誤嚥性肺炎かどうかをグラム染色で考えるには
誤嚥性肺炎は嚥下機能が低下し、唾液や食べ物、胃液内容物が細菌と一緒に下気道に誤って吸い込むことで起こしますが、稀に誤嚥物が大量に落ち込み化学性肺炎を起こします(メンデルソン症候群)。
誤嚥性肺炎の診断はどのようにされているでしょうか?
嚥下機能が落ちている高齢者や脳梗塞後の患者、パーキンソン病などの神経疾患が基礎疾患にある患者、寝たきりで誤嚥しやすい患者などが発熱をして、熱源検索をしている際に胸部X線上で下肺野に肺炎像を認めていたり、肺炎はよく分からないが飲水時に咳嗽が繰り返し観察され白血球増多やCRP高値を伴う場合には考えたりしているのはないでしょうか。
肺炎像があるので、喀痰培養を出すことは通常の診療の中で行うことと思いますが、誤嚥性肺炎の場合は特に肺炎時に検出されやすい細菌が培養で確認されなければNomal floraで報告を受けるので肺炎?と悩むことがあると思います。
その違和感を解決する1つの手段にグラム染色所見を用いることができます。
唾液や胃液、食物を誤って細菌とともに吸い込むため、グラム染色所見でも扁平上皮が多く確認され、口腔内(または胃液)細菌が多数確認されます。誤嚥性肺炎は単回で悪くなる機会は少なく、誤嚥のエピソードが頻回に起こっています。また、肺炎像に見合った多核白血球の浸潤が多くみられ、感染している期間も長いことから「扁平上皮」が多く、「多菌種貪食像:polymicrobial pattern」が同時に確認されることが誤嚥性肺炎を疑う所見となります。
また、唾液や食物が下気道内に長く停留すると無気肺状態が続き、嫌気性菌が繁殖する温床にもなります。口腔内には好気性菌の3倍以上は嫌気性菌が存在すると言われているので嫌気性菌を疑う細菌も多数確認ができるようになります。
扁平上皮が多いこと、多菌種であること、嫌気性菌がキーポイントにはなりますが、
扁平上皮が多いことについては、扁平上皮≧10個/1視野(100倍)、好中球≧25個/1視野(100倍)、口腔常在菌≧50個/1視野(1000倍)の時に79%で誤嚥性肺炎を推定できると報告があります(Robinson,et.al,ASM,C-468,p20)。
嫌気性菌については、誤嚥性肺炎時に嫌気性菌が分離される機会が多くなります(Bertlettら 87%、Gonzalez-C and Calie 100%、Lorber and Swenson 62%、Brook and Finegold 93%)が、嫌気性菌が原因となる肺炎例は少ない(Bertlett 2.4%、 Finegoldら 3.3%)ことが知られています。嫌気性菌は好気性菌が同時に感染を起こすことで、感染症を悪化させる要因になるということがわかります。
検査室から「嫌気性菌を含む多菌種貪食像あり」、「誤嚥性肺炎を疑う所見を認めます」というグラム染色所見の報告は、臨床所見で誤嚥性肺炎を疑う所見が同時に確認があれば、培養でNomal floraと報告を受けても迷うことはないでしょう。
ただし、肺化膿症や肺膿瘍、膿胸の患者は誤嚥性肺炎が進行した病態であり、誤嚥性肺炎様の所見が確認され、気管切開がある患者では誤嚥がなくても誤嚥性肺炎に似た像になることがあり少し注意が必要です。
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