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2015年5月26日 (火)

今だから多い小児の細菌性髄膜炎でののGBS(S. agalactiae)について

久々の投稿です。皆さん心配をおかけしてすいません。師範手前は健在ですのでご安心ください。

本ブログでのコメントは出来ていませんがFacebook上では簡単にコメントしておりますので機会があれば閲覧下さい。アドレスは本ブログの左下からリンクしております(または検索してください)。

さて、細菌性髄膜炎では感染症の中でも重症疾患の中の一つであり微生物検査の結果も予後に大きく反映するものです。そのため髄液グラム染色は非常に重要な検査の一つです。細菌性髄膜炎は発生患者の年齢によっても起炎菌は異なるため、年齢要素は起炎菌を絞る上でも重要です。特に5歳以下の小児では肺炎球菌やインフルエンザ菌(特にb型のHib)が大きなウエイトをしめてきました。

しかし数年前から肺炎球菌にしても、Hibにしても定期予防接種が開始されたこともあり、小児の細菌性髄膜炎の発生数は激減してました。中でもHibの髄膜炎は本当に見る機会が少なくなりました。肺炎球菌による髄膜炎はちらほら耳にしますが、これは肺炎球菌は莢膜の型を限定したワクチンのため、その型に該当しない血清型を持つ肺炎球菌が沢山あるからです。たまに侵襲性肺炎球菌感染症と診断された患者さんへワクチン接種についてアセスメントすることがありますが、「今回罹患したのでワクチンはしても無駄じゃないですか?」と返答を受けることがあり、血清型について説明する機会があります。同じワクチンでも菌種が変われば少し考え方も変わります。

ワクチンについての解説はここが分かりやすいです。

ヒブ・肺炎球菌ワクチンの接種に伴うサーベイランスの必要性について
ところでワクチンの定期接種が開始され、5歳以下の小児ではどういった細菌による髄膜炎が多いでしょうか。検索をすると厚労省の報告書があり少し紹介します。

2013年1月から12月までの調査では
・Hib髄膜炎  2例
・肺炎球菌性髄膜炎 13例
・GBS(S. agalactiae)髄膜炎 11例
となっています。
前述したように肺炎球菌は血清型が多様化しているので単一菌種ではGBSが5歳以下の細菌性髄膜炎で最も多くなります。
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GBS(Group B Streptococcus)の略称で、β溶連菌の一種。
溶連菌と言えばS. pyogenes(A群溶連菌)を連想させ、GBSと言えばギランバレー症候群を連想させますので、しっかりと菌名提示はしましょう。

血液寒天上には淡い溶血環をもった白色の集落を形成しますが、菌によってはオレンジから黄色に色づくことがあります。

Gbs_2 血液寒天培地上のGBS
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皆さんご存知の通り、GBS髄膜炎は産道感染で重要な髄膜炎で新生児髄膜炎の主要な菌の一つです。発生時期により早発性(生後6日目まで)と遅発性(生後7日目以降)に分かれ、早発性は垂直(産道)感染由来、遅発性は水平(接触)感染由来と言われています。

GBSは有効なワクチンがありませんので、小児の感染予防は周産期の母体の管理や、出産後の接触感染予防などしか有効な手段はありません。

つまりGBSの髄膜炎は有効なワクチン開発が進み、接種をおこなっていかなければある一定の人口で発生してしますのです。

そうすれば診断を早くすることが必要です。診断を早くする場合にはグラム染色もそうですが、迅速診断検査が役に立ちます。最近では肺炎球菌はイムノクロマト法による診断が可能になりましたがGBSはそれがありません。そのため、別の検査キットが必要になります。

髄膜炎の起炎菌を調べるためにラテックス凝集法によるものがあります。肺炎球菌、Hibに加えて、GBS、E. coli(K1)、髄膜炎菌(A、B、C、Y/W135)が同時に検出可能です。
昔は常備していたところも多かったですが最近は少なくなってしまったようです。

