術後患者の気道分泌物増加という相談
皆様、ブログが滞っており申し訳ありません。バタバタしており、なかなか筆を取るまでも行き着いていません。
さて、夜間休日など微生物検査室が稼働していない時に限り「グラム染色してもらえませんか?」という相談がありませんか。
もしくは、「夜間休日だけど検査室対応してくれないかな?」って思っている医師も多いと思います。
広域抗菌薬を処方すればそれで済むでは無いか?という愚問に至る可能性もあるのですが、広域抗菌薬の無駄な使用は耐性菌を産むための滑走路にしか過ぎません。理由があり広域抗菌薬を初期治療に用いることはやむ得ないと思いますが、理由もなく広域抗菌薬を使用し続けるのも賢明な選択ではありませんね。
こういう症例はどうしますか?架空の症例ですが考えてみましょう。
症例:70代、男性。
主訴:気道分泌物の増加。
既往歴:陳旧性脳梗塞、高血圧、ラクナ梗塞。
現病歴;ラクナ梗塞で入院加療中(2週間)の患者が突然の腎機能低下を認めたため腹部CTを撮影したところ、腎動脈下動脈瘤破裂を認めて転入となった。緊急手術となり5時間の手術後に集中治療管理となった。術後経過のため血液検査をしたところ、術後2日目にCRPの上昇(11.3→20.6)と気道分泌物の増量を認めた。胸部Xpでは前日と比較しても明らかな異常陰影はなく、発熱も認めないためCRPが上昇する理由も分からない状態であった。SSI予防のためCEZが1日3回投与されている。胸部異常陰影はないが、気道分泌物が黄色になってきていることが気になり、夜間に「喀痰のグラム染色を見て頂けませんか?」という相談があった。
「時間外ですが患者さんの状態が変化しても良くないので少し時間を頂きますが確認して連絡をします。」と返事をしました。
時間の合間を見てグラム染色を実施。以下の像が見えたので報告しました。
喀痰は多核白血球も多く、扁平上皮が殆ど見られません。このことから採取した喀痰は良質であることがわかります。微生物が確認された場合の起炎菌の可能性は高くなります。
微生物の確認ですが、グラム陰性桿菌が多数確認されます。グラム陰性桿菌はやや太く単体のものが多く見られます。両端は尖っていないため緑膿菌以外のグラム陰性桿菌の可能性が高く、大きさから腸内細菌群の可能性が高くなります。
またグラム陽性球菌が確認され、一部クラスター形成もあること、菌体の周囲が赤みを帯びた像であることから黄色ブドウ球菌の可能性が高いことが分かります。
所見:グラム染色所見からは大型のグラム陰性桿菌多数と少数のグラム陽性球菌が確認される。グラム陰性桿菌は腸内細菌群、グラム陽性球菌が黄色ブドウ球菌の可能性が高いと判断されます。また多核白血球優位であり肺炎を疑うのであればこれらの菌が起炎菌になっている可能性が高いと判断されます。
補足:腸内細菌群は大腸菌やKlebsiellaの可能性があり、患者は前医での入院期間も長いこととCEZ投与下での喀痰の増加やCRPの上昇から考えると耐性菌(ESBLなど)の可能性もあり、同菌による肺炎に移行している可能性はある。黄色ブドウ球菌も同様でMRSAの可能性もある。MRSAかどうかは培養するので明日には判明します。 と補足しておきます。
そういうのを考慮してCEZはMEPM+VCMへと変更し培養の結果を参考にde-escalationすることになりました。
翌日、MRSAスクリーニングは陰性のためVCMは終了。グラム陰性桿菌は腸内細菌群で同定の結果は大腸菌でESBL産生菌であったためMEPM継続となった。肺炎かどうかの判断は難しいが術後7日目で経過も良くMEPMは終了となった。
人工呼吸器関連肺炎の場合には喀痰グラム染色で菌が見えたら起炎菌の可能性が高くなるのか?ですが、採取の方法にも寄りますがしっかりと気管内から採取された喀痰で菌の確認が無ければ肺炎の可能性はかなり低くなります。裏を返せば菌が見えたら肺炎か?というのは少し違い、菌が見えなければ抗菌薬は中止の検討ができることは知られています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22677711/)
また、人工呼吸器を装着している患者では発熱や気道分泌物の増加、胸部Xpの異常陰影、この3つのうち2つ以上認めると肺炎の可能性が高くなります。発熱については解熱鎮痛薬の投与があればマスキングされること、胸部Xpの異常陰影は早期に出現しないことも含めて考えると肺炎を併発した場合に致命傷となりうる場合はどうしても抗菌薬を投与(変更)する場合があると思います。単純に「これに変えよ」ではなく、根拠を元に抗菌薬の変更を行うことはAMR対策として非常に大切です。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10491448/)
こういう時こそグラム染色をして感染症診療に貢献すべきかと思います。
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