血液培養液のグラム染色で複数菌が確認される場合の対応
血液培養ネタが続きます。悪しからず。
血液培養は菌血症を証明するために最も重要な培養です。
当院は約500床の病院で、血液培養は年間約6000件(2セットは1件とみなします)対応しています。年間で約500件陽性者が出て対応をしておりますので毎日1人は陽性者の対応をしています。
血液培養に関して色々なインジケータを算出しておりますが、30日後の粗死亡率は約5%とかなり低い値を推移しており、血液培養陽性者への介入が良好なのが何となく自慢です。
血液培養陽性者の中でも重症度が高い患者の傾向として、S. aureusやS. pyogenesのようなフォーカスが掴みづらい外毒素産生菌、グラム陰性桿菌による薬剤耐性菌と複数菌検出者があります。皆さんの病院は如何でしょうか?
複数菌が検出される患者には悪性腫瘍患者が多く含まれますが、抗ガン化学療法中に発生する患者に多く見られます。中でも血液悪性腫瘍の抗ガン化学療法患者(多くが発熱性好中球減少症患者)の検出菌は腸内細菌科細菌+グラム陽性球菌の組み合わせが多く、グラム陽性球菌はViridans group Streptococcus、Streptococcus bovisやEnterococcusといったCFPMの抗菌力がやや劣る菌種が混じります。もちろん、発熱性好中球減少症患者だから複数菌というのもありますが、大腸菌やViridans group Streptococcusによる単一菌が検出される患者も多い状況です。
(J Antimicrob Chemother 2013; 68: 1881–1888)
(MEDICINE 65:4:218-225)
(J Antimicrob Chemother 2013; 68: 1881–1888)
(MEDICINE 65:4:218-225)
この検出菌から把握できる患者の病態は、好中球減少が著しいことに加えて、口腔や消化管粘膜障害があり、そこから菌が侵入している可能性が非常に高いことです。こう、複数菌がグラム染色所見で確認されて報告する場合は口内炎が無いか、下痢が起こっていないかをカルテ上で確認しコメントをすると良いと思います。
「血液培養から複数菌が検出されています。グラム陽性球菌は連鎖状で長く、形態的にViridans group Streptococcusを疑います。カルテ上で口内炎と記載がありますが、そこから侵入した可能性はございますか?、またグラム陰性桿菌が確認され、形態より腸内細菌科細菌が疑われ・・・」というコメントを当院ではしています。抗生剤について聞かれることもありますので、その場合は感受性結果の予測値(MICの分布や感受性率など)や起こしやすい合併症、時には用法用量なども加えてコメントし、今後の治療方針を決定する上での検討材料として加えたりしています。


血液腫瘍を基礎疾患に持つ患者で複数菌の検出率は4.4%(2001~2014年のデータ)と非常に少数ではありますが、30日後の粗死亡率は42.8%と、トータルの血液腫瘍患者での30日後の粗死亡率の28.4%に比べるとかなり高率になっています。やはりコントロールが難しい血流感染の一つになりますので、結果報告のスピードはかなり気にしながら行うことになります。当院では血液培養陽性例は提出後にできるだけ早く報告をするようにしてますが、現在のところ感受性までの報告を3日以内に達成できているのは約90%となっています。どうしても分離が難しい菌や複数菌の分離に手間取っている場合には時間がかかりますので、その場合はグラム染色所見で推定菌情報を多く流すように心がけています。
当院でグラム染色結果で抗生剤を変更または追加する症例はどれくらいあるのか調べましたが、全体の34.2%と、質量分析機器を用いた報告の13.38%(Clin Microbiol Infect 2013; 19: E568–E581)に比べるとかなり高い数値になっており、当院ではグラム染色による迅速な結果報告は重要な検査情報となっています。質量分析機器は未だありませんが、導入するとなれば更なる成果が期待できるのでは無いかと思っています(ちなみに当院のグラム染色での推定菌正審率は93.1%)。少しでも適切な治療に貢献したいと思います。
| 固定リンク
「背景など病態把握」カテゴリの記事
- 喀痰のRejection Criteriaについて(2017.12.26)
- そうです、ただ見るだけでは無いんです(2017.04.18)
- 喀痰グラム染色を斬る その2 肺膿瘍とグラム染色像(2017.03.01)
- 喀痰グラム染色を斬る その1(2017.01.25)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
一年前の記事へのコメント失礼します。
教えていただきたいのですが、
グラム染色の一致率が93.1%とありますがこれはどの程度までの一致でしょうか。
例えばGPC、GNRまでか。
GPCの中でもブドウ球菌か連鎖球菌か。
ブドウ球菌の中でもMRSAかMSSAかCNSか。
GNRでは腸内細菌かブドウ糖非発酵菌かなど。
どこまで推定しての一致率でしょうか。
現在血液培養のグラム染色をできるだけ詳細に伝えようとはしていますがどの程度一致していたかまでは調査していなかったので、確認のために一致率を出そうと考えていました。
お手数ですが教えていただけますでしょうか。
長文になり申し訳ありません。よろしくお願い致します。
投稿: 山田 | 2016年12月21日 (水) 22時28分
山田様 コメントありがとうございます。
さて、一致率ですが当院では下記のようにしています。
GPCの場合は属レベルを指標にしています。
連鎖状球菌の場合はStreptococcusなのか、Enterococcusなのか、NVSなのか区別しています。Streptococcusの場合は溶連菌かViridansかも区別の対象にしています。
ぶどう状球菌場合はS. aureusかCNSかを区別しています。これは別にとっていまして、95%で区別できています。
GNRの場合は腸内細菌かぶどう糖非発酵菌かを区別しています。
あと、Candidaの場合は菌種を区別しています。
一致率は検査精度の指標として大事なので大切ですね。
宜しいでしょうか。
投稿: 師範手前 | 2016年12月23日 (金) 16時36分
返信ありがとうございます。
ブドウ球菌のS.aureusとCNSとの区別に関しては過去の論文で好気嫌気共に陽性になったものを集計していたのでそれも参考にしてみます。
ムコイド肺炎球菌が1例あったのですが、グラム染色では陰性球菌に見えたのがありました。染め直しても陰性に染まり形態がまん丸でしたのでその時は肺炎球菌なんて全く考えもしませんでした。しかし、過去の血培の写真を見ていた時にムコイド肺炎球菌と記載されたまん丸の球菌の写真が出てきて自分の記憶力にがっかりしました。ムコイド肺炎球菌がまん丸に見えたというのを思い出せば陰性に染まっていても今回のももしかしたら肺炎球菌の可能性も・・・と考えられたかもしれません。
自身の検査精度の向上のためにも一つ一つを意識して、しっかり継続して集計していきたいと思います。
投稿: 山田 | 2016年12月24日 (土) 12時02分