるようです。
CLSIでは長期間使用をすることで耐性化の可能性がある菌と抗菌薬の組み合わせがあります。例えば、Enterobacterは第3世代セフェム、P. aeruginosaは全ての抗緑膿菌薬、そしてS. aureusはニューキノロンとVCM。VCMの場合は低用量で使用を続けると細胞壁が肥厚してMICが上がることが知られています。CLSIではこのような現象を確認することは必要で、3-4日間に1回程度感受性を確認することと記載されています。当然、奏功する場合は菌も分離されませんが、投与にも関わらず菌が継続して分離される場合は確認をすることは検査として大切でしょう。
他の発表者の方々の内容も新鮮で、やはり同じ内容ですが、少し角度を変えて研究している方々の内容を聞く事は非常に大切だと思いました。まだまだ、話せないことが多いですが、自分が一番勉強できたのでは無いかと思っています。このような機会を作って頂きましたことを幸せに思います。
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ところで、今回は36年ぶりに薬学会が熊本で開催されました。個人的ですが熊本は自分の第二の故郷です。小学生の頃に親の転勤に嫌々ついて行き、地元以外で3年間過ごした土地です。学会の合間を縫って過ごした場所を見てきました。
学会場となった熊本大学は夏目漱石も教壇に立った場所
漱石は旧制第五高等学校の熊本大学(黒髪地区)の英語の先生だったようです。ハーン(小泉八雲)から引き継いだそうです。
通った楠小学校
熊本市立楠小学校ですが、33年前となんら変わらない校舎とグラウンドがありました。関西弁を話していて良くからかわれたこと、野球部で先頭打者ホームラン打って賞状貰ったこと、喧嘩をして怪我ばかりしていたこと、木の実やみかんを放り投げて生活指導の先生に怒られたりしたのを思い出しました。元々医療に興味が無かった自分が臨床検査技師になるとは微塵も思っていませんでした。
熊本城
結局見に行けず。次回トライします。
神戸から熊本までは新幹線で直通。3時間も掛からないので非常に便利になりましたね。
当時は飛行機(B747)で行った思い出があります。
11月9日、10日と広島県で日臨技中四国医学検査学会が開催されます。
感染制御部門のシンポジウムに呼んで頂き『匠からの提言』というタイトルでお話させて貰います。
http://www.hiroringi.or.jp/~jamt46chushi/
基調講演に感染症医
匠からの提言として
・グラム染色
・抗酸菌検査
・嫌気性菌検査
が盛り込まれています。
一応、サブタイトルに『菌も病気も染め分けろ』というものを入れさせて頂きましたが、グラム染色なので菌を染め分けできるのは当たり前の話なので、匠がなせる技ということで、今回は病態まで踏み込んで介入をするために必要な情報って何か?という臨床現場での経験論を中心に話します。
例えば、グラム陽性球菌を見る場合はある程度、菌の形態的特徴が分かり易いものが多く推定菌は掴みやすいと思います。一方、グラム陰性桿菌はどうでしょうか?
