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2015年2月18日 (水)

一類感染症と臨床検査技師の関わり マラリアとデング熱を中心として

エボラウイルス病は一類感染症の届出疾患の一つです。病原体のエボラウイルスはバイオセーフティーレベル(BSL)4の菌であり、患者対応を行う場合にはP3以上のレベルが必要になります。ウイルス分離などを行う場合はP4レベルの設備が必要で、国内には無い?ようです。もちろん、一種病原体になり国内では保持ができません。
国内で発生した場合、または疑似症例が出てきた場合にはどのような設備が必要で、どのような対応をしているのでしょうか。また、ウイルスの確認検査もそうですが、他に鑑別にあがる熱帯病についての検査はどのようになっているのでしょうか。

ということもあり、2月14日と15日の両日はDCC主催の「一類感染症とバイオセーフティー研修会」に参加させて頂きました。私は渡航者と微生物検査という内容でお話させて頂きました。渡航者? 
グラム染色ばかりしている訳ではありません(笑)。
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現地の状況と日本での対応について話されているK先生
 
今回の参加者は、主に特定感染症指定医療機関と一種感染症指定医療機関の方たちを中心にした研修会でした。その時の内容について一部レポートします。
ところで、2014年3月にギニア共和国で発生したエボラウイルス病(EVD)は、2015年2月8日現在、感染者22,894名、死者9,177名となっています。
(現在はエボラ出血熱では無く、エボラウイルス病と名称も変わっています)
ギニア共和国からのEVDのレポート(最初のケースと言われています)
ゲケドゥというシエラレオネの田舎街で発生した訳ですが、国境近くで発生したため西アフリカの3つの国(他にギニアとリベリア)に拡がってしまいました(この辺は国境は形式上存在するだけのようです)。今回は初めて都市部での流行もあり感染が拡大した可能性もあります。
1 NEJM,2014年4月16日号の図から

現在の状況2015年2月8日報告分 (WHOのHPから)http://apps.who.int/ebola/
グラフからは患者数の増加は山を越えたようです。色々な国際協力も得てEVDの新規発生数がコントロールできている状態と考えられます。
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日本では帰国後(または入国後)既に5名の疑い患者が居ましたが精査の結果全て陰性という結果でしたので日本国内の発生は未だありません。
日本国内で疑い患者が発生した場合は特定感染症指定医療機関または一種感染症指定医療機関で入院となり精査が行われることになります。前述した医療機関は全てが同じ経営母体では無く、国立、自治体立や大学病院など様々です。なので医療従事者の確保から含めて体制や予算確保を含め医療機関により違いが出ているようです。
なので、現時点でどの対応が適切なのか判断が難しいようです。
元々、このEVD発生地域ではマラリアやデング熱が広く流行していた地域でもあり、EVDとの鑑別が非常に難しいと言われています。(西アフリカの感染症:http://www.forth.go.jp/destinations/country/w_africa.html

EVDは主に接触感染と飛沫感染で拡がるだろうと言われていることもあり(基本再生産数:R0は1.5-2.5程度)、接触歴の強い場合にこの疾患の疑いが強くなると言われている。R0について:http://currents.plos.org/outbreaks/article/estimating-the-reproduction-number-of-zaire-ebolavirus-ebov-during-the-2014-outbreak-in-west-africa/

なので、国内の疑似症例についてですが、接触歴と身体所見などから他の疾患について除外しながら進めて行くことになります。臨床検査である程度感染の有無を確認できるだけでも診療方針が立つので、検査を行うタイミング(患者の救命と医療従事者の安全のジレンマはありますが)を図っていくことになります。
【デング熱の検査】
デング熱は昨年に東京で約70年ぶりに国内発生したため、迅速診断検査について広く取り入れる施設が増えたと思います。注目されたのがNS1抗原というデング熱に感染すると血液中に流れ出てくる非構造性たんぱく質です。これをイムノクロマト法を使い検出を行うことでデング熱ウイルスが体内に侵入したかどうか確認ができます。
NS1抗原についてですが、感染後7日目まで検出され、イムノクロマト法では約感染後5日間めで検出されるようです。続いてIgMが増え、IgGが増えていくので、検査にはこのIgMやIgGも検出できるものが販売されています。

