第15回神戸グラム染色カンファレンス 終わり
21日に第15回神戸グラム染色が開催されました。
私も消化器内科のT先生の力をお借りして発表させて貰いました。
タイトルは『青と赤で救えるもの』。最近はDHC(Diagnostic High level conference)の影響もありタイトルに含みを入れてプレゼンするようになりました。
今回発表させて貰った内容は下記の通りです。
80歳代、男性で上腹部痛を主訴として加療を受けていた患者です。総胆管結石を疑い抗菌薬を数種類使用したが改善が無いため当院へ紹介となりました。
腹部CTで閉塞性胆管炎を疑い、緊急でERCPを施行しましたが幽門輪狭窄があり、PTCD下で穿刺し胆汁培養を実施しました。
【フェーズ1】想定される原因菌と選択される抗菌薬は何?
デーブルディスカッションをしたところ殆どのデーブルでは閉塞性胆管炎のため大腸菌、クレブシエラ、バクテロイデス、腸球菌を想定してMEPM+VCMという選択でした。
グラム染色を実施しました。下記のようなスメアが見られました。
実際のやり取り
消化器内科のT先生が後輩と研修医を連れてグラム染色をしています。見慣れない菌種なのか一緒に見る事になりました。
『あ、これ腸球菌ですよ。形状から言うとE. faeciumが濃厚ですね。VCMは必須でしょう。』と答え、フロアの回答と同じようにMEPM+VCMを選択としました。『MEPMはカルバペネムですが腸球菌には抗菌活性が悪いんです。E. faecalisであってもMEPMは著効しないことが多いのでやはりVCMは必要でしょう。』と細菌学的なコメントも追加となりました。
翌日、血液培養が陽性になりました。
【フェーズ2】このスメアを見て推定菌種と選択する抗菌薬は何?MEPM+VCM投与下であれば投与薬の変更、中止やDe-escalationは可能か?
フロアからは、推定菌は腸球菌、または患者背景から腸球菌であればE. faeciumを疑いますと多数コメントが出ました。また、患者の重症度からはDe-escalationは出来ないでしょうという声が沢山ありました。なるほどです。
解説をしました。
やはり腸球菌を疑う所見です。丸いのでE. faeciumでしょう。既に胆汁培養は一晩経ち集落形成されています。E. faeciumの集落のようです。E. faecalisとはやや集落性状が異なります。
結局、E. faeciumでした。
スメアだけでE. faeciumと言うにはハードルが高いという方もいると思いますし、これが100%の感度を持っている訳ではありません。おおよそ90%以上の正答率を持っているので菌種まで詰めて話をすることにしています。
当院のデータを整理すると、培養が陽性となった胆汁検体のうち14%で腸球菌が検出されるという結果になりました。2003年と2012年で比較しても同じ%だったので恐らく大きく患者背景が変わらない限りこの検出率になります。
塗抹陽性率は培養陽性となった場合89%という結果になりました。陰性のものが混じっている事が分かります。
さて、E. faeciumはE. faecalisに比べて耐性化が強く、更に医療行為が施された場合に検出率が上がります。外来と入院とでは検出率も異なることがローカルデータで示されています。感受性も大きく違うため今回の腹腔内感染以外でもこのローカルデータは使用できると思い作成しています。いわば、グラム染色所見をコメントする上でのエビデンスとなります。
最終的に表題の話に戻りますが、
・青と赤=グラム染色 を指しています。
・青と救える=AOSC(急性閉塞性化膿性胆管炎) を指しています。
『青と赤で救えるもの』というのはAOSCの原因菌をグラム染色を活用し治療を成功に導くことというメッセージでした。
会場ではかなり滑りましたがプレゼンテーションの内容はシンプルで良かったと自画自賛です。T先生ありがとうございました。
もう一題はNocardia elegansの肺炎症例でした。最近はNocardiaも細分化されてきて菌種同定が一般ラボでは困難になってきました。しかし菌種によっては病原性も異なり特に肺ノカルジア症の場合は感受性を含めて結果報告することが必要になります。勿論、グラム染色に合わせてチールネルゼン染色やキニオン染色も活用して菌種同定を早く進める必要があるというtakehome messageでした。
次回は7月に開催します。皆さま宜しくお願いします。
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