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2014年5月30日 (金)

HICA医療関連感染防止セミナー2014年 in 高知

今回、高知のM先生の計らいもあり「HICA医療関連感染防止セミナー2014年 in 高知」のお手伝いをさせて頂くことになりました。私もSNSで数年前からセミナーを拝見していたので行ってみたかった会の一つであります。

私は尿のグラム染色について話をさせて貰えることになりました。尿のグラム染色は簡単ですがのめり込むと難しい。また、バルーンやカテーテル留置患者ではどう解釈したら良いのか悩むことも多いでしょうが、今回はそのお話です。
以下に概要を記載しておきます。申し込みは6月からで先着200名で受付終了となります。
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HICA医療関連感染防止セミナー2014年 in 高知
日時:2014年9月13日 12:30~17:00(受付開始12:00)
場所:高知医療センター くろしおホール(高知県高知市池2125-1)
http://www2.khsc.or.jp/

参加費用:1000円(当日会場でお支払下さい)
定員:200名(先着順) 6/1から申し込み開始
申し込み先:高知高須病院運営事務局 miyoshiあっとまーくtakasuhp.or.jp
複数人で申し込まれる場合は代表者を明記して申し込み下さい。返信時には代表者へ連絡を差し上げます。
参加申し込みに必要な記載事項
施設名
住所(郵便番号も)
電話またはFAX番号
返信用の代表者のメールアドレス
参加申し込み者全員の氏名(フリガナ)と部署(職種)、懇親会出欠票
「個人情報の取り扱いについて」-以下の文面を読んで申し込んでください。
申し込みを頂きましたお名前、勤務先などの個人情報は、今回のセミナーを運営するために使用し、他の目的への使用、外部事業者への委託、第三者への提供は行いません。また、個人情報の記入は任意ですが、不足が有る場合は申し込み受付出来ない場合が発生しますので予めご了承ください。なお、個人情報の利用目的の通知、開示、訂正等並びに利用停止などに応じます。
【内容】
1.開会講演 
 北里柴三郎と浅川範彦 福岡記念病院感染制御部 向野賢治
2.シンポジウム
加算1と加算2の病院間での連携~現状と課題~
 高知大学医学部附属病院 総合診療部 武内 世生
 高知赤十字病院 ICN 宮崎 真起子
 高知医療センター 消化器外科・感染症科 福井 康雄
座長;信州大学医学部附属病院 感染制御室 金井 信一郎
3.教育講演
おじいちゃんとおばあちゃんの感染対策~療養施設と介護施設~
 大手町病院 総合診療科・感染症科 山口 征啓
座長;雪の聖母聖マリア病院 医療の質管理本部 本田 順一
4.ミニレクチャー
1)MDRPのアウトブレイクをおこさないために
 高知大学医学部附属病院 ICN 有瀬 和美
2)楽しんで読める尿のグラム染色~一菌入魂~
 西神戸医療センター 臨床検査技術部 山本 剛
座長;高知高須病院 院長 湯浅 健司
5.ワークショップ
UTI(うち)らの疑問に答えます
 チームハルン
 大手町病院 感染症内科 林 健一、寺岡記念病院 臨床検査技師 中村 和幸、高知高須病院 看護師 三好 可奈
司会;静岡がんセンター 感染症科 倉井 華子、尾道市民病院 臨床検査部 森 三郎
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鉄板ネタですが、尿のグラム染色で確認できたNeisseria gonorrhoae。女性で排尿時痛を伴わない症例です。
女性の場合は無症候性が多いのですが、男性の場合は排尿時痛が伴う。
どうしてでしょうか。
Neisseria gonorrhoaeは尿道炎を起こしますが、男性は女性に比べて尿道が長いために排尿時痛を自覚しやすいと言われています。尿道周囲が炎症で腫れるからでしょうね。
学校でもこういう風に教えてくれると解りやすい気がします。
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2014年5月16日 (金)

