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2020年2月22日 (土)

新型コロナウイルス(COVID-19)の検査(2月26日時点)

少しこの疾患の概要と検査のことについて記載してみることにします。

日に日に情報が変わるので、最新の情報は自ら調べるようにしてください。

世間を席巻している新型コロナウイルス感染症ですが、感染者の確認検査でPCR(正確にはリアルタイムPCR)が取り上げられている。

PCRは核酸(この場合はコロナウイルス)を抽出し、その鋳型に見合った遺伝子を機械で温度上昇と下降を繰り返しすることで増幅させていくものであるが、リアルタイムPCRは通常のPCRと少し違い、どの回数回せば陽性になったかどうかを確認できる。言わば通常のPCRが定性検査であるが、リアルタイムPCRは定性に加えて定量もできることがある。

核酸抽出においてはコロナウイルスはRNAウイルスなので、結核菌のようなDNAより少しテクニックが必要です。抽出用のキットや機器を利用すれば、慣れると問題ないのでしょう。

1 疾患の概要

今回は新しいコロナウイルスによる新興感染性で、中国武漢で蔓延していたウイルスが拡散している。以前にもコロナウイルスではSARSやMERSがあったが、この2つとは少し様相が違うようです。中国でも当初はリンクしている人たちの間で感染を起こしていたのですが、今はリンクも切れた2次感染も超えて、蔓延している状態です。

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潜伏期間は研究により様々ですが、概ね5〜7日とされています。 

5_20200222062501中国の発生初期のデータ

4_20200222062501ドイツのデータ

日本で初めて感染者が見つかったのは1月16日。あちこちで感染者が見つかってきたのが、1月末でした。

潜伏期間中にも感染力を持つことが知られていますので、仮に潜伏期間を5日と設定すると、

・1月16日であれば1ヶ月経過しているので6世代目

・1月30日であれば20日経過しているので4世代目

となるので、現在見つかっている感染者は最初のオリジナルのウイルス株ではないことは明確です。

基本再生産数(1人が何人に感染させるかの指標)は0.5-5.0。平均すると2.2あたりで1人が2-3人に感染させる能力を持ちます。これは麻疹ウイルスのような空気感染を起こす疾患より感染力が弱く、季節性インフルエンザと大きな差はありません。この数字を見ている限り接触+飛沫感染による伝播なのでしょう。

上記のことを考えると、

6世代目であれば、当初の感染患者の2の6乗(64倍)も感染者がいることになります。日本の感染者がクルーズ船を除くと82人ですので、index caseを考えると、基本再生産数通りの感染拡大と考えます。1ヶ月後には82X64になるので、5000人を超えている計算になります。しばらくは気が抜けないことや、既に蔓延期になっていると考えて良いので、全国のどの地点でも感染者が出てくると思います。

クルーズ船という特殊条件下では少し高くなるようです。http://www.news24.jp/articles/2020/02/20/07598270.html?fbclid=IwAR2g6vdfSIt60VcW1UIuOTeghgz4pdjdhbM-oGp3uFCr6PGcTGqI_4Ua5Q8

https://ja.wikipedia.org/wiki/基本再生産数
https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2020.25.4.2000058
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001316

この疾患は子供での感染例が少なく、成人に多いのが特徴です。特に高齢者が罹患すると死亡率が高く、循環器疾患を持つ患者の場合はさらに死亡率が高いことがわかっています。

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2. PCRの感度より胸部CTの感度が高い

感染初期にはウイルス量が少なく、検査をしても陰性になる時期があると言われています。100%の感度と特異度を同時に維持できないのが臨床検査の特性ともなるのですが、肺炎を起こしているが鼻腔や咽頭では陰性になることを考えると肺で特異的に増殖するウイルスかも知れません。

PCRの感度は77%という報告があります。

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3 採取部位は鼻腔の方が感度が高い

PCRを行うのは、喀痰が良いと思いますが、初診時には咽頭粘液や鼻腔分泌物を検体とすることが多いようです。

最近の報告を見ていると咽頭粘液より鼻腔分泌物の方が感度が高いようです。リアルタイムPCRの解離曲線も少し早いようです。

また、糞便からも検出されている例もあります。病期により採取部位を工夫すると検査感度が上がるような気がします。

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結局、診断には未だ不確定要素も多く、今後も解析されていくと思います。

4.誰にするのか?

