第20回神戸グラム染色カンファレンス終了
先日、第20回神戸グラム染色カンファレンスが盛会のうちに終了しました。
今回は過去最大?で96名の方々に参加して頂きました。
回数を重ねるごとに医師の数が増えているように思いますし、研修医や医学生の参加も増えてきました。これも感染症診療におけるグラム染色の位置づけが高くなったためと思います。
さて、今回は以下の2題の発表でした。
①偽物バッグにご用心
急性中耳炎のため医療機関を受診した5歳児。鼓膜内部に液貯留を認め鼓膜切開したところグラム陰性桿菌が検出されました。生後半年で海外に移住したためHibワクチン未接種の患者です。
×1000 小さいのです
グラム陰性桿菌と言いましても短桿菌という所見。そこで何を考えるのか?という設問です。

グラム陰性桿菌と言いましても短桿菌という所見。そこで何を考えるのか?という設問です。
追加で情報を加えると、既往歴では慢性中耳炎も鼓膜換気チューブの留置もありません。鼓膜内部は混濁していますが発赤は強くありません。外耳は少し腫脹はありますがどちらかと言えば内耳からの波及の可能性があります。頭部CTでは乳突蜂巣にはエアがあり乳突蜂巣炎は否定的です。動物飼育歴はありませんが1ヶ月前に隣人が飼育しているカメの甲羅を1度だけ掃除した。
痛みからは菌種は分かりませんし、Hibワクチン未接種の5歳児。中耳炎を疑う。
痛みからは菌種は分かりませんし、Hibワクチン未接種の5歳児。中耳炎を疑う。
What's your diagnosis? 病態は?初期抗菌薬は?
恐らく皆さん、H. influenzaeによる急性中耳炎を想定すると思いますが・・・
まさかのPasteurella?
初期治療はABPC/SBTかCTRXで開始でしょう。
結果:何と! P. aeruginosaが発育してきました。
当然、ラボではこんな感じでした。
まあ仕方ありません。と言ってはいけませんが。
日本の小児中耳炎のガイドラインに記載がありますが、緑膿菌の市中感染例は0.5%とレア。緑膿菌の中耳炎は前述したように慢性中耳炎や鼓膜喚起チューブ留置者に多く検出されます。まあ通常はこんなのがみえますので鑑別は可能です(いつも当院では推定菌を返して外すうことはありません)。
Hibワクチンのワクチン歴につられて緑膿菌が鑑別に上がっていなかった。
菌だけをじっくり見て報告をしましょうという教訓でした。
偽物→Pseudo、バッグ→bug とコピー商品を掛けたタイトルでした(意外にうけませんでした)。
②発熱、咽頭痛を主訴に受信した66歳男性(少しうろ覚えです)
透析患者で咽頭痛があり、日に日に下顎の部分が腫脹してきたという症例。LVFXが初期投与されるも改善無く、喉頭鏡でも、咽頭に血腫は認めるが喉頭蓋炎は無く咽後膿瘍や扁桃周囲膿瘍を疑いフォローしていた。
ある日症状が悪化して緊急手術。切開排膿のスメアでグラム陰性桿菌が検出された。
菌は大小と多形成ですが染色性は悪く嫌気性菌を疑う所見。まさかの緑膿菌の連続か?という期待もありましたが、検出菌はPrevotella/Porphyomonas(現在はPigmentedもあり)感染症(Prevotella melaninogensca)。中縦隔にも膿瘍形成があり深頚部膿瘍+中縦隔膿瘍という重症感染症でした。
教訓としては検体は大量に出たが、嫌気容器への採取がなされていないで綿棒採取で少量のみであった。そのためスメアや培養に影響が出る可能性がある。綿球は嫌気性菌には悪影響であり嫌気ポーターなどに採取が望ましい。出来れば手術前に検査室と採取容器について相談することが望ましい。
嫌気性菌と言えども最近はCLDM耐性株が問題になる。第一選択薬は教科書的にはペニシリン/βラクタマーゼ阻害剤配合 が使われる機会が多い。Bacteroidesなどを除き殆どはABPC/SBTが感受性となる。GNRの場合はβラクタマーゼ産生菌も存在しABPC単剤では少し不安なこともある。ただしMEPMについては複数菌感染を除き初期治療で使う機会は少ないようである。
今回膿瘍ができた経緯については明らかにはなっていませんでしたが勝手に推論。
透析患者なのでヘパリンを使用していた→感染症が疑われるためLVFXを投与した→広範囲の腸内細菌は死滅→ビタミンK不足→凝固能の低下→血腫ができた→嫌気性菌が血腫内感染を起こした→膿瘍化した→降下性病変にて縦隔炎を起こした。
キノロンは凝固時間が延長している患者に投与するとたまに皮下血腫を起こしますよね。腹直筋膿瘍は良く知られていると思います。また嫌気性菌は苦手としている菌種の一つなので覚えておくことが必要です。
また今回はPrevotella/Porphyomonas(現在はPigmentedもあり)の感染症。微生物検査では集落にUVランプを当ててみるとFusobacteriumやBacteroidesとの鑑別が早いことが知られています。ルチンでされていないところもあり、UVランプがあれば直ぐに鑑別できます。一度暗室で当ててみましょう。非常に良い発表でしたね。
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