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2015年3月27日 (金)

松江市に伺いました 講演会の後記

先週、松江感染症対策講演会にお伺いしました(http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2015/03/320-226d.html)。

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今回で3度目になりますが全て違う話をさせて頂いています。

でも基本は同じで、「グラム染色をして、見えた菌をどのように推定して、報告はどのようにして、解釈はどうする」という内容になります。

ブログでの閲覧数が増えたために、当日話した内容を少しダイジェスト版で紹介します。
当たり前ですがグラム染色は細菌検査結果の報告が遅いという穴埋めをしてくれています。

・安価なのでどの施設でもできる。

・検体を提出してから結果報告まで30分もあれば十分可能です。

・感染症であればその原因菌を推測するために使います。

・非感染症であってもその結果は優位なものになることがあります。

・一度に複数菌あっても菌の推定や確定はできませんが染まれば全て確認できます。

・材料の品質管理に使える。
などなど

核酸同定法(PCRなど)やイムノクロマト法も結果が早いですが、標的となった微生物が居なければ陽性になりませんので上記のような内容は全て網羅できません。

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当院ではこういう依頼が多く来ます。


緊急に初期治療が必要な状況では「後で良いですか?」という言葉はありません。
例えば、

「80歳代の女性で右肩の腫脹があり化膿性関節炎を疑います。グラム染色で何か分かるものがあれば早めに教えて下さい。」と依頼されます。
その場合に頂いた電話で患者背景や目的菌、身体所見や臨床症状を伺います。血液検査結果はグラム染色の結果にブレが生じるので最後に見ます。
「20-30分程度で結果を報告しますが宜しいでしょうか?」と最後に答えて検体を待ちます。

さあ、グラム染色。

2×1000(関節液)

さあ、報告です。

大型のグラム陰性桿菌が見えます。塊が無く単一のものが多く、菌の周囲には莢膜と思われるものが確認できます。恐らくKlebsiellaと思います。

すると、「え、Klebsiellaですか?」と返事があります。びっくりした様子です。
関節液から予想外の菌が出てきているのでそう思うはずです。
これがグラム染色スナップショットの醍醐味かもしれません。

・どうしてそこからそんな菌が出てくるんだろう

・Klebsiellaって腸内細菌だし、尿路感染症や呼吸器感染症で多く分離される菌だろうに
・初期抗菌薬は何が適切なんだろうか

と思うと思います。

通常関節炎であればStaphylococcusやStreptococcusが多く検出され、グラム陰性桿菌については小児の場合はH. influenzaeがありますが、成人では術後感染症の場合に検出されることがありますが、市中感染でGNRは辻褄が合いません。

では辻褄を合せる目的で菌の臨床的意義も合わせて質問していきます。

・最近どこかの医療機関で関節内に注射とかしていませんか?→医原的行為の確認→無し

・排尿時痛や頻尿、尿路変更などありますか?→Klebsiella尿路感染症の原因菌としてメジャーなのでその確認→なし

・腹痛や心窩部痛などありませんか?→腹膜炎、胆嚢炎・胆管炎、肝膿瘍、胸・腹水などの確認→なし

時間があれば基礎疾患、喫煙歴、飲酒歴、喫食歴やペット飼育歴などの生活歴も聞いて行きます。

ここで初めて検査値を確認し、何か無いか確認をする。

「とりあえず肩意外に自覚症状や身体所見で目立ったものが無いですが、何も無ければ横隔膜下臓器の感染症が引き金になっていることが多いので腹部単純CTも撮影を急いだ方が良いかもしれませんね。」

「血流感染によるものが多いので、血液培養も採取を忘れずにお願いします。」
「血液培養が陽性の場合は遠隔感染を起こすことがあります。肺膿瘍や脳膿瘍、腸腰筋膿瘍、椎体炎、眼内炎などなど。合併症のこともありますので経過中に追加で検査も検討をしてください。」

と念を押します。

抗菌薬については患者さんの状況を交えながらの相談ですが腸内細菌と血流感染、関節炎などを考えて。

・KlebsiellaのESBL産生菌はE. coliに比べて検出率は低くESBLは意識しなくても良いかもしれない。

・ABPCは基本的に耐性。CEZ、CMZは耐性になることが少ないが、脳への移行が悪いので脳膿瘍、髄膜炎があれば使い難い。CTRXは脳神経組織の感染があっても対応可能になる。

