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2021年6月23日 (水)

誤嚥性肺炎の喀痰は質が悪いのか?

先日はグラム染色で誤嚥性肺炎をどう考えるか?について書きました。

http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2021/06/post-1bc9d4.html

SNSで紹介したところ、いくつか質問を頂きました。

1. 喀痰ではなく吸引痰ではどうなるのか?

吸引痰の場合では、喀痰を自分で排出できない患者(ADLが少し落ちている)から採取する場合が多いことから扁平上皮が多く混在すると思われます。

自験例ですが以下のような結果となりました。

やっぱり、多核白血球が多く確認されることが誤嚥性肺炎の診断には重要な所見と思います。白血球がなければrejectですね。

2_20210623193401

喀痰は患者の協力があり口から痰(膿)が出てきたもので、外観評価は全然当てになりません。

喀痰は患者本位に採取された痰ということになります。吸引痰はどうでしょうか?

吸引痰は医療スタッフが口からチューブを入れて(言い方が悪いですが)強引に分泌物を採取したものです。採取したものが喀痰なのか?、鼻汁なのか?、唾液なのか?、食べ物なのか?は採取する本人しか分かりません。吸引するとズルズルという音とともに唾液と共に分泌物が引けます。分泌物の中には痰や食べ物、唾液、鼻汁が多数混じり合います。そのため、どうしても扁平上皮が多くなります。喀痰と同じですが痰は良質なところを採取できるように生理食塩水で洗浄をして膿性部分をしっかり採取したいものです。

そのため、採取された痰は洗浄をしてグラム染色像を確認することが大切です。

1_20210623193001喀痰救出大作戦

2.誤嚥性肺炎は材料評価が悪い

誤嚥性肺炎は上皮がそのまま下気道に落ち込みますので、痰の中には上皮が多く含まれます。そのため、Geckler分類は悪くなります。

そもそも、Geckler分類は成人市中肺炎の原因菌を喀痰グラム染色で評価するために検討された研究です。評価対象には高齢者や肺結核、異型肺炎は含まれませんので、誤嚥性肺炎は当然含まれた結果にはなっていません。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/334796/

自験例ですが以下の通りです。

Photo_20210623193601

結論

誤嚥性肺炎の時は質が悪い評価に繋がるが、痰は洗浄して膿性部分のみ採取することで誤嚥性肺炎をより正確に診断することができます。

学校では教えてくれない内容って、日々勉強ですね。

 

 

 

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2021年6月22日 (火)

誤嚥性肺炎かどうかをグラム染色で考えるには

誤嚥性肺炎は嚥下機能が低下し、唾液や食べ物、胃液内容物が細菌と一緒に下気道に誤って吸い込むことで起こしますが、稀に誤嚥物が大量に落ち込み化学性肺炎を起こします(メンデルソン症候群)。

誤嚥性肺炎の診断はどのようにされているでしょうか?

1000_20210622221301polymicrobial pattern

嚥下機能が落ちている高齢者や脳梗塞後の患者、パーキンソン病などの神経疾患が基礎疾患にある患者、寝たきりで誤嚥しやすい患者などが発熱をして、熱源検索をしている際に胸部X線上で下肺野に肺炎像を認めていたり、肺炎はよく分からないが飲水時に咳嗽が繰り返し観察され白血球増多やCRP高値を伴う場合には考えたりしているのはないでしょうか。

肺炎像があるので、喀痰培養を出すことは通常の診療の中で行うことと思いますが、誤嚥性肺炎の場合は特に肺炎時に検出されやすい細菌が培養で確認されなければNomal floraで報告を受けるので肺炎?と悩むことがあると思います。

その違和感を解決する1つの手段にグラム染色所見を用いることができます。

唾液や胃液、食物を誤って細菌とともに吸い込むため、グラム染色所見でも扁平上皮が多く確認され、口腔内(または胃液)細菌が多数確認されます。誤嚥性肺炎は単回で悪くなる機会は少なく、誤嚥のエピソードが頻回に起こっています。また、肺炎像に見合った多核白血球の浸潤が多くみられ、感染している期間も長いことから「扁平上皮」が多く、「多菌種貪食像:polymicrobial pattern」が同時に確認されることが誤嚥性肺炎を疑う所見となります。

また、唾液や食物が下気道内に長く停留すると無気肺状態が続き、嫌気性菌が繁殖する温床にもなります。口腔内には好気性菌の3倍以上は嫌気性菌が存在すると言われているので嫌気性菌を疑う細菌も多数確認ができるようになります。

4_20210622221401誤嚥性肺炎像の解説

扁平上皮が多いこと、多菌種であること、嫌気性菌がキーポイントにはなりますが、

扁平上皮が多いことについては、扁平上皮≧10/1視野(100倍)、好中球≧25/1視野(100倍)、口腔常在菌≧50/1視野(1000倍)の時に79%で誤嚥性肺炎を推定できると報告があります(Robinson,et.al,ASM,C-468,p20)。

