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2013年4月22日 (月)

決めてに欠けるが原因菌を推定する方法

エキスパートオピニオンのレベルにもなっていないことですが、個人的に肺炎の原因菌を探す場合のことです。

喀痰の色合いを見ます。喀痰中に赤いベターとするようなもの(フィブリン)が多く散在している場合は下記の4つの原因菌を探します。

1.S. pnuemoniae

2.S. aureus

3.Aspergillus

4.M. tuberculosis

肺炎球菌はご存知の通り大葉性肺炎を起こす代表的な原因菌。肺胞内に貯留したフィブリンを多く含む喀痰が出ますので、良質な痰を採取した条件ですが、このフィブリンを多く含む喀痰が見えた場合は肺炎球菌を探すと見つかることが多いです。

確率論ですが、2,3,4はいずれも市中肺炎の原因菌としては肺炎球菌より少ないので、結局肺炎球菌かどうかを見極めることになります。熟練してくるとこれらの違いが分かります。

喀痰グラム染色で肺炎球菌を探す場合は全てで莢膜が見つかるのかというとそういう訳ではありません。

肺炎球菌かどうか迷う場合、抗菌薬が既に投与されていて菌が確認出来ないが肺炎球菌性肺炎と思う場合は、この背景に注目して原因菌を推定して探すということをすると推定確率も上がるのではないでしょうか。

こういうことをしている施設はあると聞きますので、まんざら嘘では無いのかと思います。

胸部単純撮影所見、身体所見、患者背景とこの喀痰の背景の色を見ながら菌を推定してみても良いと思います。

写真は莢膜が薄い肺炎球菌です。口腔内のレンサ球菌かどうか迷わずに結果を報告するには経験いるかもしれませんね。

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2013年4月17日 (水)

肺炎球菌を発育させるのは難しいか?

喀痰グラム染色で肺炎球菌を見逃すと懺悔あと思いますが皆さんはどう感じているのでしょうか。

市中肺炎のうち4人に1人は肺炎球菌性肺炎と言われ、これは中小規模の病院から大学病院までありますが特に大きな差が無いと思います。

言い換えると、どの病院でも見る事ができるコモンな菌と言えるのでしょう。

喀痰で肺炎球菌であるとどの時点で思うのでしょうか。自分なりにまとめてみると以下のようになります。

 1)グラム陽性球菌である

 2)双球菌で連鎖を形成しないもの

 3)莢膜(菌の周囲が染色されずに白く抜けて)が確認される

 この3つが揃うと肺炎球菌の疑いが高くなる、いや中段単チェリーのほぼ確定状態である。

 ここで疑問が出てきます。

・貪食像が有るか無いかは問題に成らないのか?

・本当にグラム陽性に染まるのか?

はっきり言って喀痰グラム染色像を確認する上では貪食像はあてに成らない(莢膜のため貪食回避される)し、貪食があってもグラム陰性球菌として観察されることがあり、それが肺炎球菌と断定するには経験値が高くないと難しい。細胞内に捕食されると莢膜の確認は更に困難を極める。なので、私は肺炎球菌の確認をする場合は貪食像も参考にしないし、細胞内に捕食された肺炎球菌の場合はグラム染色性にとらわれないようにしています。

グラム陰性に染まる肺炎球菌は貪食されたものに限ったことではありません。肺炎球菌は自己融解酵素を産生してPneumolysinを大量に放出させる機能があります。機能というよりは自爆行為な訳ですが、このPneumolysinは細胞障害を起こすわ、サイトカインの刺激を増強させるわ、好中球の抗菌活性を悪くさせるわで、人体にとって驚異的な酵素です。培養をすると翌日には中央がクレーター状になった集落をもって肉眼で確認できることになります。

グラム染色をして明らかな肺炎球菌が確認されたのにも関わらず培養で肺炎球菌が検出されない現象を確認したことは無いでしょうか?沢山見えたのに菌が少数しか検出されないなど細菌検査をしていると日常的に良く観察される事象です。培養の技術が悪い訳でも無く、検査技術が悪い訳でも無く、悪いのは全てPneumolysinかもしれません。

当院で調べたら10%ほど確認されました。

それ以外で培養で検出できない理由としては、肺炎球菌と思ったが実はViridans Streptococcusと見間違えたというのはあるかも知れません。その場合材料採取の条件が悪く口腔内の常在菌が多量に混入した可能性も否定できませんので、どんな材料だったか確認することは大切な作業となります。採取された喀痰を肉眼で確認することは地味な作業でありますが、重要な作業の一つです。カルテには残すようにしましょうね。

肺炎球菌による肺炎を分かれば抗菌薬を絞ることができます。β-ラクタマーゼは産生しないのですからペニシリンを上手に使って治療をすることが出来ます。ペニシリンは古典的過ぎる抗菌薬と思っている方も居られるでしょうが、低コスト、高効果なので肺炎には十分戦える抗菌薬だと思います。グラム染色を使って上手な診療を進めましょう。

