ムコイド型の肺炎球菌はどう思いますか
ムコイドに執着している訳ではありませんがムコイドが話題に上ることが多いです。というのは病原因子の一つとして知られている莢膜の存在は軽視してはいけないからです。
莢膜は菌によって成分が違います。
S. pyogenesはヒアルロン酸が、肺炎桿菌はグルクロン酸が主成分で、肺炎球菌はCポリサッカライドが主成分になります。
莢膜は菌体の多糖体とは異なる抗原を有しているのでので、菌体以外の抗体産生を促し、菌の貪食回避機能として働くのではないかと言われています。なるほど、賢いですね。出来ればその隠れ蓑的な忍術を教えて欲しいです。
肺炎球菌をグラム染色所見で探す場合は、莢膜も同時に探すことで推定を可能にしていると思います。莢膜は菌周囲が抜けて見えるものと教えられているので、それを目印に探していっていると思います。
ムコイド型はどうでしょうか?抜けて見えるでしょうか。
答えは『いいえ』です。
血液培養ではこのように見えます。
ムコイド型の肺炎球菌は菌周囲が赤く見えますので、何気なく見ている場合は見落とす可能性があります。ムコイド型は血液寒天上では中央が陥没した典型的な肺炎球菌の集落性状は無く、かなり大きめのムコイド様集落を形成します。
3型の血清型は7価の肺炎球菌ワクチンには入っていないので小児に対しては防御は出来ない形になっています。この血清型は成人からの分離例が多く、成人の23価ワクチンには入っています。小児も次回の13価ワクチンではカバー出来るようなので早く導入を希望します。また、3型は中耳炎を良く起こすことが知られていますね。(BMC Pediatrics 2009, 9:52)
当院のデータですが、肺炎球菌は小児のワクチンが定期接種化されてからですが、血液や髄液から肺炎球菌が検出される機会が減りました。また、傾向をみていると7価に入っているワクチン株の検出がグーンと減りました。しかし、肺炎球菌の菌血症は定期的に出てきます。出てくるのは非ワクチン株が多く、これは今のところワクチンでは防げない状況です。だからと言ってワクチンは良く無いという意味ではありません。検出頻度の高い、侵襲株と言われている血清型の感染症が減った訳ですので、これからも接種は勧めて良いものです。(これは他の研究者のデータ:IASR Vol. 34 p. 64-66: 2013年3月号)
特に集団保育をすると肺炎球菌の保菌者が増えることは知られていますので、集団保育を考えている場合は早めにワクチンを接種してあげましょう。(感染症誌 86: 7~12, 2012)
未来のある子供に対し、私たちが今出来ることを最善に考えて行きたいですね。
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コメント
いつも拝見させて頂いてます
血液培養などから、菌体周りがピンクに染まる菌が見えると
注意するようにしています。ただ、医師へどのように報告したら良いのか悩んでいます。
投稿: おか | 2013年6月23日 (日) 16時11分
おか様、返事遅くなってしまいました。
肺炎球菌に関してはムコイドが非ムコイドかを分けて報告することは、肺炎桿菌とは違いあまり大きな意味はありません。
ただし、中耳炎の時に見えたムコイド株で中耳炎が治り難い(ムコースズ中耳炎)ことや、血液培養陽性に成り易いことは知られているようです。
あと、ムコイド株はペニシリン感受性菌が多いことが知られていることもありますので、MICがそれほど高くないことが予測されるということは伝えることが多いです。
最後に、ムコイド株は小児では検出されにくいので、小児で見かけたら周囲に中耳炎の成人が居ないかどうかは綿密に聞くよういしております。
前述した肺炎桿菌については合併症が多いので、肺膿瘍、眼内炎、脳膿瘍などの合併症が起きないか注意して見るようにしています。
答えになっているでしょうか?
投稿: 師範手前 | 2013年6月25日 (火) 19時31分