今のところ有症状の場合でも限定的みたいです。

Photo_20200226234501 

無症状の場合でも陰性確認が必要なようです。

Photo_20200226234502 

 

5.結局どこまで陽性になるのか。

PCRは検査感度が良いようなイメージであるが、検査前確率が高いと良い検査のイメージを持ってしまうが、検査前確率がまだまだ低い場合には空振りが多く、検査に対して良いイメージを持たないことがある。

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クルーズ船は陽性者が多いかんじがします。

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6.検査をする場合の感染対策

検査をする場合にサージカルマスクにするのか、N95マスクにするのか。また、PPEはどこまで着用するのか。

単純にインフルエンザを疑った検査でもPPEを着用しないといけないのかなど現場では色々と話が出ていることと思います。

現在のデータを見ていると飛沫感染対策になりますので、サージカルマスク対応になると思います。

インフルエンザ検査もそうですが通常はPPE=サージカルマスク+ガウン(またはエプロン)+ゴーグル+手袋で対応することになっていると思いますが、皆さんの施設ではどうでしょうか。抽出試薬に懸濁する場合に飛沫が飛ぶ可能性もありますし、ドジって液を溢したり、綿棒が転がったりなどすることもあります。上記のPPEに加えてアルコールによる清掃が直ぐにできるように消毒薬も配備すべきでしょうね。手袋を脱いだ後も手はアルコールで消毒しましょう。

できれば安全キャビネット内で実施することが良いですが、施設の設備や運用方法により異なるので、そこは内部調整が必要と思います。

1つ言えることは、日常の感染対策は今までのものが応用できることです。この機会に感染防止の基本を検査室内で共有してみてはいかがですか。

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http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_mizugiwa_200221.pdf?fbclid=IwAR2uJ2_IrzwlVb9ldKEsYs2mITrkayy0OlT-1UX-QnWPA6h90kgCiwfJG78

感染対策をしている皆様、毎日お疲れ様です。今の時期が大切です。

日頃実施している感染対策の見直しができると思いもう少し頑張ってください。

 

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2020年2月13日 (木)

血液培養の報告は正か?負か?

令和2年度の診療報酬改定において血液培養の点数がまたもや増加しています。

http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2020/01/post-52869b.html

それだけ血液培養は治療の適正化はもとより耐性菌の発生抑制に貢献しているものと見えます。

血液培養は採取後に機器へ挿入され、陽性の場合にはシグナルが鳴ることで私たちに告知してくれます。

陽性後はボトルの本数や陽性時間、ボトルの外観を確認し、ガスの産生や色調変化(溶血や濁り)も確認し菌種推定を行います。

次にボトル内部から培養液を採取してグラム染色所見を確認します。そこで初めてグラム陽性菌なのか、陰性菌なのかを確認することになります。

確認後は寒天培地を用いてサブカルチャーと呼ばれる培養を行なって、同定・感受性検査へ進めます。最近ではお金持ちの施設にはMALDI-TOF MSが常備されているため、そこで菌種同定されることがあります。

まだまだ、グラム染色による菌種推定を実施している施設も多く、その結果はPanic Valueとして医師へ連絡されます。

そこで、初めて診断が正しいかどうかの確認と初期治療の抗菌薬が適切なのか、適正なのか検討を行う。

迅速な報告は患者の予後に結びつき、陽性判明後1時間以内に報告することは予後改善に大きく寄与することが知られています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19019762

早く報告することで診断治療に寄与することは多いのですがこういう事例はどうでしょう。

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患者:40代、女性。

既往歴:甲状腺機能低下症

現病歴:1日前から気分不良を訴え、翌日突然の意識消失で搬送となる。

入院時の血糖値は13mg/dLと異常低値を示し、頭部MRIで低血糖性脳症と診断される。

項部硬直があ利、除外診断のため髄液穿刺を実施したところ細胞数61個(多核球優位)を示した。

翌日、入院時に採取した血液培養が陽性になり下記のグラム染色所見を認めた。髄液培養は陰性。

S-mitis 血液培養グラム染色所見(×1000)

 

グラム陽性の長い連鎖状球菌、菌体はやや長細く、一部染色性が悪いものが散見される。

GPC long chain, part of gram stain variable→S/O viridans group streptococci(VGS), r/o Streptococcus pneumoniae

直ぐにグラム染色所見を確認し、この時点で除外すべきは肺炎球菌であるが、菌の形状はVGSで問題はなさそうと報告。

一応、髄膜炎否定が困難なためCTRX+VCMを開始することになった。

最終同定はStreptococcus mitisであり、最終診断は採取時のコンタミネーションが原因と考えられ、数日で抗菌薬は終了となった。

低血糖の原因は甲状腺クリーゼで、低血糖による発作及び脳症と最終診断され、数日後に退院となった。

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この報告はしなくて良かったのかもしれない。そうすれば余計な抗菌薬投与は無かったかもしれない。

または、報告して良かったのかもしれない。菌が発育しているのだから報告は当たり前だよと悩む症例ですね。

文明機器のMALDI-TOF MSでは肺炎球菌とS. mitisは完全に区別ができない菌種ですし、肺炎球菌抗原は交差反応を示します。

こういう時は原点回帰であり、グラム染色所見をもう一度確認することが大切なんだと思う瞬間でした。

皆さんは、毎回報告している血液培養のグラム染色所見をどのように感じていますか?

 

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