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2015年1月 6日 (火)

「医療機関における院内感染対策について」の内容が変更になりました

昨年末にパブリックコメントされていた内容を受けて、12/19付けで「医療機関における院内感染対策について」の内容が大幅に変更になっていました。

2014年12月19日付 医政地発1219第1号 「医療機関における院内感染対策について」
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恐らく色々な事例があってのことだと思います。

・大阪の大規模病院の長期間院内伝播事例:http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/1726-source/drug-resistance/idsc/iasr-news/5213-pr4182.html

大まかな内容は下記の通りです(一応皆さん確認して下さい。)

前のやつはここにあります。http://www.mhlw.go.jp/topics/2012/01/dl/tp0118-1-76.pdf


1-1-(1) 洗浄・滅菌消毒部門、給食部門および、雇用形態に関わらず全て の文言追加
1-2-(2) 指導・介入 介入が追加
2-2-(3) 手洗いの方法記載について変更
2-4-(4) 科学的根拠うんぬんと記載追加
2-5-(2) 医療機器の感染事例滅菌消毒ガイドラインなど 大幅に変更
2-9-(1) アウトブレイク、介入基準の設定 追加文あり
3-13-2 大幅に変更あり
3-3-(1) CREの追加とVRSAVREMDRPMDRAは保菌を含めて1例以上という厳しい基準の追加
3-3-(2) プラスミドという言葉の追加
3-3-(4) 全文追加
3-4-(2)大幅変更あり


内容として医療従事者に伝える際に難しい内容が多くなりました。

1.CREについて

 最近では腸内細菌科のESBL産生菌が市民権を得られるようになってきましたが、今度はCREです。カルバペネム耐性腸内細菌科細菌と訳しますが、カルバペネム分解酵素を産生する腸内細菌科の細菌が日本の色々な場所で分離されるようになりました。

Cre

カルバペネム分解酵素は出しますが、腸内細菌科では緑膿菌のように高度耐性にはならないのが特徴です。そのため検査室で測定をすると感受性の方法にもよりますが誤って感受性と判定されるため発生に気付かないことがあります。

日本ではIMP型のMBL産生菌が多く分離されているのですが、IMP-6型についてはカルバぺネムのうちIPMのMICが低いのが特徴です。

・カルバペネム分解酵素スクリーニングのための適した抗菌薬選択:http://www.nih.go.jp/niid/ja/drb-m/drb-iasrs/4687-pr4124.html

カルバペネム分解酵素の確認としては以下のように考えています(今でもこれが良いというものがありません)。

・IPMまたはMEPMのMICが0.5μg/ml以上を示し、同時に3世代セフェムが耐性になっている腸内細菌科を確認。


・上記の株について、SMAテスト、MHT(変法ホッジテスト)やCarbaNPテストでカルバペネム分解酵素の存在が推定される結果が得られる。

カルバペネム分解酵素の確認にはSMAで確認できるMBL以外にもKPCやOXA型などあり全てカバーできる方法は今のところありません(KPCやOXAはSMAには反応しません。)

2.プラスミドという言葉

微生物検査や院内感染対策、遺伝子組み換えなどをしていないとプラスミドという言葉には全く馴染みが無いと思います。呪文か何かですか?と言われそう。

プラスミドの意味をこの文章から悪いイメージを想定しますが、実は遺伝子組み換え実験など人間には大きな役割を果たしてきた内容も多いはずです:http://www.kenq.net/dic/78.html

ただし、医療現場では耐性遺伝子、特にβ-ラクタマーゼの伝播を行うことが多くESBLもその代表的な耐性菌です。

特に「カルバペネマーゼ遺伝子は、プラスミド上に存在することが多く、接合等により腸内細菌科の他菌種にまで水平伝達され、カルバペネム感性の菌がこれにより耐性化することがある。また、腸内細菌科細菌ではカルバペネマーゼ遺伝子を持っていてもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示さない場合があるが、このような菌株でも耐性遺伝子の発現量変化、細菌外膜の変化で耐性化することがある。
http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/1725-source/drug-resistance/idsc/iasr-topic/5238-tpc418-j.html

ということなので問題になるわけですが、今までは1つの耐性菌がいくつ検出された場合にアウトブレイクと定義付けられていましたが、今からは菌種が異なっても同じ耐性機序と確認(またが推定)された場合でもアウトブレイクとなり、CREの場合は1例でも発見されたらアウトブレイク対応で厳重に院内感染対策を行う必要がある訳です。

また、アウトブレイクが起こりそうな要素(医療器具や機器の適切な使用など)を日常より摘み取り、患者にとって安心で安全な医療を提供し続ける義務が医療現場にはあります。微生物検査室が院内にあってもアウトブレイクは起こります。誰かが異常にいつ気付いて対応を早くするかどうかが今後の院内感染対策には求められます。

また、外部委託業者も同じスタンスで院内感染対策を進めていかなければなりません。
病院職員構成の多様化と感染対策:http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03106_02

検査部門からの病原微生物の検出状況の報告と院内周知については継続して行わなければならないので、「うちには微生物検査室が無いから対策が後手に・・」とか、「微生物検査室はあるけど人数不足でそこまで手が回らない・・」とか言っていると後で厳しいお仕置きが待っているかもしれません。

病院の立看板に「微生物検査室はありませんので院内感染対策が後手に回ります」とか、「安全な医療を提供出来ませんが良いでしょうか?」とか書くわけにはいきませんし、患者はそれを選べれないので、足りない点は皆で補いながら対策を立てていくしかありません。

当然のことながらこういう状況であることは病院管理者には知って貰う内容であり、不足している内容についてはしっかりと伝えることが最も大切かもしれません。
院内感染対策は本来病院管理者が行う業でありますが、感染対策を組織的に行っている部門はその代行となります。先行きが見えない内容ですが指導や介入をしっかり行っていきましょう。

今日のグラム染色は尿です。

当たり前ですが、グラム染色だけでは耐性菌かどうか分かりません。
尿一般検査や沈渣では細菌尿と分かっても菌種推定はできません。沈渣は雑菌が混じることが多いですし、菌種推定の特異度は下がります。

尿路感染症の診断には
・尿一般検査を出す。
・尿培養を出す。

培養結果が待てないのならグラム染色をして菌種推定し、適切な抗菌薬選択を行う。
グラム陰性桿菌でない場合でも良いと思います。

しかし、腸球菌を確認することは抗菌薬の選択には重要です。

腸球菌は尿路感染症で使う機会の多いセフェム、アミノグリコシドとサルファ剤には自然耐性です。グラム陽性のレンサ状球菌で4-8連鎖のものが多く見えると腸球菌を疑うことができます。院内感染を疑う場合はE. faeciumの分離確率も上がりますのでVCMか?という考察も可能かもしれません。亜硝酸塩還元試験は陰性ですので試験紙でも分かりません。

皆さんご注意ください。

600 ×1000 腎盂尿

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