組み合わせとしてはNS1だけのもの、IgMとIgGの両方が計れるもの。NS1に加えてIgMとIgGの3つが計れるものが日本では購入可能です。
NS1だけ測定しておけば何とかなるのではないか?と思われがちですが、デング熱に複数回感染した場合にはこのNS1抗原に加えてIgGも検出されることから、初感染かどうかの判断もできるようです。NS1抗原だけ見ておけばいいだろうと思いますが、NS1抗原の検査感度は約60%でしたという報告(BMC Infectious Diseases 2010, 10:142)もありますし、デング熱ウイルスの血清型で2型と4型は検出感度が下がるという報告(Virology Journal 2010, 7:361)もあります。
当たり前のことですが、100%の感度を持つ検査はありませんのでこれはやむを得ないことです。しっかりとキットの特性と抗原や抗体の推移について確認しておく必要がありますね。
また、デング熱流行地から入国(帰国)してきた場合は、初感染かどうかも含めて判断が必要になりますし、今年は国内発生例でも二回目以降の感染も考慮しなければなりません。

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デング熱の2014年度の報告がIASRの2015年2月13日アップされています。
【マラリアの検査】
マラリアは何と言っても「熱帯熱マラリア」の存在をいかに早く見つけるかです。
マラリアの検査には昔から塗抹検査が用いられてきました。
薄層塗抹と厚層塗抹法です。薄層塗抹についてはスライドガラス同士で引き合うものです。もしEVDの可能性が高ければガラスで手を切ったりすれば致命的な傷になるかもしれないので、PCR陰性の結果が出るまで実施するかどうか考えものです。

塗抹作製方法:CDCサイト http://www.cdc.gov/dpdx/resources/pdf/benchAids/malaria/Malaria_procedures_benchaid.pdf
今はイムノクロマト法もありますが、世界中で販売されているキットはもの凄く多く、感度がいい加減で悪質なものも販売されていると聞きます。幸い日本のものは感度が高いものと聞いています。
イムノクロマト法は検査方法も簡単ですが、熱帯熱マラリア以外の場合はマラリアの種類は分からないようになっています。混合感染かどうかの判断に困ったり、元々マラリアキャリアの方ではHPR-2抗原(NowではT1抗原)が陽性になり続けるために解釈が困難になることもあるようです。他にマラリア由来のLDHやアルドラーゼを検出するものが販売されています。
イムノクロマト法ですが、熱帯熱マラリアの場合では100個以下/μLであれば検出感度は落ち、陰性であっても熱帯熱マラリアは否定できないことになります。

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その場合は塗抹検査が有用になると言われています。
塗抹検査は1個/84μLが最小検出感度と言われていますのでイムノクロマト法で陰性でもフォローができると言われています。また寄生率の算出により重症度が分かり、マラリアの種類も区別がつきます。また、治療経過中のモニタリングも可能です。
熱帯熱マラリアは寄生率も高く、普通は熱帯熱マラリア以外で2%以上の寄生率となることは希と言われています。
熱帯熱マラリアの特徴は
・寄生率が高い
・1つの赤血球内に輪状体が複数あるものがいくつも確認される
・バナナ型の生殖母体が確認できる
などです。
輪状体の形も少し違いますし、三日熱マラリアのようなシュフナー斑点は見当たりません。

熱帯熱マラリア:http://www.cdc.gov/dpdx/resources/pdf/benchAids/malaria/Pfalciparum_benchaidV2.pdf
マラリア検査についても色々とエラーが発生します。普段使いなれていない検査だからこそ慎重に結果を判断しなければなりません。
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また、どこかで何かの形で渡航医学と臨床検査についてまとめる機会は必要かもしれませんね。
EVDを疑う場合はPCRで陰性が確認されるまで措置入院が必要になります。
既に発熱していますので、上記のマラリアやデング熱以外にも検査が必要になると思います。
生化学では電解質、肝機能マーカー、腎機能マーカー、デング熱ではCRPが上がらないので鑑別に使えるかもしれません。

