グラム染色を使った感染症カンファレンス
新年度になりました。4月から異動に伴い新しい部門や部署に配属となった方々も多いと思います。
そのため、”グラム染色”という素晴らしい微生物検査に新たに関わることとなった方々も多いのではないでしょうか。
良質な医療を提供する上で、抗菌薬適正使用というものがあります。これは、感染症を正しく診断し、それに応じた適切な抗菌薬をできるだけ狭域スペクトルで行うことが重要視されます。広域抗菌薬は投与していて安心感はありますが、長期使用に伴い耐性菌発生リスクを高めることが知られています。耐性菌といってもMRSAのような毎日見かけるものから、メタロβ-ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌のような、普段から遭遇しないため認知度の低いものまで沢山あります。AMRリファレンスセンターのHPに分かりやすく掲載していますので一度ご覧ください。
https://amr.ncgm.go.jp/medics/2-1-3.html
さて、抗菌薬の選択は原因微生物の種類により使い分けを行うことも重要です。原因微生物の検索には抗原検査と抗体検査、最近では新型コロナウイルス感染症で広く認知された遺伝子検査などがあります。抗原検査の中には、簡易抗原検査(A群溶連菌や、肺炎球菌尿中抗原、インフルエンザ迅速検査など)と塗抹・培養検査があります。簡易抗原検査は簡便なところがメリットですが、標的となった微生物しか検出できないデメリットも存在します。培養検査はmultiplexですが結果が出るのが数日かかり今知りたい情報が直ぐに得られないというもどかしさがあります。培養検査には、ほぼ必ずと言って良いほど塗抹検査が施行されています。塗抹検査の代表的な項目に前述した”グラム染色”があります。
グラム染色のメリットは、材料採取したその場で培養で検出されるであろう微生物が推定できます。それも菌種レベルで細かく確認ができることもあります。例えば尿でグラム陰性桿菌が確認された場合は太めであれば大腸菌をはじめとした腸内細菌、細めであれば緑膿菌をはじめとしたブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌と予想ができます。分離頻度から言うと、腸内細菌では大腸菌やKlebsiellaが大多数を占めるので、太めの陰性桿菌が見えると、それを標的とした治療が開始されます。ESBLなどの耐性菌も分離されますが、自分が働いている職場や職場の周囲によりその分離頻度が異なるので自施設の感受性率をアンチバイオグラムから確認して、抗菌薬の選択に役立てます。ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌の場合では、ほとんどが緑膿菌になるので、マイナーな菌種まで幅広く覚える必要は直ぐにはないので、緑膿菌の感受性率を押さえておく必要があります。
グラム陰性桿菌で幅が広く、両先端は細くなっていないため腸内細菌を疑う。
グラム陰性桿菌で幅が狭く、両先端が細くなっているため緑膿菌を疑う。
菌が確認できれば、それに応じた微生物に最適な抗菌薬を投与することで抗菌薬の適切な処方ができますが、もし鑑別診断で感染症が下位の鑑別に挙がっている状況で、グラム染色をして微生物が見えない場合は感染症が否定される可能性も示唆されるため、抗菌薬投与を一時見合わせることもできます。まったく何も見えない場合であれば、多くの人が納得するでしょうが、微生物が見えていた場合は「どうして、その菌を治療しないのか?」と感じる人もいるでしょう。自分1人で解釈が困難な場合は、普段からグラム染色を見慣れている人や感染症に造詣が深い医師や医療従事者、微生物検査技師に話を伺うことも1つの手です。当院の感染制御部では、グラム染色をもとに抗菌薬適正使用している部署とともにカンファレンスを開催しています。初期抗菌薬はこれで良かったのか、材料は適切に採取され解釈も正しいものであるのか、培養結果との整合性と今後の治療方針の確認など個別化された感染症治療の適性化がそこに凝縮されています。
例えば、こういう架空の症例があります。
症例;80代の女性
主訴;呼吸困難
既往歴;大腸癌(3年前に手術歴あり、他院フォロー中)、認知症。
現病歴・入院時現症;2〜3日前から痰が絡んでいた。本日、朝ご飯を食べてから呼吸苦を自覚し、そのまま寝ていたが苦しくなり家族が救急車を読んで搬送された。BT 37.0℃、RR 35,BP 146/96,PR 110,SpO2=85%。胸部X線では肺炎と思われる浸潤影は認めないが、気道には茶色の気道分泌物(喀痰?)を認めた。肺炎の評価を行うため、原因微生物の確認も含めてグラム染色で確認することとなった。
弱拡大(100倍):喀痰は多核白血球が多数あり、扁平上皮が少数。喀痰として唾液混入の可能性は低く材料評価は良いものと判断。誤嚥性肺炎の可能性も低いものと判断。
強拡大(1,000倍):GPCが少数あり、形態はcluster形成でOozing signもあるためStaphylococcus aureusを推定。yeast like fungiは仮性菌糸もありCandida albicansを推定。
現病歴や上記の所見より、
喀痰は見られるが、少量であること。S. aureusとCandidaは経気道的な肺炎を起こしにくく、胸部陰影からも敗血症性塞栓を思わせる画像所見もないことから、確認された微生物は原因微生物として該当しないことと判断した。その後に撮影した造影CTでも、両側下肺野に誤嚥性肺炎と思われるわずかな浸潤影もあったが、肺炎としての抗菌薬投与は見合わせることとなった。
これは、ほんの1例です。
定期的にこのような、グラム染色所見をもとにカンファレンスを開催して情報共有と目合わせを行うことは抗菌薬適正使用に有意義な活動ですので、どこの病院でも開催されると良いですね。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント