メトロニダゾールは全ての嫌気性菌に効くという解釈は間違えである
毎日コロナのお話しで持ちきりと思いますので、ここらでグラム染色のお話しをします。
先日、TLでメトロニダゾール(MNZ)のお話しが上がっていました。掲載されていた論文は2010年のCIDになります。
Metronidazole Is Still the Drug of Choice for Treatment of Anaerobic Infections
(https://academic.oup.com/cid/article/50/Supplement_1/S16/365006)
MNZはニトロイミダゾール系の抗菌薬、抗寄生虫薬です。開発はなんと50年以上前になりフラジールの愛称で処方されてきました。日本では1979年に抗寄生虫薬として使用が始まり、2014年には嫌気性菌にも使用できるようになりました。最初は経口薬のみでしたが、日本でも注射用剤としてアネメトロが使用できるようになりました。
細菌での作用機序は細胞壁を通過してDNAに傷を付けることで殺菌的に作用します。脂溶性の抗菌薬であり膿汁中への移行はβ-ラクタム系薬に比べて高く、嫌気性菌が関与する膿瘍で効果が高くなる(膿瘍治療の基本はデブリードです)。C. difficileにも奏功し、適用拡大までVCM散しか使用できなかった偽膜性腸炎の治療にも使う機会が増えてきました。
バイオアベイアビリティーも経口と注射でさほど変わりませんが、飲めない患者にとって注射薬はかなりありがたいはなしです。
排泄も良い抗菌薬なので、腎機能低下の患者でも用量調整が不要なことがあります。ただし、高度腎機能低下の場合は体内にMNZの蓄積がありMNZ脳症になると報告があります。
かなり嫌気性菌一押しですが、嫌気性菌の全てで効果があるわけではありません。
添付文書にも記載がありますが嫌気性菌のうちグラム陰性桿菌やClostridium属(Clostridioides含む)といった有芽胞菌については効果がありますが、
・嫌気性グラム陰性桿菌:Βacteroides、Fusobacterium、Prevotella、Porphyomonasなど
・嫌気性有芽胞グラム陽性桿菌:Clostridium、 Clostridioidesなど
無芽胞グラム陽性桿菌や嫌気性グラム陽性球菌、MNZ耐性菌には効果がありません。
・無芽胞グラム陽性桿菌:Eubacterium、Actinomyces、Propionibacteriumなど
・嫌気性グラム陽性球菌:Peptostreptococcus、Previmonas、Finegordiaなど
・耐性菌:B. fragilis、C. difficileなど
嫌気性菌感染症については単一感染が少なく、溶存酸素濃度が高い臓器(消化管>肺)では発生しにくく、血液培養ではあまり見かけません。
診療科では耳鼻科や消化器外科を中心に多く見られます。肺膿瘍の原因としても知られてますが敗血症性肺塞栓として確認されることがあります。
感染臓器や病態から嫌気性菌を疑うのでMNZを初期治療に使うことは間違っていませんが、グラム染色を確認することでその適正化は図れます。こういうところでもグラム染色所見の臨床的意義は高くなります。
そのため、こういう所見がある場合は検査室では推定菌種を付けて返すと良いかもしれません。どれだけ使用予定の抗菌薬に効果が低い要素があるかを考える良い機会になります。
こういう初歩的と思われる内容は研修医は知っていないことが多く、臨床研修の間に覚えておきたい知識の一つと思います。
白く抜けて見える陽性桿菌がClostridiumを推定させます(MNZ感受性)
腸内細菌とは区別しにくいです。少し染色性が悪いのが特徴として見えることある(MNZ感受性)。
先端が尖り、紡錘形の菌体が特徴です(MNZ感受性)。
分岐した棍棒状の陽性桿菌(MNZは効果なし)
分岐が多い陽性桿菌(MNZは効果なし)
Fusobacteriumは効果が期待できますが、GPCは効果なしです。
最近のコメント