研修医の感染制御・微生物検査ローテ
2月に学会では下記のような内容を一般演題として出すことにしましたので紹介します。
当院では研修医ローテーションの中に感染制御・微生物検査ローテがあります。1人2週間~1ヶ月程度お預かりしています。
感染症はご存知の通り炎症性疾患の中で大部分を占めますし、診療の上で遭遇する機会が非常に多い疾患グループになります。足の先から頭の上までのあらゆる臓器が対象になるため、臓器に特異的な疾患とその原因微生物について把握していかなければなりません。
非常に幅が広く、抗生剤とか微生物とか学生時代に「なんじゃこりゃ。覚えて後で役立つのか?」と思っていた研修医の皆さんは「失敗した・・。あの時覚えておけば良かった・・」とか思っては無いでしょうか。今さら聞けない感染症、今後年数が経てばもっと聞けない感染症。専門に行けば回避しがちの感染症・・など様々な状況におかれていると思いますが、知っていて損は無いでしょう。今後、どの専門分野に行っても感染症は後ろから、前からやってくるのです。
さて、当院には総合診療内科も感染症内科もありません。感染症に造詣の深い医師も多くは在籍していません。感染症に関する相談は感染制御の一環で微生物検査室で受けることがあります。
しかし、実際には良さそうな響きですが医師が教えるよりかは、患者を直接診療を行うケースは少なく幅は狭い内容になってしまいがちです。
相談を受ける多くは抗菌薬の選択と投与方法や感染臓器を探すことです。感染臓器を探すのは、自覚症状、身体所見や臨床所見から上手く感染臓器が見つからない時の相談です。時には感染症では無いと突き止めるケースも入ってきます。
感染症であれば、色々な所見から微生物を絞り、適切な抗菌薬を選び経過を診て行きます。微生物が検出され臓器が絞ることができればより良いと思います。非感染症であれば、何が原因なのか(膠原病やアレルギーなど)を絞り込んでいきます。もちろんそれは医学的根拠を軸として解説してきます。
感染症の疑いが強く初期治療や感染症治療中に変化が生じた場合には適切な治療に近づけるようにグラム染色を行って菌種推定をし、抗菌薬の選択に役立てます。時には感染症の可能性が低いことや、細菌学的な治療効果についても検討を行います。
そういった中で研修医にはグラム染色を見ながら疾患の内容、微生物の傾向と抗菌薬の細かい説明などが主体で説明していきます。
例えば、皮膚・軟部組織感染症を例に取りますが。
皮膚・軟部組織感染症は病名が色々混在していて、原因微生物の検出と同定が難しく、さらには軽症や重症という要素も絡んできます。出来れば遭遇したくない感染症の一つかもと思われる方もいるかもしれません。
皮膚・軟部組織感染症は
・どの部分に感染を起こしているのか考えることが大事です。表皮か真皮か筋膜まで達しているのか
・どういう菌が感染を起こしているのか調べるのが大事です。
>菌によっては筋膜に親和性の高い菌種による感染があり、溶連菌や黄色ブドウ球菌、Clostridiumなどが代表的な菌種になります。
>また、組織内に気腫を生じているものがあればそれは大きなヒントで、ガスは菌が産生する代謝産物なので腸内細菌科の細菌や嫌気性菌(特にClostridium)が出てくることが予想されます。糖尿病により組織内の糖濃度が上がっている場合にはガスの産生量は上がりますので著明になることもあります。
>感染症の原因が明確では無い(他臓器に感染源となるものが無い)場合には溶連菌や黄色ブドウ球菌が多い。打撲や擦過傷があれば更にその可能性があがる(学生であれば部活の種類やポジションなどが大事なこともあるので聞き洩らさないように)。
・重症度はどの程度か考えることが大事です。壊死性筋膜炎は死亡率が高い症例なので早期に診断し治療(時には外科的切除も視野に入れる)することが必要です。LRINECスコアが6点以上であれば可能性が高いと判断することができます。
>Type1の壊死性筋膜炎は嫌気性菌と腸内細菌科の混合感染で起こる
>Type2の壊死性筋膜炎は溶連菌や黄色ブドウ球菌が単一感染により起こる
×1000(Streptococcus agalactiae)
>壊死性筋膜炎は早く外科処置を行うことで救命率が上がる(小血管の微小血栓により虚血が進み組織壊死が早期に進行するから)。
その上で皮膚組織や浸出液が採取されればグラム染色を活用して菌種を絞りこんでいきます。
グラム染色により原因菌が絞りこめれば、その結果を参考に治療薬をも絞り込んでいきます。組織液や血液培養が陽性になればその上清みを使い抗原チェックも迅速に可能です。
急いで抗原検査に・・・・
で、培養結果に
このような内容をCommon diseaseとともに話をしていきます。
また、研修医向けに月に1回程度グラム染色カンファレンスを開催しています。
学生の皆さん、良ければこういう病院で研修を受けてみませんか?お待ちしております。
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