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2015年10月26日 (月)

南九州感染症寺子屋にお邪魔しました 35年ぶりの鹿児島

24日は鹿児島でお話する機会を頂きました。

話をさせて頂いた会は「南九州感染症寺子屋」という会で年3回開催しているそうです。
今回の私で第6回目になりますので一回りしたことになります。

以前から、ネット越しですがこの会はレベルの高い研究会であることを知っていましたので自分の内容が受入れられるか心配でした。

私は「微生物検査を深読みする」という内容で話をさせて頂きました。

微生物検査は感染症診療の中で非常に重要なポジションにあるものと思っていますが、実際検査室ではどのような過程を経て結果が出てくるのか? 微生物検査を担当している臨床検査技師はどのように考えながら結果を導いているのか説明していきました。
最近、当院の研修医にも話する機会が増えました。どうして感染症診療が難しく思うのかについて下記の内容を説明しています。

①平常状態に戻すために治療を行うため、疾患名が決まればそれに見合った治療法が選択される。しかし、感染症は疾患と治療の間に微生物が介在するため治療方針の決定をより複雑化させている。

2 画にするとこんな感じかな

②表面上見えない疾患もあり、疾患に応じた検査法が決められているが実際に検査を提出する内容が見えてこない。

③適当に検査を出して、抗生剤を処方して何となく治っている機会が多いため、治らない場合には考察が甘くなり悩む。

などなど。

要はこういう症状があれば、こういう疾患を想定して、こういう検査を出して、病原微生物別に適切な抗生剤を処方し、正しい治療経過を辿り治る。というのが理想的でしょうが。これは非常に高度な技術習得であり、学生時代にかなり興味を持って微生物に触れ合わないと難しいでしょう。ましてや、微生物の検査なんて臨床検査技師以外はやる機会が少ないので覚えるのは一苦労でしょう。

オーベンに「発熱の原因調べて、感染症なら抗生剤でも処方しておいてよ」と言われ焦る研修医は多いと思います。

Crw0wxouyaecug3 こんな感じでしょうか
4 でも特定できれば治療法が見つかります

微生物検査は疾患別に検査をしているのでは無く材料別に検査をしているので、疾患名または目的とする微生物をコメントすることで効果的に対応ができるものです。

例えば、Legionella肺炎を疑った場合に何も情報無く喀痰を出してもLegionellaとは帰ってきません。Legionellaを検出する場合にはB-CYEやWYOなどの特殊な培地が必要になり、しかも雑菌処理を行わないといけないので目的菌をコメントしないとスルーされてしまいます。「この菌を目的にしているのに、返ってこないよなあ!?」と思ったことないでしょうか。

6

逆に目的菌をコメントしているが、全然違う菌が検出された時などはCritical dataに近いものがありますので検査した甲斐があると思います。

しかし、結果が1週間後に帰ってきても、あまり嬉しくないでしょう。感染症の殆どが急性疾患なので、今日や明日も待てない症例は多いと思います。微生物は血液検査とは異なり、対象は微生物(つまり生き物)になるので、微生物の増殖スピードに依存しているため時間がどうしても必要です。そのため今抗生剤を絞りたいという人は是非グラム染色をしてみましょう。

3 臨床現場ではこんな感じでしょうか?それはないかも。
1 だいたい早いものでこのスピードで結果がわかります

結核菌などは発育がもっと遅いのでPCR検査など有効に活用される検査です。

でも結構職人芸だったりしますので経験年数に結果が左右されたりもします。熟練の技を見たい場合は微生物検査室に行ってみてください。できれば体験することもお勧めします。微生物を特定することは感染症診療に必要です。分からないことは微生物検査に研修しましょう。

当日は
1.ルンバールをしたCampylobacter腸炎
2.Campylobacterの心筋炎
3.潰瘍性大腸炎からListeria髄膜炎
の症例を紹介させて貰いました。

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3_2 当院では希望する研修医には微生物検査を体験させています。

鹿児島は生涯2度目でした。桜島は昔も今も変わらない姿で私を出迎えてくれました。
Photo 朝焼けの桜島

Photo_2 研究会の皆様と一緒に写真撮影(私の写真が載るのは珍しいです)

Photo_3 皆さん非常に活発で、アイスブレイクの人間レンサ球菌には驚きました

2_2 懇親会も盛り上がりました。天文館って場所でしました

Photo_4 大分では指原莉乃が沢山いましたが、鹿児島は柏木由紀が沢山いました。

鹿児島市立のN先生初め、皆さん温かく迎えて頂きありがとうございました。
また機会があれば違うネタ仕込んで行きます。

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2015年10月 5日 (月)

