微生物検体のホンネと建前について先日は紹介をしました。
やはりグラム染色もそうですが検体がしっかりと採取できていなければ始まらないと思います。
とあるMLで検体採取の話題が上がっておりました。少し内容を加工して掲載します。
『血液培養を採取するが病棟から検査室への搬送ラインが整備されていないので採取後ずっと病棟に検体があるままですが大丈夫でしょうか?』という内容です。
搬送ラインですが血液培養は大事な検体なので破損の無いように搬送をすることが大切です。搬送機に乗れば良いのですが手搬送の施設が多いと思います。手搬送となれば持っていくのは看護師さんでしょうか?採血した医師でしょうか?サポーターさんでしょうか?それとも検査室から取りに行っているのでしょうか?施設毎に事情はあると思います。
手搬送しなければ病棟に取り残される訳ですが貴重な培養時間が過ぎて行くことになります。貴重な時間とは血液培養が陽性になるまでの時間です。
血液培養が陽性になる場合の多くが24時間以内に陽性になります。(JCM,June 1999, p. 2024–2026)。小児の肺炎球菌性菌血症に関しては11時間がピークになります(Clinical Infectious Diseases 2001; 33:1324–8)。小児の場合は成人より菌数が多いのでしょうか陽性時間は短いことが多いです。当院も血液培養の質を調べるために陽性時間を測定しています。成人と小児を含めてですが12時間での陽性率は36.6%、24時間での陽性率は91.5%で殆どが12-24時間の間で陽性になりした。
採血したが搬送して貰えずに3時間放置後検査開始。測定開始後6時間で陽性になった肺炎球菌性肺炎を考える。
既に3時間のタイムロス。これがどのように影響するのでしょうか。
先ほどの文献で肺炎球菌の場合6時間くらいで陽性になるのでこのことを考えると下記のようになります。
1)採血後直ぐに機器に設置する場合:9:00に入れると早くて15:00に陽性。直ぐにグラム染色して肺炎球菌と推定して病因検索と適正な抗菌薬を選択する。
2)3時間のロスがある場合:9:00に採血。12:00まで病棟に保管し搬送。18:00に陽性となるが検査室は時間外で居らず、翌朝陽性となっているのに気付く。直ぐにグラム染色して肺炎球菌と推定して病因検索と適正な抗菌薬を選択する。
どちらが良いでしょうか。言うまでもありませんね。適切な抗菌薬を早く投与する方が予後は良い訳で。今回は肺炎球菌という一般的な菌を代表として出しましたが、これがCandidaだったら...と考えると怖い話ですね(AAC,Sept. 2005, p. 3640–3645)。
やはり平日に診療をしていて平均的な意見として血液培養は採取後に直ぐに測定を開始することは基本では無いでしょうか。
MLには外部委託なのでそんなことは言うが参考意見にならないという厳しいコメントも貰いましたが、CumitechガイドラインやManual of clinical microbiologyにも採血後保管する場合は室温に保管する。保管の時間の記載がありませんが24時間以上保管すると陽性率が下がるという報告があります(日本臨床微生物学雑誌2002;12:86―92.感染症誌78:959-966,2004)。髄膜炎菌や淋菌など冷蔵保管で死滅する細菌の検出が考えられるので冷蔵は禁忌です。
外部委託が悪いという訳では無く、外部委託に頼らざるを得ない状況が良いとは言えない状況があると思います。血液培養を熱心にするのであれば院内で培養機器を購入して測定を開始するなどのアクションが必要と思います。特に感染症治療に関して外部委託かどうかは患者には関係が無いことですし、病院の案内や入口に『当院は細菌検査が外注なので結果は少し遅くなることがあります。』と書いていないので患者には選べない状況があると思います。少しでも役立つ結果を返すためには何をするのか加算が出来て1年経ちますが考えないといけないと思います。
ちなみに当院は認定臨床微生物検査技師研修施設と病院の入口に記載して貰いました。誰も見てないと思いますがプチ自慢です。
今では珍しいのか?血液培養からの淋菌
血液培養陽性の肺炎球菌(莢膜が見えないので以外と判断に迷うことが多い)
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