喀痰グラム染色を斬る その2 肺膿瘍とグラム染色像
既に月刊誌のようになっています。更新が大変遅くなり申し訳ありません。
さて、喀痰グラム染色を斬るシリーズの第二弾で、今回は肺膿瘍とグラム染色の話をします。
肺膿瘍も肺炎の診断同様に喀痰培養を行うことが診断には必要になります。
ただし、肺炎と肺膿瘍の違いについて理解しながらグラム染色所見を見ていく必要があるのですが、そんなこと教科書に載っていないし、学校や卒後教育でも教えてくれません。
そういった規格外の説明を今回させて頂きますので、「それはちゃうやろ」という方はどんどん意見をください。
【病気の説明】
①肺炎:本来は肺実質(肺胞)の炎症ですが、小葉間や気管支周囲の結合組織が炎症を起こしている状態を指します。
②肺膿瘍:肺実質が炎症で破壊され膿瘍形成を起こしている状態。多くが空洞形成を起こし中心部に膿が溜った状態である。
③膿胸:肺実質以外(主に胸腔内)で膿瘍形成を起こしている状態。
①~③とも呼吸器症状を呈するため喀痰が診断のために必要な検査になるが、②や③は嫌気性菌が多く絡むために嫌気培養を行う必要がある。
【肺膿瘍の成因】
肺膿瘍の成因はいくつかある。
①肺炎が長期化したり、壊死を伴う微生物(黄色ブドウ球菌など)による感染することで起こる。
②慢性の誤嚥性肺炎、気管支拡張症があり壊死を伴う微生物がある場合や異物や気道分泌物による閉塞が起こる場合、肺がんなど悪性腫瘍に伴う閉塞が起こる場合(閉塞性肺炎)。
③肺嚢胞や肺がん、肺抗酸菌症に続発する病巣への重感染の場合。
④消化管や口腔などに原病巣が存在し、そこから血行播種し、肺に膿瘍形成を起こす場合。
Klebsiella、S. aureusのように嫌気性菌で無くても、壊死を起こし感染する場合は単一菌で成立するが、肺膿瘍は口腔内細菌が関与した複数菌感染が多くなる、
嫌気性菌が繁殖する場合は、肺は通常酸素を交換する臓器のため酸素も多い臓器であるが、壊死や膿瘍形成により酸素需要が悪くなる場合は嫌気性菌が数的優位になったり、②については閉塞によりドレナージ機能が低下するために、菌が繁殖しやすい条件が整い膿瘍化が促進する。そのため通常の肺炎に比べて重症化し、難治性のことがある。
つまり、肺膿瘍の成因によって原因微生物も異なるのでグラム染色所見で確認する菌種も異なる。
例1)Klebsiellaの肝膿瘍後に肺膿瘍を起こすと喀痰グラム染色ではKlebsiellaが多く見える
例2)誤嚥性肺炎に続発した肺膿瘍の場合は喀痰グラム染色所見では多菌種確認されることが多い
つまり、喀痰が診断のために検査に出てくるが、喀痰は直接感染部位に行き採取していないし、出口は一つなので、どういう病態が起こっているのか情報が無ければ、喀痰グラム染色所見から推測するしかない。
【肺膿瘍の病理】
肺膿瘍内には好中球とマクロファージが混在し、フィブリンと炎症性変化を起こした周囲組織が混在する。特に好中球は新旧のものが存在し、核が明瞭なも(上記の例3)のから不明瞭がもの(上記の例1)まで混在するものがある。膿瘍が多くなると壊死物質や滲出液が増大し、空洞形成がある場合は内部に鏡面構造(ニボー)が確認できる。
【肺膿瘍のグラム染色所見】
肺炎と肺膿瘍のグラム染色像で区別できるか?という疑問がある。
肺膿瘍は肺炎より重篤な病態であるため、胸部画像で判断できない場合でも喀痰グラム染色像で区別が出来れば、それはそれとして良いに違いない。
こういうのは肺膿瘍の可能性があるので当院では肺膿瘍疑うとコメントすることある。
①フィブリン物質が多く見える(背景は赤みの強い像である)
②嫌気性菌(特にGPCならS. anginosus groupを想起させる小さい不染性菌、GNRならFusobacteriumを想起させる紡錘状の染色性の悪い桿菌)が多数あり、貪食像もある。
③複数菌の貪食が多く確認される。
④扁平上皮が殆ど見当たらない。
②③はand/or条件である。
最終的には肺膿瘍の成因や画像で疾病の分類をすることが前提であるが、肺の異常陰影の原因が肺膿瘍を疑うのであれば付加価値の高い情報であると思う。
| 固定リンク
「背景など病態把握」カテゴリの記事
- 喀痰のRejection Criteriaについて(2017.12.26)
- そうです、ただ見るだけでは無いんです(2017.04.18)
- 喀痰グラム染色を斬る その2 肺膿瘍とグラム染色像(2017.03.01)
- 喀痰グラム染色を斬る その1(2017.01.25)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント