« 来週は臨床微生物学会総会・学術集会(長崎) | トップページ | 喀痰グラム染色を斬る その2 肺膿瘍とグラム染色像 »

2017年1月25日 (水)

喀痰グラム染色を斬る その1

第28回臨床微生物学会総会・学術集会に参加された皆様お疲れ様でした。
最新の知見が一同に集まる学会ですので、そろそろ帰って聞いてきたことを実践に向けて動き出したのでは無いでしょうか。

学会では、ロビー活動でグラム染色論について色々な方に話をさせて頂きました。病態をどう捉えてグラム染色像をどう考えるのか。また、それを医師にどう報告するのか。

やはり、微生物検査技師ですので単純にグラム陽性球菌が見えましたでは無く、
グラム陽性球菌でクラスター形成が強く黄色ブドウ球菌を疑います。周囲には白血球も多く炎症の原因となっている可能性があります

というようにしたいものです。

Mssa5 組織からのS. aureus

喀痰グラム染色は本当に奥が深く、ボリュームが多いため色々な場所で話をさせて頂きますが時間切れで伝わらないことが多いので、少し書いていきます。

1.肺炎とは?

肺炎は肺の炎症を表した病態であり、症状や画像所見から臨床診断により行われます。大きく細菌性肺炎と非定型肺炎があり、細菌性肺炎の多くはグラム染色所見で確認ができます。また、肺炎は起きた場所により市中肺炎と院内肺炎とに分かれ、発生要因や微生物の種類も特徴があります。そのため、どこで発生した肺炎で、どういった微生物による感染を示唆するのかを想定しながらグラム染色のオーダーをする必要があります

Vapctrx2 緑膿菌の肺炎は院内肺炎に多いですが、稀に市中肺炎を起こします。

2.肺炎の類型分類と喀痰グラム染色

肺炎は肺胞腔に感染するものと、間質に感染するものがあります。肺胞腔に感染するものは大葉性肺炎のように葉単位の肺炎と、気管支走行に沿って起こる気管支肺炎があります。

大葉性肺炎の起炎菌は肺炎球菌が最も有名ですが、クレブシエラやレジオネラも大葉性肺炎を起こす菌の一つです。気管支肺炎が悪化して深部にまで進むと大葉性肺炎に見えることもあり、緑膿菌で大葉性肺炎を起こすこともあります。

肺胞腔に感染を起こした場合には腔内にフィブリンが充満し、コーン孔やランバート管を通じて炎症が波及し、フィブリン塊べっとりのスメアが確認できます。そのため、血液培養でも容易に検出されることになります。

2 フィブリン塊が増える肺炎球菌のグラム染色像

気管支肺炎はインフルエンザ菌やモラクセラ・カタラーリス、緑膿菌、黄色ブドウ球菌などが有名です。市中感染ではインフルエンザ菌が有名で、COPDではインフルエンザ菌やモラクセラ・カタラーリス、院内肺炎や気管支拡張症では緑膿菌、インフルエンザ罹患後や敗血症、慢性誤嚥に関連して黄色ブドウ球菌による肺炎が問題になります。

Photo インフルエンザ菌の場合は周囲は赤みが弱く菌が散在します。

気管支肺炎の場合は組織傷害の程度にもよりますが、通常はフィブリン形成は少なく、スリガラスのようなスメアが確認できます。

気管支は気管支壁が肺胞に比べて分厚いために大きな傷害が起きない限り、血液が混在した喀痰は出ないので、黄白色の膿性痰であることが多い。ただし、緑膿菌は長期間気管支壁に傷害を起こすためフィブリン形成が多くなり、黄色ブドウ球菌は壊死を伴うのでフィブリン形成が多くなることがあります。

Vapmssa 黄色ブドウ球菌の肺炎は背景が赤くなる

喀痰グラム染色を見る場合には、主治医からのコメントもそうですが、肺炎の類型や起きた場所、起炎菌、および背景の滲出物や白血球の多さなど類推しながら見始めると良いでしょう。出来れば、胸部X線像との照合や症状をカルテから読み取り、主治医の考えを取り込むと良いでしょう。

次回は肺膿瘍とグラム染色について取り上げます。

|

« 来週は臨床微生物学会総会・学術集会(長崎) | トップページ | 喀痰グラム染色を斬る その2 肺膿瘍とグラム染色像 »

背景など病態把握」カテゴリの記事

コメント

久々にコメントを書かせていただきます。いつも本当に勉強になります、ありがとうございます。

どこで発生した肺炎で、どういった微生物による感染を示唆するのか、想定したうえでオーダーされる場合は、かなり限られると思います(抗酸菌等は別ですが)。とりあえず呼吸器症状があるから、とりあえず影があるから、とりあえず呼吸器内科にかかっているから等々で質のよろしくない喀痰が提出される場合が多いのが現状です。その中から、いかにより重要な検体を拾いあげるか、面倒くさがらずにカルテを見に行くかが大事だと思っています。

検鏡の際、
先生がおっしゃる「肺炎の類型や起きた場所、起炎菌、および背景の滲出物などの類推」
が出来ているかと問われれば、なかなか「Yes」と言えないのが恥ずかしいところです。背景の赤みやフィブリン塊のことは、まさにこのブログで学んだことですし、もっとひとつひとつの検体に真剣に向き合わないと、とこのブログを拝読する度に思います。

投稿: Kei | 2017年2月 1日 (水) 20時59分

Kei様 いつもお世話になっています。

とりあえず肺炎の診断のみならず喀痰が検査材料になる疾患は多くあります。
喀痰の成因について考えて検査を提出する人は居ないと思いますが、喀痰ができるには理由があるのでその成因と背景に出てくる微生物を系統立てて見ていくことが必要です。

投稿: 師範手前 | 2017年2月28日 (火) 20時46分

この記事へのコメントは終了しました。

« 来週は臨床微生物学会総会・学術集会(長崎) | トップページ | 喀痰グラム染色を斬る その2 肺膿瘍とグラム染色像 »