抗生剤投与後のグラム染色像

医療の発展とともに抗菌薬も使いやすくなってきました。

感染症診療において、疾患となる臓器、病原微生物の特定とそれに適した抗菌薬を選択することは重要なテーマである。また、選択する抗菌薬は出来るだけNarrowで安価であることが理想的でしょう。
グラム染色は全ての微生物の検出は不可能であるが、対象臓器や疾患によっては出来るだけNarrowに抗生剤を選択できる可能性の幅を拡げてくれていると思います。
色々な教科書でもグラム染色で確認できる微生物の典型的な像が載っていますが、多くは抗生剤投与が無い状態での像が載せてあると思います。
しかし、日常ルチンをしている中では、色々な事情で抗菌薬が投与された後で材料採取される状況はあります。処置をする前に抗菌薬を前投与される場合、院内に微生物検査室が無いのでempricに抗生剤を投与した後に転院依頼があった場合、対象微生物が推定されているため適した(と思われる)抗生剤を投与したが経過が芳しくない・・・など。

患者情報は全く無い状態でグラム染色を見ると「これ何か抗生剤入ったの?」と思われる、菌が変形しているのを見ることがあります。今回は、抗生剤を投与した後にはどのような像が見えるのか写真を集めてみました。

1.腹腔内投与でMEPMが投与されている。
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カルバペネムはグラム陰性桿菌のPBPに作用して菌体を球状化(一部延伸)するため感受性のグラム陰性桿菌は菌体が変形して見える。

2.医療ケア関連肺炎でPIPC/TAZが投与されている(検出菌E. coli not ESBL)。
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1.と同じであるがペニシリン系抗菌薬は菌を延伸して不活化するので菌が長く伸びた状態で確認ができる。

3.誤嚥性肺炎でABPC/SBTが投与されている(検出菌E. coli not ESBL)。
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2.と同じで菌が延伸するが、作用の初期は菌体は一部膨化(PBP作用部位が変化するので)するので抗菌薬の投与、特にペニシリンやセフェムが投与されたことが推測される。

4.急性腎盂腎炎でLVFXが投与されている(検出菌E. coli LVFX感受性)。
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核酸合成阻害であるキノロン系抗菌薬ではグラム陰性桿菌はDNAの折りたたみが出来ず菌が延伸化する。尿の場合は元々菌が伸びた状態で確認されることもあるが、キノロンの場合は非常に長いものが確認される。

5.化膿性脊椎炎でCEZが投与されている(検出菌MSSA)。
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グラム陽性球菌の場合は細胞内圧が高く、β-ラクタム(細胞壁合成阻害)作用後は細胞壁に作用して菌が膨らみ大きくなるものも見られるが、グラム陰性桿菌ほど現象は確認できない。

6.腹腔内膿瘍でMCFGが投与されている(検出菌C. albicans)。
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抗真菌薬の中でもMCFGは細胞壁合成阻害(β-グルカン合成阻害)に作用しているので使用すると菌は膨化する。通常、菌が同一の場合は同じ大きさだが、このスメアでは菌体の大きさが不揃いであるため抗真菌薬の投与が推測される。


最後に、治療効果の判定材料にも用いることができることがある。
使用している抗生剤に感受性があっても、宿主の状況変化は緩やかに進むこともあり、感受性結果が待てないというセッカチなあなたは時間が経ってから再度グラム染色をすることで確認ができるのでやってみましょう。
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2014年5月 4日 (日)

久々の稽古でござる(答え)

先日の稽古の模範解答です。
http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/post-80c6.html

菌種は以下の通りです。

Streptococcus constellatus
Fusobacterium nucleatum
Prevotella melaninogenica

好気培養で菌の発育は認めず。
よって、3菌種でした。

1)菌の推定
菌は形態的な特徴を考慮すると3つに分類できると思います。

・グラム陽性球菌
小さく、染色性は悪く(たまに陰性に染まる)、連鎖球菌である。
このことから嫌気性グラム陽性球菌の可能性が高い。

・グラム陰性桿菌
①細く、両端が尖っている、染色性が悪い(うまく染まらない)
両端が尖っている菌はF. nucleatumやCapnocytophagaが知られています。頻度としてはFusobacteriumが圧倒的に多く、検体は悪臭を伴っていることを考えるとFusobacteriumの可能性大と考えることができる。

