秋田にて
7月23日の土曜日は秋田県臨床検査技師会でお話させて頂きました。
7月23日の土曜日は秋田県臨床検査技師会でお話させて頂きました。
皆様、この1ヶ月間お休みしておりました。
更新が無いのでブログ愛好家が減ってしまいそうです。
皆様、今後とも宜しくお願いします。
今日は、先日研究会で報告させて頂いた内容について紹介します。
血液培養が陽性になり、グラム染色をするとグラム陽性球菌でクラスター形成が確認された。推定菌はStaphylococcusですが、気になるのがMRSAですよね。
☓1000(血液培養)
血液培養陽性時の処理は以下のような行程です。
血液培養陽性→サブカルチャー(寒天培地に分離)→18時間培養→コロニー形成→同定・感受性開始→18時間→結果判定
になります。既に血液培養陽性になるまでに18時間程度掛かるので、血液培養採取して結果が得られるまでは54時間程度かかります。
通常はグラム染色所見での介入、培養での中間報告、同定感受性検査結果報告時の3箇所で介入を行いますが、PCRを用いた場合は殆どの症例でグラム染色+mecAの結果の1箇所のみで介入が終了します。
じゃあ、最初からMRSAを想定して何でもかでもMEPM+VCMでカバーするのは理にかなっているかもしれませんが、なんだかしっくりいきませね。
だったら、血液培養陽性後直ぐにS. aureusかコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)かくらい分けれんもんかな?と思いますが、最近では質量分析機器を用いた菌種同定も病院検査室に導入が進んできて1時間程度で同定ができるようになりました。しかし、うちもその一つなのですが、かなりの高額機器なので導入できていないところが多いです。早く欲しい。
質量分析機器が無くても、グラム染色所見だけでS. aureusかCNSか分けることも可能な場合があります。
・バクテアラートを使用:感度89%、特異度98%(J Clin Pathol 2004;57:199–20)
・バックテックを使用:陽性予測値は 90%,陽性尤度比 11.4(感染症学雑誌 2008,82:656-657)
まあ、90%程度は判断ができそうです。
しかし、S. aureusと分かっても肝心のMRSAかどうか分からないですよね。
S. aureusだし、コンタミネーションの可能性も少ないし、MRSA考えて一先ずはCEZ+VCMを使用してみようか?という風になりますかね。
通常、感受性をすると丸2日掛かりますが、早めに感受性結果が分からないものか?
→血液培養液を使って感受性を直接することも出来ますが、感受性をするにしても、そこから1日は掛かるので明日まではCEZ+VCMを入れることになります。感受性判明時にはCEZかVCMのどちらかが無駄になってしまいますが背に腹は代えられない状況です。
長くなりましたが、今回は、この状況でmecA(MRSAの耐性遺伝子)を調べて治療薬の選択を早期に検討を行えば、どの程度処方に影響が出てくるか、コスト面を中心に考えてみました。mecAと同時にS. aureusの判定も同時に可能なPCRを用いました。
PCRにかかる時間はたったの35分。血液培養のグラム染色をしてから1時間程度でMRSAかどうかの判定は可能です。
血液培養でS. aureusが検出された20例を対象としました。2例はコンタミネーションとなったので、最終的には18例となりました。MRSAは6例、MSSAは12例です。
・MRSA6例のうち5例はβラクタムが初期治療で使用されていた。
・MSSA12例のうち1例で抗MRSA薬を使用していた。
つまり、初期治療後から血液培養陽性後のPCR検査結果まで18例中の6例で不必要な抗生剤が投与されていたことになります。まあ、最初からMRSAが出ると思って、最初からVCMも投与すること無いので当然の結果と思います。
当院は血液培養を採取したら夜間・休日を問わず検査室に送り培養を開始しますので、血液培養採取から陽性までの平均時間は15時間です。そこから処方薬の検討が行われるまで少し時間がかかります(陽性確認から報告・介入までの平均時間は2時間)ので、その間に不適切な抗生剤にかかるコストはMRSA1例あたり2700円程度、MSSA1例あたり451円でした。初期治療でβ-ラクタムを処方する機会が多いのでMRSAの場合は全て不適切になってしまいますね。
そしてS. aureusと判明したのでCEZ+VCMに変更すると過程して
①同定・感受性が終わるまでCEZ+VCMを併用する
②その場でmecAを調べてCEZもしくはVCMのどちらか選択をする
この①と②を比較するとmecAを測定した方が37万円コストが下る(MRSAの場合は1人あたり4000円、MSSAの場合は1名当たり32000円のコスト削減)結果となりました。
mecAをすることで適切な抗生剤を早期に選択できることに加えて、余分な抗生剤処方を減らすことが図れました。
ちなみに追加でCNSも10例検討していたので、グラム染色を用いてのS. auresかCNSかの鑑別は感度99%、特異度100%となりました。S. aureusで1例でmiss readingがありました。個人的にはMALDI-TOF MSから頂いた、眼LDI-TOFということで高い検査技術の提供ができました。
PCRはCNSでも行っていますが、CNSと判明した時点でコンタミネーションの判断が早くできたので処方されずに経過観察で済んだ症例は半分以上ありました。ここでも余分な処方薬を減らすことができました。
結局、血液培養ではStaphylococcusが確認された場合は、グラム染色をしてS. aureusかどうかの菌種推定するのと、mecA遺伝子の測定をしてMRSAかどうかの確認をすることで十分に対応ができそうに感じました。菌種同定のみでは処方薬の変更は難しい局面も出てくるでしょうね。
しかし、質量分析機器を使うことで推定では無く、確定菌種を報告できることは大きなメリットであり、今は入っていませんが、もし導入が進めば検討してコストの計算をしていこうと思います。
さらに詳しい結果は、何らかの形で報告させて頂く予定です。
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