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2018年3月23日 (金)

培地物語(血液寒天培地 後編)  溶血反応

しばらく培地の話が続きます。

前回は 培地物語(血液寒天培地 前編)  血液は何でも良いのか?について書きました。http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2018/03/post-5443.html

血液寒天培地 私の後編は血液寒天培地の拘りです。
【そもそも、何で血液寒天培地ができたのか?】
寒天培地はロベルト・コッホが発案した(と言われる)培地ですが、最初はジャガイモ培地( Löwenstein–Jensen medium )で実施していたようですが、さすがに発育は今より悪かったと思います。

血液寒天培地の溶血性を調べたのはBrownがかなり研究(1919年)していています。かなりのボリュームで読むことができませんが興味があれば読んでください。
引用文献を見ていると食品から分離される細菌や咽頭炎から分離される菌を中心でS. anginosuやS. pyogenes、Staphylococcusの溶血性の研究が多いようです。今もそうですが、血液寒天培地に期待されているのは溶血性だったようです。さらに、血液寒天培地の歴史を調べていると結核菌培地として検討した結果が多く出てきます。L-J培地と血液寒天培地との比較では血液寒天培地の方が早く生えましたという論文がいくつか出てきます。
1J Bacterial.1953,Oct.66,448-452.

血液寒天培地に結核菌が生えるのか?と思われますが普通に生えてきます。感染性も考えたら危ないし、今は液体培地もあるのでやらないと思いますが生えます。

Photo_8血液寒天培地に生える結核菌

【溶血へのこだわり】
溶血性が見れるのが血液寒天培地に課せられた最大のミッションです。溶血と言っても緑色になるα溶血、コロニー周囲が抜けて見えるβ溶血がありますが、β溶血が血液寒天培地に求められる条件と思います。β溶血でも溶血性が強いS. aureusやS. pyogenes、S. dysgalactiae subsp. equilimilis(SDSE)から、S. agalactiaeやL. monocytogenesなどのような溶血が弱いもの、S. anginosusのようなβ溶血するがコロニーが小さいものまであります。

皆さんはどの溶血性を重視して血液寒天を選びますか?

Photo_9 α溶血の代表格。肺炎球菌。

Ggsmrsa_2 β溶血の代表格。S. aureus(大きい方)とSDSE(小さい方)。

Gbs 溶連菌でも弱いβ溶血のS. agalactiae

【溶血性と酸素】
我々は通常大気の条件で溶血性を見ますが、ストレプトリジン(厳密にはストレプトリジンO)は酸素条件で溶血性が失われるので、本来の溶血性を確認するためには嫌気条件で確認をします。

しかし、嫌気条件になれば生えるものも生えないので、検査室で炭酸ガス濃度をコントロールすることで溶血性を確認しやすくしています。昔はロウソク瓶培養をしていたわけですが、恐らく炭酸ガス濃度は10%程度になっていたかと思います。
炭酸ガス濃度は低くて5%は必要ですが、孵卵器のドアは開け締めが多いので、当院は7%濃度で対応しています。

【CAMP試験】

昔、ビリーザブートキャンプというのがありましたが、皆さんはしましたか?
かなりのカロリーを消費する運動だと思います。
さて、CAMPはβリジンという毒素が作用する際に、cAMPを産生する菌であれば溶血性が増強する相乗作用を確認するための検査です。
培養検査をしているとたまにCAMPが見られることがあり感動します。

Gbss_aureus_camp 培地上に発育したGBSとS. aureus。CAMPテスト陽性になっている。

次回は寒天物語(寒天培地の発明と内助の功 前編)です。

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2018年3月16日 (金)

培地物語(血液寒天培地 前編)  血液は何でも良いのか?

個人的に培地に拘りを持ちながら仕事をしています。

・培地には寒天が含まれますが、その辺のお店で売っている寒天とは一味も二味も違います。
・血液寒天にはヒツジ血液を使うことが多いですが、六甲山牧場のヒツジから採取された血液では菌の発育は良くありません。
・グラム陰性桿菌の分離培地ですが、関西はマッコンキー寒天培地、関東はBTB乳糖加寒天培地の流通が多いと言われます。
余談ですが、BTB白糖培地というものがあるので、BTB培地もしくはBTB寒天培地というのは厳密には誤りで、ドリガルスキー変法とか加えるのが良いです。

E_aerogenes 関西に多いマッコンキー寒天培地(E. aerogenes)
E_cloacae 関東に多いBTB乳糖加寒天培地(ドリガルスキー変法培地)(E. aerogenes)
要するに寒天培地は、患者にベストなものを使用してこその寒天培地であり、価格も大切ですが成分や製造方法に加えて、寒天や血液など基礎培地の組成が大切です。
例えば、上述しましたが血液寒天の血液にはヒツジの血液を多く用います。寒天培地用の血液にはヒツジの他にはウマやウサギを使いますが、ウサギは少量しか採取できないこと、心臓から直接血液採取を行い培地にすることなど手間が掛かります。ウマは飼育代が高いので培地も高いのでしょうね。


2

有名なものに、Haemophilusの発育性がありますが、Haemophilusは栄養要求も厳しい細菌で、一般的にはヒツジ血液寒天には生えません。ヒツジは生えませんが、ウマやウサギの血液には発育します。そのため、ヒツジ血液寒天を使うっている施設では、Haemophilusの検出目的に、血液を加温して変色させたチョコレート寒天培地を用いることになります。茶色なのは加温により溶血しヘモグロビンが変色するためで、溶血によりNADやヘミンといった産物が培地中に含まれるようになるためHaemophilusは発育します。チョコレートのような色ですが、カカオやチョコレートが入っているものではありません。