Photo 髄膜炎迅速ラテックス検査

こんな髄液が出たら悠長に培養結果は待ってられません。

Photo_2 混濁した髄液

髄膜炎を診断して1時間も経たない間に抗生剤加療を開始しなければなりませんのでグラム染色は本当に重要なミッションです。

Gbs600 髄液から検出されたGBS

これだけではGBSかどうか判断しきれないことがあるのでラテックス凝集による迅速検査が大きな結果を生むことになります。

血液培養では翌日GBSが陽性となってきますが、少し対応が遅れてしまいます。

Gbs2_2 血液培養からのGBS

10年以上前からGBSの症例研究もしていますが、詳しくしていくとGBSも血清型がⅠa、Ⅰb、Ⅱ~Ⅷ型と9種類あります。髄膜炎が多いのはⅠb型とⅢ型。Ⅰb型で日本に多いST型はCC10(ST10が多い)ようですので、さらに加えて精査していくと色々なことが分かるかもしれません。こういった重症感染症はしっかり疫学解析をしてデータを蓄積していく必要は高く、そのためには微生物検査がしっかりとフォローしていく必要があると思っています。


細菌性髄膜炎は個人的に微生物検査に大きく興味をもった疾患でもあり数年従事していますが、今でも髄膜炎症例は無くなることはありません。臨床検査技師ですので出来る限りのフォローをしていきたいと思います。「がんばれ!俺」、「ガンバレ!私」

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コメント

師範様

妊婦のGBS検索、今から10年前先進的な婦人科の先生からご指導があり、今では当たり前に培養をしていますが、昔師範様も増菌培養方法と、記憶が確かではありませんが、当院でも児は少なくなく産児されますが、逆にGBSで髄膜炎になる神経疾患を患う児を数年来経験ありません。

逆にE.coliなどの、基礎疾患の児、経験は多くあります、髄膜炎を考えたら黄色ブドウ球菌も気になりますが大腸菌の存在は気になります。

この5年間で、グラム染色・その他染色保険点数上がりましたね・・・・師範様
の想いはつながったように思いますね

投稿: 倉敷太郎 | 2015年5月29日 (金) 22時03分

病院の特性でしょうか、細菌性髄膜炎の症例は年に数例あるかないかです。だからこそ、見逃しや報告の遅れは絶対に許されないと思っています。亡くなる可能性もある疾患ですし。

先生のおっしゃるように、ラテックス凝集キットはルーチンでは使用しなくなりました。私が就職した頃からそうでしたが、もしものときに力を発揮することは間違いありませんので、再検討すべきか、と本ブログを拝読し考えさせられました。

投稿: Kei | 2015年5月31日 (日) 12時58分

Kei先生

>病院の特性でしょうか、細菌性髄膜炎の症例は年に数例あるかないかです。だからこそ、見逃しや報告の遅れは絶対に許されないと思っています。亡くなる可能性もある疾患ですし。

現在は当院も、児の迅速ラテックス検査、昔は当たり前のようにリコール検査を行っていましたが、羊水検査をグラム染色で少しでも溶連菌を疑っても血清学的検査はまでは実施していません。

大変重要な検査だったと思っています、カバーはグラム染色が基本重要と考えます、羊水などでも鏡検で確認できるシステムはぜひ必要と考えています。もちろん増菌培養まではしていませんが、GBS暴露の可能性は除外できるようなルーチンなど工夫は必要と思います。

投稿: 倉敷太郎 | 2015年6月 1日 (月) 21時41分

GBS関しては、特に濁った羊水は日々提出されてきてグラム染色と合わせて嫌気性菌検索は平均日に2例程度あり検査しています、当院産児多いです。

GBS陽性の妊婦に対して現在当院ではユナシンを出産と同時に投与されています。

ですから児のGBS陰性結果が多いのは見当つきますが、しかし必ず鼻、臍、外耳および羊水からも陰性を培養確認していますがしかし、少なからす陽性の児は必ずいます。

どのような検出努力しても、どこかで多分予限界は知っていたいと思います。

児のバイタルに敏感な小児科医にいつも頭が下がる思いです。

MRSA,E,coli・・・ESBLsなんかも出ますから色々です、現場は。

投稿: 倉敷太郎 | 2015年6月 2日 (火) 22時06分

倉敷太郎様

陽性の児でも実際感染症を起こしているのは非常に少ないので問題になることは少ないと思います。しかし新生児GBSに関しては非常に重篤になりますので、早く対応するしかありませんね。
当院ではSBT/ABPCでは無く、ABPCを使用しております。βラクタマーゼ出しませんし。

