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2016年3月29日 (火)

血管留置カテーテルの微生物検査について

カテーテル関連血流感染の診断検査について話を良く伺うので、当院の方法も含め紹介がてらまとめてみました。少し長いですがご了承ください。

自分自身でも少し把握できていないところもあるので間違いなどあればご指摘ください。

1. カテーテル培養検査の目的
血管内留置カテーテルに関連した血流感染を疑う場合に提出することで原因微生物の特定ができることに加え、敗血症性血栓性静脈炎や感染性心内膜炎を含めた二次性に発生する感染症の管理をする。

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2. カテーテル関連血流感染の原因微生物
S. aureus、Enterococcus、Candida、緑膿菌、腸内細菌群およびコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)やCorynebacteriumといった皮膚常在菌を構成する微生物。特に、CNSやCorynebacteriumについてはカテーテルを抜去までは分からないことが多い。血液腫瘍内科の患者ではBacillusのカテーテル関連血流感染の報告もあり、まとめるとグラム陽性菌が主体で、非発酵グラム陰性桿菌や腸内細菌群が多く検出される。
原因微生物によって合併症のリスクおよび治療期間が変わりますので微生物の検出は非常に大切です。

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3. カテーテルの培養検査方法
定性検査、半定量検査と定量検査がある。定量検査は超音波法と超音波しない方法の2つがある。

(1) カテーテルの提出
① カテーテルからの逆血と末梢血を2セット採取する。
② 抜去するカテーテル刺入部をアルコール消毒し、カテーテルを抜く。
③ 抜いた後は環境汚染を防ぎ、滅菌されたハサミでカテーテル先端より2-3インチ(5cmほど)切り培養提出する。
④ 提出後に検査室は素早く検査を開始する。
⑤ これはダメな検査(rejection criteria):尿道留置カテーテル先端培養、生食への浸漬や輸送培地への接種したカテーテル、発熱や白血球増多等の炎症所見を認めない場合(俗に言う抜去記念培養)、VPシャントや髄腔内のカテーテル先端。

(2) カテーテルの培養検査
1) 定性検査
名前の通り、カテーテル先端をそのまま液体培地に漬けておく方法。カテーテル内部とカテーテル外部に付着している菌が増殖する。簡単な方法であり検査は容易であるが、菌の多い少ないに関係無く発育するのでコンタミネーションの区別が困難。

2) 半定量検査
①ロールプレート法(Makiの方法)
IDSAのガイドラインでも記載のある方法。カテーテル先端を寒天培地の上に転がし(4回転以上)、翌日以降発育したコロニー数をカウントして診断に用いる。しかしローリングする方法なので外壁に付着したものを中心に検出ができ、内腔の菌は発育しにくい。陽性率はさほど高くない(Makiの論文では10%しかない)。

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カットオフは15コロニーであるが、S. pyogenesやCandida、グラム陰性桿菌は15コロニー以下でも起炎菌の優位とみなし同定を行う。感受性に関しては検査室だけでコンタミネーションと判断は難しいので全てで行うのが望ましい。100コロニーまでは数え、それ以上は数えない。
培地は血液寒天培地(殆どの微生物が発育可能)を用い、必要に応じて(どういう場合なんでしょうかね?)マッコンキー培地(グラム陰性桿菌用の培地)も加える。通常5%炭酸ガス条件下で4日間培養を行う。マラセチアを疑う場合は血液寒天培地にオリーブオイル(脂質好性)を加えて発育促進させる。中枢神経まで挿入しているものは14日間培養しP. acnesのような弱毒菌も見逃さないようにする。

実際行われていない施設が多いが以外に簡単である。検査可能かどうか検査部と相談してください。カテーテルの提出方法を事前に詰めておかないと検査室が困る(長過ぎて検査ができないなど)起こり得るので必ず開始する場合は綿密な打ち合わせが欲しい。

②変法Makiの方法
①のMakiの方法を一部改良した方法。Makiの方法で内腔感染(閉塞)を検出しにくいのを改良した方法。ロールプレート実施後に生食に浸漬し、ボルテックスをかけて遠心する。沈渣に液体培地を加えて定性も行う。
当院はこの方法でしている。さらには沈渣の塗抹を見てグラム染色所見も返しています。

