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2013年2月27日 (水)

第15回神戸グラム染色カンファレンス 終わり

21日に第15回神戸グラム染色が開催されました。

私も消化器内科のT先生の力をお借りして発表させて貰いました。

タイトルは『で救えるもの』。最近はDHC(Diagnostic High level conference)の影響もありタイトルに含みを入れてプレゼンするようになりました。

今回発表させて貰った内容は下記の通りです。

80歳代、男性で上腹部痛を主訴として加療を受けていた患者です。総胆管結石を疑い抗菌薬を数種類使用したが改善が無いため当院へ紹介となりました。

腹部CTで閉塞性胆管炎を疑い、緊急でERCPを施行しましたが幽門輪狭窄があり、PTCD下で穿刺し胆汁培養を実施しました。

【フェーズ1】想定される原因菌と選択される抗菌薬は何?

デーブルディスカッションをしたところ殆どのデーブルでは閉塞性胆管炎のため大腸菌、クレブシエラ、バクテロイデス、腸球菌を想定してMEPM+VCMという選択でした。

グラム染色を実施しました。下記のようなスメアが見られました。

Aosc2×1000

実際のやり取り

消化器内科のT先生が後輩と研修医を連れてグラム染色をしています。見慣れない菌種なのか一緒に見る事になりました。

『あ、これ腸球菌ですよ。形状から言うとE. faeciumが濃厚ですね。VCMは必須でしょう。』と答え、フロアの回答と同じようにMEPM+VCMを選択としました。『MEPMはカルバペネムですが腸球菌には抗菌活性が悪いんです。E. faecalisであってもMEPMは著効しないことが多いのでやはりVCMは必要でしょう。』と細菌学的なコメントも追加となりました。

翌日、血液培養が陽性になりました。

Aosc×1000

【フェーズ2】このスメアを見て推定菌種と選択する抗菌薬は何?MEPM+VCM投与下であれば投与薬の変更、中止やDe-escalationは可能か?

フロアからは、推定菌は腸球菌、または患者背景から腸球菌であればE. faeciumを疑いますと多数コメントが出ました。また、患者の重症度からはDe-escalationは出来ないでしょうという声が沢山ありました。なるほどです。

解説をしました。

やはり腸球菌を疑う所見です。丸いのでE. faeciumでしょう。既に胆汁培養は一晩経ち集落形成されています。E. faeciumの集落のようです。E. faecalisとはやや集落性状が異なります。

Photo集落性状による菌種の違い

Photo_4主に消化器材料から出るレンサ球菌の特徴と今回のスメア所見

結局、E. faeciumでした。

スメアだけでE. faeciumと言うにはハードルが高いという方もいると思いますし、これが100%の感度を持っている訳ではありません。おおよそ90%以上の正答率を持っているので菌種まで詰めて話をすることにしています。

当院のデータを整理すると、培養が陽性となった胆汁検体のうち14%で腸球菌が検出されるという結果になりました。2003年と2012年で比較しても同じ%だったので恐らく大きく患者背景が変わらない限りこの検出率になります。

塗抹陽性率は培養陽性となった場合89%という結果になりました。陰性のものが混じっている事が分かります。

さて、E. faeciumはE. faecalisに比べて耐性化が強く、更に医療行為が施された場合に検出率が上がります。外来と入院とでは検出率も異なることがローカルデータで示されています。感受性も大きく違うため今回の腹腔内感染以外でもこのローカルデータは使用できると思い作成しています。いわば、グラム染色所見をコメントする上でのエビデンスとなります。

15

最終的に表題の話に戻りますが、

=グラム染色 を指しています。

える=AOSC(急性閉塞性化膿性胆管炎) を指しています。

『青と赤で救えるもの』というのはAOSCの原因菌をグラム染色を活用し治療を成功に導くことというメッセージでした。

会場ではかなり滑りましたがプレゼンテーションの内容はシンプルで良かったと自画自賛です。T先生ありがとうございました。

もう一題はNocardia elegansの肺炎症例でした。最近はNocardiaも細分化されてきて菌種同定が一般ラボでは困難になってきました。しかし菌種によっては病原性も異なり特に肺ノカルジア症の場合は感受性を含めて結果報告することが必要になります。勿論、グラム染色に合わせてチールネルゼン染色やキニオン染色も活用して菌種同定を早く進める必要があるというtakehome messageでした。

次回は7月に開催します。皆さま宜しくお願いします。

 

 

 

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2013年2月21日 (木)

ひと目でわかる微生物検査アトラス 第二版

少し宣伝をさせて下さい。

2006年に出して好評でした『ひと目でわかる微生物検査アトラス』がこの度改訂となりました。

05036l

前回より写真を少し増やし、見難かったスライドについては一部差し替えをしました。

また、解説についてもポイントを絞り、目次も充実することになりました。

スライドにはスケールを付けたので菌の大きさなど分かりやすくしました。

Photo_3 新しい表紙(Let's グラム染色というフレーズが渋い)

Photo_4 内容の一例

一般販売は2013年3月7日からですが、環境感染学会は先行発売の予定だそうです。

販売予告 http://www.kanehara-shuppan.co.jp/catalog/index.html?d=03

環境感染学会総会:http://www.congre.co.jp/jsei2013/

ご興味のある方は一度手にとってご覧ください。宜しくお願いします。

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2013年2月19日 (火)

検査材料の遠心について

グラム染色のお話をしていると遠心操作ついてコメントすることがあります。

微生物検査の中で遠心操作は必要なのか?という疑問があります。遠心機が近くに無い状況でも遠心を省略して良いのでしょうか。遠心した方が菌が集まるので全て遠心した方が良いのでしょうか。考えてみました。

1)塗抹や培養の感度を上げるため

これは遠心で集菌効果を期待し塗抹や培養の感度を上げるためである。代表的なのが髄液培養ですが、髄液のような無菌的な体液検体は材料中に存在する菌が少ないことが多く遠心をすることで感度を上げるようにしている。グラム染色の最小検出感度も10の5乗個/mlから10の4乗個/mlと10倍感度が上がることが知られています。(Journal of clinical microbiology,1982,1025-1056)

ただし、尿は集菌することで周囲の雑菌を検出する可能性も高くなり通常は非遠心検体を用いてグラム染色をする。血液は無菌であるが検体中の菌量は非常に少ないため遠心しても最小検出感度に達しないのでグラム染色では見えないことが多いです。

Photo 尿を遠心すると周囲の雑菌が多く見える(同一検体)

結核菌をはじめとした抗酸菌は感染菌量も少ないので喀痰も遠心して塗抹と培養に用いるようです。

不要な有形成分の除去

上清を抗原検査に用いるため有形成分は不要になる場合は遠心することがある。髄液の迅速抗原検査などがあります。

遠心にはそれぞれ材料の検査目的による違いがあるので何を検査したいのかで考えることになります。そこで覚えておきたいのが遠心する条件は材料や目的菌によって違うことです。

遠心の条件について標準的なものはあるのでしょうか?

遠心の条件については色々あり、遠心時間だけでも上記の文献を参考にすると関節液や胆汁、胸腹水については遠心時間は5分、髄液や透析液は10分必要になります。髄液は5ml採取し1000gで15分間遠心し、3mlは捨て残りの2mlをグラム染色をすると書かれていますが、Manual of Clinical Microbiologyには1500gで15分遠心すると記載があります。まとめてみると髄液の場合は1000-1500gで15分遠心することになります。

また結核菌の場合はどうでしょうか。Manual of Clinical Microbiologyには3000gで15分という記載があります。つまり更に遠心力を高めて集菌する必要があるということです。結核菌は、脂質成分が多く、比重が低い(0.79-1.07)ため、一般細菌を目的とした遠心条件ではしっかりと沈まない可能性があります。結核菌検査の場合は最近では塗抹検査は遠心集菌法で行わないといけないようになっています。

通常の直接塗抹の最小検出感度は10,000個/mlですが、遠心集菌法の場合は100個/mlまで感度アップできることが知られてます。ただし、結核菌の場合は感染の危険性もありバイオハザード対策をしっかりする必要性があります。

遠心機は冷却装置が付いたものでなければならないのはあまり知られていないかもしれません。菌は遠心することで物理的なダメージを受けて死滅することが知られています。更に結核菌検査の場合はアルカリ処理を行うために化学的なダメージを受けるので死滅する菌数は増えます。冷却装置が無ければ遠心で発生した熱によるダメージが更に加わるので更に死滅する菌が増えることが知られています。冷却装置が無い遠心機で20分間遠心した場合には結核菌は40%も死滅したと報告されています。塗抹だけなら良いかも知れませんが、培養まで継続して行う場合は冷却遠心機が必要になります。(PUBLIC HAELTH MYCOBACTERIOLOGY,A Guide for the LevelⅢ laboratoryより)

最近は遠心機を使わずに集菌できる試薬もありますので遠心機が無くても感度を上げることができるようです。

Photo_2遠心集菌法とマグネットビーズ法(蛍光染色法)

 http://www.yashimachem.co.jp/iPadweb/%E6%A5%B5%E6%9D%B1%E8%A3%BD%E8%96%AC/%E6%A5%B5%E6%9D%B1TB-Beads%E8%B2%A9%E4%BF%83%E8%B3%87%E6%96%99.pdf

たかが遠心、されど遠心。手技にも色々と培ってきた内容が反映されている訳です。

 

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2013年2月12日 (火)

第15回 神戸グラム染色カンファレンス

年に数回しています『神戸グラム染色カンファレンス』ですが今回で15回になります。

この研究会は日常的に感染症診療の一環で行われている『グラム染色』から得られる情報を活用し感染症診療に切り込んでいくというとっても濃厚な研究会です。

通常2題出題があり、数個ある質問に対して(殆どが診断、治療方針の決定、菌名当て、解説など)、医師、薬剤師、臨床検査技師とそれぞれの立場からテーブル・ディスカッションを行います。

当てられて緊張するのも良し、普段聞けない内容を聞いても良し、仲良くなってメール交換しても良し? グラム染色は万国共通語です、院内だけの言語にしておくには勿体無いので参加して自分の思いをぶつけて下さい。

お時間のある方、興味のある方の参加お待ちしています。

【第15回神戸グラム染色カンファレンス】

 日時:平成25年2月21日(木) 18:50~

 場所:三宮研修センター 6階 会議室

 神戸市中央区八幡通4-2-12 (神戸市役所本館の目の前)

 http://www.f-road.co.jp/kenshu/

 参加費:500円(飲みもの付いています)

 司会:明石医療センター 大西先生、甲南病院 中上先生

  症例検討会

   1)市中肺炎の落とし穴  担当:神戸大学医学部附属病院

 2)青と赤で患者を救う 担当:西神戸医療センター

写真はCapnocytophaga sputigena(ヒト由来のCapnocytophaga)

 ・Fusobacteriumに似ている ⇒好気ボトルが陽性になることから除外しやすい

 ・患者背景を聞く ⇒粘膜障害をきたす疾患や、病態があるか確認。ヒト由来株の多くは口腔内常在菌。

 ・形状が歪なのは基本的に薬剤耐性化が少ない(一部ESBLの報告もあるが多く無い)

・ヒト由来はオキシダーゼが陰性になるので直ぐに分かる

Aml4_2×1000

こんなことが聞けるかもしれません。

今回はこのお題はありません。

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2013年2月 5日 (火)

【学会報告】誤嚥性肺炎診断のためのグラム染色について

臨床微生物学会総会が終わりました。お世話になった方々、はじめてご挨拶させて頂いた方々ありがとうございました。

今回もそうですが、年々参加者が増えていっている気がします。

個人的には色々と最新情報を含めて身になる話、学会でしかお会いできない知人の近況報告などの収穫がありました。

一般演題を出しました。内容は誤嚥性肺炎のグラム染色です。

下記はその発表内容のダイジェストです。

1.誤嚥性肺炎について

疾患の定義があいまいで、明確な診断方法が無いように思います。日本呼吸器病学会の市中肺炎のガイドラインにも記載がありますが、はっきりとした定義はありません。

ただし、下記の病態がある場合は誤嚥性肺炎の可能性を示唆できるものとなります。

・嚥下機能障害があり微量誤嚥のリスクを伴う病態(ミクロの誤嚥)

・胃液や唾液の大量誤嚥、異物誤飲があるもの(マクロの誤嚥)

必要な検査は胸部単純撮影による画像診断や嚥下機能検査による評価を行いますが、検査室診断では特定できるものは少なく下記の内容について評価をすることになります。

・塗抹検査:グラム染色上で多数の口腔内細菌が認められ、扁平上皮も認められるもの。

・培養検査:嫌気性菌の分離が多いものであるが、気道の定着菌が多量に出てくるために培養結果がそのまま評価対象にはならない。

グラム染色像は以下のようなものになります。

Y003_

2.今回の内容

肺炎を疑い喀痰を提出した1000例あまりの患者の中で誤嚥性肺炎と最終診断(保険病名は除外)され、『誤嚥性肺炎の可能性があり』報告した60例ほどを対象としました。

『誤嚥性肺炎の可能性があり』とは

膿性部分を有する喀痰が提出され、グラム染色所見で口腔内常在菌を含む多菌種が確認されたもの。多量の唾液汚染が考えられる場合は生食で洗浄をかけて塗抹を作成しました。

評価と結果は下記の内容です

1)Geckler分類でGrade4以上となる⇒感度46.7%、特異度77.1%

2)2菌種以上の貪食像が確認される⇒感度56.7%、特異度51.4%

3)Miller & Jonesの分類でP2(膿が1/3-2/3)となる⇒感度68.0%、特異度37.0%

4)上記3つの要素が同時に満たされた場合⇒感度37.9%、特異度78.6%

結果的に誤嚥性肺炎の場合は喀痰中に扁平上皮が混じっていることが多く、複数菌(特に嫌気性菌)の貪食が多く確認されるものとなりましたが、その的中率はあまり高くないものになりました。

類似のグラム染色像が見える病態は気管支肺炎、高齢者肺炎、肺膿瘍、喘息、歯性感染など。誤嚥性肺炎像と間違える患者の状態としては気管切切開者、口腔衛生不良者でした。

『誤嚥性肺炎の可能性があり』との報告をすることで

・培養結果に反映させて考えることができる。

・口腔ケア、嚥下リハビリ、薬物療法、体位変化など嚥下機能障害に関わる介入を早期にできる。

ことが確認され、特異度は高くないのですがこれからも『誤嚥性肺炎の可能性があり』と報告することは臨床的意義はあるのではないかという結論に至りました。

Robinsonらの報告は79%でしたが、こちらの方がまだ分かりやすいのでは無いかと自負する結果になりました。

Photo

3.質問について

H先生から質問を受けました。

『吸引痰ではどういう結果になったのか』⇒少し前に検討したが、喀痰より感度は高いものになりました。ただし、患者の意思に関係なく吸引という医療行為が発生しているので高くなるのは当たりまえではないか。今回は喀痰排泄という行為においてどの程度可能性があるかどうか考えた内容なので喀痰のみに限定した。

言い残しがありますが、おそらく肺穿刺や気管支鏡下採痰による確認は必要ですが全ての患者には無理であるので実現できないとは思います。本当はしたい。

実際どうでしょうね。また意見をお聞かせ頂ければ幸いです。

次回は2014年2月。場所は名古屋です。また一般演題出したいと思います。

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