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2021年7月20日 (火)

推定菌が外れた時どうする?

グラム染色所見から菌種推定をする場面も多いと思います。菌の色や形などを主観的に見て判断して菌種推定は行います。

それは、教科書に載っている画像や過去の経験とのマッチングであり、形態が似ている場合は外れることもあります。

グラム染色ではあくまでも「菌種推定」であって、同定ではないので一定の割合で外れるかもしれないということを念頭に所見確認を行わないといけません。

先日の兵庫県臨床検査技師会でも出題した下記の症例です。

患者:80代,男性

主訴:排尿時痛、頻尿

既往歴:十二指腸潰瘍、膀胱がん

現病歴: X-2週間:排尿時痛を自覚していた。近医でMINOやLVFXを処方してもらっていた。X日:内服をしているが症状の改善に乏しいため外来受診。

さあ、何菌を推定しますか?難しいですよね。

神様は乗り越えられられない試練は与えない。1つのことを習得しても、また新たな試練がやってきます。GNRの菌種推定なんかはその代表的な試練のように感じます。

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尿でGNRだから腸内細菌かもしれないと思い、推定菌を腸内細菌科として報告しましたが皆さんどうでしょうか?

翌日、残念ながらこんな菌が発育しました。マッコンキー寒天培地に半透明のコロニーでオキシダーゼ陽性です。そう緑膿菌でした。

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も一回見返してみましょう。少し小さくて細いかもしれません。

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尿の緑膿菌と大腸菌です。やはり大腸菌の方が少し大きくて太くないでしょうか。

間違えた時は検証です。グラム染色所見が培養結果と一致しない時は以下のカテゴリーのどれに該当するか考えます。今回はカテゴリー2になります。

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塗抹と培養の不一致にあたるので、標本作成時の問題か判読方法に問題があるかになります。

標本作成時の問題については、十分に乾燥できていない標本、染色方法が悪い、染色液の劣化などが原因になります。判読方法の問題では、力量不足や菌種推定を系統別に考えていないなど教育不足が原因となります。新人は間違えることは多いですが、その後に間違った本人が萎縮しないような周囲の働きかけが必要でしょう。グラム染色の限界領域に達してしまったのだから。

ただ、患者背景や他の検査結果を紐解いていけば緑膿菌へ辿り着いたかもしれません。

・亜硝酸塩還元試験;陰性(偽陰性になる要因も含めて考える)→亜硝酸塩還元能が弱い。

・抗菌薬が多用された後のため耐性菌のキャリアになりやすい。

・過去にガンが既往歴にあり、緑膿菌キャリアとなるリスクあり。

 

結局は、間違った理由についてゆっくり考察すること、先輩と一緒に鏡検を繰り返すなど技術の伝承が大切です。

誰しも最初はヒヨッコです。頑張って立派なニワトリに育ててあげましょう。

 

 

 

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2021年7月16日 (金)

全集中!グラム染色 壱の型

本日は兵庫県臨床検査技師会でグラム染色のお話しをさせて頂きました。

いつもそうですが、時間経過に沿ってグラム染色の結果をどのように解釈して診断・治療に役立てているのか考えながら勧めていきます。

血液培養でグラム陽性球菌ってどうしていますか?

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・GPCで報告

・GPC clusterで報告

・GPC clusterで黄色ブドウ球菌(またはCNS)を疑うで報告

報告基準には特に規定は無いので、どのように報告しているのか施設で異なると思います。

黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)は、本当に神経の使う報告です。「全集中してますか?」

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なぜなら原因不明の菌血症で遭遇することが多い疾患なので介入も早くしないといけません。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28873140/)。

SABはこんな特徴を持っています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11784216/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18522502/

①病院内感染での感染症は血管内留置カテーテル関連菌血症や術後創部感染が多い。

②市中感染では皮膚感染症が最も多いが、侵入門戸が分かりにくいものが多い。

③市中感染では感染性心内膜炎や骨髄炎の合併症例が多くなる。

④死亡リスクが高いものは、感染巣のコントロール不良、60歳以上、敗血症例である。

⑤感染リスクは、人工透析導入をしている患者、糖尿病が持病にある患者、がん患者、HIV陽性者など。

SABと分かれば、合併症がないかどうかの検索が必要です。

特に③の感染性心内膜炎や骨髄炎があれば、菌血症だけの症例と違い治療期間も大幅に変わります。

・感染性心内膜炎を疑う場合は、一先ず経胸壁心エコーの実施を勧めましょう。持続する発熱があったり、心雑音、心不全、Olser結節のような抹消サインがあるどうかカルテ記載から情報収集することが必要です。

・骨髄炎を疑う場合はMRIを勧めましょう。背部痛や発熱があるかどうか情報収集が必要です。

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経胸壁心エコーで何も見つからない場合は、経食道心エコーは実施しないといけないのか?