・関節炎なので最低6週間程度の抗菌薬投与が必要になる。最初の2週間は最低でも経静脈で対応をすることが多い。

と簡単に一般論を話する。

最終的には腹部CTで胆管炎が見つかり、血液培養でもKlebsiellaが出てきました。合併症は無く関節炎と胆管炎の治療が奏功して終了。

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その内容は電子カルテに記載をしていきます。

化膿性関節炎については検査室の人、研修医などを含めて時間がある時にグラム染色結果についても話していきます。時間のあるときで良いと思います。

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特に、N. gonorrhoaeによる関節炎は性活動期の成人に多く、白血球が見えることが多いですが、菌は中々見えません。菌が見えなくても白血球が多いか少ないかを答えるだけでも良い報告になります。

14 関節液から確認された代表的な菌のグラム染色像

菌が見えなくても治療方針を立てる上で良い情報があります。

別の症例ですが、頸が痛い、膝も痛い。熱が急に出た。意識障害や頭痛は無く髄膜炎ではなさそうだ。

膝関節を穿刺して菌は見えないけどこういうのが見えることがあります。

2_2 ×1000(関節液)

そうです。ピロリン酸塩の結晶で偽痛風です。

偽痛風は抗菌薬投与では無く、NSAIDSなどの抗炎症作用の薬が投与対象になるので、投与します。→翌日解熱。

頚部は痛かったが解熱とともに消失→Crowned dens syndromeでした。

ドクターGでもやっていましたね。

菌が見えなくても良いことありますね。

この話を皮切りに、グラム染色の特性(感度や形態による菌の推定など)、尿路感染症、抗ガン化学療法中に起こった肺炎、眼窩蜂窩織炎などについて話し、アッと言うまの60分でした。

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色々とあるけど、そんなこと言っても見れないと思っていても進みません。

見えると感じながらグラム染色を成長させていくことはプライマリーケアには大切です。
「見えても、見えなかったことにしよう・・・」など思うことはあっても、その機会を少なくすることに努めなければなりません。
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格好良くグラム染色を引き受けていければ良いと思っています。

お土産に手造りケーキを頂きました。甘いものは好きなので嬉しかった一品です。

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また機会があれば別のネタについて紹介させて頂ければと思います。
島根県の皆さまありがとうございました。

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2015年3月10日 (火)

3月20日は松江感染症対策講演会です。宜しくお願いします。

3月20日は松江に伺いグラム染色の話をさせて頂きます。

今回のテーマは「グラム染色を用いた感染症診療支援~スナップショット診断の醍醐味~」という偉そうなタイトルで臨みます。

日時:平成27年3月20日 19:00~20:00

場所:松江テルサ4階 中会議室

私の話は毎回違う話になりますのでご了承ください。

当院ではグラム染色所見を感染症診療のスナップショットとして使う機会が多いです。

・「肺炎の患者が居るのでグラム染色所見を早めに教えて欲しい」
・「関節が腫れた患者が来たので塗抹検査結果を教えて欲しい」
・「尿路感染症を疑い抗菌薬を絞りたいのでグラム染色所見を見て欲しい」

など依頼は毎日のよういやってきます。

相談のある医師の多くは、原因菌を絞りそれに見合った抗菌薬を選択したい。合併症や抗菌薬の標準的な投与期間などを想定して経過を追っていきたいなどです。

スナップショットでどういう菌が居て、何を起こすのか。またこの菌であればどういう原因でが予想されるのかなど臨床現場に役立つ情報は沢山あると思います。そういうヒントを今回は持っていきたいと思います。

何となく自覚症状や身体所見でこういう臓器感染症を疑い、こういう菌が多いので、こういう抗菌薬を使っている状況は無いでしょうか。

また検査室でそんな小まめに対応なんて無理だよとは言っていませんか?
Photo こんなこと言ってないでしょうか?

