« 2014年6月 | トップページ | 2014年8月 »

2014年7月16日 (水)

平成26年度兵庫県臨床検査技師会 微生物検査研修会 終わり

昨年に続き地元で講演する機会を頂きました。

昨年は初級者からベテランまで幅広く網羅する内容でしたが、今回は初級者のみを対象として菌の分別を中心に話をしていきました。
最近は世代の移り変わりもあり、自分が班長をしていた時代とはメンバーも様変わりしてきました。細菌検査をする上で必要なのは、スキルや機器も必要ですが最も大切なのは経験です。実際、遭遇したことが無い菌種と対面した時は本当に解らないことが多いと思います。

幸い、当院は検体数も年々増加してきて市中病院ですが年間約20,000件(血液培養抜き)処理をしています。そのためか色々な症例に出会います。昨日は色々とグラム染色像を交えながら、鑑別時のコツやスナップショットツールとして使っている患者さんの情報の取り方についても推論を交えて細かく解説していきました。あっという間の2時間でした。

グラム染色は現在61点の保険点数が付いています。平成20年度の保険点数改訂では20点でしたが今や約3倍の保険点数になっています。平成26年度も消費税率アップにも関わらずグラム染色の点数はアップしました。これは熟練した高い技術が評価された結果と言われています。今は呼吸感染症のガイドラインにもグラム染色について細かく記載されるようになりました。

Photo
グラム染色は高い機器も必要ありませんので、どこの病院でもスペースさえあれば可能です。試薬代も安く、複数菌であっても菌種推定は可能ですし、複数人で情報共有化することも可能です。一種のコミュニケーションツールにもなっています。

まあ、TV番組に例えて言えば、ママチャリで疾走する桐谷さんのようでは無いかと思っています。安価でフレキシブルに、全力で駆け抜けて目的を果たすような感じです。高い高級車で疾走しても渋滞すると自転車の方が速かったりしますよね(昨日は桐谷さんを引き合いに出しどん引きに会いましたが)。

Kiritanihiroto04
グラム染色は細菌検査や治療方針のある方向性を示すことができるツール(武器?)であるため丁寧に解釈すると非常に有効活用ができます。

ただし、グラム染色で微生物を絞り込むことはある程度可能ですが限界もありますし、当然外れることもあります。期待通りの結果にならないこともあります。

Photo_3 当然、当たれば快感ですが・・・

Photo_2 期待通りの結果が出ないこともあります。

あくまでも推論であり、当たりくじではありませんのでその辺を厳粛に解釈することも考えないといけない場面も多いと思います。特に、臨床現場に出向く機会の少ないラボの人間では当たり前のことですので、出来る限り臨床現場に介入することが肝要です。グラム染色をきっかけにすることも一つの案でしょう。

推論を高めるためには菌の分別をより確実なものにする必要があります。イレギュラーな染色に遭遇してもそれが鑑別できれば、より良いものになると思います。

1  2_2
例えばStreptococcus pyogenes(A群溶連菌)ですが、教科書的にはレンサ状のグラム陽性球菌と記載がありますが、陰性に見えることは無いでしょうか(下段写真の右上)?膿瘍形成を起こした材料では染色像が上手くでないこともあり、赤い球菌で確認される場合があります。レンサ状?と思いきや材料の直接グラム染色では単体もしくはペアで観察される菌として確認されることがあります。良くアトラスなどで溶連菌として紹介される写真は血液培養などリッチな環境で発育した菌の染色像で、それが皆さんの脳裏にイメージ化されている可能性もあります。非日常的な出来事は衝撃であると同時に自分自身の無力さが解ります。1例目では鑑別ができなくでも、2例目以降はしっかり捉えられるように修練を惜しまず学ぶことは必要でしょう。また、そのためには自分の見た染色像と培養結果を照合して次に繋げることも大切です。

2
昨日は教科書にも載らないようなスライドを多く使用しましたので重宝すると思います。

また何か解らないことがあれば質問頂ければ幸いです。

人間は考える葦である(by パスカル)
良く言ったものですね。

Pascal

| | コメント (0)

2014年7月11日 (金)

第19回神戸グラム染色カンファレンスが終わりました

第19回神戸グラム染色カンファレンスが終わりました。台風が来ている最中(本当に来ていたのかというくらい天候は穏やかでしたが・・・)約80名の方が集まり有意義なディスカッションが出来ました。

昨日のサマリーを記載します。

症例1:急激な背部痛

発表:神戸市立医療センター西市民病院 総合内科 井上先生と検査部の方

68才、女性。夜間にテレビを観賞中突然の悪寒と腰痛が出現した。
既往歴はAF、梅毒。

痛みは進行し、受診時には左背部から前胸部までの圧痛を認めるようになっていた。胸腹部CTでは大動脈解離は認めず。潜血反応は陽性であるが水腎は認めない。TTEではIEを積極的に疑う所見は無い。痛みはC5-6で強い。造影MRIでも特に異常所見を認めなかった。