嫌気性菌については、誤嚥性肺炎時に嫌気性菌が分離される機会が多くなります(Bertlettら  87%、Gonzalez-C and Calie  100%、Lorber and Swenson  62%、Brook and Finegold  93%)が、嫌気性菌が原因となる肺炎例は少ない(Bertlett  2.4%、 Finegold  3.3%)ことが知られています。嫌気性菌は好気性菌が同時に感染を起こすことで、感染症を悪化させる要因になるということがわかります。

検査室から「嫌気性菌を含む多菌種貪食像あり」、「誤嚥性肺炎を疑う所見を認めます」というグラム染色所見の報告は、臨床所見で誤嚥性肺炎を疑う所見が同時に確認があれば、培養でNomal floraと報告を受けても迷うことはないでしょう。

ただし、肺化膿症や肺膿瘍、膿胸の患者は誤嚥性肺炎が進行した病態であり、誤嚥性肺炎様の所見が確認され、気管切開がある患者では誤嚥がなくても誤嚥性肺炎に似た像になることがあり少し注意が必要です。

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2021年6月21日 (月)

喀痰の色

久々の更新です。

最近はグラム染色らしい内容をほとんど書いていませんので、もはやグラム染色道場というブログ名はダメなのかも知れません。

今回はグラム染色道場らしい投稿です。

患者は80代の男性です。20年前に肺の非結核性抗酸菌症(M. avium)と慢性気道感染症を指摘され定期的に外来通院をされてます。

今回も定期受診のため来院され喀痰を提出されました。

Photo_20210621214001

むむっと感じる喀痰ですね。色はyellow-greenです。

慢性気道感染症の患者では色々な色の喀痰が出ますが、このようにyellowからgreenに見える喀痰が出た場合には多くの細菌が関与していると言われています。扁平上皮が少なく、多核白血球優位である場合に、喀痰から細菌が検出される確率はなんと94.7%と驚異の数値ですが、特異度は15%と非常に低い結果となります。

https://erj.ersjournals.com/content/erj/39/6/1354.full.pdf

喀痰の色で細菌の種類がわかるのか?と言うことですが、基本的に答えは"NO"です。下記のグラフにあるように慢性気道感染症患者では喀痰の色で細菌の種類を特定することは困難です。この色を呈する喀痰はH. influenzaeが最も多く、S. pneumoniaeやM. catarrhalisが続きます。

1_20210621215401 

ここで大事なのがグラム染色です。喀痰グラム染色をしてみました。

Dpbその1(X1000)
Dpb5 その2(X1000)

グラム陰性の中型の桿菌で周囲には赤い何かが確認できます。周囲の赤いのが莢膜だろうか?またはムコイド物質だろうか?

上記のグラムで莢膜形成をする細菌はH. influenzae、S. pneumoniae、K. pneumoniaeで、ムコイド形成するものはS. pneumoniaeとP. aeruginosaです。S. pneumoniaeはグラム陽性球菌なので、この時点で除外ができます。

残るはH. influenzaeとK. pneumoniae、P. aeruginosaの3つです。H. influenzaeは慢性気道感染症の主たる起炎菌ですが、呼吸器感染症由来株の多くは無莢膜型により起こるのでこのように赤く染まって見えることは少ないです。また、H. influenzaeより少し大きめですね。
1000_20210621220401 H. influenzae(X1000)

残るはK. pneumoniaeとP. aeruginosaの2つです。もし、熱が出ていて呼吸状態も芳しくない場合は一度入院させてMEPMを入れておけば、この2つを分ける意味が無いかも知れない思われる人もいると思いますが、折角グラム染色までしているのでこの2つを分けてみたいですね。SBT/ABPCやCTRXを使いたい時はP. aeruginosaの可能性を否定しておきたいところです。

上のグラフを参考にするとK. pneumoniaeはyellowでこの喀痰のようなgreenがかった色になりにくい特徴があります。

また、K. pneumoniaeは菌体も少し大きいので今回はP. aeruginosaと特定できるグラム染色像です。

5_20210621221201K. pneumoniaeは少し大型(右3時の方向)
丁度、M. catarrahlisとの混合感染している標本があったので掲載しておきます。

と言うことで、慢性気道感染症からP. aeruginosaが分離されたケースでした。培養を待たなくてもこれだけでP. aeruginosaと分かるだけでもグラム染色の威力は絶大ですね。上記の論文ではcultrure negativeが半数を占めており、グラム染色をしなければ安易に抗菌薬投与をしがちでは無いでしょうか。

細菌が分離される症例では、男性で多く、喀痰の色はyellow-greenで膿性痰が検出される割りに発熱を伴わない症例が多かった。

ウイルスが分離されるケースは少なく、分離される場合は発熱を伴う症例が多かった。

むしろ、喀痰グラム染色で菌が見えないことだってある。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3410464/pdf/pri-27-70.pdf

ただ、本症例では抗菌薬投与は見合わせるべきで、慢性気道感染症の患者で膿性痰が出て、喀痰グラム染色を実施することで細菌が分離されると、抗菌薬を入れるかどうか迷うことも出てきます。染める前に患者の状態を把握し、菌が確認された場合には次にどうするのか考えることも必要でしょう。グラム染色はこういうケースでは諸刃の剣かも知れません。

本当にグラム染色って奥が深い学問です。

 

 

 

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