②短く、染色性は比較的しっかりしている
太く、染色性は良い、莢膜様の染色は見られないことから、腸内細菌や嫌気性菌、Haemophilusが推定できる。Haemophilusについては部分的に見られるより、感染を起こすと菌量が極端に増えることが多いので、腸内細菌や嫌気性菌と比べると少し違うように思う。緑膿菌については医療曝露が少ないので可能性はかなり低いと考えることができる。

以上から、S. anginosus+嫌気性菌±腸内細菌と推定できる。

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2)病気の背景
膿胸の多くは肺炎に伴い発生するもの、外傷により発生するものや胸郭や縦隔の手術後などである。今回は何の医療曝露も無いので肺炎に伴う膿胸で血行性か経気道的な肺炎(誤嚥性肺炎など)から発生したものと考えることが出来る。検体は悪臭を伴うため嫌気性菌の関与が考えられ、誤嚥性肺炎や肺化膿症が起因になった膿胸の可能性を推定します。

3)抗菌薬の選択
β-ラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン、第2、第3世代セフェムで初期治療をすることが多くなります。患者の重症度や緑膿菌が検出されるリスクを考えながら抗緑膿菌作用の抗菌薬まで拡大するのか考えることがあります。今回は重症では無いようで、医療曝露は無いので抗緑膿菌作用を持つ抗菌薬は翌日の培養結果を参照しながら経過を考えます。FusobacteriumやPrevotellaを想定する菌種がグラム染色で見えているのでβ-ラクタマーゼ阻害剤を追加するのですが、ABPC/SBTで十分対応できることが予想されます(緑膿菌が出そうな場合はPIPC/TAZでも可)。セフェムを使用する場合はCLDMやMNZを追加することも検討がいるかもしれません。

治療期間については、複数菌で嫌気性菌が関与しているので、ドレナージをしたり、ドレナージ出来ない場合は胸水の量にもよりますが30日程度必要になりそうです。経口薬では用量が不足するので最初は注射薬による治療が必要です。

膿胸の場合は嫌気性菌が多く関与するので、嫌気性菌に対して活性が無い(アミノ配糖体)、または低い抗菌薬(キノロンの一部)は避ける方が良いでしょう。

膿胸の治療に対するグラム染色の位置づけは高く、鏡検する場合は菌が見えるか見えないかだけでも十分に有用な情報となる。更に、胸水中に存在する白血球は多核白血球なのかどうかコメントするとより有用な情報となる。菌が確認された場合は、菌体の特徴を掴みながら菌種推定することが出来れば良いでしょうが、出来ない場合でも、嫌気性菌を疑う菌が見えるのか、また何菌種存在するのか丁寧に見るだけでも有用な情報となるでしょう。

・肺炎を起こした場合40-60%で胸水が発生する。
・胸水が発生した5-15%で膿胸になる。
・グラム陽性球菌ではStreptococcus anginosus group,Staphylococcus aureusが多い。グラム陰性桿菌ではEscherichia coli,Klebsiella pneumoniae,Pseudomonas aeruginosa,Haemophilus influenzaeなどが多い。
・嫌気性菌は76%の症例で検出される。嫌気性菌だけの膿胸は14%認めている。
・嫌気性菌はFusobacterium、Prevotella、Peptostreptococcusなどが多い。

前述したように肺炎が原因となっていることもあり、喀痰グラム染色所見も参考になりそうですが必ずしも同じ菌種が確認できるとは限らないようです。グラム染色をせずに抗菌薬をブロードなものを選択してしまう場面もあるでしょうが、膿胸の診断治療を考えた上で、抗菌薬投与前に胸水を採取し、グラム染色をするように心がけたいものです。

引用文献
・Clinical Infectious Diseases 2005; 40:915–22
・Clinical Infectious Diseases 2005; 40:923–5
・N Engl J Med, Vol. 346, No. 25,1971-1977
・Thorax 2003;58(Suppl II):ii18–ii28
・European Journal of Cardio-thoracic Surgery 32 (2007) 422—430
・Journal of the Royal Society of Medicine Volume 87 August 1994,466-470

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