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2014年12月23日 (火)

研修医の感染制御・微生物検査ローテ

2月に学会では下記のような内容を一般演題として出すことにしましたので紹介します。

当院では研修医ローテーションの中に感染制御・微生物検査ローテがあります。1人2週間~1ヶ月程度お預かりしています。

Photo

感染症はご存知の通り炎症性疾患の中で大部分を占めますし、診療の上で遭遇する機会が非常に多い疾患グループになります。足の先から頭の上までのあらゆる臓器が対象になるため、臓器に特異的な疾患とその原因微生物について把握していかなければなりません。

非常に幅が広く、抗生剤とか微生物とか学生時代に「なんじゃこりゃ。覚えて後で役立つのか?」と思っていた研修医の皆さんは「失敗した・・。あの時覚えておけば良かった・・」とか思っては無いでしょうか。今さら聞けない感染症、今後年数が経てばもっと聞けない感染症。専門に行けば回避しがちの感染症・・など様々な状況におかれていると思いますが、知っていて損は無いでしょう。今後、どの専門分野に行っても感染症は後ろから、前からやってくるのです。

さて、当院には総合診療内科も感染症内科もありません。感染症に造詣の深い医師も多くは在籍していません。感染症に関する相談は感染制御の一環で微生物検査室で受けることがあります。

しかし、実際には良さそうな響きですが医師が教えるよりかは、患者を直接診療を行うケースは少なく幅は狭い内容になってしまいがちです。

相談を受ける多くは抗菌薬の選択と投与方法や感染臓器を探すことです。感染臓器を探すのは、自覚症状、身体所見や臨床所見から上手く感染臓器が見つからない時の相談です。時には感染症では無いと突き止めるケースも入ってきます。

感染症であれば、色々な所見から微生物を絞り、適切な抗菌薬を選び経過を診て行きます。微生物が検出され臓器が絞ることができればより良いと思います。非感染症であれば、何が原因なのか(膠原病やアレルギーなど)を絞り込んでいきます。もちろんそれは医学的根拠を軸として解説してきます。

感染症の疑いが強く初期治療や感染症治療中に変化が生じた場合には適切な治療に近づけるようにグラム染色を行って菌種推定をし、抗菌薬の選択に役立てます。時には感染症の可能性が低いことや、細菌学的な治療効果についても検討を行います。

そういった中で研修医にはグラム染色を見ながら疾患の内容、微生物の傾向と抗菌薬の細かい説明などが主体で説明していきます。

例えば、皮膚・軟部組織感染症を例に取りますが。

皮膚・軟部組織感染症は病名が色々混在していて、原因微生物の検出と同定が難しく、さらには軽症や重症という要素も絡んできます。出来れば遭遇したくない感染症の一つかもと思われる方もいるかもしれません。

皮膚・軟部組織感染症は

 ・どの部分に感染を起こしているのか考えることが大事です。表皮か真皮か筋膜まで達しているのか

 ・どういう菌が感染を起こしているのか調べるのが大事です。

  >菌によっては筋膜に親和性の高い菌種による感染があり、溶連菌や黄色ブドウ球菌、Clostridiumなどが代表的な菌種になります。

  >また、組織内に気腫を生じているものがあればそれは大きなヒントで、ガスは菌が産生する代謝産物なので腸内細菌科の細菌や嫌気性菌(特にClostridium)が出てくることが予想されます。糖尿病により組織内の糖濃度が上がっている場合にはガスの産生量は上がりますので著明になることもあります。

  >感染症の原因が明確では無い(他臓器に感染源となるものが無い)場合には溶連菌や黄色ブドウ球菌が多い。打撲や擦過傷があれば更にその可能性があがる(学生であれば部活の種類やポジションなどが大事なこともあるので聞き洩らさないように)。

 ・重症度はどの程度か考えることが大事です。壊死性筋膜炎は死亡率が高い症例なので早期に診断し治療(時には外科的切除も視野に入れる)することが必要です。LRINECスコアが6点以上であれば可能性が高いと判断することができます。

 >Type1の壊死性筋膜炎は嫌気性菌と腸内細菌科の混合感染で起こる

2 ×1000(Polymicrobial pattern)

 >Type2の壊死性筋膜炎は溶連菌や黄色ブドウ球菌が単一感染により起こる

Gbs3 ×1000(Streptococcus agalactiae)

 >壊死性筋膜炎は早く外科処置を行うことで救命率が上がる(小血管の微小血栓により虚血が進み組織壊死が早期に進行するから)。

その上で皮膚組織や浸出液が採取されればグラム染色を活用して菌種を絞りこんでいきます。

グラム染色により原因菌が絞りこめれば、その結果を参考に治療薬をも絞り込んでいきます。組織液や血液培養が陽性になればその上清みを使い抗原チェックも迅速に可能です。

Ggs×1000

急いで抗原検査に・・・・

Ggs_2

で、培養結果に

Ggs2

このような内容をCommon diseaseとともに話をしていきます。

また、研修医向けに月に1回程度グラム染色カンファレンスを開催しています。

Photo_2

学生の皆さん、良ければこういう病院で研修を受けてみませんか?お待ちしております。

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2014年12月10日 (水)

【告知】今年もやります グラム染色道場 オフ会 (実は第2回)

去年、O崎市民のSS先生より声掛けをして頂き第1回オフ会を開催しました。

・開催報告は:http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/18-6b74.html

実は今年もやることになりました。

第2回グラム染色道場 オフ会
今回はT大学のSS先生に準備頂きまして開催することになりました。

皆様、グラム染色をアテにお酒を飲みながら、臨床グラム染色推論とディスカッションを進めて行きませんか?

