先日書いた記事の解釈について
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
もう直ぐ本が出版され、売れ行きが非常に気になって毎日ランキングを見るようになりました。せっかく作ったのに売れ残りがあると良くないですので。
さて、先日の記事についてです。
COPDと心不全を基礎疾患に持つ患者が誤嚥性肺炎を疑われ入院となった症例ですが、経過も良く初期治療の評価を行い抗菌薬の処方内容について検討を行うというものです。
培養結果としてPantoea agglomeransが検出されていましたが、このPantoeaはもともとEnterobacterに属した菌で医療関連感染(特にデバイス関連の感染)を起こすことがあります。3世代セフェム耐性は稀です。肺炎は比較的まれですので、この菌で肺炎を起こす患者かどうか考えることが大事です。全く起こさないわけではないですが、元々自宅で過ごしていた患者なので肺炎の原因菌としてが下位にきます。ここを念頭に置いてグラム染色と合わせて考えます。
入院当日の喀痰グラム染色はどうでしょうか?
まずは弱拡大(100倍)ですが、この倍率では材料評価を行うと同時に、どのようなものが混在しているか確認をします。
材料評価はGeckler分類で行いますが、この材料はGrade2になります。
四角い上皮が扁平上皮で1視野に25個以上あり、扁平上皮と比べて半分以下の丸みを帯びたものが白血球で10〜25個になるからです。
つまり材料として良くありません。これは採取条件が悪い(唾液が大量に混入してしまった)のか、元々膿性痰がでない患者なのかの確認が必要です。そのため、入院時の喀痰がどういったものなのかの確認が必要です。もしくは検査室では洗浄喀痰をしっかりとグラム染色に使っているのか確認も大切です。
確認したところ洗浄喀痰ではないことが判明しました。また、画像の中央部には抜けて見える物質があります。これは脂肪やグリコーゲンでありご縁を示唆する物質の一つです。つまり唾液を多く含んだ検体であることがわかります。
次に強拡大(1000倍)です。
多核白血球がほとんどなく、Viridans group Streptococcusと思われる口腔内常在菌が多数ある。
多核白血球も散見されるがpolymicrobial patternもなく誤嚥性肺炎を伺う所見が無い。ただし白血球は多く認めるので炎症所見として捉えることはできます。
グラム染色所見では上記の解釈になります。培養でも優位な菌はなく、肺炎治療のために抗菌薬継続が必要なのか疑問が残ります。合わせて心不全の状態も良くなりつつある。心不全による肺水腫では心不全細胞も出現することがありますが、今回は認めませんでしたので慢性的に心不全がひどい状態ではないと考えることもできます。
以上の結果よりTAZ/PIPCはどうするのかですが
①緑膿菌などの広域抗菌薬耐性菌の検出は無いこと。
②誤嚥性肺炎と思われたが心不全が原因の呼吸不全の可能性が高い
③口腔内常在菌が多量に混在しているだけで痰ではなかった可能性あり。もしくは喀痰は主訴ではなかった。
これらを考慮して抗菌薬は終了するか、de-escalationを行いSBT/ABPCへと変更して、しばらく経過を見ていくことになると思います。どちらにしても呼吸器症状の休息な改善が行われていれば現在の治療方針を継続することになるのですが、抗菌薬適正化に向けてグラム染色を駆使することはAMR対策として重要と考えます。
| 固定リンク
「その他」カテゴリの記事
- 第26回教育セミナー当日のプレゼン資料(2019.10.19)
- グラム染色で病気の原因を探る(2019.05.03)
- 第30回日本臨床微生物学会にて話ていたプライドのこと(2019.02.05)
- 先日書いた記事の解釈について(2019.01.01)
- グラム染色はどこまで使えるのか?(2018.12.14)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント