グラム染色で病気の原因を探る
連休中ですが皆様いかがお過ごしですか?
連休なので、普段以上に感染症例を多く診ている施設も多いと思います。また、微生物検査が直ぐにできない状況も多くあると思います。
こういう時は普段より救急診療の中でグラム染色をしている施設が強いですね。グラム染色では細菌の種類を鑑別することができます。そもそも細菌感染症かどうかの判断にも使えます。
これはHans Gramが1884年に報告した論文の中にも記載されており、100年以上経過しても目的は一緒です。
ただし、彼は論文の中で「今後、様々な研究者によって改良されていくことを望む。」と書いています。染色方法は100年以上で改良されてきましたが、所見の確認についてはあまり大きな進歩はありません。
しかし、グラム染色では細菌の情報以外にも、その状態になる原因や病態を示唆する情報が沢山見えることがあります。
写真は誤嚥性肺炎を示唆する所見です。胸部Xp所見では右下肺に浸潤影があります。患者は神経疾患によるADL低下を認める90代の男性で在宅で奥様による食事摂取を行なっています。数年前に胃の全摘をしております。2日前より食欲が無くなり、昨日から37℃の発熱を認めるようになってきました。膿尿は認めず自己導尿で排尿を繰り返しています。
喀痰を生理食塩水で洗浄し、その後スメアを作成してみました。
中にはこんな大きな細胞も見えますが、人由来の細胞ではなさそうです。
黄褐色の結晶のようなものが見えます。
以上の所見をまとめてみます。
・グラム陽性のレンサ球菌が多数あります。連鎖は長いものも多く、肺炎球菌ではなさそうです。
・多核白血球が優位にありません。扁平上皮も散在しており白血球と同数あります。痰の採取不良も考えられます。
・人以外の大きな細胞が確認されます。また、デンプン質のようなものも一緒に確認があります。
・黄褐色の結晶成分があり、胆汁様のものも推定できます。
洗浄喀痰にも関わらず口腔内細菌を多く認め、上皮の確認もあります。この患者が飲み込んだものの中に食事由来のものも混在し、一度胃に到達したものであるが、何らかの原因で逆流性誤嚥を起こし、嚥下のタイミングで下肺まで唾液や消化液が落ち込んだ可能性も示唆(Menderson症候群)されます。
患者の背景と胸部陰影と合わせると、誤嚥性肺炎でグラム陰性桿菌が少ないことがわかります。抗生剤の投与が必要かどうかここでは分かりにくいですが、必要と判断される場合はSBT/ABPCやABPCのみという狭域抗菌薬だけで乗り切れるような気がします。
連休で心配なので広域抗菌薬に頼りがちでしょうが、グラム染色はあなたの診療を助けます。是非覚えておくことをお勧めします。
最近のコメント