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2017年6月 2日 (金)

これは重症肺炎か? その2

先日の続きです。
これは重症肺炎か? その1 http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/post-8a8a.html

肺炎球菌が単一で多く出ているので、喀痰グラム染色所見だけ見ていると「あ、状態悪いんかな?」って思ってしまいがちです。

肺炎もそうですが、起炎菌らしきものが出ているが、それが起炎菌として扱うのか?また、重症感があるのか?、放置すれば致死的ダメージを受けるのか?など喀痰グラム染色だけでは十分に分かりません。

確かに生来健康な30代男性の肺炎と、80代男性でコントロールできていない糖尿病を基礎疾患に持ち血小板数が5.0万/μLの患者とは大きな違いがあると思います。

「木を見て森を見ず」という故事がありますが、まさに検査室だけで見ていると患者さんがあたかも重症であると見間違えてしましそうです。

検査室でもその見えた肺炎球菌の報告がどれだけ有用かはカルテを読みながら、医師と話をしながら考えていくことが必要だと思います。じゃ、何を見るかです。少し整理していきましょう。

1.そもそも肺炎なのか?
そもそも、見えた菌が肺炎を起こしているのかどうかです。
肺炎は肺炎のリスクを抱えた患者で成立します。例えば、粘膜障害があるのか、誤嚥のリスクが高いのか、免疫状態はどうかなどです。肺炎球菌は上気道に常在する肺炎球菌が肺胞まで落ち込み、肺炎を発症することが知られています。そのため、誤嚥のリスクの高い患者さんで、粘膜障害を伴う場合には肺炎になりやすいことが知られています(インフルエンザ罹患後の高齢者肺炎など)。また、莢膜を形成するので脾臓が無いなど液性免疫が低下している患者さんに多くなります。胸部Xpに陰影が無い肺炎がどの程度存在するか、呼吸数の増加や痰の出現、呼吸音、血圧や発熱などのバイタルサインなど肺炎に特徴的な症状が伴っているのかなどの情報を入手することが大切です。
先日の症例では、糖尿病治療中で、気道症状があり、左背部下肺でcoarse crackleを認め、胸部Xpにて左下肺野にすりガラス影あり、喀痰が出ているので肺炎の可能性はあります。

2.重症なのか?
重症度分類には色々なスコアを用いて客観的に肺炎の重症度を評価できるものがあります。A-DROPやCURB-65などを良く見かけます。

1)A-DROP
年齢とBUN、SpO2、意識障害、血圧を組み合わせて評価する方法です。呼吸器病学会の成人市中肺炎のガイドラインでも紹介されています。http://asunorinsho.aichi-hkn.jp/wp-content/uploads/2015/08/2007_1901_061.pdf

・男性70歳以上、女性75歳以上
・BUN 21mg/ml以上、または脱水がある
・SpO2 90%以下(PaO2 60torr以下)
・意識障害あり
・血圧(収縮期) 90mmHg以下
上記の1項目があれば1点加算する方法で、最大5点。

・男性70歳以上、女性75歳以上        ○
・BUN 21mg/ml以上、または脱水がある  ☓
・SpO2 90%以下(PaO2 60torr以下)   ☓
・意識障害あり                  ☓
・血圧(収縮期) 90mmHg以下        ☓

先日の症例では、1点となり、肺炎であれば外来加療となります。死亡率がかなり低いので外来治療を推奨するとのこと。

2)CURB-65
Curculation、Urea、Respiratory rate(呼吸数)、Blood pressure(血圧)および65歳以上が指標になります。先日の症例についてA-DROPと同じように考えると。

・Curculation;意識障害や見当識障害がある       ☓
・Urea;BUN>7mmol/L                     ☓
・呼吸数;≧30回/分                      ☓
・血圧(収縮期);<90mmHg、または拡張期≦60mmHg ☓
・年齢;65歳以上                                                   ○

1点のGroup1となり、自宅治療か外来治療かになります。

3.その菌は肺炎を起こす菌なのか?
肺炎球菌は市中肺炎の原因菌で最も多い起炎菌ですので、膿性痰で白血球有意、グラム陽性双球菌で莢膜が見られた場合は肺炎球菌MAXですので、そういう場合は肺炎の原因菌として可能性もMAXなので、コメントに付記しましょう。出来れば推定菌としてグラム染色所見にコメントを加えましょう。

莢膜は抜けて見えるものばかりではなく、菌体周囲が赤いものがあります。

Photo

それは翌日ムコイドタイプの肺炎球菌が発育します。肺炎球菌は自己融解を起こします。自己融解酵素は人体に有害であり、肺炎を悪化させたり菌の増殖能力を高めます。そのため、翌日培養で確認されない場合、菌量が十分に採取できないことも多く、グラム染色所見で肺炎球菌の確認ができたことを伝えるのは大切と思っています。

4.今後治療はどうなるのか?
治療期間は通常の健常成人の場合は解熱後3日間、菌血症がある場合は10~14日間必要です。また、髄膜炎があれば更に長くなるし、基礎疾患によって内容が変わることがあります。

肺炎球菌はペニシリンが第一選択です。また、β-ラクタマーゼを産生しません。そのため、確定(推定)診断時にはSBTやTAZといったβ-ラクタマーゼ阻害薬は不必要です。
ただし、empricに投与する抗生剤を選択する場合は混合感染にも十分注意が必要です。例えば、インフルエンザ後の肺炎で肺炎球菌は多いですが、S. aureusも多いことが知られています。S. aureusは肺炎球菌とは異なり、β-ラクタマーゼ産生菌があります。そういう場合はSBTやTAZの効果は期待できます。肺炎球菌とは違いますが、H. influenzaeが共感染を起こすことがあります。こういう情報は微生物検査室にあります。感受性検査結果や耐性機序の説明については微生物検査室が率先して行わなければいけません。

Nhcap2肺炎球菌とH. influenzaeの共感染

結局、架空のこの症例は肺炎球菌による肺炎で、菌は沢山見えましたが、重症では無く外来加療できると判断され、AMPCの処方となりました。ただし、PKPD理論ではTime above MIC(TAM)が40%を超える投与量が必要です。日本のAMPCは250mgが主体、そのためCVA/AMPC(375mg:CVA125mgとAMPC250mg)を追加して、AMPC量を1回500mgまで増やし、なおかつ3回投与/日(腎機能正常時)をすることが大切です。そうするとTAMは40%以上となり、肺炎の治療には十分外来で対応できる量となります。こういう話は薬剤師さんとすると本当に勉強になります。

direct smearだけではCVAを外すことが困難なこともありますが、培養結果で肺炎球菌単独であればCVAは無く、AMPC500mgを1日3回服用でも十分に対応できます。

たまに、臨床検査技師はそこまで関与しなくても良いのでは無いか?と言われることがありますが、AMRを行う上で臨床検査技師の役割は十分にあり、関与をしていく必要があると考えます。グラム染色は安くて大きなパフォーマンスを生む検査です。頑張ってやっていきましょう。

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