感染症は急性疾患から慢性疾患まで幅が広いですが、早めに適切な治療を開始すれば予後は良くなりますし、グラム染色所見を用いることでその可能性も高くなると思います。
当院では、昔から血液培養陽性時にグラム染色所見を報告することに加えて、推定菌情報とアンチバイオグラムの結果や他の検査材料との整合性についてコメントしたりしていた(今でもしています)こともありましたのでグラム染色の結果には関心を持つ医師が多いのかも知れませんが、今回はその業務内容を中心にして話していこうと思います。

下記は下肢蜂窩織炎から検出された大腸菌。

下肢のリンパ浮腫が無いか確認したところありました。

蜂窩織炎の場合は多くが溶連菌やブドウ球菌といったグラム陽性球菌を想定しがちですが、大腿部から下肢にかけてはグラム陰性桿菌(特に腸内細菌)も起炎菌になることがあります。グラム陰性桿菌が確認できたインパクトは非常に強いものがありますが、追加で水曝露(河川や湖沼への入水歴)や生水の飲水、生野菜、生魚の喫食歴も聞いてみると良いと思います。AeromonasはこのE. coliと類似していることに加え、菌としての馴染みが無いので抗菌薬を絞り難いものにします。膿汁でAeromonasを疑う所見がある場合は無いかカルテ上でも確認してみるのも良いかもしれません。

600 下肢の蜂窩織炎から検出されたE. coli


何例か症例を持っていきます。島根の皆様宜しくお願いします。

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2015年3月 3日 (火)

検体採取等に関する指定講習会を受講しました

4月より臨床検査技師の業務に検体採取が加わる予定です。前回の法改正は昭和45年で採血行為が加わりました。それから44年が経過し、今では外来採血は主に検査室で臨床検査技師が行っているところが多いと思います。

臨床検査技師は昭和45年にこの採血業務と生理機能検査業務(米国では臨床検査技師免許に加えて取得が必要)が加わりました。今回は今後の社会保険制度の改革の一つであり、来る団塊世代の後期高齢者が増加することが予想されていますので、それに合わせチーム医療への参画および医師や看護師の負担軽減による業務分担でもあると思います。

4月に法律改正となる予定ですが、4月より検体採取を行う場合ですが、この指定講習会を受講せずに行った場合は法律違反となります。厚労省は職能団体である技師会を通じて講習会を行っていますが、講習会は5年の経過措置の中でしか受講できません。つまり、現在の免許取得者で今受講しなければ検体採取はできないことになります。専門性の高い技術系の学会や研究会はありますが、やはり技師会は職能団体ですのでその辺は使い分けが必要かと思います。

2日間の受講をしましたが主な内容は以下です

・臨床検査技師に関わる法律の話、医療倫理

・微生物学的検査等の検体採取(鼻腔分泌物、咽頭粘液、直陽の糞便)に必要な知識・技能・態度

・味覚・嗅覚検査(アリナミンの静注は除く)に必要な知識・技能・態度

鼻腔分泌物については2009年の新型インフルエンザ発生時に、外来で押し寄せてきた疑い例、不安例の患者対応をしている時に、臨床検査技師が行うのが望ましいと思った次第です。

特に微生物検査は今行っている業務になるので興味深く聞き込みました。
「ただ採取するだけでしょう」と思っていましたが、採取時の心構え、患者とどう接するのか(接遇など)、検査結果の解釈、安全対策・感染管理などのタクソノミーが与えられていて非常に勉強になりました。

皮膚科の材料では主に白癬と疥癬の話が中心でしたが、白癬について深く学べたのが多きな収穫でした。

・皮膚病変でカンジダは衛星現象をとるが、白癬はそれが無い。また、白癬は陰嚢に感染しない。

・頭部白癬はT. mentagrophytusで皮膚を採取するよりヘアブラシを材料にする。

・爪はKOHにを添加して温めることで早く溶解する

・癜風(Malassezia)は病変が小さく、菌は染まり難い。

などなど。普段ジャイアントコロニーみて同定して、治療方針が変わりそうな場合は電話したりとかしていましたがもっと身近に感じました。

こんなサイトを紹介して頂きました。鏡検やスライドカルチャー、ジャイアントコロニーなどの操作について動画付きで紹介があります。マニア必見です。


鼻腔と咽頭採取について
・鼻出血の対応。正しい止血方法、出血しやすい患者背景(鼻腔腫瘍や鼻中隔湾曲がある、ワーファリン、バイアスピリン、ウロキナーゼなどの抗血栓剤、高血圧、肝機能低下している患者)の特徴を掴む