入院時に採血した血液培養が陽性になり、好気および嫌気ともに2セット陽性となりGNRが検出された。

ディスカッションタイム(当テーブルを中心に記載)
感染臓器、推定菌、初期抗菌薬:明確な所見が無く、GNRの感染がある。管系の臓器であることが多いGNRであるとSalmonellaの動脈瘤は可能性として上がる。GNRは短桿菌で年齢を考慮するとHaemophilusも可能性がある。圧痛があり筋炎も考えられGNRとなるとPasteurellaも可能性として上がる。敗血症性塞栓症もあるかも。肋間神経痛も併せて無かったのか、例えば椎体炎、硬膜外膿瘍など。抗菌薬については菌種が不明であるがE. coliのESBLも押さえておきたいのでMEPMも必要か?
体動時に痛みが増強しているが歩行は可能。

経過
GNRは血液寒天培地、チョコレート寒天培地には灰白色のS型集落。マッコンキー寒天培地、CA血液寒天培地には発育を認めず。オキシダーゼ陽性、カタラーゼ未実施。7日目に造影MRIを撮り直しすると頸椎に硬膜外膿瘍あり。

診断
Pasteurella multocidaによる頸椎硬膜外膿瘍。
ペニシリンで加療し奏功した。

フロアディスカッション
・animal contactとして犬を飼っている。犬は良くあま噛みをしてくる。退院時には犬との濃厚接触を避けて欲しいことを伝えるが、たぶん難しい。
・入院日に造影MRIで見つからないが、何日程度あれば見つかってくるか?
・グラム陰性桿菌でPasteurellaと見抜くコツは?→たぶん難しいが、短桿菌であり腸内細菌や非発酵GNRとの鑑別は可能かと。Haemophilusと比べてやや長い。患者背景は大事。→良い忘れ:腸内細菌の場合は菌の両端が濃く染まることが多く鑑別は可能だろう。
・脊椎硬膜外膿瘍は非常に稀。発熱と背部痛を主訴とすることが多い。症状は全て揃うことは無いことがあるので注意。
・市中発症はS. aureusが最多。人工物留置、術後も多い。
・麻痺性病変が出てくると手術適用になるが、無い場合は内科的治療でも可能。
・問診が大事。


症例2:ありのままじゃダメ ~冷静と情熱の間~

発表:神戸大学感染症内科 浅川先生、検査部 楠木先生

50才台、男性。右母指受傷後に蜂窩織炎となる。近医受診?し加療をするが半年程度も改善が無い、むしろ手背や前腕、肘にかけて腫瘤性病変が出てきた。
既往歴:38才潰瘍性大腸炎、41才大腸亜全的。PSLにて半年加療、ST服用あり。
職業歴:トラック運転手。
近医では腫瘤部の生検を実施、抗酸菌陰性、真菌陰性。PCRでTB、MACは陰性。
病理で肉芽腫はあり(類上皮肉芽腫やラングハンス巨細胞はないようだ)。

ディスカッションタイム(当テーブルを中心に記載)
追加問診:ペットの飼育歴→なし。トラックの荷類は?→不明(冷凍食品か、魚介類の搬送か、木片の搬送かでも変わる。魚介類の搬送については会社の規模や搬送用の容器でも受傷程度が違う。木の場合は刺さりやすい。)

鑑別疾患(感染症のみ)
真菌:Cryotococcus
細菌:Nocardia、Acinomyces
抗酸菌:TB、NTM(特にM. marinum、M. abscessusなど)
経過:再度生検したところ抗酸菌染色で陽性。PCRでTBとMACは陰性。
M. marinumを疑い低温培養実施→発育あり。光発色試験陽性、DDHにてM. marinumと同定。

診断:M. marimumによる皮膚感染症
INH+EB+CAMにて治癒。
実は釣りが趣味で良く海釣りに出かけていたことが判明。

・水曝露はこの菌による感染性が高い。魚とのかかわりのある仕事が多い。特に前腕が多い。
・腫瘤の外観からは菌種の鑑別が出来ないので菌検査は大事。特にスポロトリコーシスとの鑑別は殆ど難しい。
・M. marumimは発育至適温度が30℃付近。37℃では発育しにくい。培養には低温培養が必要。室温でも可能。そのため医師はこの菌を疑う場合はしっかりコメントを記載しないと漏れる可能性が高い。抗酸菌塗抹陽性となる可能性が低い。高くても10%程度。
・皮膚抗酸菌症で低温がキーになるのはM. marimum、M. haemophilum、M. abscessus、M. ulcerans。M. ulceransについてはM. marinumとの遺伝子相同性が高くDDHでは区別が出来ない。そのため光発色試験が大事。
・低温を好むので体表や骨などの体温が低い臓器での感染例が多い。特に中枢性の臓器である肺や消化器臓器では感染例が殆どないが、肺病変がある症例報告が増えている(日本でも報告がある)。
・感受性はCAMがキードラッグであるが、CAMの感受性を指定しなければ適切な感受性結果が返ってこない。感受性の方法も変わってくるので院内ラボや外部委託業者に必ず方法を確認する。しっかりとラボとのコミュニケーションを取ることが肝要。

浅川先生は画像にも情熱を注いでおられ感動しました。
次回は2014年11月13日(木曜日)19:00~ 

結構遠方からも来られておりましたので次回も広く案内をしたいと思います。
お時間のある方は参加下さい。

手持ちのものですが、P. multocidaとM. marinum
今回のケースとは別物です。
1 ×1000 P. multocida 膿汁

2 ×1000 P. multocida 血液培養

2_2 ×500 M marinum 喀痰

| | コメント (0)

« 2014年6月 | トップページ | 2014年8月 »