肺炎は、肺炎球菌に始まり肺炎球菌に終わります。肺炎球菌を制覇することは人間にとって大きな幸せかもしれません。

Photo 3

自己融解が確認出来る喀痰の肺炎球菌像

類似の記事です。面白い内容がありますので是非ご覧ください。

ID CONFERENCE:肺炎球菌は生えてこない

http://idconference.cocolog-nifty.com/idconference/2011/12/post-3c5e.html

あんずの呼吸:コソ染め太郎のコソ染め日記23

http://blog.goo.ne.jp/23c2230/e/74cf4d3cde19549f4ce5a55104bb8e44

 

 

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2013年4月 8日 (月)

血液培養を採取・・・放置 大丈夫か?

微生物検体のホンネと建前について先日は紹介をしました。

やはりグラム染色もそうですが検体がしっかりと採取できていなければ始まらないと思います。

とあるMLで検体採取の話題が上がっておりました。少し内容を加工して掲載します。

『血液培養を採取するが病棟から検査室への搬送ラインが整備されていないので採取後ずっと病棟に検体があるままですが大丈夫でしょうか?』という内容です。

搬送ラインですが血液培養は大事な検体なので破損の無いように搬送をすることが大切です。搬送機に乗れば良いのですが手搬送の施設が多いと思います。手搬送となれば持っていくのは看護師さんでしょうか?採血した医師でしょうか?サポーターさんでしょうか?それとも検査室から取りに行っているのでしょうか?施設毎に事情はあると思います。

手搬送しなければ病棟に取り残される訳ですが貴重な培養時間が過ぎて行くことになります。貴重な時間とは血液培養が陽性になるまでの時間です。

血液培養が陽性になる場合の多くが24時間以内に陽性になります。(JCM,June 1999, p. 2024–2026)。小児の肺炎球菌性菌血症に関しては11時間がピークになります(Clinical Infectious Diseases 2001; 33:1324–8)。小児の場合は成人より菌数が多いのでしょうか陽性時間は短いことが多いです。当院も血液培養の質を調べるために陽性時間を測定しています。成人と小児を含めてですが12時間での陽性率は36.6%、24時間での陽性率は91.5%で殆どが12-24時間の間で陽性になりした。

採血したが搬送して貰えずに3時間放置後検査開始。測定開始後6時間で陽性になった肺炎球菌性肺炎を考える。

既に3時間のタイムロス。これがどのように影響するのでしょうか。

先ほどの文献で肺炎球菌の場合6時間くらいで陽性になるのでこのことを考えると下記のようになります。

1)採血後直ぐに機器に設置する場合:9:00に入れると早くて15:00に陽性。直ぐにグラム染色して肺炎球菌と推定して病因検索と適正な抗菌薬を選択する。

2)3時間のロスがある場合:9:00に採血。12:00まで病棟に保管し搬送。18:00に陽性となるが検査室は時間外で居らず、翌朝陽性となっているのに気付く。直ぐにグラム染色して肺炎球菌と推定して病因検索と適正な抗菌薬を選択する。

どちらが良いでしょうか。言うまでもありませんね。適切な抗菌薬を早く投与する方が予後は良い訳で。今回は肺炎球菌という一般的な菌を代表として出しましたが、これがCandidaだったら...と考えると怖い話ですね(AAC,Sept. 2005, p. 3640–3645)。

やはり平日に診療をしていて平均的な意見として血液培養は採取後に直ぐに測定を開始することは基本では無いでしょうか。

MLには外部委託なのでそんなことは言うが参考意見にならないという厳しいコメントも貰いましたが、CumitechガイドラインやManual of clinical microbiologyにも採血後保管する場合は室温に保管する。保管の時間の記載がありませんが24時間以上保管すると陽性率が下がるという報告があります(日本臨床微生物学雑誌2002;12:86―92.感染症誌78:959-966,2004)。髄膜炎菌や淋菌など冷蔵保管で死滅する細菌の検出が考えられるので冷蔵は禁忌です。

外部委託が悪いという訳では無く、外部委託に頼らざるを得ない状況が良いとは言えない状況があると思います。血液培養を熱心にするのであれば院内で培養機器を購入して測定を開始するなどのアクションが必要と思います。特に感染症治療に関して外部委託かどうかは患者には関係が無いことですし、病院の案内や入口に『当院は細菌検査が外注なので結果は少し遅くなることがあります。』と書いていないので患者には選べない状況があると思います。少しでも役立つ結果を返すためには何をするのか加算が出来て1年経ちますが考えないといけないと思います。

ちなみに当院は認定臨床微生物検査技師研修施設と病院の入口に記載して貰いました。誰も見てないと思いますがプチ自慢です。

Dgi600今では珍しいのか?血液培養からの淋菌

10002血液培養陽性の肺炎球菌(莢膜が見えないので以外と判断に迷うことが多い)

 

 

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