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2014年8月 5日 (火)

Campylobacter見つけ隊

ブログ更新が滞っておりまして読者の皆様にはご迷惑おかけしております。

猛暑があり、大雨がありと日本の気候は日々変動が多いです。
皆様、体調には十分気を付けてお過ごしください。

さて、今回は先日の臨床微生物迅速診断研究会で報告した内容をfixさせて話をしていきます。

グラム染色所見を確認する上で菌の形態的特徴を掴むことは菌種推定には欠かせないと思います。中でも、らせん桿菌はその形状が良く解り、グラム染色初心者でも菌種推定が容易な菌の一つと思います。

らせん桿菌で思いつくのがCampylobacterですが、ヒトに感染し発症するCampylobacterではCampylobacter jejuniが有名ですね。Campylobacter腸炎は日本の食中毒を起こす菌の中では1番多い菌です。この菌は鶏肉や牛肉、ミルクなどの生食を介して感染する菌です。鶏肉の汚染度を調べたところ80%以上汚染されていたという報告もあり、しっかりと加熱をして食べることが食中毒の防止になりますね。また、鶏肉を食べていない場合でも、一緒に調理した鶏肉を下処理したまな板は洗ったかとか、焼く前の菜箸を使いまわししなかったのかなど聞くことも診断価値を上げるためのコツかもしれません。やはり問診は大事です。
(http://www.nhs.uk/Conditions/Food-poisoning/Pages/Causes.aspx)。

経験上、Campylobacterは急性心筋炎を起こすこともあり、Campylobacter腸炎後3-5日で胸痛出現した場合は少し鑑別に上げても良いと思います。これはまた後日まとめて公開します(JACC Vol. 59, No. 9, 2012,Update on Myocarditis February 28, 2012:779–92など)。

さて、便の塗抹でCampylobacter腸炎を診断できるのか?ということを調べました。
当院で4500件あまりの外来患者さんの便を調べたところCampylobacterが3%ほど培養で分離されました。たった3%なので有用性の高い検査かどうか問われると、もともこもないですが、まあらせん桿菌が見えた場合に診断可能だと思い集計をしました。

培養で分離された検体について調べるとグラム染色でCampylobacterが確認されたのは45%程度。年齢構成で調べると小児と成人では差はありませんでした。感度と特異度を算出したところ、感度44%、特異度99%、PPV86%、NPV98%でした。感度は低めですが、特異度が高くCampylobacterが見えた場合は診断価値が高い検査であることは解りました。これは各報告を見てみると同じような結果でしたので特に話題性は無いかもしれませんが平均的なものであることが解りました。Campylobacterは後染色にはサフラニンを用いるよりフクシン(パイフェル)を用いる方が見やすいです。

2 便のグラム染色で見えたCampylobacter(12時の方向)

これでは少し物足りないので、便中の白血球数も一緒に考えました。Campylobacter腸炎の場合は病理学的にも白血球が出現しやすい状態ですので、白血球の出現頻度について考察しました。白血球出現率は63%と菌を見つけるより高い感度で診断できるのが解りました。これは小児より成人の方が多く見られました。ただし、便中に白血球が多く出現する腸炎の市中感染の起炎菌としてShigella、Salmonella、EHECなどがあります。そのため特異度は高いとは言えません。
(Pathology (August 2004) 36(4), pp. 343–344,Clinical Infectious Diseases 2001; 32:331–50)

500 便中に白血球が多数出てきます

これをどう使うのか?ですが。潜伏期間と便中白血球にらせん桿菌の確認を加えることでCampylobacter腸炎の診断に役立つことが解りました。外来で発熱を伴う下痢症の患者で潜伏期間は3-7日の間、便のグラム染色で白血球が多く見えた場合は、もう気持ちMAXでCampylobacterを探し、らせん桿菌が見えればCampylobacter腸炎は確定的となります。

ただし、ヒトから分離されるらせん桿菌は色々報告があります。

例えば、Helicobacter cinaedii(らせん回数が多いが4つ程度。主に血液から分離されることが多い)
Photo_2 F中病院のHさんからお借りしました

Brachyspira pilosicoli(らせん回数がかなり多く、長い。たまに血液から分離される。)

Photo_3 M病院のTさんからお借りしました

などがありますので、らせんの回数や集族しているかどうかの鑑別ポイントをしっかり押さえる必要があります。

困った例ではヒトに常在するCampylobacterが検出される場合があること(JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY, Feb. 2005, p. 585–588)。Campylobacterはjejuniだけで無いのでしっかりと同定が必要です。

2_2 真中のらせん桿菌(Campylobacter curvus)

便からCampylobacterが分離されることが少ない施設ではグラム染色自体全くしないという施設もあると思いますが症例を絞ってしてみるのは良いPracticeを産むきっかけになるのでは無いでしょうかね。皆さんの施設でもCampylobacter見つけ隊を結成してみてはどうですか。

