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2013年5月31日 (金)

それって結石ないですか?

尿のグラム染色結果で至急対応ってのがたまにあります。

急性腎盂腎炎の場合で症状が重い事は良く経験することでしょう。 

尿のグラム染色所見を見る上でポイントとなるのが腸内細菌の分布と菌数、菌種の数です。

尿路感染症では大腸菌から始まって、大腸菌に終わるほど大腸菌感染が多いことが知られています。他には肺炎桿菌や腸球菌もありますが、病態が複雑になるにつれてProteusや緑膿菌の占める割合が増えてきます。病態が複雑になるというのは神経因性膀胱や尿路変更、尿路閉塞があったりとどうしてもカテーテル留置が必要なケースがあります。

このProteusや緑膿菌はカテーテルに関連して出てくる菌として良く知られています。

グラム染色所見ではどう見えるんでしょうか?

Proteusも緑膿菌も集塊状に見えることが多いと思います。理由は分かりません。バルン留置に伴う膿尿のせいでしょうか?菌の外膜の構造上の特徴でしょうか。緑膿菌の外膜は脆弱しているので塊易いと聞いた事があります。

私信でうすが、Proteusと緑膿菌の違いほど、属レベルの菌種を区別しづらいものは無いと思っています。私も良く間違えます。良く見れば菌の太さや集塊の大きさに若干の違うがありそうですが、確信をつくためにそういう時は画像所見を活用したり、医師に『これ結石無いですか?』と聞いたりします。

2×1000 腎盂尿からのProteus mirabilis

結石とProteus...何の関係が?

微生物検査をされている方は良く知っていると思いますが、Proteusは尿素分解反応が陽性の菌です。尿路に出来る結石の主成分は尿素ですので尿路結石による複雑性尿路感染症の場合はProteusが関与することが散見されます。

尿にProteusが出てくるのが確実に分かる現象もあります。紫尿バック症候群がそれですよね。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23359394

7 紫尿バック症候群

Proteusの中でも分離例が多いのはP. mirabilisと思いますが、このP. mirabilisは元々テトラサイクリンを除いてどの抗菌薬も感受性が良いことが知られています。テトラサイクリンに関してはtet遺伝子という能動的排泄機序による耐性化がありますので効かないということです。最近気になる事はこのP. mirabilisのESBL産生菌分離率が上がっていることです。

2002年のイタリアの報告では52%であったと驚異的な数値報告(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC140357/)があります。日本ではどうか?2003年から2004年にかけて中村らが近畿地区調べたところ5%であったと報告(http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0800030231.pdf)がありますが、最近の報告では金山らが37.8%であったと報告(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20609568)しています。着実に市中での増加傾向を辿っていますが、P. mirabilisのESBL産生菌はdomesticな拡がりを見せているようで特定の地域や医療施設での分離が多く目立っているようです。

既にESBL産生菌が蔓延しつつあるProteusですが、患者背景に注意しながら治療にあたらないといけないようです。施設内のアンチバイオグラムなどを参考にしながら対策を進めていくと良いでしょう。

Photo

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2013年5月30日 (木)

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2013年5月23日 (木)

時間切れ(兵庫県臨床検査技師会研修会にて)

21日は地元で話する機会を頂き張り切って講演に臨みました。2時間もの時間をたっぷり頂いたのにも関わらず時間切れとなりました。

ストーリーとして

  1.グラム染色の原理と手順

  2.染色が上手くできそうなコツ

  3.鏡検で確認される菌を推定する

  4.グラム染色の感度

  5.グラム染色による病態把握

  6.その他

を考えていましたが、3.までで終わっちゃいました。

最初に聞いたところ、微生物検査室が無いけどグラム染色を実施しているので聞きに来たという方々も沢山居られたようで初歩的な話を中心にして、ゆっくり進めた結果このようになりました。招聘して頂きましたK先生他、関係者の方々にはご迷惑お掛けしました。

グラム染色に纏わる話は技師学校で習っているようで習っていないと思います。私も学生時代はそうだったように思います。卒後教育でもその内容についてガッツリとしているのも無いので恐らく皆さん独学で来たのではないでしょうか。

脱色一つについても奥深く、グラム染色は1に脱色、2に脱色、3,4が無くて、5,に脱色というくらい脱色操作が大切です。そもそも染色操作は、原理は理解されているのかどうかも不明なのでそこから話を進めました。

1

肝心なのは菌の推定です。グラム陽性球菌と言ってもブドウ球菌とレンサ球菌で大きく対応が異なるのは前から言っていますが、そんなことは学校では教えてくれません。

3

そうなんです。どういう菌が確認されたかどうかで診断もそうですが、使用する抗菌薬が大きく変わります。培養を待って・・・って翌日まで待てないことも多々あると思います。だからグラム染色をするんです。

菌を推定するにはその菌の特徴を掴む事が大切です。人間に個性があるように菌にも個性があります。その個性を見抜いてやることで初めて菌が推定可能になります。敵を欺くにもまずは味方からとは言いますが、まずは菌と仲好くしてその菌がどういうものか考えることが大切です。

染色でどんな風に染まるのか、形は?大きさは?分裂の方法は?などなど個性をパターン化してあげることで菌の的中率は高くなるでしょう。

2

この個性を見る場合の注意点は、検査材料により若干形態に変化が生じることがあること。普段、血液培養の像を念頭に置いて他の材料を見た場合は若干違和感が生じることでしょう。少し注意しながら見ることが必要です。

