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2013年6月26日 (水)

Aerococcusは良く間違える菌の一つですが、何か?

グラム染色で菌の形態的な特徴を引きだして推定菌をコメントすることが日常的に行われるようになってきました。今はMALDI-TOF MSもあり、とても早く菌種同定が可能になってきていますが、約3000万円もする代物ですので市中病院のうちには高嶺(高値?)の花です。

形態により菌を推定するということは微生物検査室では昔からしてきたことだと思います。それは培養を含めた検査の方向性を決めるために用いられてきた手法であったと思います。

数年前から、個人的にこういうのはこの菌が推定されるのでこう考えますとか、以前までタブーと呼ばれてきた内容について臨床現場に導入をしてきましたが、今やどこの検査室でも行われるようになってきたと思います。しかし反対論を唱えるかたもマダマダ多く居ますが、あまり気にしないようにしております。

愚痴はここまでにして、

こういうことはどこの検査室でもあるでしょうか。

血液培養が2セット陽性になりました。グラム染色をすると下記のように染まりました。

Aerococcusurinae2好気培養


Aerococcusurinae嫌気培養

菌を推定していきます。

1)好気ボトルと嫌気ボトルの両方に発育しています。特に溶血は認めない。陽性シグナルは1日以内です。

 

2)グラム陽性球菌で、クラスター形成をしています。クラスターは大きく無いですが、菌は少々大小不同を伴ってます。

『ブドウ球菌?』と思うが染色性がやや悪い。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の可能性があるが、菌の形態的な特徴からは黄色ブドウ球菌の可能性もある。そもそもコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が2セット陽性となると事情は複雑そうです。

追加で検体が出ていないか探すと尿が出ています。尿路感染症を疑っているのか?と考えながらグラム染色をしますと以下の所見です。


Aerococcusurinae_2×1000(尿)

これまたブドウ球菌です。

尿バルーンや尿管カテーテルの長期挿入者の場合は黄色ブドウ球菌の尿路感染症は多くなり、血液培養陽性例も多くなることは知られていると思います。でもバルンもカテーテルの挿入もありません。ピュアな市中感染なのですが。

とりあえず、黄色ブドウ球菌の可能性があるので合併症などを含めて精査することにしました。培養結果も翌日に分かるので、また連絡することにしましたが、翌日発育してきたら下記のようになりました。

そうです。ブドウ球菌と思われた菌はAerococcusだったのです。
このAerococcusについては下記のような記載がありました。

・グラム陽性球菌で集塊状を呈する菌で、ブドウ球菌と類似している。

・高齢者に発生しやすく多くが尿路感染症を起こす。

・尿の分離頻度を見た場合は0.4-0.8%と低い分離状況。

・菌血症を起こすが米国では100万人に0.5人程度と更に低い。

・薬剤感受性はペニシリンが感受性のことが多いが、CTRXやCFPMについては感受性が悪いものもある。アミノグリコシドやサルファ剤は自然耐性なのでブドウ球菌の尿路感染症=ST合剤というのが成り立たない。

(JAC,2001,48,653-658.、JCM,1991,May,1049-1053.)

微生物検査では、PYRテストとLAPの分解反応がキーとなるため実施すると、PYRは陰性、LAPは陽性となり、Aerococcus urinaeと素早く同定が出来ました。臨床的に良く遭遇するAerococcus viridansはPYRテスト陽性なので、この時点で除外です。大ぴらげに同定を構えなくても十分でした。

疫学情報を含めて報告することは大切です。それがレアな菌、医師が名前を聞いても分からない菌の場合は尚更です。
 

グラム染色所見でブドウ球菌に見えるが、培養では血液寒天培地上で緑色溶血の集落を形成する点が特徴です。24時間後の集落は1mm以下で一見Streptococcus Viridans groupと類似しています。上記のような性状がありおかしいな?と思ったらこの菌を疑っても良いと思います。

Aerococcusurinae_3 血液寒天培地上の集落

レアケースですが、私とて外すことはあります。外れることを恐れてはいけません。断定は出来ないが、疑われる菌の情報は何より流してあげることが重要です。
また、何より肝心なのは患者と検体を通して向き合うことです。自分が出した検体であればどうしてほしい?と考えながら検査をするのは当たり前のことと思いいつも仕事をしております。

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2013年6月18日 (火)

