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2013年12月24日 (火)

グラム染色は病気の逆引き辞典

年始早々(1/11)に大分県に行く機会を頂きました。

http://www.oita-amt.jp/201401.pdf

グラム染色についてお話するのですが時間が限られており今回は総論や基本的な菌の形態から見た鑑別点は省略した形となります。

検出菌の臨床的意義を考察することで感染症の原因を探ることができます。これも臨床推論の一つ(?)と思い自分自身で考えられることを推測しグラム染色の所見を話することがあります。

今回は当院で行っているグラム染色所見から見た病気の中身を探る内容を話していく予定にしています。実際経験した症例から得られた知見を中心に話をしていこうと思います。

例えば、肺炎を疑い提出された下記のスライドから得られる情報は何があるでしょうか?下記は医療ケア関連肺炎の1例です。

Nhcap喀痰 ×1000

臨床医に、『何か情報くれませんかね?』と言われるとどう報告すると良いでしょうか、また分からない事を含めて医師に何を確認すると良いでしょうか。

例えば、市中肺炎の多くは肺炎球菌とインフルエンザ菌が多く見えるでしょうし、愛煙家の場合は肺炎桿菌が増える、COPDがある場合はM. catarrhalisで重症化することがあるでしょう。

しかし、このグラム染色ではそのどれも当てはまりません。しかし白血球は多く存在しますので検査材料としてはOKです。

見えてくるのがグラム陰性桿菌と陽性球菌。陰性桿菌は肺炎桿菌独特の莢膜が観察されませんし、肺炎桿菌に比べると細く長い。一方緑膿菌のような集塊形成やムコイドが著明に観察されないことが分かります。

もしここで患者情報として、施設入所者の肺炎や他院から転院してきた重症肺炎患者であったなどの情報があれば少しは解釈は楽になるでしょう。肺炎球菌やインフルエンザ菌の医療ケア関連肺炎と院内肺炎例は少なくなりグラム陰性桿菌による肺炎が増加することが多いと言われているので、見える像と臨床所見の刷り合わせをすることで病態に近づけることができるでしょう。

グラム陽性の双球菌は肺炎球菌では無いのか?と思われる方もいるでしょうが肺炎球菌の可能性は低いですねと言える情報もスメアの中には凝縮しています。この情報をどう引き出すか?が今回の主題です。

それでは皆さん宜しくお願いします。

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2013年12月 3日 (火)

グラム染色所見はいつ報告するのか。今でしょ?後でしょ?

先日、ある研修会に呼ばれてお話させて頂く機会を頂きました。初級者からベテランまで網羅する内容として基礎編から応用編までお話させて頂きました。少しその内容をシェアします。

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今年の流行語大賞が決まりました。予想通りですが林修先生の『今でしょ!』が大賞に決まりましたね。おめでとうございます。
http://singo.jiyu.co.jp/

流行語大賞に肖ろうという気はありませんが、感染症診療の支援をしていると結果報告のタイミングって分かり辛いかもしれません。検査室に居ると検体を中心に見ているために、患者の重症度が分かり難いためだろうと思います。

個人的な意見で申し訳ありませんが、私はグラム染色を見ていると重症度が何となく分かります。グラム染色所見を通じて患者さんの訴えが何となく分かるためです。当然そうでないこともありますが、少なくとも検査室で伝えた方が良いのじゃ無いかという内容は検査室内だけで判断できるものでは無く臨床医とのコミュニケーションが第一だと思っています。

私は個人的に感染症診療支援という形で感染症診療に深く携わる機会が多いのでそのタイミングを掴むのは得意な方と思います。

例えば、肺炎の場合を例にとります。

1.患者の主訴、身体所見、臨床所見を確認する。

2.画像所見で肺病変の有無を確認し、肺炎の類型を考える。

3.培養(喀痰や血液)を提出して原因菌検索をする。

4.菌検査の結果をみて治療薬を決定、または修正する。

医師は主に1.2に関わる事が多いと思いますが、検査室は3,4に関わります。

1

1,2で重症度は把握できますが、3,4では重症度が把握できません。

3.の頃には、既に医師は1,2でどういった肺炎なのか、その成因についても考察が終わっていると思います。なのでグラム染色所見を期待している方も多いのでは無いでしょうか。しかし影では原因菌は決定できない最大の欠点があります。グラム染色の活用は有意義なものになります。

2

なので、グラム染色所見はいつ報告するの? そう、今でしょ!

検査室、つまり4.で重症度を考える場合は、菌量が多い、白血球が多いなど日常から接している喀痰グラム染色とは少し違うなと思う機会に遭遇することで症状を考えることが多いのではないでしょうか。確かに肺炎を考える場合は菌量や白血球は大切な要素ですが菌種も大事になってきます。肺炎球菌の場合は肺炎に続いて敗血症や髄膜炎を起しやすいために気になる原因菌なので、重症化の少ないインフルエンザ菌が沢山見えたものより重症度が高いかもしれません。緑膿菌については院内肺炎では有名ですが、市中肺炎でも見かける原因菌の一つです。ただし基礎疾患が無い患者での市中緑膿菌肺炎に遭遇する頻度は低いので、外来で緑膿菌を確認した場合は緑膿菌と気付かないかもしれません。しかし基礎疾患が無い患者の大葉性肺炎の原因菌がグラム染色で緑膿菌と分かった場合は非常に臨床的意義が高くなります。非日常的なグラム染色所見こそ重要なメッセージが隠れているに違いありません。

白血球が非常に少ないですが、肺炎球菌が沢山見えるような症例に遭遇した場合は非常に緊急性が高いかもしれません。末梢の白血球数が非常にに少ない患者かもしれないので血液検査データを見たり、肺の胸部写真を見たりするのも良いかもしれません。

気になればコメントです。電話でコミュニケーションを図るのも良いでしょうし、中々話難い場合はグラム染色所見のコメントでフォローすれば良いでしょう。

肺炎球菌を疑う菌が多数確認されます。

・白血球が非常に少ないですが肺炎球菌を疑う菌が確認されます。

02×1000(喀痰)

など。

肺炎球菌は分かりやすいですが、緑膿菌の判断は難しいと思います。

推定菌を絞り難い場合は、類似菌を含めて報告するか、今ハッキリしたことは言えないが後どのくらいの時間で原因菌が推定可能が、タイミングを明示してあげるのも良いと思います。

今でしょ!、後でしょ! 少し使い分けするのも検査室のテクニックかもしれません。

 

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