SABはしっかりとした病態把握が必要なことは皆さん理解されていると思いますが、経食道心エコーまで実施となると循環器内科からクレームが出ないか心配と思います。経食道心エコーをしなくても良いかもしれない条件はJAMAに記載がありました。

以下の1)〜5)の全てがない場合は経食道心エコーは省略ができるかもしれない(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25268440/)。

1)院内発症の菌血症であること(発症日が把握できている)

2)最初の血液培養陽性から4日以内に血液培養が陰性となった。

3)心臓デバイスがない(PM感染はない)

4)人工透析でない(シャント感染はない)

5)臨床的に心内膜炎、または心内膜炎の二次性病変が確認されない。

ひとりの意見ではなく、チームとして統一したコメントをしていくのが本当に大切です。

あとはMRSAかどうかを急ぐため、PBP-2'の検出したり、mecA遺伝子検査をしたり検査室も一歩先に踏み出さないといけないと思います。機械を買ったりするのは大変だと思う施設では迅速セフォキシチン感受性検査というのがあるので検討してみてはどうでしょうか。

迅速PBP-2'の検討はこちら:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamt/70/2/70_20-90/_article/-char/ja/

mecA遺伝子検査の検討はこちら:http://www.jscm.org/journal/full/03101/031010005.pdf

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2021年7月13日 (火)

ソーセージ理論

グラム染色所見でグラム陰性桿菌を区別したいという相談を多く受けますが、どの程度で鑑別ができたか?という具体的な論文は見当たりません。

特に多く聞かれることに「腸内細菌と緑膿菌の区別ってどうするのか?」 ってのが多いです。

教科書的ではClinical Microbiology Procedure Handbookという微生物検査の聖書がありそこにはこう書いています。

腸内細菌科(目):

Gram-negative bacilli: thick, short to medium length with rounded ends; antimicrobial agent-affected organisms may be pleomorphic, filamentous, and/or irregularly staining. (直線的な桿菌、短~長いものまである。辺縁は丸く、抗生剤が作用されたものは長細くなったり変体する)。

Pseudomonas属:

Gram-negative bacilli: thin, medium to long length; alginate capsule may be seen surrounding cell; antimicrobial agent-affected organisms may appear filamentous, coiled, and/or pleomorphic.(細い桿菌、中~長いものまである。辺縁は丸いものから尖ったものまである。抗生剤が作用されたものは長細くなったり変体する)。

個人の見解としては細いGNRは腸内細菌ではない。太すぎるGNRは緑膿菌ではない。

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緑膿菌と形態が似ている菌としてKlebsiellaがあります。ムコイド株の緑膿菌とKlebsiellaは本当に良く似ているのですが、じっと見ると少し違いがあります。

緑膿菌とKlebsiellaは、培養すると全然違うコロニー形成するし、使用する抗菌薬も違う。だったらグラム染色所見で違いがあっても良いのでは無いか?と思う人も多いと思います。
臨床医の中には、どうしてこの2つが区別できないんだと思う人が居るでしょうし、この2つのGNRはこんなにも違うんだと逆に感心する人も居ると思う思います。

これが"The 緑膿菌"です。

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少し話を変えますが、GNRを表現するとき困りませんか?細い、小さい、ムコイドなどなど。肺炎球菌のようにわかりやすくならないのかと思いますよね。教える方も大変です。そんな時はソーセージ理論です。東京から福岡に行ったN井先生からヒントを頂き自分の表現方法をソーセージに例えました。

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実にくだらないと思いますが研修医教育に使ってみてください。ソーセージだけに意外と美味しいと思います。

 

 

 

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2021年7月 2日 (金)

