胆汁グラム染色所見を見るときに考えること
最近は喀痰しか記事にしてないので、本日は角度を変えて胆汁について書きます。
胆嚢炎や胆管炎の診断目的で胆汁が出てきます。皆さんの施設ではどのように処理して結果報告していますか?
1. 急性胆嚢炎
胆嚢は肝臓で産生された胆汁を濃縮貯蔵する臓器です。急性胆嚢炎は8割以上は胆石により起こり、胆石が胆嚢頸部や胆管に嵌頓閉塞を起こすとことで胆汁鬱滞と胆嚢膨張となり、そこに炎症が加わったり、細菌感染が重なることで痛みを自覚するようになる。放置すると壊死や周囲に膿瘍を形成したり、腹膜炎へと繋がります。直ぐに適切な処置できた場合は予後が良く、画像検査で診断もしやす疾患です。
2. 胆汁のグラム染色所見
患者さんは40歳代の男性。3日前から食後に腹痛を認めていたが、一過性のものと思い放置していた。痛みは持続するようになり、自宅で休んでいたが発熱や嘔吐を繰り返すようになり、外来受診となった。右上腹部に圧痛とMurphy's signも認めたため急性胆嚢炎を疑い、腹部エコーを実施したところ胆嚢壁の肥厚と胆嚢腫大を認め、sonographic Murphy's sign兆候も認め、急性胆嚢炎と診断された。
主要な身体所見の感度と特異度(https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/195707)
・Murphy's sign 感度 65%、特異度 87%(胆嚢炎の診断に有効な身体所見です)
・sonographic Murphy's sign 特異度 95%(腹部エコーのプローブを胆嚢に当てると圧痛を認める)
・吐気 感度 77%、特異度 36%
・発熱 感度 35%、特異度 80%
・右上腹部痛 感度81%、特異度 67%
緊急で経皮経肝胆嚢吸引穿刺(PTGBA)を行い胆汁を採取したところ以下のような胆汁が採取された。
グラム染色をして、このような所見が確認されました。
「グラム染色では多数のグラム陽性桿菌とグラム陰性桿菌の確認ができます。」
「グラム陽性桿菌は大型で直線性があり、連鎖はあまり確認ができません。大型のGPRですが芽胞の確認はありません。」→Clostridium perfringensを疑う所見です。
「グラム陰性桿菌は中型で単一の菌が見られます。太めの菌体はありません。」→腸内細菌科が疑われます。
この所見をもとに抗菌薬を選択すると重症度にもよりますが、CMZやSBT/ABPCが選択されてきます。
ここまで言い切れる理由は以下にまとめます。
2. 原因微生物の整理とグラム染色所見の照合
胆嚢炎・胆管炎の原因菌検索のため胆汁が採取され微生物検査室に提出されてきます。原因微生物の多くが腸内細菌科ですが、一部で嫌気性菌も検出されます。グラム染色所見で推定された菌は赤字で示した通り、C. perfringensと腸内細菌科が疑われる所見ですが、市中発症であり、腸内細菌科は検出頻度を考慮すると、E. coliやKlebsiellaが疑われます。EnterobacerやCitrobacter、P. aeruginosaとの区別はこのスメアだけではできませんが、EnterobacterやCitrobacter、P. aeruginosaはampC型β-ラクタマーゼ産生菌であり、抗菌薬投与歴のある患者や担がん患者で検出例が増えることから鑑別する菌としては下位と考えることができます。EnterococcusやCandidaも同じようなヒストリーを持つ患者で出てきやすいので、その患者背景を確認し、推定菌をグラム染色所見を参考に絞っていくことは初期抗菌薬の選択に役に立ちます。患者背景を確認する場合は、いつから、どのようにという経過も大切ですが、渡航歴や喫食歴も聞き取りが大切となります。例えばSalmonellaについては胆石患者から検出されることもありますし、海外渡航歴は1つキーポイントとなります。
2. 胆汁の提出とグラム染色の前処理
胆汁は元々無菌材料ですが嫌気培養も一緒にできるような滅菌した採取容器(ケンキポーターなど)を活用するのが良いでしょう。検体採取後は直ぐに培養検査をすることが大切ですが、夜間など直ぐに対応できない場合は冷蔵庫で保管することが望ましいです。また、胸腹水のようにカルチャーボトルに入れてはいけません。
前述したように胆汁は無菌材料として考えるため、グラム染色には沈渣を用います。遠心は3000rpmで最低10分遠心が必要です。膿性が強くドロドロの場合は遠心しても変わらないので、そのまま標本作成をしても良いと思います。
3. 培養検査への道
培養検査は血液寒天培地とマッコンキー寒天培地などのグラム陰性桿菌分離用の選択培地、嫌気性菌を目的とした培地(ブルセラ培地など)を最低用います。培養には胆汁を2-3滴培地に塗布し、白金耳で塗り広げます。
で、培養翌日にこんな感じになりました。
赤くなっているのが、腸内細菌科(正確には乳糖分解菌)疑い、コロニーがフラットなのでE. coliを疑います。
菌は翌日発育し、溶血が強いためC. perfringensを疑います。コロニーをグラム染色するとGPRでした。
まあ、MALDI-TOF MSを掛けたら迷う事ないんでしょう?って言われると元も子もないのですが、こういった菌同定プロセスは検査室だけのものにするのではなく、医師にも知って頂くのは本当に大切です。
4. その他
1)ENBDで胆汁を採取した場合ものは、コンタミネーションの可能性があり、検出菌が全て起炎菌には繋がらないので、どういう採取をしたのか提出時に記載してもらうと助かります。
2)胆嚢摘出時に胆汁が腹腔内に漏れることがあります。漏れた場合は遺残膿瘍として腹腔内に残り、感染コントロール不良となる要素の1つです。遺残膿瘍は幅広いですが、どのような状況で遺残膿瘍ができているのかカルテから情報収集することは必要です。
何にしても、検査室と現場(医師)間でコミュニケーションを築くことは大切です。培養やグラム染色はそういったお助けツールです。
皆さんも多いに活用しましょう。
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