先日、平成28年度日臨技中四国支部学会でお話する機会を頂きました。
高知は1年ぶり。前回は院内感染対策の話をさせて頂いたので、グラム染色の話をするのは久しぶりです。また、中四国支部では先月の始めに研修会をしたこともあり、グラム染色の話は沢山させて頂きました。
今回はダイジェストで中四国支部学会の内容をご紹介します。
古くて新しい検査として注目度の高いグラム染色は不適切な抗菌薬使用を出来る限り少なくしようという人は欠かすことのできない検査と思います。もうグラム染色無しでは怖くて抗菌薬を選べないという人も多いと思います。しかし、グラム染色なんて感度が鈍いし、感受性はわからないし、そもそも菌種推定なんかできやしないしと考えている人もあるかもしれませんが、髄膜炎の場合は感度がどうあればグラム染色所見は重宝する検査の一つです。
このブログを始めたころは菌種推定なんかは危険だからしない方が良いという人も居ましたが、今はそういう時代ではありません。数々の迅速検査が出てきましたが、まだピンポイントに抗原が当たらないと検出できないものが多いのですが、グラム染色はそうではありません。抗原、つまり菌種が複数でも一度に確認ができるので、混合感染の場合は有用なことがあります。
また、白血球や滲出液の確認を通じて病態との繋ぎ合わせも出来るので、出てきた菌の臨床的意義について考えることができるのです。
一般的に細菌検査報告書は文字や数値の羅列が多く、書いていることを深読みしない限り内容が十分把握できません。いわば、「萌えない」のである。
前述したようにグラム染色所見は菌と白血球、滲出液、細胞を通じてスライドガラス表面で病態を表現しいるので、顕微鏡越しに患者さんと会話をすることができます。これが「萌える」検査です。萌える報告書は内容を詳しく書いた方が良いですが、今の検査システムのインフラの影響も大きくそういうスペースは全くないのが現状です。なのでカルテに書くしかありません。カルテに書く場合は複数人が閲覧することもあり恥ずかしい文章は書けないし、皆が分かるような内容で無いといけません。報告書の例は以下の通りですが、書かなくても医師からグラム染色所見の問い合わせを貰った場合には少し病態と合わせて丁寧に話をすることが必要です。
染色所見
喀痰で肺炎球菌が確認された場合の報告例
肺炎の場合は胸部X線を撮影し診療情報としますが、部位の特定はできるが菌種の推定は困難です。また、グラム染色は菌種推定はできますが、部位の特定は困難です。要は胸部X線所見とグラム染色所見の融合を図れば良いのですが、微生物検査技師には胸部X線所見の読影は困難なことがあります。では、病態との繋ぎ合わせができないのか? ではなく、繋げてあげれば良いわけです。
例えば、肺炎の起炎菌は感染する細胞が異なります。そのため大葉性肺炎や気管支肺炎といった肺炎のパターンが異なります。大葉性肺炎は肺胞腔内に感染を起こし細胞の障害度が強く、フィブリンが多量に産生します。そのため、喀痰グラム染色所見は赤みが強いものが増えます。赤みが強い場合は組織の障害度との関連性があり、大葉性肺炎以外でも組織破壊が強い壊死性肺炎(黄色ブドウ球菌の気管支肺炎に続発します)、緑膿菌肺炎、肺結核、肺真菌症なども同様の赤みが見えますので、見えるだろう菌種を予め想定しながら見ていくことができます。肺真菌症や肺結核では菌があまり見えませんので、主に赤い場合は肺炎球菌か黄色ブドウ球菌、緑膿菌を中心に見ていくことになります。緑膿菌については市中肺炎は少ないので患者背景を絞り込むことで更に絞り込むことが可能です。
一方、気管支は分厚い臓器なのでそうそう組織障害はなく、ムコ多糖類と白血球中心の喀痰となるので膿性痰の割にはグラム染色所見の背景は桃色でスリガラス状に見えてくることが多いです。この場合はインフルエンザ菌を探します。マイコプラズマ肺炎も気管支肺炎ですが、菌は染まらないので確認は出来ません。逆に言えば菌が見えない気管支肺炎はマイコプラズマ肺炎を疑えるのかもしれません。
出来ないのであれば可能にする。診断に近い有用な情報提供を心掛ける。
特に、グラム染色所見の解釈は難解です。毎日見ている検査室はその解釈を診断に繋げる必要があります。
今後、微生物検査も自動化が進みますので時間に余裕ができると思います。
グラム染色の鏡検時間を多くしていきプライマリーケアの充実に寄与したいところですね。
時代を切り開いてくれたこの方々のようにこれから考えていきたいです。
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