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コメント

 高知で無床診療所をしています。Campylo見つけ隊の当院隊長を務めています。一人隊長です。
 事前確立を上げるためには、かなり入念に食事歴,調理の仕方,食材を切った包丁のこと,焼く時の箸のことなどなど、事細かに聞く必要がありますが、“見つけ隊”の使命としては、「このウンコから、カンピロバクターを見つけて見せる!」という執念に駆られていますので、問診自体は苦ではありません。
 便中白血球まで出ていて、熱もあり、10回以上の下痢もあり、食事歴でも怪しく、グラム染色をしたら、大抵見つかります。見つけた時は、あのウンコの中のたくさんの種々雑多の細菌菌体の形態の中で、あのほっそりした、クニクニッとしたGull-wing型を見つけた時には、まるで、“満天の星空の中から、探し求めていた一つの星”を見つけたような、あるいは、“鳥取砂丘の砂の丘の中で、砂粒を見続けていて見つけた、一粒の砂金”みたいな嬉しい気持に駆られます。砂金・・・金違いで、菌のほうなのですが・・・
 感度と特異度は90%ほどでした。ただし、事前確立を挙げているからです。
 ここ最近、試みているのは、下痢の頻度はさほどでもなく、食事摂取歴も少し怪しいけれど、症状があまり重くなく、熱も出ていない症例。グラム染色では白血球は見えず、眼を皿のようにして探し回ってもCampyloは見つけられない。しかし、経過的には非常に怪しい・・・という人には、「Campyloかもしれないけど、菌は見つけられなかった。非常に怪しいので、培養で確認します。でも、もしそうでも軽症だから、抗菌薬なしで行きましょう。ビオフェルミンのみで。もし、ひどくなって来たり熱が高くなってくるならまた来てくださいね。培養結果が出たら連絡します。」という形で診療をしています。そうすると、立て続けに5例くらい、Campylo陽性で培養が帰ってきました。もう一度保存した標本を必死で探してみますが、やっぱり見つけられません。本人に電話をして事情を話して、症状はどうかを聞くと、皆、その後すんなりよくなった、という人ばかりでした。一応、ギランバレーの話をもう一度話して、変わったことがあったらすぐに相談してね、としています。
 便中白血球の出ていない程度で、鏡検でも探しても見つからない時は、たとえそれが見逃したCampylo症例であっても、菌量の非常に少ない方なので、抗菌薬なしでも改善しているようです。
 長々とすみません。“Campylo見つけ隊”の魅惑的な言葉に、ついつい飛びついて、ここ最近の出来事を報告しました。

投稿: 三省 | 2014年8月 8日 (金) 19時05分

迅速診断研究会のご発表を拝聴しました.
「白血球出現率は63%と菌を見つけるより高い感度で診断できる」
という内容を聞き,Campylobacter以外の症例では白血球の出現はどうなのか,と後になってから質問させていただきたくなりました.Campylobacterに限った話ではないとのこと,勉強になります.
うちは全例は塗抹を見てはいませんが,外来で腸炎疑いの場合,入院でC.dificile疑いのときは必ず確認しています.Campylobacterは年に数例しか分離されない状況ですが,具体的な感度・特異度を示してくださったので,今後もしっかりと見ていきたいと思います.

投稿: Kei | 2014年8月11日 (月) 07時52分

三省様 ご無沙汰しております。Campylobacter見つけ隊隊長お疲れ様です。検査前確率を高めて行くと感度はかなり高くなりますね。検査前確立マックスの時は塗抹を早く見てほしいという要望があります。多くが鶏肉の生食歴ですね。しかし、生食だけでなく、鶏肉の喫食歴自体がリスクになるので、焼き方は非常に必要な情報の一つです。
基本的に治療が必要かどうかは微妙で整腸剤だけで治ることもありますが、2-3週間の長期に渡り下痢をすることも見られますので宿主の状態で対応しています。
市中病院ではCampylobacterの分離率も高く、塗抹は重宝しますね。

投稿: 師範手前 | 2014年8月11日 (月) 19時40分

Kei様 ご無沙汰しております。
ご存知の通り、白血球が便中に出やすい菌種はありますよね。Campylobacter以外だとShigella、Salmonella、EHEC、Yersinia、C. difficileなどです。白血球の感度については以下の通りです。(Clinical Infectious Diseases 2001; 32:331–50)

・Salmonella 11-82%
・Shigella 85-95%
・EHEC 42-65%
・CD 28-40%

Shigellaに関しては感度95%、特異度85%という驚異の論文もあります。(Am. J. Trop. Med. Hyg., 28(6), 1979, pp. 1031-1035)

当院では白血球の有無をしっかり確認するようにしています。データは未だ取っていません。
腸炎だとしたら原因菌の種類を絞り、培養結果の参考データにする。感染性胃腸炎以外の疾患を絞り込む(例えば潰瘍性腸炎や虚血性腸炎の診断に使います)。

潰瘍性腸炎の場合はCF前ですが非常に高率で診断できると思います。

いつも視覚的な情報を数値に残すようにしていますので、今回もその一環です。大学病院の方や古くから微生物をしていた諸先輩にとっては関係無い話なので詰まらない思いをさせてしまい申し訳無かった感が強いですが、市中病院でしか出せないデータなのでその辺はご理解を宜しくお願いします。

投稿: 師範手前 | 2014年8月11日 (月) 19時52分

師範手前様
 こちらこそ、ご無沙汰いたしております。ちょうど、昨日Campylo症例の妊婦さんに行きあたって、ちょっとどうするかを迷いましたので、IDATENに相談メールを出しました。
 今度、師範手前様は高知にいらっしゃる予定ですね。このブログで案内を拝見してから、速攻で参加申し込みを出しました。師範手前様のお話を拝聴したく、それが最大の目的の参加です。よろしくお願い申し上げます。お会いできるのを楽しみにしております。

投稿: 三省 | 2014年8月12日 (火) 15時33分

三省さま

産婦人科より相談を受けることが多く、妊婦や褥婦に起こる感染症で治療が必要な場合は色々と調べます。記載していない第一選択薬もあり選択が難しいですね。

妊婦でクラミジア感染症がある場合はAZMが推奨されているので、以前マイコプラズマ肺炎についてはAZMで治療した経緯もありますね。

専門の薬剤師さんが居ない場合は情報収集が難しいので大変ですが頑張ってください。

高知ですが次月に伺います。ごく簡単な初級者向けのグラム染色像です。菌以外の染色所見も少し話をします。
宜しくお願いします。

投稿: 師範手前 | 2014年8月12日 (火) 21時49分

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