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2016年8月26日 (金)

医学生も微生物検査室に行こう

先日、定期的に参加している外部のカンファレンスで一つ提案を頂きました。


「医学生も微生物検査室に行って欲しいけど、中々説明が上手くいかず重要性について理解してくれない学生が多い。何を学習できるか教えて欲しい。」
医学生を経験していない私なので少しズレているかもしれませんが、息子の意見も参考に自分なりに考えてみた。

1.微生物の検出をするのは微生物検査室である
病原微生物の検出をすることは、感染症の原因微生物を特定することです。ここで言葉として出てくるのが臨床微生物学と感染症学の2つです。少し整理してみることにする。

①臨床微生物学とは
感染症の診断のために必要な検査とその治療方針の決定で、起因微生物を特定し、感受性検査を参考に治療方針を開発する学問。英語ではClinical Microbiologyである。

②感染症学とは
臨床微生物学とは画線を引いた、あくまでも病原微生物により引く起こされる患者の病態解析とその診断および治療法についての学問のこと。あまりキレイに書かれているものがありません。英語ではInfectious Diseaseである。

日本ではこの2つが同じような意味を持つように解釈される場面があるが、①は検査診断学で②は診断学なので意味が違う。

そのためか、感染症の診断=病原微生物の検出 という感覚で感染症診療に望んでいる若い医師を見る機会が多いが、病原微生物の検出は診察室や病室でしているのでは無く、検査室で行っていることを忘れて欲しくないと思っています。当院では研修医ローテーションで微生物検査室が選択できることもあり、実際ローテートで回ってきた研修医には感染症診断というより、臨床微生物学を中心に感染症診療について説明をする。

何度も言いますが、病原微生物の検出は診察室や病室でしているのでは無く、検査室で行っているため、医学生も微生物検査室に訪問して病原微生物に触れることで、微生物検出のためのプロセス、感受性検査の解釈、耐性菌など最新の情報について知ることができる。

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2.医学生の教育と実際の臨床現場のニーズ
日本の医学部教育は臓器別に行い、臓器横断的な内容に乏しい。そのため、臨床現場に直接参加できる体制づくりができていないため、学生自らが課題を持ち学生生活を送らなければ、初期研修医時には系統的な感染症診断を行うだけの力がついていることは無く、微生物検査室と疎遠であれば、ほぼ永久的に良質な感染症診療を行うことは無いのであろう。そのため臨床感染症を学ぶために感染症専門医の門戸を叩き、感染症診療の原則に基づいた修練を展開していく中で、微生物検査に触れる機会も多くなる。
やはり感染症学と臨床微生物学は切っても切れない存在だと思う。

参考文献)大曲貴夫:感染症診療における検査室の役割(モダンメディア)
3.プロセスを知ることができる分かる。
微生物検査は生化学や血液検査とは違い機械化が進んでいない。また微生物の増殖に影響を受けるため結果が日単位で進む。そのため今診断し、治療方針を決定する上で結果が出ていないことは大きな障害となる。

今分かることは材料から直接グラム染色をして主たる微生物を確認し、それに応じた抗生剤を絞り込むことが必要である。同定・感受性には3日ほど時間がかかるが、最終同定までにはある程度起炎菌は絞り込めることがある。例えば緑膿菌と腸内細菌(例えばKlebsiella)は同じ陰性桿菌であるが、形態も培地上のコロニー性状も全くことなるので、初期治療選択の翌日に緑膿菌に活性の無い抗生剤で開始していた場合は翌日修正できる。初期治療薬の絞込みや途中経過を知り選択した抗生剤の妥当性について検討することは患者の予後にも繋がる上に、広域抗菌薬の乱用を防ぐこともできる。

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4.効率を求めるアメリカとそうでない日本
アメリカの医療は効率を期待することが大きく、これは医療費が膨大になることを防ぐ理由の一つでもある。診療のみならず微生物検査についても同じで、材料の質が悪い検査は行わないことがある。また、グラム染色は臨床検査技師の特権であり、他職種は法的な理由がありすることが出来ない。