雑誌や参考書によってはグラム陰性桿菌の推定は困難であるとか、できないとか書かれています。本当にそうでしょうか。
検査には可能性と限界が背中合わせであり、可能性は個人の能力や経験により高さが規定されてきます。そういう時はいつもこの言葉が過ります。そう、スラムダンク安西先生の言葉。
臨床検査には全て限界は付き物で深追いするのも怖いですが、推定菌まで特定できるのであれば情報は欲しいものです。
それは培養検査に繋がる、診断に繋がる、抗菌薬適正使用に繋がるからです。
酷く言えば、分かっているのに情報として提供していないのはある意味イジワルかもしれません。提出医と検査者との信頼関係がどれだけ良いものを築いているのかというものもあるかもしれませんが、分かっているものは情報として伝える(またはこちらから状況を伝え臨床症状とマッチングさせる)ことは必要だと考えています。
元に戻りますが、匠の技ってなんでしょうか。
染色して菌を推定して原因菌を予想する。これだけで十分に匠の技なのでしょうか。
菌種が推定できて、その菌による感染を示唆するまでいくと匠の技でしょうか。
恐らくそれはその現場に居る人しか分からないと思います。
たまに、『それは起炎菌でしょうか?』、とか『起炎菌など塗抹で得られる情報で有用なものは何かあるでしょうか?』とか、聞いていて脇汗を搔くような高度の質問が来る場合がありますが、その質問をしているということはそれだけ困っているからでしょう。
やはりその期待には応えてナンボで、その瞬間にだけ匠の技を発揮出来れば良いと思います。
原因菌かどうかの判断材料として貪食(細胞質内に存在する菌体)像というものがあります。良く見ると貪食しているのか、または白血球にくっ付いているだけなのか迷うことがありますよね。匠の技ではありませんが、私がしている技の一つにピントをずらす技術があります。それにより貪食かどうか判断できることが割合多いと思います。
ここで格言;グラム染色は2D(平面)で確認するものではなく、3D(立体)像として確認する。
薄いスライドガラスの中にも厚みがあります。その中まで読めるとグラム染色は一段階ステップアップできていると思います。
スメアは薄いですが入っている臨床情報は多分にあり、スライドガラスから菌の声や患者さんの声が聞こえます。強い訴えであれば薄いスメアも厚みがあるものになり、それをフィードバックすることは十分な情報となるに違いありません。重症であるほど丁寧にスメアを観察して、症例と突き合わせるのがスキルアップの一番の近道だと感じています。
中四国はグラム染色を見る目に長けている技師さんが多いので毎回内容を変えて挑みますが、今回は最後の提言をさせて頂いています。
高い位置からで恐縮ですが、当日は宜しくお願いします。
グラム染色で菌の形態的な特徴を引きだして推定菌をコメントすることが日常的に行われるようになってきました。今はMALDI-TOF MSもあり、とても早く菌種同定が可能になってきていますが、約3000万円もする代物ですので市中病院のうちには高嶺(高値?)の花です。
形態により菌を推定するということは微生物検査室では昔からしてきたことだと思います。それは培養を含めた検査の方向性を決めるために用いられてきた手法であったと思います。
数年前から、個人的にこういうのはこの菌が推定されるのでこう考えますとか、以前までタブーと呼ばれてきた内容について臨床現場に導入をしてきましたが、今やどこの検査室でも行われるようになってきたと思います。しかし反対論を唱えるかたもマダマダ多く居ますが、あまり気にしないようにしております。
愚痴はここまでにして、
こういうことはどこの検査室でもあるでしょうか。
血液培養が2セット陽性になりました。グラム染色をすると下記のように染まりました。
1)好気ボトルと嫌気ボトルの両方に発育しています。特に溶血は認めない。陽性シグナルは1日以内です。
2)グラム陽性球菌で、クラスター形成をしています。クラスターは大きく無いですが、菌は少々大小不同を伴ってます。
『ブドウ球菌?』と思うが染色性がやや悪い。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の可能性があるが、菌の形態的な特徴からは黄色ブドウ球菌の可能性もある。そもそもコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が2セット陽性となると事情は複雑そうです。
追加で検体が出ていないか探すと尿が出ています。尿路感染症を疑っているのか?と考えながらグラム染色をしますと以下の所見です。
これまたブドウ球菌です。
尿バルーンや尿管カテーテルの長期挿入者の場合は黄色ブドウ球菌の尿路感染症は多くなり、血液培養陽性例も多くなることは知られていると思います。でもバルンもカテーテルの挿入もありません。ピュアな市中感染なのですが。
とりあえず、黄色ブドウ球菌の可能性があるので合併症などを含めて精査することにしました。培養結果も翌日に分かるので、また連絡することにしましたが、翌日発育してきたら下記のようになりました。
そうです。ブドウ球菌と思われた菌はAerococcusだったのです。
このAerococcusについては下記のような記載がありました。
・グラム陽性球菌で集塊状を呈する菌で、ブドウ球菌と類似している。
・高齢者に発生しやすく多くが尿路感染症を起こす。
・尿の分離頻度を見た場合は0.4-0.8%と低い分離状況。
・菌血症を起こすが米国では100万人に0.5人程度と更に低い。
・薬剤感受性はペニシリンが感受性のことが多いが、CTRXやCFPMについては感受性が悪いものもある。アミノグリコシドやサルファ剤は自然耐性なのでブドウ球菌の尿路感染症=ST合剤というのが成り立たない。
(JAC,2001,48,653-658.、JCM,1991,May,1049-1053.)