Campylobacterのグラム染色像

コロナの新規発生数が減ってきています。緊急事態宣言も終わり、今は蔓延防止措置です。お店も空き始め、自粛していた人たちも、ここぞとばかり外食する機会が増えていくと思います。コロナも収束していないので、まだ当分がまんが続くと思います。緊急事態宣言解除後もありますが、例年この時期は食中毒が増えます。Campylobacterは食中毒の原因微生物でも上位に入ります。主にCampylobacterに汚染されている鶏肉の調理不十分な料理を喫食し感染します。自覚症状として下痢、嘔吐、頭痛と発熱です。ここでは鶏肉の喫食がキーポイントかもしれませんね。
コロナの発生数が少ないと思いますが、外食して友人と騒いだ後に発熱となれば、コロナを疑わずに居られないと思います。周囲や医療スタッフも不安な気持ちが続くのではないでしょうか。
Campylobacter腸炎の便グラム染色についてですが、通常は便のグラム染色は実施していないと思います。
Campylobacter腸炎を疑う場合は別です。gull wing(かもめ翼)と言われる螺旋桿菌が特徴的です。螺旋の回数は2〜4回のものが多いので、螺旋回数を少し念頭に置き鏡検するのが良いかと思います。
この2枚は別々の患者ですが、Campylobacter腸炎患者の便のグラム染色像です。さて、Campylobacterはどこに居るのか探してみてください。
ヒントは細く、小さい、グラム陰性の螺旋桿菌です。
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わかるでしょうか? 慣れている方はわかると思いますが、ここに居ます。
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その1では典型的ですが、うんちの固形部分の周囲に沿ってCampylobacterが観察されます。gull wingだけに水辺が大好きです。
その2は白血球多数観察される、これまた典型的な像です。これもgull wingだけに白血球(膿:うみ)と共生しています。
Campylobacterの便は粘液が出やすいおで、粘性固形物の近くに沿って鏡検をしていくと早く見つかります。
Campylobacterはスキロー培地やCCDA培地など専用の選択培地で、しかも微好気状態が培養条件になります。発育は遅く2日はかかるので、結果判明まで時間がかかります。予後は良いので急がなくて良いのですが、他の病原性の高い微生物との鑑別のために培養結果は大切かもしれません。しかしグラム染色は所要時間が10分程度あれば解決します。手を掛けて10分待つか、手を掛けないで2日間待つかは、皆さんの接し方次第と思います。もちろんAMR対策としてはグラム染色が推奨されるのは間違いないしょうね。

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2021年7月 1日 (木)

胆汁グラム染色所見を見るときに考えること

最近は喀痰しか記事にしてないので、本日は角度を変えて胆汁について書きます。

胆嚢炎や胆管炎の診断目的で胆汁が出てきます。皆さんの施設ではどのように処理して結果報告していますか?

1. 急性胆嚢炎

胆嚢は肝臓で産生された胆汁を濃縮貯蔵する臓器です。急性胆嚢炎は8割以上は胆石により起こり、胆石が胆嚢頸部や胆管に嵌頓閉塞を起こすとことで胆汁鬱滞と胆嚢膨張となり、そこに炎症が加わったり、細菌感染が重なることで痛みを自覚するようになる。放置すると壊死や周囲に膿瘍を形成したり、腹膜炎へと繋がります。直ぐに適切な処置できた場合は予後が良く、画像検査で診断もしやす疾患です。

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2. 胆汁のグラム染色所見

患者さんは40歳代の男性。3日前から食後に腹痛を認めていたが、一過性のものと思い放置していた。痛みは持続するようになり、自宅で休んでいたが発熱や嘔吐を繰り返すようになり、外来受診となった。右上腹部に圧痛とMurphy's signも認めたため急性胆嚢炎を疑い、腹部エコーを実施したところ胆嚢壁の肥厚と胆嚢腫大を認め、sonographic Murphy's sign兆候も認め、急性胆嚢炎と診断された。

主要な身体所見の感度と特異度(https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/195707)

・Murphy's sign 感度 65%、特異度 87%(胆嚢炎の診断に有効な身体所見です)

・sonographic Murphy's sign 特異度 95%(腹部エコーのプローブを胆嚢に当てると圧痛を認める)

・吐気 感度 77%、特異度 36%

・発熱 感度 35%、特異度 80%

・右上腹部痛 感度81%、特異度 67%

緊急で経皮経肝胆嚢吸引穿刺(PTGBA)を行い胆汁を採取したところ以下のような胆汁が採取された。

20130318-192522少しドロドロした胆汁です。

グラム染色をして、このような所見が確認されました。

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「グラム染色では多数のグラム陽性桿菌とグラム陰性桿菌の確認ができます。」