喀痰中の血液由来細胞報告の臨床的意義

 皆さんお久ぶりです。更新が遅延しております。

 秋の学会シーズンですね。また、感染症関連の抄録締め切りの嵐が来ております。
皆さんは如何でしょうか。

 さて、先日ある遺伝子検査機器メーカーの勉強会に参加してきました。色々と技術革新があり、最近は前処理が自動であるものや増幅にかかる時間短縮したものまで揃ってきましたね。まだ、一般病院の検査室の導入率は低いですが、感染症診断のためのツールが増えることは非常い良いことだと思います。発展させて導入実績を上げて機器や試薬コストを下げて、もっと患者のためになりたいと思いました。

中で呼吸器感染症の遺伝子診断の話がありまして興味深く聞かせて頂きました。丁度、質疑応答の中でコメントをさせて頂く機会もありましたので、その内容について今回は書かせて頂こうかと思います。

 「喀痰中の白血球の種類を分けることで肺炎の原因微生物の推測にどう活用するのか?」という命題を頂いたのでコメントさせて頂きました。今回はその内容+αです。
結果的にみれば、ある程度可能と思います。

1.細菌性肺炎

 細菌性肺炎の場合は多核白血球(主に好中球)が多数確認されることが多くなります。なので好中球が多数確認される場合には原因微生物は一般細菌と推測できることが多いです。

①肺炎球菌性肺炎

Photo S. pneumoniaeの大葉性肺炎

 肺炎球菌の場合は特にフィブリンの析出が多くなり、背景は赤味の強いグラム染色像であることが多い。

②インフルエンザ菌による肺炎

2_2 H, influenzaeの気管支肺炎

 インフルエンザ菌の肺炎は気管支肺炎が主体になるので、炎症細胞としての多核白血球(主に好中球)が多く見られますが、粘液主体であり、背景は刷りガラス様のピンク色のグラム染色像になることが多い。

③黄色ブドウ球菌による肺炎

Mrsavap2S. aureusの気管支肺炎

 黄色ブドウ球菌の場合は毒素によるフィブリン析出が多く、また化膿性病変が強いため、肺炎球菌性肺炎の様な赤味の強い背景になることが多い。
黄色ブドウ球菌による肺炎の場合は血行性か経気管的な肺炎かで少し像も変わりますので注意が必要です。

2.非定形肺炎

 主に細胞内寄生性微生物(レジオネラ菌、マイコプラズマ、クラミジア、ウイルス)による感染になるために多核白血球(主に好中球)の出現は少なく、リンパ球やマクロファージの数が多くなる。
3 M. pneumoniaeの気管支肺炎

 マイコプラズマ肺炎では気管支繊毛上皮が多く見られることがあり、細菌性の気管支肺炎との鑑別に役立つことがある。グラム染色では血球由来細胞か上皮かの鑑別が難しいこともあり、ギムザ染色(ディフクイックもあり)を使うことで鑑別しやすくなる。

5 L. pneumophilaの大葉性肺炎

 大葉性肺炎でもマクロファージ優位であるのと、フィブリンの析出が少ない。レジオネラ肺炎の場合はリンパ球の動員も少なくなり空洞形成をしにくいのもこれが理由です。

③番外編
以下のような解釈もできます。感染か非感染かの鑑別に役立つこともあります。

3 好中球減少時のP. aeruginosaによる肺炎

 好中球減少時に急性炎症が起きると白血球が殆ど見えないが、菌が沢山見えることがあります。日和見感染の菌が見えることが多くグラム陰性桿菌を探すようにします。あまりに急激で好中球の動員が遅れる時もこのような像になります。

2 心不全性で出現したマクロファージ

 心不全ではマクロファージが増えることがあります。菌が見えなくマクロファージが沢山ある場合は心臓の機能も参考にしてグラム染色を確認することが必要です。

Photo 肺結核で出現した白血球の色々

 細胞内寄生性微生物と慢性の肺疾患のためマクロファージも多く見られます。また多核白血球(主に好中球)も散在しているため、抗生剤未投与にも関わらず白血球が多い場合は抗酸菌やノカルジアをを探しましょう。

 当然ながら見えた菌を推測することも併せて必要です。グラム染色は修練を積むことで色々なことが分かりますね。

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