微生物検査では、PYRテストとLAPの分解反応がキーとなるため実施すると、PYRは陰性、LAPは陽性となり、Aerococcus urinaeと素早く同定が出来ました。臨床的に良く遭遇するAerococcus viridansはPYRテスト陽性なので、この時点で除外です。大ぴらげに同定を構えなくても十分でした。
疫学情報を含めて報告することは大切です。それがレアな菌、医師が名前を聞いても分からない菌の場合は尚更です。
グラム染色所見でブドウ球菌に見えるが、培養では血液寒天培地上で緑色溶血の集落を形成する点が特徴です。24時間後の集落は1mm以下で一見Streptococcus Viridans groupと類似しています。上記のような性状がありおかしいな?と思ったらこの菌を疑っても良いと思います。
レアケースですが、私とて外すことはあります。外れることを恐れてはいけません。断定は出来ないが、疑われる菌の情報は何より流してあげることが重要です。
また、何より肝心なのは患者と検体を通して向き合うことです。自分が出した検体であればどうしてほしい?と考えながら検査をするのは当たり前のことと思いいつも仕事をしております。
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ムコイドに執着している訳ではありませんがムコイドが話題に上ることが多いです。というのは病原因子の一つとして知られている莢膜の存在は軽視してはいけないからです。
莢膜は菌によって成分が違います。
S. pyogenesはヒアルロン酸が、肺炎桿菌はグルクロン酸が主成分で、肺炎球菌はCポリサッカライドが主成分になります。
莢膜は菌体の多糖体とは異なる抗原を有しているのでので、菌体以外の抗体産生を促し、菌の貪食回避機能として働くのではないかと言われています。なるほど、賢いですね。出来ればその隠れ蓑的な忍術を教えて欲しいです。
肺炎球菌をグラム染色所見で探す場合は、莢膜も同時に探すことで推定を可能にしていると思います。莢膜は菌周囲が抜けて見えるものと教えられているので、それを目印に探していっていると思います。
ムコイド型はどうでしょうか?抜けて見えるでしょうか。
答えは『いいえ』です。
血液培養ではこのように見えます。
ムコイド型の肺炎球菌は菌周囲が赤く見えますので、何気なく見ている場合は見落とす可能性があります。ムコイド型は血液寒天上では中央が陥没した典型的な肺炎球菌の集落性状は無く、かなり大きめのムコイド様集落を形成します。
3型の血清型は7価の肺炎球菌ワクチンには入っていないので小児に対しては防御は出来ない形になっています。この血清型は成人からの分離例が多く、成人の23価ワクチンには入っています。小児も次回の13価ワクチンではカバー出来るようなので早く導入を希望します。また、3型は中耳炎を良く起こすことが知られていますね。(BMC Pediatrics 2009, 9:52)
当院のデータですが、肺炎球菌は小児のワクチンが定期接種化されてからですが、血液や髄液から肺炎球菌が検出される機会が減りました。また、傾向をみていると7価に入っているワクチン株の検出がグーンと減りました。しかし、肺炎球菌の菌血症は定期的に出てきます。出てくるのは非ワクチン株が多く、これは今のところワクチンでは防げない状況です。だからと言ってワクチンは良く無いという意味ではありません。検出頻度の高い、侵襲株と言われている血清型の感染症が減った訳ですので、これからも接種は勧めて良いものです。(これは他の研究者のデータ:IASR Vol. 34 p. 64-66: 2013年3月号)
特に集団保育をすると肺炎球菌の保菌者が増えることは知られていますので、集団保育を考えている場合は早めにワクチンを接種してあげましょう。(感染症誌 86: 7~12, 2012)
未来のある子供に対し、私たちが今出来ることを最善に考えて行きたいですね。
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