翌日からは第26回日本臨床微生物学会総会もあります。会場から少しだけ離れていますが在来線を使ってもそれほど時間はかからないと思います。

お酒のアテにグラム染色を診るというのは日本、いや世界でここだけと思います。
会場の都合もあり35名までしか入れませんので、興味のある方はお早目にお申し込みください。職種は問いません。グラム染色に熱い思いをぶつけたい方歓迎します。

申し込み先URL: http://wp.me/p4RrRe-1Y

当日はプレゼンターとして登場する予定ですので宜しくお願いします。

ネタはまだ内緒です。

ところで12月に入り寒くなってきました。インフルエンザも流行し始めているようです。
グラム染色液の中で特にクリスタル紫は温度の下がるこの時期にアーチファクトが良く見えます。特に、朝一に染めた時や新しい染色液を開封した時などは要注意です。
一度撹拌して(少々揺するだけで転倒混和は良くありません)から使用すると少しは緩和されます。

Photo つぶつぶの粉 こういう場所は避けて見ましょう

Photo_2 針状のもの 先が尖っている陽性桿菌は無いし大きすぎる

慣れない場合は染色液なのか菌なのか判断が難しくなります。また時間の無い時や重症例の場合など焦っている時に遭遇することは無いでしょうか?前もって準備も大事ですね。

他に良い案があればコメント下さい。

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2014年12月 1日 (月)

グラム染色でどこまで把握できるのか 先日の長野県での講演から

9月から11月にかけて色々なところ、色々な職種を対象としてグラム染色の

お話をさせて頂く機会を頂きました。

先日、長野県にお邪魔してグラム染色の有用性について話させて頂く機会がありました。
こども専門病院ということで小児で相談受けている内容をフィックスしてお話させて貰いました。

検査室でグラム染色を見る場合には直接患者さんには面会していないので依頼書に載っている情報を頼りにしながら、各々の染色結果について考えて行きます。

・患者属性(年齢、性別)
・目的菌情報
・採取部位
・患者背景

などなど。

そのうち患者属性は非常に有用な情報の一つです。

例えば、下記の喀痰グラム染色はどうでしょうか。10歳、男児の想定です。

Photo ×1000(その1)

右側には扁平上皮が見える。角張は少なく上皮の重積は多い。中央やや左にはやや立体感のある濃染した構造物がある。でんぷん質のようだ。周囲には大型のグラム陽性桿菌が混在している。グラム陽性球菌は形態からBacillus、Clostridium、Lactobacillusが疑われているが喀痰からBacillusが大量に出てくる状況は非常に少ないので、Clostridium、Lactobacillusが推定される。

2 ×1000(その2)

右下方には扁平上皮が確認される。上皮の上には常在菌と思われる菌が多数確認されている。中央には多核白血球が若干確認され周辺は炎症性物質と思われる淡紅色の物質が見られる。また中央にはスピロヘータを疑うらせん状の桿菌が多数確認され口腔内衛生状況が悪いことが考えられる。スピロヘータはグラム陰性桿菌となるが、培養では発育しない菌であり、コメントでフォローをすることも必要である(字数制限など考慮する)。

3 ×1000(その3)

中央やや右にはでんぷん質と思われる重積した構造物と大型のグラム陽性桿菌が多数確認できる。また中央部の右には酵母と思われるやや大型のグラム陽性球菌が確認される。

総合的な解釈として、でんぷん質が多く確認されClostridium、Lactobacillusのような大型桿菌に加えて酵母もある。膿性部分は非常に少なく上皮も多数占める。

報告としては上記の内容を基に下記のような解釈ができます。

・喀痰がしっかりと採取されたものであれば誤嚥性肺炎(恐らく消化液の誤嚥を含む)の可能性がある。

・胸部に異常陰影がなければ採取条件が不良であり検出菌は直接起炎菌の可能性は低くなる。誤嚥はあるが直接の起因になるかどうかはスメアでの判断は難しい。

と判断できると思います。

繰り返し書きますが10歳、男児のみの情報であればこのグラム染色所見は少し変な感じがします。そこで、スメアの状況についての説明を状況にマッチングさせるため主治医に確認すると、主治医と同じ意見(胸部に異常所見は無く、誤嚥性肺炎の可能性は低い)となりました。先天性疾患で他院で経過観察中で胃に経管栄養を施行中の患者であったのですが、急に嘔吐と発熱をきたし来院。一応当初は肺炎も疑い喀痰を出したようですが肺炎はこの時点で否定的となりました。同時に検出菌があれば感受性が必要な菌種についての情報を貰い翌日培養結果との照合に繋げています。

当日は沢山の方々が聞きに来て頂きましたが、フロアより「誤嚥性肺炎の判断はどのようにしているか?」と聞かれ以前の話題に触れました。

http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-0c2f.html

最終的には喀痰の採取が上手くいくこと、唾液が多くてもいかにして膿の部分を採取してスメアを作成するのかについて話をさせて頂きましたが、この辺りは伝えるのが難しいのでどこまで伝わったのかは確認できませんでした。

やはり検査室でもしっかりとスメアを作成することは重要です。

長野県でお世話になりましたK先生、O先生ありがとうございました。
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今年はもうグラム染色についてお話する機会はありません。次は臨床微生物学会のベーシックレクチャーを担当させて頂きます。3月は島根県にお伺いします。
皆様宜しくお願いします。

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