3) 定量法
① 量法(Cleri法)
カテーテル先端に2mlの液体培地を入れて遠心後(ボルテックス後?)の沈渣に新しく2-10mlの液体培地を入れる。その液体を100倍希釈し0.1mlを血液寒天培地に接種する。37℃(好気のみ)で培養し72時間後にコロニー数をカウントする。
10の3乗以上を優位な微生物として扱う。

②超音波法
結構手間がかかるが、超音波法は半定量法に比べて20%以上感度が上がるとの報告あり。
カテーテル先端に10mlの液体培地を注ぎ、55000Hzで1分間超音波を掛ける。その後15秒間ボルテックスを行い、そのうちの0.1mlを9.9mlの生食(100倍)に混和し、100μLを血液寒天培地に接種する。

・10の2乗以上でカテーテル感染を疑う
・10の4乗以上で発育多数とする。
・ルーメンが異なる場合はコロニー数の差が3.6倍以上あればそのルーメンが感染源になる。
定量法は感度は良いが、カットオフ値以下である場合は感染症が見過ごされる可能性がある。

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4) DTP(differential time to positivity)法
血液培養の時間差法。血液培養の陽性時間を基にカテーテル感染を診断する方法
カテーテルから採取した血液培養の方が、末梢血から採取した血液培養に比べ2時間以上早い場合に優位な結果になる。

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注意点として、血液培養採取時にどちらから採取したものか明確化する(ボトルに書くなど)、採血後は直ぐに培養機器に設置する、陽性時間が判定できるように培養機器や検査システム上で把握できるようにするのがポイント。

カテーテルの留置期間が長い場合は感度は高くなるが、特異度は下がるので診断時に留置期間を参考にした方が良い。

マルチルーメンの場合は全てのルーメンから血液培養を採取しなければカテーテル関連血流感染を見逃す可能性があるという報告もある。

見逃す割合はダブルルーメンでは27%、トリプルルーメンでは37%となり、結構血液の採取量が増えますよね。こういう場合は好気ボトルのみで良いように思いますが、ブドウ球菌の場合は嫌気ボトルの方が検出感度が高いという報告もあり悩みます。

4. まとめ(私個人の感想です)
結局のところ感度はDTPが良く、カテーテル先端培養は特異度が良いため、DTPに加えてカテーテル先端培養を行うのが良い。カテーテル先端培養は手間と判断基準も考えると半定量法でも良いと思うが、内腔感染を考えた場合は変法Maki法を採用する方が良さそう。沈渣はグラム染色も使えるので培養を待たなくても検出される微生物が大凡判断可能かもしれない。
PICCに関しても同じことが言えるかはまた調べます。
CVポートの場合はポート部の逆血を採取し沈渣をグラム染色で確認することも可能です。

カテーテル関連血流感染は非常に怖いので日常的に起こした場合には直ぐに対処できるように、最近では看護師さんの協力を得て、可視静脈炎スコア(Visual Infusion Phlebitis Score: VIP スコア)スコアを付けるようにしています。
VIPスコア:http://www.vipscore.net/…/upl…/2014/04/VIPscore-Japanese.pdf

参考文献
1. Mediterr J Hematol Infect Dis. 2012; 4(1): e2012004
2. Medicine (Baltimore). 2009 Sep;88(5):279-83.
3. Clinical Microbiology Procedure Manual 3rd edition
4. Ann Inten Med 2004.140,18-25
5. Clin Infect Dis 2010 15;50:1575-9
6. Clin Infect Dis. (2013)doi: 10.1093/cid/cit278

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コメント

いつも大変勉強になります。
大変恥ずかしい話、当院では定性検査しか行われていないのが実情です。先生がご指摘されているように、検体提出の方法が統一されていない(長い短いがある、記念培養のオンパレード・・・)ことが原因で、現在報告している結果が、どう診療・治療に生かされているのか疑問を感じます。

先日、DPT法を取り入れてみようか、という話が今頃になって出て参りました。感染制御部の先生だけではなく、いかに臨床医・看護師の先生方のご理解とご協力を得られるかが重要と考えます。これを機に、カテーテル先端の検査そのものを見直すことに繋がれば、とも思っております。

投稿: Kei | 2016年4月 8日 (金) 07時57分

Kei様

コメントありがとうございます。
カテーテル感染診断のための検査は結構みなさん適当にしてきた分野だと思います。がん診療が進んでいくにつれこの検査の意義は今後もっと出てくるものと思います。
検査室も積極的に関与しなければなりませんね。

投稿: 師範手前 | 2016年4月13日 (水) 19時29分

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