抗生剤投与後のグラム染色像
医療の発展とともに抗菌薬も使いやすくなってきました。
感染症診療において、疾患となる臓器、病原微生物の特定とそれに適した抗菌薬を選択することは重要なテーマである。また、選択する抗菌薬は出来るだけNarrowで安価であることが理想的でしょう。
グラム染色は全ての微生物の検出は不可能であるが、対象臓器や疾患によっては出来るだけNarrowに抗生剤を選択できる可能性の幅を拡げてくれていると思います。
色々な教科書でもグラム染色で確認できる微生物の典型的な像が載っていますが、多くは抗生剤投与が無い状態での像が載せてあると思います。
しかし、日常ルチンをしている中では、色々な事情で抗菌薬が投与された後で材料採取される状況はあります。処置をする前に抗菌薬を前投与される場合、院内に微生物検査室が無いのでempricに抗生剤を投与した後に転院依頼があった場合、対象微生物が推定されているため適した(と思われる)抗生剤を投与したが経過が芳しくない・・・など。
患者情報は全く無い状態でグラム染色を見ると「これ何か抗生剤入ったの?」と思われる、菌が変形しているのを見ることがあります。今回は、抗生剤を投与した後にはどのような像が見えるのか写真を集めてみました。
1.腹腔内投与でMEPMが投与されている。
カルバペネムはグラム陰性桿菌のPBPに作用して菌体を球状化(一部延伸)するため感受性のグラム陰性桿菌は菌体が変形して見える。
2.医療ケア関連肺炎でPIPC/TAZが投与されている(検出菌E. coli not ESBL)。
1.と同じであるがペニシリン系抗菌薬は菌を延伸して不活化するので菌が長く伸びた状態で確認ができる。
3.誤嚥性肺炎でABPC/SBTが投与されている(検出菌E. coli not ESBL)。
2.と同じで菌が延伸するが、作用の初期は菌体は一部膨化(PBP作用部位が変化するので)するので抗菌薬の投与、特にペニシリンやセフェムが投与されたことが推測される。
4.急性腎盂腎炎でLVFXが投与されている(検出菌E. coli LVFX感受性)。
核酸合成阻害であるキノロン系抗菌薬ではグラム陰性桿菌はDNAの折りたたみが出来ず菌が延伸化する。尿の場合は元々菌が伸びた状態で確認されることもあるが、キノロンの場合は非常に長いものが確認される。
5.化膿性脊椎炎でCEZが投与されている(検出菌MSSA)。
グラム陽性球菌の場合は細胞内圧が高く、β-ラクタム(細胞壁合成阻害)作用後は細胞壁に作用して菌が膨らみ大きくなるものも見られるが、グラム陰性桿菌ほど現象は確認できない。
6.腹腔内膿瘍でMCFGが投与されている(検出菌C. albicans)。
抗真菌薬の中でもMCFGは細胞壁合成阻害(β-グルカン合成阻害)に作用しているので使用すると菌は膨化する。通常、菌が同一の場合は同じ大きさだが、このスメアでは菌体の大きさが不揃いであるため抗真菌薬の投与が推測される。
最後に、治療効果の判定材料にも用いることができることがある。
使用している抗生剤に感受性があっても、宿主の状況変化は緩やかに進むこともあり、感受性結果が待てないというセッカチなあなたは時間が経ってから再度グラム染色をすることで確認ができるのでやってみましょう。
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コメント
師範手前様
抗菌薬の影響で、菌の延伸や変形はよく経験します。その場合、使用中の抗菌薬は効果がある?少なからず生き延びて治療の反応が悪い原因となる?どう判断されますか?
投稿: ゆうがぱぱ | 2014年5月21日 (水) 18時52分
ゆうがぱぱ様
難しい問題ですね。
個人的には感受性と判断して良いと思います。
耐性の菌は本当に変化無いので。
ただし、感受性でも抗菌薬の移行が悪い臓器や膿瘍の場合は菌が変形して見えるので感受性ですが、膿瘍を出さないと効果悪いですよってカルテ上でコメントします。
抗菌薬投与して数時間後の菌体変化は経過が良いこともあり重症度や経過を見ながらあとは調整しております。
投稿: 師範手前 | 2014年5月22日 (木) 20時29分