Kei様
Kei様のところはPCRが出来るので問題は無いと思います。
このラテックス法ですが、今はこれしか無いのですが、感度に問題はあると思います。

投稿: 師範手前 | 2015年6月 2日 (火) 22時57分

師範手前様

手前様のご指導は大変助かっています。

いきなりユナシン最初えっと思っていましたが今も思っています、さすがにスペクトラムそこまで広げるのGBSが分かれば。

当院は妊婦のスクリーニングは血寒とマンニット+クロモの3種類をルーチンに使用しています。

児の検体は同じ培養とガム半での嫌気性菌培養を行っています、グラム染色で所見がなければ、それ以上の検索には進みませんA群溶連菌は別ですが、妊婦は少なからず持ってますから仕方ないと思います。

気になっていることは、ルーチンの濁った羊水の検体を培養しても、本当にGBSが検出できているのかなぁ~物理的な問題なのかなぁ~20年ぐらい培養検査していますがさすがに考えさせられています、汚さは関係ないような気がします。

羊水はそれぞれ汚れていようが透明だからの判別はあまり意味を持っていないのかなぁと思うようになりました(グラム染色所見から炎症反応より夾雑物ばかり、目立つ)

今回久しぶりにコメント繰り返しているのは実は、今までいた中堅の師範さんご存知のスタッフも2人とも結婚で辞めまして、また新しく4人の新人教育のために、まさにこのブログを通して実力をつけてもらいたいと思いブログを活用させてもらいみんなで盛り上げていければと思っています。

投稿: 倉敷太郎 | 2015年6月 4日 (木) 21時25分

産婦人科医ですが、外来だけですので、新生児の髄膜炎を扱うことはない立場です。最近数例経験したのですが、比較的高齢(閉経後)の女性で膣粘膜の発赤が強い症例で、通常の細菌性膣炎の治療で改善が認められないため培養したところGASが検出されました。いずれも全身症状はなく、サワシリン内服で治癒しました。膣分泌物培養でGASを検出することは珍しいように感じて投稿させていただきました。テーマとは関係なくて申し訳ありませんが、ご意見伺わせていただければ、と思っております。

投稿: | 2015年10月14日 (水) 21時53分

産婦人科医様

コメントありがとうございます。
女性器からA群溶連菌が検出されるケースは当院では稀な疾患ではありません。小児から妊婦、閉経後の高齢者まで幅広く分布しています。A群と似ているG群やC群と併せると今年に入ってからでも11例です。中には年に2回検出されている方もいらっしゃいます。先生が書き込まれているように膣炎のような方から無症状の方まで様々ですが、一応、当院では上気道以外から溶連菌がA群溶連菌が出てきた場合はCritical dataとして電話連絡をしています。

外来ですとそのまま主治医に電話連絡をして頂いています。中にはtoxic shockの前兆のような方もいらっしゃいます。

電話して良かったな。連絡してくれてありがとうとたまに言われます。

妊婦に関してですが、児には大きな影響はありませんが、産褥熱の原因になることがありますので、出産期に関してはB群溶連菌と同じ対応にしています。

手についたGASが経膣感染を起こし上行感染を起こすものと思われます。PIDも起こした人も見たことがあります。

http://cid.oxfordjournals.org/content/53/2/114.long
http://www.hindawi.com/journals/idog/2008/796892/

投稿: 師範手前 | 2015年10月19日 (月) 22時41分

産婦人科医様、師範手前様

>比較的高齢(閉経後)の女性で膣粘膜の発赤が強い症例で、通常の細菌性膣炎の治療で改善が認められないため培養したところGASが検出されました

>女性器からA群溶連菌が検出されるケースは当院では稀な疾患ではありません

当院でもA、G群感染は少なくありません。
必ず行うグラム染色の所見で、緊急性を疑う場合入院・外来かかわらず主治医に報告するようにしています。

A群溶連菌感染症を疑う場合のグラム染色の所見はかなり特徴的所見が多いように思います。
一般的に膣症の場合、不定性桿菌優位で、もちろんデーデル桿菌は認めません、クルーセル(バギナリス・モビルンカル)がコモン。
しかし炎症の強いゴノ感染とか、今回のA群溶血連鎖球菌感染症の場合、明瞭な好中球増多炎症とを認めます。
比較的特徴的な所見です初心者でも気が付きやすいと思いますがいかがでしょう。
患者さんの症状感受性はいろいろですが、グラム染色は正直と思います。

投稿: 倉敷太郎 | 2015年10月24日 (土) 22時14分

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