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2013年1月 7日 (月)

カンジダ食べる

1ヶ月間もブログ更新しておりませんでした。

明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いします。 

年末年始は細菌検査は休むことが出来ないので、当直+αと仕事を頑張っている方々が多いと思います。元々少人数でしている検査室なんか年末年始を海外で過ごすなんて夢のようなことですね。

来月には臨床微生物学会もありますしテンションあげて頑張りましょう。

年末年始は当直体制を引くために検査室もそうですが、診療科も手薄になってしまいます。

普段相談しながら進めているものも気軽に相談ができないため悩む機会も多いと思います。ただし、ルチンワークが少ないのでジックリと考える時間が取れることが年末年始の良いところです。

例えばこんなスメアに遭遇したとします。

Vap2×1000

Vap3_3×1000

膿性痰でカンジダと思われる酵母様真菌の貪食像がキレイに見られた場合ですが、肺炎の原因菌と捉えてしまうのでしょうか。

カンジダは口腔内常在菌ですので口腔内に定着しています。健常者でも定着する菌ですが入院患者の方がその頻度は高くなります。入院患者では内因性や外因性の要因がそれぞれ関与し、長期入院や抗菌薬の長期使用などがその因子に含まれます。宿主の免疫状態もまた理由の一つになります。

そういった菌が膿性痰で貪食がある⇒⇒⇒原因菌?という疑問が湧いてきますよね。

いつも言っていることですが、貪食があるから原因菌であるという推論は正しいのでしょうか。当然、貪食が無くても原因菌として治療しないといけないケースは沢山あります。貪食は生体反応を体外で確認できる、貪食されていないものよりかは貪食がある場合は真の原因菌に近くなることは言えるでしょう。しかし、貪食像=原因菌は必ずしも成り立たないことなのでは無いでしょうか。

参考書や教科書にはカンジダ肺炎は極めて稀な疾患であり、殆どが血行性に肺に病巣を形成することで起こり、経気道感染はさらに稀な疾患になります。なので、膿性痰にカンジダが見えたからと言ってそれが肺炎の確定診断には繋がる事はありません。

カンジダ肺炎の頻度は剖検7725例に対して351例(4.5%)でprimaryな症例は31例(0.4%)しか無かったとあります。31例の中で48%はステロイド投与歴があり、29%は好中球減少(<1000個/μL)があったという報告があります。(Medicine Baltimore.1993;72(3):137-140.)

喀痰でカンジダを確認し治療した場合と治療しなかった場合を比べた場合に死亡率は有意差が無かったという報告もあります。

簡単に言うと、宿主の要因が非常に限られた場合にカンジダ肺炎を起こしやすく好中球減少症や長期間のステロイド投与歴がある、先天性免疫不全症、T細胞リンパ球の抑制状態が持続する病態などがあり、カンジダが膿性痰から検出される場合は一考が必要になるのでしょう。また、広域抗菌薬で治療しても効果が無い(侵潤影の増強、低酸素状態など)もその指標の一つになるでしょう。また、血行性播種を想定し、血液培養やβグルカンの測定も補助診断に用いることもあると思いますが。

検査としては最大のポイントは採取条件になります。吸引チューブによる吸引痰はしばしば口腔内の常在菌を多く反映し、真の下気道感染の原因菌が検出されない場合があります。なので、必要な場合は気管支鏡下採痰や気管支洗浄液によりカンジダを証明することが必要になってきます。Ann Intern Med. 2000;132:621-630.

貪食がある⇒原因菌!?と悩む前に一度採取条件の確認をすることは大切な臨床的意義を産みだすことになると思います。

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コメント

いつも拝見しております。
当院でも喀痰からカンジダが検出された場合は口腔内定着菌の汚染として処理しておりましたが、採取条件についても確認したいと思います。
ところで>吸引チューブによる吸引痰はしばしば口腔内の常在菌を多く反映し、真の下気道感染の原因菌が検出されない場合があります。とありますが、誤嚥性肺炎の評価をグラム染色から推定する場合も吸引痰は不可ということになるのでしょうか?

投稿: ゆうがパパ | 2013年1月10日 (木) 13時24分

カンジダは定着菌である事が多いのですが状況によれば起こしていることが否定しきれないケースは多いと思います。VAPなど特殊条件下の場合は病態としてカンジダ症をどう微生物検査からアプローチする場合は検体の採取条件をしっかり確認する事が必要かと思います。

吸引痰で誤嚥性肺炎を評価する場合は喀痰で評価するよりかはPPVが高くなるようです。データは少ないのですが当院で調べた場合は、吸引痰で多菌種貪食が確認された場合は誤嚥性肺炎を反映する可能性が高くなりました。ただし確率は低く必ずそうだとは言いにくい状況もありました。気管切開や人工呼吸器が装着されていた場合は誤って評価されるケースも出てきますので、最終的には気管支鏡下で採痰するのがベターかなとは思います。

投稿: 師範手前 | 2013年1月12日 (土) 15時12分

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