ムコイド型の肺炎球菌はどう思いますか

ムコイドに執着している訳ではありませんがムコイドが話題に上ることが多いです。というのは病原因子の一つとして知られている莢膜の存在は軽視してはいけないからです。

莢膜は菌によって成分が違います。

S. pyogenesはヒアルロン酸が、肺炎桿菌はグルクロン酸が主成分で、肺炎球菌はCポリサッカライドが主成分になります。

莢膜は菌体の多糖体とは異なる抗原を有しているのでので、菌体以外の抗体産生を促し、菌の貪食回避機能として働くのではないかと言われています。なるほど、賢いですね。出来ればその隠れ蓑的な忍術を教えて欲しいです。 

肺炎球菌をグラム染色所見で探す場合は、莢膜も同時に探すことで推定を可能にしていると思います。莢膜は菌周囲が抜けて見えるものと教えられているので、それを目印に探していっていると思います。

3×1000 通常の肺炎球菌

ムコイド型はどうでしょうか?抜けて見えるでしょうか。

答えは『いいえ』です。

5×1000 ムコイド型肺炎球菌

血液培養ではこのように見えます。

Photo×1000

ムコイド型の肺炎球菌は菌周囲が赤く見えますので、何気なく見ている場合は見落とす可能性があります。ムコイド型は血液寒天上では中央が陥没した典型的な肺炎球菌の集落性状は無く、かなり大きめのムコイド様集落を形成します。

Photo_2

3型の血清型は7価の肺炎球菌ワクチンには入っていないので小児に対しては防御は出来ない形になっています。この血清型は成人からの分離例が多く、成人の23価ワクチンには入っています。小児も次回の13価ワクチンではカバー出来るようなので早く導入を希望します。また、3型は中耳炎を良く起こすことが知られていますね。(BMC Pediatrics 2009, 9:52)

当院のデータですが、肺炎球菌は小児のワクチンが定期接種化されてからですが、血液や髄液から肺炎球菌が検出される機会が減りました。また、傾向をみていると7価に入っているワクチン株の検出がグーンと減りました。しかし、肺炎球菌の菌血症は定期的に出てきます。出てくるのは非ワクチン株が多く、これは今のところワクチンでは防げない状況です。だからと言ってワクチンは良く無いという意味ではありません。検出頻度の高い、侵襲株と言われている血清型の感染症が減った訳ですので、これからも接種は勧めて良いものです。(これは他の研究者のデータ:IASR Vol. 34 p. 64-66: 2013年3月号)

特に集団保育をすると肺炎球菌の保菌者が増えることは知られていますので、集団保育を考えている場合は早めにワクチンを接種してあげましょう。(感染症誌 86: 7~12, 2012)

未来のある子供に対し、私たちが今出来ることを最善に考えて行きたいですね。

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2013年6月 4日 (火)

ムコイド型のA群溶連菌(Streptococcus pyogenes)をどう思いますか?

培養の判定をしていると、その材料から検出される菌としては普通ですが、時として『え、何これ!?』と思うことがあります。

普段ムコイド形成をしない菌がムコイド化する、溶血しない菌が溶血する(または溶血する菌が溶血をしない)、褐色の緑膿菌が出る・・・など。

教科書では書いていませんがジャーナルなど掘り起こすと普通に出てくるのでがっかりすることも多いと思いますが、それはそれで次回からの自分の知識となるので良い事にしましょう。

ムコイド型の集落形成をするStreptococcus pyogenesを見た事ありますか。まるで彗星のごとくに遭遇することがあります。

20130515_20114018時間培養後の集落(5%SBA)

集落を見ると、まあS. pyogenesなんだろうと分かりますがこのモチモチ度は最高ですね。

一応、恐る恐るPYRテストをしますが。陽性で胸を撫で下ろす気持ちです。

20130515_201223PYRテスト(赤色が陽性)

グラム染色はどうかと言うと、周囲が抜けて見えるのでムコイド型なんですね。なるほど。

Gas_2×1000

では、普通のS. pyogenesとどう違うのか?調べてみると。

こういう検出菌の殆どがemm3型のM蛋白を産生するそうです。症状としてはemm1のような壊死性筋膜炎を起こすことは少ないのですが、猩紅熱様症状が急激にでるようで、特に連鎖球菌性の皮膚症状が特徴だということです。やっぱり普通に出てくる。

http://www.biomedcentral.com/1471-2334/10/233

この株も精査しましたが、見事emm3.1で同じクローンだということが分かりました。日本では侵襲株としての検出が少ないためか分離頻度は低いそうです。少し嬉しい。

『重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析,その診断・治療に関する研究』

http://strep.umin.jp/beta_hemolytic_streptococcus/streptococcus_5.html

非日常的なものに遭遇をしたら少しは気にかけて見ても良いと思います。

皆さま、こんな経験はないでしょうか?

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