しかし、一部例外はありますが、殆どのブドウ球菌はどの材料からもブドウ状に見える、レンサ球菌はレンサ状に見えます。クラスターの大きさは若干変わりますが1つ1つの菌体に注目もしながら見てあげるのがコツです。

また、当日は少し培養・同定への進め方、結果の解釈についても含めました。

血液培養でレンサ球菌が確認された場合は菌の同定に必要な情報収集をしたり、今後の同定・感受性の方向性を確認することも大切です。

1_2 2_2

そうです。グラム染色はシンプルですが奥が深いのです。

4.から以降はまた話する機会を頂きましたのでご期待下さい。ややベテラン向けですが初級者にも分かり易くしたいと思います。

 

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2013年5月13日 (月)

グラム染色、合唱

長崎の研修会で少し話をさせて貰いました内容です。

グラム染色の技術を習得する場合に必要なのは個人の努力もそうですが、指導する人がどれだけ上手に教えるかにかかってきます。

勿論、指導者が居ない場合はほぼ独学でそれを行う機会が多いのですが、そこはグラム染色の研修会や感染症セミナーに参加したり、アトラスを見たり、このブログを見たりとしている人は多いはずです。

推定起炎菌の読み方や背景を含めた総合的な所見の読み方は自分すら危ういことが多いのに新人教育なんてもっと難しいはずです。

私は個人的に新人さんを含めた方々には『所見は具体的に声に出して読むように』ということをしています。声を出して読むことで、脳内に残り易いということは受験戦争の時にいやほど教えられたと思います。論文にもなるくらいですので確信できる内容だと思います。
http://www.psychologytoday.com/blog/ulterior-motives/201005/say-it-loud-i-m-creating-distinctive-memory

読むことでどうなるのか?

1.指導者とその内容が共有できる

2.塗抹結果が翌日の培地判定の際に記憶が蘇り、注意して見るようになる(検出率がアップする)

3.翌日培養で発育してくるか不安だけど、それが的中すると自信になる。なんとなく快感(こんな感じです)。

Photo

3.については、まとめてみると結局自分の眼がどれだけのもの捉えているか分かります。推定起炎菌の正解率が高い場合は、次に同じ像に出会った場合に正解する可能性を示唆するものになります。

例えば下記のスメアです。由来は筋膿瘍です。

2×1000

筋膿瘍なんて黄色ブドウ球菌ばかりだろうと思われているあなたはこのスメアは読めないかも知れません。スメアにはグラム陽性球菌が見えます。ブドウ球菌もグラム陽性球菌じゃないか、なのでブドウ球菌で良いじゃないかとなるのですが、プロであればもう少し具体的な解釈が必要なので合唱しましょう。

・グラム陽性球菌である

・一部連鎖状に見えるところがある

・染色性が悪い部分が見える

前にも申しましたが、ちゃんと染色手技が担保されるのであれば、染色性が悪いのは嫌気性菌の可能性が高くなります。

嫌気性菌でグラム陽性のレンサ球菌===Streptococcus anginosus groupの可能性が高い。

ということに辿りつきます。筋肉からS. anginosus?と思うと更に不思議に思うので、このスメアが得られた病態は少し尋常なものでは無いと考えることもできます。S. anginosusは上気道の常在菌なので横隔膜上臓器に何か障害は無いのかなど考察することが必要で、時に歯性感染、頚部膿瘍、脳膿瘍、感染性心内膜炎などは合併症の鑑別に上がってくると思います。

でも探せば普通にあるんですね。勉強が足りませんね。もっと精進します。
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs15010-009-6002-9


皆さん、出来れば声に出して顕微鏡を覗いてみましょう。ただし大き過ぎると変人扱いになるのでご注意ください。

長崎では企画して頂きました諸先生始め、遠いところ足を運んで頂いた受講者の方々ありがとうございました。

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2013年5月 6日 (月)

来週は長崎県に参ります

次週5月11日(土)に長崎県臨床検査技師会でお話する機会を頂きました。

http://www.choringi.or.jp/kennkyuukai/2013/H25nagasakibiseibutu.pdf

タイトル:グラム染色のレベルアップ 見る から 診るへ

場所:佐世保共済病院 中会議室

http://www.kkr.sasebo.nagasaki.jp/

開始:13:15

内容としては初級者からベテランまで網羅できるようなものを考えています。

当日は日常こういうのはどう考えるのか?素朴な疑問を質問して頂いても構いません。

お時間のある方、興味のある方は足を運んで下さい。

Photo Do you can see the image of phagocytosis pneumococcal?

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下記は今後の予定です。お近くでもグラム染色の話が聞けるかもしれません。

1.兵庫県臨床検査技師会

日時:2013年5月21日(火) 18:30-20:30

場所;兵庫県臨床検査技師会研修センター

http://www.hamt.or.jp/gyouzi/link/EV2013/ev1305-P4P5.pdf

2.松江地区感染対策研究会

日時:2013年7月5日(金)

場所;松江テルサ(予定)

タイトル:背景から考えるグラム染色の読み方(仮題)

3.福井県臨床検査技師会

日時:2013年7月27日(土) 予定

場所;未定

4.岩手県耐性菌研究会

日時:2013年9月7日(土) 15:00~ 

場所:マリオス18階 184会議室

タイトル:グラム染色と耐性菌制御について(仮題)

5.第46回日臨技中四国支部医学検査学会 

日時:2013年11月10日(日) 13:30~

場所:広島国際会議場

テーマ:グラム染色の匠よりの提言

http://www.hiroringi.or.jp/~jamt46chushi/events/index.html

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