日本はどうか。そこまで効率を極める検査は行われていない。検査材料については来るものを拒まず行い、唾液から出たMRSAをVCMで治療するという行為は日常的に良くある。グラム染色は臨床検査技師のみならず、医師や初期研修医、薬剤師なども行うことができ、実際診療に活かしていることも見かける。

しかし、最近の日本の医療ではDPCの導入など効率化についても言及される場面も多くなってきている。そのため微生物検査の位置づけは重要である。

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グラム染色では抗生剤を絞ることなんて難しいでしょう?と未だに思っている学生も多いでしょうし、そもそもグラム染色を使い初期治療をより確実なものにできると教育を受けている2年生や3年生は殆どいないと思う。

学生でもグラム染色はできるが、技術習得には環境を自ら整える必要がある。染色操作や顕微鏡の観察方法などもそうであるが、学生の間に微生物検査室を訪問し、スキルを高めておくことは将来の診療に大きな財産となるに違いない。

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医学生の皆様へ、5年生と6年生で病院研修を行う時は微生物検査室も是非研修に行ってください。勉強がんばって。

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2016年8月11日 (木)

喀痰グラム染色はここまで分かることがある

当院でグラム染色至急と言えば、喀痰と尿と関節液。

それぞれ採取してから30分以内を目処に報告をしています。

喀痰グラム染色所見は抗生剤の選択をする上で重要ですが、当院では病態も含めてコメントをすることがあります。

例えば、2週間ほど咳が止まらないという主訴で来院する患者ですが、痰切れが悪いということがわかり喀痰グラム染色のオーダーがあります。

「喀痰グラム染色所見を見て頂きたいのですが・・・」という依頼でやってきますが、所見として見る点は以下のとおりです。

①喀痰として適切に採取されているものかどうかの判断。
②①であれば多核白血球が多いかどうか。
③②の時には白血球の種類と量(どれが多いか)、核が明瞭か否か(不明瞭な場合は古いことを示します)。
④多核白血球優位の場合は微生物が居るかいないか確認する。微生物の確認があれば優位な微生物についてコメントをする。

例えば下記の場合はこのように言います。
「多核白血球が優位にあり、グラム陽性双球菌があり肺炎球菌を疑います。一部莢膜形成もありますので間違い無いと思います。貪食像は少なめですが見られます。」

→肺炎球菌性肺炎を示唆する所見としてコメントします。

4 喀痰1000倍

オーソドックスですが、的確なコメント内容だと思います。
しかし、菌が見えない場合はどうしましょう?

咳や痰が出るので出す場合がありますが、下記の場合はどうしましょう?

2 3 喀痰1000倍

このスメアから分かるのは、多核白血球は少ないが存在すること、フィブリン糸のような線状うの物質に絡みあうようにすりガラス状の粘液糸が確認される。上皮でも線毛上皮が多く見られ、マイコプラズマ肺炎のような異型肺炎を疑います。多くがマクロライドやテトラサイクリンの投与が検討されます。

CLINICAL MICROBIOLOGY REVIEWS, Oct. 2004, p. 697–728

この場合は粘液糸とフィブリン糸の交錯がポイントになります。
また、このようなスメアはどうしましょう?

今度は白血球はありますし、線毛上皮や粘液糸はありますが、フィブリン糸はありません。

これは気管支喘息の悪化に伴う像です。慢性炎症に出てくるマクロファージも見えます。少しマイコプラズマ肺炎とは異なる像です。

Photo_3 2_3 1000倍

また、気管支喘息の場合は肺実質に炎症所見が無いことがあり、胸部X線はキレイなことが多いと思いますので、マイコプラズマ肺炎じゃないと予想は付きます。こういう場合は抗生剤処方を一時見合わせて経過をみていくようです。

このようにグラム染色で病態把握をすることでより診断に近いものになります。

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