・舌圧子の使い方

・禁忌(急性喉頭蓋炎の場合)について

普段菌検査だけでは分かり辛い臨床現場での対応例について交えながら紹介がありました。深頚部膿瘍についてはたまに話題になっていましたが参加者にはその怖さについて理解しやすい内容で説明がありました。

間には「これ正しいの?」という内容もありましたが、今まで臨床検査技師として大学教育でも、大学院でも受けたことの無い内容ばかりで非常に充実した2日間でした。

ただ、気になった点があります。個人的な意見も含めて記載しますが。

・感染症の治療と診断内容、感染対策については正しくないものが混在している(これは講師のレベルにもよるので仕方ない)

・テキストがシンプルすぎる。字が小さい。講師の意図と少し差があるように見受けれる。

・講習会のテキストは統一でタクソノミーに基づいて話してるが、講義内容が会場によって差がある。(同一講師の場合は日程調整が不可能)
・ビデオ放映が単調過ぎて眠くなる(講義すると受講料が高くなるのでやむを得ない)。

・ずっと寝ている人いる(こういう人には終了証書を渡さないで欲しい)。

・座席が狭く辛い(会場をお借りしている都合やむを得ない)

・実務委員が煩い(お手伝いなのでやむを得ない)

感染対策をしている都合上気になった点
・電極の消毒方法が良くない(基本滅菌と言いながら消毒を勧めている)

・設問で防護具について問うもの(耐性菌だから標準予防策を遵守するというもの)があったが、予防策の対応は耐性菌だけでは無いので正解が無い。

などなど。

日常どれだけ厳密に仕事に向きあって無いのか再認識できて良い機会でした。
現場に行って、採取して、直ぐに検査して、結果をお知らせして、説明する。
検査のプロが責任をもって採取をする。今後当たり前のことになるでしょうね。

写真は爪周囲炎のA群溶連菌

Gas 小さくて周囲が赤いので溶連菌疑います

写真は皮膚糸状菌のスライドカルチャーです。綺麗ですね。

Mycrosporum Microsporum

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2015年3月 2日 (月)

【緊急のお知らせ】第21回神戸グラム染色の開催について

facebookでは告知したのですが、こちらへの告知を忘れておりました。すいません。

良ければFBもフォロー下さい。
Fb
https://www.facebook.com/GramStainGym

初春の候、皆様方におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。

さて、今回下記の内容にて第21回グラム染色カンファレンスを開催する運びになりました。日常的に感染症診療の一環で行われている『グラム染色』から得られる感染症情報を活用し、どの様に感染症診療へ切り込んでいくのか、医師・臨床検査技師、薬剤師、それぞれの立場から考え、活発なディスカッションを行おうという新しいスタイルの会であります。


お忙しいとは存じますが、ご出席賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

日時:平成27年3月5日(木) 18:50~
場所:神戸国際会館8階 802+803(今回は会場が変わりました)

http://www.kih.co.jp/index.php

症例提示

①「亜急性の微熱、全身倦怠感を主訴に来院した60歳台女性」

大阪府急性期・総合医療センター 総合内科 宮里 悠佑 先生

② 「発熱、意識障害、呼吸不全で来院した70歳女性」

明石医療センター 呼吸器内科 尾野 慶彦 先生

今回はどのような症例が出るんでしょうね。楽しみです。

写真は培地に発育した緑膿菌の集落です。

ピオシアニンやピオベルジンのような緑色色素以外にもピオルビンやピオメラニンのような赤色の色素を出すものがあります。

黄緑がピオシアニン(緑膿菌確定)、緑色がピオベルジン(緑膿菌以外も産生。詳しく同定が必要です)

20121003_005306


報告書では分からない内容なので機会があればラボに見に行くのもいいでしょう。(写真はピオメラニン産生菌)

Photo

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