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2021年8月31日 (火)

神経疾患と誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎を疑う場合には、嚥下機能が低下する神経疾患が併存していないか考えることが大切です。

神経疾患の随伴症状では、嚥下障害やムセが急速に進行し、次いで歩行障害や脱力、麻痺などが症状として現れます。肺炎を起こしている本人が気づくこともありますが、認知症があったり、主訴が上手く聞き取れない場合は、近くで観察している家族とかの証言がキーワードとなることがあります。

そして、嚥下障害がいつ頃から、どの程度認めるのかタイムラインを整理していくことも必要です。例えば、以下の神経疾患が原因で嚥下障害から誤嚥性肺炎に発展する。

①突然発症した場合:脳卒中やてんかん発作

②急性発症した場合:脳炎や多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、重症筋無力症(MG)、ギラン・バレー症候群(GBS)

③慢性の場合:脳腫瘍や慢性硬膜下血腫、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、ALS、MG

神経疾患の中でパーキンソン病は比較的誤嚥性肺炎に遭遇しやすい病気で、舌や咽頭など嚥下時に使う筋肉が固くなるため誤嚥を起こしやすい状態である。そのため、未だ診断されていないパーキンソン病が誤嚥性肺炎を契機に見つかることがあります。

写真はパーキンソン病が基礎疾患にある患者で発症した誤嚥性肺炎のグラム染色所見です。

Photo_20210831225101莢膜が確認できるGNRあり(S/O Klebsiella)

6_20210831225101線毛上皮も見えます。

多核白血球多数で非常に雑多な細菌が確認されます。「グラム染色所見で誤嚥性肺炎を疑う所見を認めます。」と報告し、胸部X線では両側の気管支肺炎像が確認され誤嚥性肺炎と診断されました。糖尿病が基礎疾患にあるため、莢膜が確認されるグラム陰性桿菌(S/O Klebsiella)が多数確認されています。

本当に誤嚥性肺炎の診断のみならず主たる細菌の種類も素早くわかる喀痰グラム染色は有意義な検査ですね。

 

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2021年8月30日 (月)

化学性肺臓炎(メンデルセン症候群)

先日、子供と「化学性肺臓炎と誤嚥性肺炎」をテーマで、グラム染色所見の報告について話し合う機会がありました。

私:「メンデルセン症候群って普通に使う?」

子供:「あー、化学誤嚥のことやろ。使うこともあるかな。」

私:「メンデルセン症候群と誤嚥性肺炎の区別ってどこでしてるん。」

子供:「誤嚥のエピソードがあって2日以上熱が続く時かな。」

私:「嫌気性菌のカバーってどうしてるん。」

子供:「基本カバーしないけど、閉塞とか慢性誤嚥とか嫌気性菌のリスクが高い場合にはカバーするかな。CDIのリスクも上がるから基本的には嫌気性菌はカバーは要らんのちゃうか。」

私:「でも、世の中の多くは嫌気性菌カバーだ!ということで、SBT/ABPCやTAZ/PIPCが多く選択されているけど、あれってどう思う?。」

と他愛も無い話が続きました。一般的な会話ですが、レベルが高い話かもしれません。

微生物検査技師の多くは”メンデルセン症候群”という名前を聞くことがあまり無いかも知れないので紹介します。

誤嚥が原因で起こす肺炎には「化学性肺臓炎(メンデルセン症候群)」と「誤嚥性肺炎」があります。

・誤嚥性肺炎:嚥下障害や胃の蠕動運動低下が原因となり、口腔内や消化管由来の細菌が関与し肺に急性炎症を起こす病態のことを指します。誤嚥しているところは発見されにくく、発熱、頻脈、咳嗽や肺炎像が見られ高齢者に多い疾患です。

・化学性肺臓炎(メンデルセン症候群):胃の内容物が逆流し肺に落ち込むことが原因となります。呼吸困難感のない乾性咳嗽や頻脈、血痰、泡沫痰が出現することが特徴的な臨床症状です。胃液はpHが低いため化学炎症を起こしますが、半数以上は2日以内に症状が改善するため抗菌薬が不要です。しかし、約25%は2次性の肺炎を起こし(誤嚥性肺炎)、呼吸不全が急速に進行することがあります。

つまり、誤嚥性肺炎では抗菌薬投与を必要としますが、メンデルセン症候群では初期は抗菌薬投与が不要です。誤嚥のエピソードがあるかどうかの確認はあれば良いでしょうが、無くても誤嚥性肺炎の可能性はあり、ムセがない=誤嚥性肺炎ではない というのは乱暴かも知れません。

グラム染色所見のみではその違いを区別することは困難かも知れないので、必ず喀痰グラム染色を見るときはカルテを確認しながら、誤嚥性肺炎を示唆するエピソードが無いかどうかの確認が必要です。

6_20210830222101メンデルセン症候群
2_20210830222201 VAP(TAZ/PIPC投与中)

2_20210830222301誤嚥性肺炎(術後肺炎CEZ投与中)

このように誤嚥性肺炎の診断は難しいと認識が必要ですが、起炎菌はS. aureusやE. coli、Klebsiella、P. aeruginosaといった特別な菌はありません。慢性誤嚥や閉塞が強い場合は嫌気性菌も関与することが多いのが特徴です。

誤嚥性肺炎として治療開始したけど経過が良くない場合は、潜在的に誤嚥性肺炎では無い感染症がある、非感染性の肺疾患が存在する、誤嚥性肺炎が治りにくい肺化膿症や膿胸、閉塞が発生していないかの確認が必要です。特に誤嚥を起こしやすい要素がある患者では、他に熱源となる疾患との鑑別が重要になるので、カルテ上で医師が何を考えているのかとか、感染症であればどういう答えを待っているのとかを読み取ることも必要です。感染症は下位の鑑別診断であるが明らかに感染症を疑う所見があれば直ぐに報告してあげた方が良いでしょうね。

機会があれば自施設でメンデルセン症候群と誤嚥性肺炎の違いについて(研修医などと)話してみてください。

 

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