喀痰のRejection Criteriaについて
ある雑誌の企画でRejection Criteriaについて書く機会があったのでまとめましたが、日本にの検査室において「Rejection Criteria」が遵守されているところはどのくらいあるのでしょうか?
そもそも、検査室がRejection Criteriaを説明できないことは無いでしょうか。
AMRアクションプランの中で抗菌薬適正使用について各方面からプランが出ていますが、検査に関しては具体的な紹介があまりありません。
・医師は診断精度を上げて抗菌薬が不要な疾患には処方をしないように配慮する。
・薬剤師は処方薬について適切に行えるように活動する。
というプランが出てきました。
検査については、血液培養2セット採取をはじめとした検査に適した材料を採取できるように対応することが抗菌薬適正使用ガイダンスに書かれています。
検査に適した材料で代表的なものとして「喀痰」がありますが、喀痰は採取する際に上気道を通過するので、口腔内常在菌の汚染が避けられません。グラム染色所見で口腔内常在菌なのか、肺炎の起炎菌なのか、菌だけで区別することは困難です。
検査に適切な喀痰かどうかを判断するために、喀痰の品質評価があり、医師も臨床検査技師も国家試験で出題されるといった当たり前の内容になっています。
顕微鏡下で喀痰の材料品質管理を行う場合、多核白血球が多く、扁平上皮が少ない喀痰が良いとされています。品質管理が良く、そこに見えた菌であれば肺炎の起炎菌の可能性が高いと判断できますが、品質が悪い場合に見られる菌は口腔内常在菌の可能性が高いと判断できます。
つまり、多核白血球が殆ど見当たらなく、扁平上皮が多数見える喀痰を培養すると翌日口腔内常在菌が多数発育するだけで、肺炎であっても肺炎の起炎菌は検出されていないか、されていてもどれが起炎菌かわかりにくくなります。喀痰培養の意義が低くなってしまいます。そんな喀痰でMRSAが出ればVCM、緑膿菌が出ればTAZ/PIPCやMEPMが投与される訳で、結果的に治れば良いのでしょうが、起炎菌で無いのに標的治療をしても常在菌叢を荒らすだけでメリットは少ないと考えることができます。
喀痰のRejection Criteriaはどういうものでしょうか?
1.1日に複数回採取された喀痰
2.顕微鏡下で不適切と判断された喀痰(多核白血球が無く、扁平上皮のみ)。
3.蓄痰
4.外観上唾液と判断できる喀痰
5.鼻腔分泌物や、鼻汁、咽頭粘液を綿棒で採取されたものを喀痰として代用された場合
6.口腔内細菌が多量に混入した喀痰を嫌気培養目的で提出された場合
などあります。
特に2と4については皆さん良く遭遇するでしょうが、検査開始していますか?
当院では4.の場合は採り直しをお願いしていますので、M&Jの分類でM1は常に5%以下を維持してます。皆さんの病院ではM1は何%ほどありますか?
採り直し、もしくはRejectしていますか?
採り直しをお願いするときも、一重にダメというものでは無く腰を低くしてお願いをします。
採り直しをお願いするときも、一重にダメというものでは無く腰を低くしてお願いをします。
・「先ほど提出して頂いた喀痰を確認しましたが、唾液のみで痰成分が見当たりません。申し訳ありませんが、再採取をお願いしても宜しいでしょうか?」
・「顕微鏡で確認しましたが、扁平上皮多数で下気道から採取されたもので無いので、肺炎であれば肺炎の起炎菌を特定することは困難です。再採取をご検討ください。」
・「大変恐縮ですが、喀痰採取が困難であれば吸引して痰を採取して貰えないでしょうか?」
・「(患者さんには)ちゃんとした結果がでないかもしれないので、お手数ですが再度採って頂けないでしょうか?」
など。
こういっても高圧的に、例えば「検査のプロなんだろ?じゃあ、唾液でもちゃんと結果を出してよね。」と罵られることもあると聞きます。
そう言われると、「診断のプロなんだから痰から出たViridans Streptococcusやコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、非病原性ナイセリア属、Candidaの結果をしっかりと診断に反映してくださいね。」と言いたいくらいです。
言い合いしても患者さんには何のメリットはありません。
診断をより確実にするため、抗菌薬を適切に使用するため、無駄な医療費を使わないようにするため、価値の引く検査で時間を消費しないようにするため・・・、AMR対策を行う上でRejection Criteriaをしっかりと提唱していくことは大切と思います。検査室の一方的な発信では無く、医師や看護師、薬剤師も理解しやすい内容で対策を進めていく必要があります。
薬剤師も処方内容を適切なものへと変更するコメントをしているので、臨床検査技師もしっかりと材料採取についてコメントしても良いのでは無いでしょうか。
| 固定リンク
「背景など病態把握」カテゴリの記事
- 喀痰のRejection Criteriaについて(2017.12.26)
- そうです、ただ見るだけでは無いんです(2017.04.18)
- 喀痰グラム染色を斬る その2 肺膿瘍とグラム染色像(2017.03.01)
- 喀痰グラム染色を斬る その1(2017.01.25)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント