【学会報告】誤嚥性肺炎診断のためのグラム染色について
臨床微生物学会総会が終わりました。お世話になった方々、はじめてご挨拶させて頂いた方々ありがとうございました。
今回もそうですが、年々参加者が増えていっている気がします。
個人的には色々と最新情報を含めて身になる話、学会でしかお会いできない知人の近況報告などの収穫がありました。
一般演題を出しました。内容は誤嚥性肺炎のグラム染色です。
下記はその発表内容のダイジェストです。
1.誤嚥性肺炎について
疾患の定義があいまいで、明確な診断方法が無いように思います。日本呼吸器病学会の市中肺炎のガイドラインにも記載がありますが、はっきりとした定義はありません。
ただし、下記の病態がある場合は誤嚥性肺炎の可能性を示唆できるものとなります。
・嚥下機能障害があり微量誤嚥のリスクを伴う病態(ミクロの誤嚥)
・胃液や唾液の大量誤嚥、異物誤飲があるもの(マクロの誤嚥)
必要な検査は胸部単純撮影による画像診断や嚥下機能検査による評価を行いますが、検査室診断では特定できるものは少なく下記の内容について評価をすることになります。
・塗抹検査:グラム染色上で多数の口腔内細菌が認められ、扁平上皮も認められるもの。
・培養検査:嫌気性菌の分離が多いものであるが、気道の定着菌が多量に出てくるために培養結果がそのまま評価対象にはならない。
グラム染色像は以下のようなものになります。
2.今回の内容
肺炎を疑い喀痰を提出した1000例あまりの患者の中で誤嚥性肺炎と最終診断(保険病名は除外)され、『誤嚥性肺炎の可能性があり』報告した60例ほどを対象としました。
『誤嚥性肺炎の可能性があり』とは
膿性部分を有する喀痰が提出され、グラム染色所見で口腔内常在菌を含む多菌種が確認されたもの。多量の唾液汚染が考えられる場合は生食で洗浄をかけて塗抹を作成しました。
評価と結果は下記の内容です
1)Geckler分類でGrade4以上となる⇒感度46.7%、特異度77.1%
2)2菌種以上の貪食像が確認される⇒感度56.7%、特異度51.4%
3)Miller & Jonesの分類でP2(膿が1/3-2/3)となる⇒感度68.0%、特異度37.0%
4)上記3つの要素が同時に満たされた場合⇒感度37.9%、特異度78.6%
結果的に誤嚥性肺炎の場合は喀痰中に扁平上皮が混じっていることが多く、複数菌(特に嫌気性菌)の貪食が多く確認されるものとなりましたが、その的中率はあまり高くないものになりました。
類似のグラム染色像が見える病態は気管支肺炎、高齢者肺炎、肺膿瘍、喘息、歯性感染など。誤嚥性肺炎像と間違える患者の状態としては気管切切開者、口腔衛生不良者でした。
『誤嚥性肺炎の可能性があり』との報告をすることで
・培養結果に反映させて考えることができる。
・口腔ケア、嚥下リハビリ、薬物療法、体位変化など嚥下機能障害に関わる介入を早期にできる。
ことが確認され、特異度は高くないのですがこれからも『誤嚥性肺炎の可能性があり』と報告することは臨床的意義はあるのではないかという結論に至りました。
Robinsonらの報告は79%でしたが、こちらの方がまだ分かりやすいのでは無いかと自負する結果になりました。
3.質問について
H先生から質問を受けました。
『吸引痰ではどういう結果になったのか』⇒少し前に検討したが、喀痰より感度は高いものになりました。ただし、患者の意思に関係なく吸引という医療行為が発生しているので高くなるのは当たりまえではないか。今回は喀痰排泄という行為においてどの程度可能性があるかどうか考えた内容なので喀痰のみに限定した。
言い残しがありますが、おそらく肺穿刺や気管支鏡下採痰による確認は必要ですが全ての患者には無理であるので実現できないとは思います。本当はしたい。
実際どうでしょうね。また意見をお聞かせ頂ければ幸いです。
次回は2014年2月。場所は名古屋です。また一般演題出したいと思います。
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