喀痰の色
久々の更新です。
最近はグラム染色らしい内容をほとんど書いていませんので、もはやグラム染色道場というブログ名はダメなのかも知れません。
今回はグラム染色道場らしい投稿です。
患者は80代の男性です。20年前に肺の非結核性抗酸菌症(M. avium)と慢性気道感染症を指摘され定期的に外来通院をされてます。
今回も定期受診のため来院され喀痰を提出されました。
むむっと感じる喀痰ですね。色はyellow-greenです。
慢性気道感染症の患者では色々な色の喀痰が出ますが、このようにyellowからgreenに見える喀痰が出た場合には多くの細菌が関与していると言われています。扁平上皮が少なく、多核白血球優位である場合に、喀痰から細菌が検出される確率はなんと94.7%と驚異の数値ですが、特異度は15%と非常に低い結果となります。
https://erj.ersjournals.com/content/erj/39/6/1354.full.pdf
喀痰の色で細菌の種類がわかるのか?と言うことですが、基本的に答えは"NO"です。下記のグラフにあるように慢性気道感染症患者では喀痰の色で細菌の種類を特定することは困難です。この色を呈する喀痰はH. influenzaeが最も多く、S. pneumoniaeやM. catarrhalisが続きます。
ここで大事なのがグラム染色です。喀痰グラム染色をしてみました。
その1(X1000)
その2(X1000)
グラム陰性の中型の桿菌で周囲には赤い何かが確認できます。周囲の赤いのが莢膜だろうか?またはムコイド物質だろうか?
上記のグラムで莢膜形成をする細菌はH. influenzae、S. pneumoniae、K. pneumoniaeで、ムコイド形成するものはS. pneumoniaeとP. aeruginosaです。S. pneumoniaeはグラム陽性球菌なので、この時点で除外ができます。
残るはH. influenzaeとK. pneumoniae、P. aeruginosaの3つです。H. influenzaeは慢性気道感染症の主たる起炎菌ですが、呼吸器感染症由来株の多くは無莢膜型により起こるのでこのように赤く染まって見えることは少ないです。また、H. influenzaeより少し大きめですね。 H. influenzae(X1000)
残るはK. pneumoniaeとP. aeruginosaの2つです。もし、熱が出ていて呼吸状態も芳しくない場合は一度入院させてMEPMを入れておけば、この2つを分ける意味が無いかも知れない思われる人もいると思いますが、折角グラム染色までしているのでこの2つを分けてみたいですね。SBT/ABPCやCTRXを使いたい時はP. aeruginosaの可能性を否定しておきたいところです。
上のグラフを参考にするとK. pneumoniaeはyellowでこの喀痰のようなgreenがかった色になりにくい特徴があります。
また、K. pneumoniaeは菌体も少し大きいので今回はP. aeruginosaと特定できるグラム染色像です。
K. pneumoniaeは少し大型(右3時の方向)
丁度、M. catarrahlisとの混合感染している標本があったので掲載しておきます。
と言うことで、慢性気道感染症からP. aeruginosaが分離されたケースでした。培養を待たなくてもこれだけでP. aeruginosaと分かるだけでもグラム染色の威力は絶大ですね。上記の論文ではcultrure negativeが半数を占めており、グラム染色をしなければ安易に抗菌薬投与をしがちでは無いでしょうか。
細菌が分離される症例では、男性で多く、喀痰の色はyellow-greenで膿性痰が検出される割りに発熱を伴わない症例が多かった。
ウイルスが分離されるケースは少なく、分離される場合は発熱を伴う症例が多かった。
むしろ、喀痰グラム染色で菌が見えないことだってある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3410464/pdf/pri-27-70.pdf
ただ、本症例では抗菌薬投与は見合わせるべきで、慢性気道感染症の患者で膿性痰が出て、喀痰グラム染色を実施することで細菌が分離されると、抗菌薬を入れるかどうか迷うことも出てきます。染める前に患者の状態を把握し、菌が確認された場合には次にどうするのか考えることも必要でしょう。グラム染色はこういうケースでは諸刃の剣かも知れません。
本当にグラム染色って奥が深い学問です。
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