20170819_220259 去年の研修会で作ったチョコレートで作った培地。S. aureusっぽいです。

Haemophilusと同じく、Nutritionally variant streptococci(NVS)も通常血液寒天培地に生えないので、確認用にS.aureusを植えて、周囲に発育する様を確認します。周囲に生えるので衛星現象と言います。Haemophilusでも同様の現象が見られます。
2 NVSは真ん中にS. aureusを塗ると周囲に微小コロニーが発育します。

チョコレート寒天培地はHaemphilus以外では使わないのか?と思われるでしょうが、Neisseria gonorrhoaeやNeisseria meningitisはチョコレート寒天培地がキーになるので、材料ごとに使う培地を検査室で分けています。通常、泌尿器材料には用いないところも多いので、oral sexに起因するHaemophilusによる尿道炎や精巣上体炎の検出目的で尿を出しますが、目的菌を伝えないと永久に菌の検出はできなくなります。
20130820_1743472 20130820_174428

血液寒天培地とチョコレート寒天培地上の髄膜炎菌のコロニー。莢膜産生するのでキレイなムコイド様(光沢あり)になりますが、両者は微妙に違います。
同定が難しい菌種(質量分析装置でも間違えます)であり、結果を急ぐ菌になるので是非コロニーを覚えてください。
さて、ヒツジ血液を用いる理由は安くて大量に採取できるからですが、日本で使用しているヒツジ血液寒天培地の多くは、オーストラリアやニュージーランドで血液寒天培地専用の牧場で飼われたヒツジから採取され輸入してきます。日本にもヒツジがいると思いますが、六甲山牧場牧場のような栄養要求が高い食餌をしているヒツジの場合は血液中のコレステロール値が高いため発育が悪くなり、微生物検査には向きません。
専用の牧場で飼われたヒツジであるがこそ、安定した血液が供給されるわけです。そのため食餌の影響を大きく受けるので、日本では冬に輸入する血液は発育性が良く、夏に輸入する血液は発育性が落ちることがあります。南半球は日本と逆の気候なので、日本が冬でも向こうは夏になるので、牧草の状態も良く元気な血液が多く輸入されています。枯れ草を多く食べている日本が夏のヒツジ血液は少し元気が無いようです。

血液の質が少し落ちた場合は、培地の製法をコントロールして発育性が落ちないようにメーカーでは対応してくれています。ユーザーの皆様が不自由が無いようにメーカーで製品管理をしてくれているので、冷蔵輸送されますが1枚1枚温かみを感じて欲しいと思います。
1
Photo B社の拘り抜いた主な血液寒天培地

血液寒天培地の基礎培地にペプトンを使いますが、コストの安いトリプトソイ(マメ科のペプトン)なのか、本来のペプトンであるブレインハートインフュージョン(ウシ心臓浸出液由来のペプトン)で発育性やコロニーの色なども大きく違います。ミューラーヒントン血液培地はブレインハートインフュージョンが基礎培地になりますが、たまに間違ってミューラーヒントン血液寒天培地に塗ってしまうと翌日のコロニーは大きく違うことになっています。

そのため、血液寒天培地はメーカー間差があり、発育しないで良い菌が発育するようになっていたり、逆に発育できなかったりするので、適当には決めてはいけません。何を目的にして、どの培地にするのかは微生物検査技師の手腕に関わってきます。
次回は寒天培地がどうしてできたかの話をします。

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2018年3月14日 (水)

第30回日本臨床微生物学会総会・学術集会のお知らせ

長らく更新が出来ていません。もはや月刊誌となっております。

FB版はショートのコメントを多くしていますので、また見てください。

https://www.facebook.com/GramStainGym/

時たま、くだらないポスターなども作成していますのでご覧ください。

手洗いの励行
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抗菌薬を絞るためにグラム染色をしましょう
Photo_2

ところで、総会の話ですが、
来年の2月1日(金)~3日(日)に、ヒルトン東京お台場とホテル日航東京台場で第30回日本臨床微生物学会総会・学術集会が東邦大学医学部微生物・感染症学講座の舘田一博教授が総会長で開催されます。

学会ホームページが出来ましたので皆様にお知らせします。

https://www.societyinfo.jp/jscm2019/

スマホ版もあるようですね。

今回のテーマは「求められる責任とプライド -日本臨床微生物学会30年の歩みの中で-」としています。

今回で第30回になり、30年前の学会設立当時を知っている方が少なくなっている中で、もう一度あの時の思いを振り返り次の30年のさらなる発展に繋げたいという思いがテーマです。

特別講演としては、米国インディアナ大学のKaren Bush先生をお招きして、「β-lactamase: Past, Present and Future(仮題)」としてご講演をいただく予定です。あのβ-ラクタマーゼの研究で有名な先生です。

他にも
・「30周年特別企画 “日本臨床微生物学会 30年の思い、30年への期待」
・「地域対抗一般演題賞争奪戦」
・「臨床微生物学アトラス 臨床微生物学の軌跡/奇跡 ―真実を見逃さない目・経験―」をCD版として配布

など企画が目白押しです。

会員の方は勿論のこと、非会員の方にも魅力のある企画となると思いますのでご参加ください。

私も色々とお手伝いさせて頂く予定ですので、どうぞ宜しくお願いします。

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