肺炎球菌を発育させるのは難しいか?
喀痰グラム染色で肺炎球菌を見逃すと懺悔あと思いますが皆さんはどう感じているのでしょうか。
市中肺炎のうち4人に1人は肺炎球菌性肺炎と言われ、これは中小規模の病院から大学病院までありますが特に大きな差が無いと思います。
言い換えると、どの病院でも見る事ができるコモンな菌と言えるのでしょう。
喀痰で肺炎球菌であるとどの時点で思うのでしょうか。自分なりにまとめてみると以下のようになります。
1)グラム陽性球菌である
2)双球菌で連鎖を形成しないもの
3)莢膜(菌の周囲が染色されずに白く抜けて)が確認される
この3つが揃うと肺炎球菌の疑いが高くなる、いや中段単チェリーのほぼ確定状態である。
ここで疑問が出てきます。
・貪食像が有るか無いかは問題に成らないのか?
・本当にグラム陽性に染まるのか?
はっきり言って喀痰グラム染色像を確認する上では貪食像はあてに成らない(莢膜のため貪食回避される)し、貪食があってもグラム陰性球菌として観察されることがあり、それが肺炎球菌と断定するには経験値が高くないと難しい。細胞内に捕食されると莢膜の確認は更に困難を極める。なので、私は肺炎球菌の確認をする場合は貪食像も参考にしないし、細胞内に捕食された肺炎球菌の場合はグラム染色性にとらわれないようにしています。
グラム陰性に染まる肺炎球菌は貪食されたものに限ったことではありません。肺炎球菌は自己融解酵素を産生してPneumolysinを大量に放出させる機能があります。機能というよりは自爆行為な訳ですが、このPneumolysinは細胞障害を起こすわ、サイトカインの刺激を増強させるわ、好中球の抗菌活性を悪くさせるわで、人体にとって驚異的な酵素です。培養をすると翌日には中央がクレーター状になった集落をもって肉眼で確認できることになります。
グラム染色をして明らかな肺炎球菌が確認されたのにも関わらず培養で肺炎球菌が検出されない現象を確認したことは無いでしょうか?沢山見えたのに菌が少数しか検出されないなど細菌検査をしていると日常的に良く観察される事象です。培養の技術が悪い訳でも無く、検査技術が悪い訳でも無く、悪いのは全てPneumolysinかもしれません。
当院で調べたら10%ほど確認されました。
それ以外で培養で検出できない理由としては、肺炎球菌と思ったが実はViridans Streptococcusと見間違えたというのはあるかも知れません。その場合材料採取の条件が悪く口腔内の常在菌が多量に混入した可能性も否定できませんので、どんな材料だったか確認することは大切な作業となります。採取された喀痰を肉眼で確認することは地味な作業でありますが、重要な作業の一つです。カルテには残すようにしましょうね。
肺炎球菌による肺炎を分かれば抗菌薬を絞ることができます。β-ラクタマーゼは産生しないのですからペニシリンを上手に使って治療をすることが出来ます。ペニシリンは古典的過ぎる抗菌薬と思っている方も居られるでしょうが、低コスト、高効果なので肺炎には十分戦える抗菌薬だと思います。グラム染色を使って上手な診療を進めましょう。
肺炎は、肺炎球菌に始まり肺炎球菌に終わります。肺炎球菌を制覇することは人間にとって大きな幸せかもしれません。
類似の記事です。面白い内容がありますので是非ご覧ください。
ID CONFERENCE:肺炎球菌は生えてこない
http://idconference.cocolog-nifty.com/idconference/2011/12/post-3c5e.html
あんずの呼吸:コソ染め太郎のコソ染め日記23
http://blog.goo.ne.jp/23c2230/e/74cf4d3cde19549f4ce5a55104bb8e44
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コメント
いつも、読んで勉強させてもらっています。
早速ですが本題に・・・
細菌検査を外注している施設の者です。
喀痰グラム染色のオーダーが出た際、ラピラン肺炎球菌というテストキットも同時に実施しています。しかし、肺炎球菌はテストキットでも陽性は1割程度です。
文献ではもっと多いはずかと・・・・検査し出して1年くらいですが実際そんなに多くは無いのではとも考えたりします。
ご意見をお願いします。
投稿: 若葉の技師 | 2013年4月17日 (水) 11時04分
若葉の技師さん
返信遅くなりすいません。バタバタしておりました。
ラピラン肺炎球菌もそうですが、肺炎球菌性肺炎の診断に必要なのは技術もさることながら、肺炎球菌を多く含む検体を採取することです。言い換えると良質の喀痰をいかに採取するのかにかかってきます。
グラム染色の感度も喀痰の質に大きく左右されることは知られておりますが、若葉の技師さんの施設では喀痰の質の記録はつけておられるでしょうか。もし記録に残っているのであれば合わせて集計してみてはどうでしょうか。肺炎球菌については良質な喀痰が採取されてもグラム染色の感度はせいぜい8割ですので、ラピランが90%の感度の場合は7割程度に検出率が下がります。
肺炎球菌はご存知の通り抗菌薬に感受性が良いので抗菌薬投与後には消失してしまいます。つまり感度も下がりますので更に困難な状況です。
ラピランは菌量に影響を受けますので特にこの採取条件が重要になります。
http://cvi.asm.org/content/16/5/672.full.pdf+html
投稿: 師範手前 | 2013年4月22日 (月) 20時05分