「グラム陽性桿菌は大型で直線性があり、連鎖はあまり確認ができません。大型のGPRですが芽胞の確認はありません。」→Clostridium perfringensを疑う所見です。

「グラム陰性桿菌は中型で単一の菌が見られます。太めの菌体はありません。」→腸内細菌科が疑われます。

この所見をもとに抗菌薬を選択すると重症度にもよりますが、CMZやSBT/ABPCが選択されてきます。

ここまで言い切れる理由は以下にまとめます。

2. 原因微生物の整理とグラム染色所見の照合

胆嚢炎・胆管炎の原因菌検索のため胆汁が採取され微生物検査室に提出されてきます。原因微生物の多くが腸内細菌科ですが、一部で嫌気性菌も検出されます。グラム染色所見で推定された菌は赤字で示した通り、C. perfringensと腸内細菌科が疑われる所見ですが、市中発症であり、腸内細菌科は検出頻度を考慮すると、E. coliやKlebsiellaが疑われます。EnterobacerやCitrobacter、P. aeruginosaとの区別はこのスメアだけではできませんが、EnterobacterやCitrobacter、P. aeruginosaはampC型β-ラクタマーゼ産生菌であり、抗菌薬投与歴のある患者や担がん患者で検出例が増えることから鑑別する菌としては下位と考えることができます。EnterococcusやCandidaも同じようなヒストリーを持つ患者で出てきやすいので、その患者背景を確認し、推定菌をグラム染色所見を参考に絞っていくことは初期抗菌薬の選択に役に立ちます。患者背景を確認する場合は、いつから、どのようにという経過も大切ですが、渡航歴や喫食歴も聞き取りが大切となります。例えばSalmonellaについては胆石患者から検出されることもありますし、海外渡航歴は1つキーポイントとなります。

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2. 胆汁の提出とグラム染色の前処理

胆汁は元々無菌材料ですが嫌気培養も一緒にできるような滅菌した採取容器(ケンキポーターなど)を活用するのが良いでしょう。検体採取後は直ぐに培養検査をすることが大切ですが、夜間など直ぐに対応できない場合は冷蔵庫で保管することが望ましいです。また、胸腹水のようにカルチャーボトルに入れてはいけません。

前述したように胆汁は無菌材料として考えるため、グラム染色には沈渣を用います。遠心は3000rpmで最低10分遠心が必要です。膿性が強くドロドロの場合は遠心しても変わらないので、そのまま標本作成をしても良いと思います。

3. 培養検査への道

培養検査は血液寒天培地とマッコンキー寒天培地などのグラム陰性桿菌分離用の選択培地、嫌気性菌を目的とした培地(ブルセラ培地など)を最低用います。培養には胆汁を2-3滴培地に塗布し、白金耳で塗り広げます。

で、培養翌日にこんな感じになりました。

20210701-201756右がマッコンキー寒天培地、左が血液寒天培地

20210701-201725マッコンキー寒天培地を拡大するとこんな感じ

赤くなっているのが、腸内細菌科(正確には乳糖分解菌)疑い、コロニーがフラットなのでE. coliを疑います。

20210701-201537こちらは嫌気培地(ブルセラRS培地)

菌は翌日発育し、溶血が強いためC. perfringensを疑います。コロニーをグラム染色するとGPRでした。

まあ、MALDI-TOF MSを掛けたら迷う事ないんでしょう?って言われると元も子もないのですが、こういった菌同定プロセスは検査室だけのものにするのではなく、医師にも知って頂くのは本当に大切です。

4. その他

1)ENBDで胆汁を採取した場合ものは、コンタミネーションの可能性があり、検出菌が全て起炎菌には繋がらないので、どういう採取をしたのか提出時に記載してもらうと助かります。

2)胆嚢摘出時に胆汁が腹腔内に漏れることがあります。漏れた場合は遺残膿瘍として腹腔内に残り、感染コントロール不良となる要素の1つです。遺残膿瘍は幅広いですが、どのような状況で遺残膿瘍ができているのかカルテから情報収集することは必要です。

 

何にしても、検査室と現場(医師)間でコミュニケーションを築くことは大切です。培養やグラム染色はそういったお助けツールです。

皆さんも多いに活用しましょう。

 

 

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