CBCは全般。特にマラリアやデング熱では赤血球数や血小板数が下がります。輸血も必要になるかもしれませんが、遠心作業はウイルスが飛散する可能性もあるので緊急輸血対応になるかもしれません。
血液ガスは必要でしょう。
問題は排液とメンテナンスです。CBCは湿式のものが主体ですので排液処理が大変です。WHOなどでは次亜塩素酸Naで10倍希釈して排液処理をしなさいと記載があります。
気道症状がある場合はインフルエンザのチェックも必要です。
機器は簡易型とは言え、少々高いですし、殆どディスポーザブル状態。管理は専用個室(サテライトラボ)で行い、安全キャビネットを準備。キャビネットを後から部屋に入れるようなスペースがあるかどうかが問題かもしれません。

血液培養はどうでしょうか?腸チフス鑑別のため採血が必要な機会があるかもしれません。また治療の経過中に敗血症を起こすケースがレポートされています。ウイルスは環境中では数日(約6日程度)生存しますし、生体中では長い期間生存できると言われています。血液のような高タンパクの存在下では長期間生存することが予想されますので、感染者であった場合には血液培養ボトル内部にはウイルスが生存していると思われます。グラム染色をしなくても菌が発育していることを予測できるものなど、外観上で変化が観察される培養ボトル(底面の色調が変わるもの、上部に培地を付けて集落観察をするものなど)がこういう時には役立ちます。

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まだまだ問題はあるでしょうが、現段階での臨床検査の対応についても検討が必要と感じました。
90分間話させて貰いましたが書ききれませんのでダイジェストで。
・チクングニア熱:PCRの感度が低く、捕捉IgM抗体やIgGの上昇が診断の鍵となる。
・インフルエンザ:北半球は冬季に流行るが、熱帯は雨季に流行る。暑くてもインフルエンザは流行するので渡航者の場合は時期の把握が大切。また、鳥インフルエンザについてはヒトと比べ感度が低くなること、それはキット間でバラツクので検出原理を考慮した方が良いかもしれない。
・ツツガムシ病:日本以外でもある。コマーシャルベースで計っていない抗体がある。
・リケッチア症:日本で流行していない紅斑熱は多くある。日本紅斑熱を含めコマーシャルベースでは検査できない。
・腸チフス:便培養より血液培養の方が感度が高い。キノロン耐性菌が南アジア中心に拡がっている。キノロンのBPはM100-S25(2015年)から他の腸内細菌と区別された。MICが低すぎて対応できない施設ではNAの感受性で判断を。ラパポート培地はチフス菌は増菌できないので注意。
・コレラ:Oの抗原血清でO1以外にもO139の準備を。
・EHEC:西アフリカでも流行している。O157以外のEHECはソルビトール分解能はあてにならない。またエンテロヘモリジン非産生のEHECのアウトブレイクが2011年にあった(O104など)。
・原虫症:赤痢アメーバー性肝膿瘍の場合は塗抹の感度は低い。ジアルジアは直接塗抹で良く観察できる。
・耐性菌:東南アジアや南アジアではESBLの流行がある。NDM型MBLは南アジアや欧州で流行している。米国ではKPCやVREがある。外国で入院歴のある場合は一旦個室で精査後に総室管理が必要になってきている。三重大はMDRAの駆除に900万円かかった。結核菌も多剤耐性菌が話題になる。MDRTB流行地で長期滞在していた背景がありそこでの感染が否定できない状況ではrpoB遺伝子の変異を見るなど一時的に通常のTB治療で良いかどうか検討が必要。部屋も考慮。
「うちは診ないから関係ないや」では無く、患者は医療機関を選ばないかもしれません。
今一度、皆さんで渡航歴と微生物検査について考え直さないといけないと考えさせられた次第です。
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懇親会は盛況でした。
2_2 挨拶されるH先生

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