Aerococcusは良く間違える菌の一つですが、何か?
グラム染色で菌の形態的な特徴を引きだして推定菌をコメントすることが日常的に行われるようになってきました。今はMALDI-TOF MSもあり、とても早く菌種同定が可能になってきていますが、約3000万円もする代物ですので市中病院のうちには高嶺(高値?)の花です。
形態により菌を推定するということは微生物検査室では昔からしてきたことだと思います。それは培養を含めた検査の方向性を決めるために用いられてきた手法であったと思います。
数年前から、個人的にこういうのはこの菌が推定されるのでこう考えますとか、以前までタブーと呼ばれてきた内容について臨床現場に導入をしてきましたが、今やどこの検査室でも行われるようになってきたと思います。しかし反対論を唱えるかたもマダマダ多く居ますが、あまり気にしないようにしております。
愚痴はここまでにして、
こういうことはどこの検査室でもあるでしょうか。
血液培養が2セット陽性になりました。グラム染色をすると下記のように染まりました。
1)好気ボトルと嫌気ボトルの両方に発育しています。特に溶血は認めない。陽性シグナルは1日以内です。
2)グラム陽性球菌で、クラスター形成をしています。クラスターは大きく無いですが、菌は少々大小不同を伴ってます。
『ブドウ球菌?』と思うが染色性がやや悪い。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の可能性があるが、菌の形態的な特徴からは黄色ブドウ球菌の可能性もある。そもそもコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が2セット陽性となると事情は複雑そうです。
追加で検体が出ていないか探すと尿が出ています。尿路感染症を疑っているのか?と考えながらグラム染色をしますと以下の所見です。
これまたブドウ球菌です。
尿バルーンや尿管カテーテルの長期挿入者の場合は黄色ブドウ球菌の尿路感染症は多くなり、血液培養陽性例も多くなることは知られていると思います。でもバルンもカテーテルの挿入もありません。ピュアな市中感染なのですが。
とりあえず、黄色ブドウ球菌の可能性があるので合併症などを含めて精査することにしました。培養結果も翌日に分かるので、また連絡することにしましたが、翌日発育してきたら下記のようになりました。
そうです。ブドウ球菌と思われた菌はAerococcusだったのです。
このAerococcusについては下記のような記載がありました。
・グラム陽性球菌で集塊状を呈する菌で、ブドウ球菌と類似している。
・高齢者に発生しやすく多くが尿路感染症を起こす。
・尿の分離頻度を見た場合は0.4-0.8%と低い分離状況。
・菌血症を起こすが米国では100万人に0.5人程度と更に低い。
・薬剤感受性はペニシリンが感受性のことが多いが、CTRXやCFPMについては感受性が悪いものもある。アミノグリコシドやサルファ剤は自然耐性なのでブドウ球菌の尿路感染症=ST合剤というのが成り立たない。
(JAC,2001,48,653-658.、JCM,1991,May,1049-1053.)
微生物検査では、PYRテストとLAPの分解反応がキーとなるため実施すると、PYRは陰性、LAPは陽性となり、Aerococcus urinaeと素早く同定が出来ました。臨床的に良く遭遇するAerococcus viridansはPYRテスト陽性なので、この時点で除外です。大ぴらげに同定を構えなくても十分でした。
疫学情報を含めて報告することは大切です。それがレアな菌、医師が名前を聞いても分からない菌の場合は尚更です。
グラム染色所見でブドウ球菌に見えるが、培養では血液寒天培地上で緑色溶血の集落を形成する点が特徴です。24時間後の集落は1mm以下で一見Streptococcus Viridans groupと類似しています。上記のような性状がありおかしいな?と思ったらこの菌を疑っても良いと思います。
レアケースですが、私とて外すことはあります。外れることを恐れてはいけません。断定は出来ないが、疑われる菌の情報は何より流してあげることが重要です。
また、何より肝心なのは患者と検体を通して向き合うことです。自分が出した検体であればどうしてほしい?と考えながら検査をするのは当たり前のことと思いいつも仕事をしております。
------------------------------
おもむろにfacebookのページを作成してみました。
拙い英語で簡単に紹介しております。興味のあるユーザーの方は『いいね!』を押して下さい。
| 固定リンク
「グラム陽性菌」カテゴリの記事
- E, faecalisとE. faeciumを分ける理由(2018.09.13)
- これは重症肺炎か? その1(2017.05.19)
- Corynebacteriumの同定と感受性はどうしているのか?(2016.03.06)
- 球菌に見えない連鎖球菌(2015.06.24)
- 今だから多い小児の細菌性髄膜炎でののGBS(S. agalactiae)について(2015.05.26)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント