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2021年9月22日 (水)

教科書的でないのがグラム染色の探究心を掻き立てる(喀痰から見えた肺炎球菌の例)

最近はFacebookに呟く機会が多かったりします。twitterでも呟きますが文字数制限の関係で途切れ途切れになっててすいません。

今回は読み応えがあるかもしれません(無いかも)。

肺炎球菌は市中肺炎の原因菌として、市中病院のみならず大学病院のような大きな病院でも分離されるcommonな菌です。

肺炎球菌はグラム陽性球菌で楕円形の長軸方向2個連なったレンサ状球菌として確認されます。莢膜を有する細菌としても有名で、グラム染色所見では菌体周囲が白く抜けて見えることが多いのが非常に特徴的です。そのため、教科書や参考書では「グラム陽性の双球菌で、菌体周囲に莢膜を有するので白く抜けて見えることが多い」と書かれることが多いと思います。

しかし、グラム染色を見ていると必ずしも教科書的で無い所見が確認されます。いくつか紹介します。

①長いレンサ状

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肺炎球菌はStreptococcus属なので、レンサ状球菌として観察されても何ら不思議では無い。ただ、双球菌としか見えないのを勝手に理由を考えました。

ア)極性があって2つしか連なることができない。

イ)2個分裂したところで安定し、自己融解を起こし菌が消失してしまい長くならない。

ウ)菌側の大きな事情がある。

世の中もそうですが、生物であれば半端者はどこにでもいる証と思います。

②形が丸い

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丸々としていますね。流石に鏡検していた後輩はコメント欄に「ブドウ球菌」と書いていました。

良く見ると大小不同がありますし、双球菌として見えなくはないですね。これを肺炎球菌と分かれば黒帯かもしれません。

③莢膜が見えない

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貪食像であり莢膜も見えないし、菌は食細胞の作用を受けて肺炎球菌とすら分かりにくい形状になっています。

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別の喀痰です。莢膜があるやつが、6時の方向に1つだけ見えますが、あとのは肺炎球菌?と思えますね。肺炎球菌はたまにこのように集塊を作ることが多いですので、これが肺炎球菌サインの1つです。鼻腔内に保菌している肺炎球菌はこのように見えることが多いです。好中球減少時は鏡検で白血球も見えないことが多く(下)、こういうサインを見逃さずにしたいですね。

ただし、口腔内レンサ球菌との区別が難しいので、Gecklerは4か5の膿性痰で洗浄をしっかりとした痰であることが条件となります。

Photo_20210922213701好中球減少時(WBC<1000)

④莢膜が赤い(別々の喀痰です)

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莢膜が赤く見える肺炎球菌は血液寒天培地上でムコイド形成をする株で、血清型3型や37型が多い。PCG耐性菌は少ない傾向です。

菌体が丸みを帯びているものが多いような気がします。

⑤もはやグラム陰性にしか見えない(別々の喀痰です)


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所謂、自己融解を起こした肺炎球菌です。こうなると培養でも分離ができなくなりグラム染色頼みです。

⑥少なすぎるため確認が困難

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SBT/ABPC投与20時間後。菌数が少なくなり確認がしにくい。

色々と見せましたが経験に勝るものは無いかもしれません。翌日培養結果を見て、再度グラム染色を見直して考えることで覚えていきますので、見終わったグラム染色は粗末にしてはいけませんよ。

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