無理して鑑別しなくても良いと思う
グラム染色は簡便に推定菌を判断する有用性の高い感染症の診断検査です。
言い過ぎかもしれませんが、グラム染色をバカにすると痛い目に合う事もあるかも知れません。
肺炎の原因菌を調べる場合は喀痰のグラム染色をすると思います。これは、胸部画像所見では肺炎を起こしている部位や範囲、原因などは判断できるのですが、流石に原因菌までは判断できないことがが多いからです。例えば大葉性肺炎の原因菌としては肺炎球菌が代表的ですが、肺炎桿菌、レジオネラ菌も起こしますので培養してみないと分かりません。緑膿菌も場合によっては大葉性肺炎を起こすという報告(http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=357721#Abstract)もあり、染色しないで肺炎球菌だろうからABPC単剤で行こうというのは明らかな過ちであり、染色をしておけばこのような間違いは発生しません。
それにしても市中肺炎の原因菌の中でもっともマークしないといけないのは後にも先にも『肺炎球菌』でしょう。
喀痰グラム染色で下記のような像が確認されると、肺炎球菌だろうという判断は直ぐに付くのでグラム染色って有用だなと思う訳です。しかし、この染色像の背景には良質な喀痰(扁平上皮が少なく、白血球が多い)が採取されたから肺炎球菌であろうという裏付けができる訳で、良質な喀痰は下気道の病態をしっかり反映できているからです。
肺炎を疑っても100人が100人良質な喀痰が採取できるか?という問題点があります。高齢者であったり、女性、小児など喀痰が容易に喀出できない患者は多くいます。
Gecklerの言う良質な喀痰とは若い成人市中肺炎で扁平上皮が無く、組織球が無い、多核好中球が多く見える喀痰です。高齢者の場合は誤嚥性肺炎を合併した肺炎球菌性肺炎は当たり前のようにあるので、扁平上皮が多量に混在する喀痰などに多く遭遇します。http://jcm.asm.org/content/6/4/396.abstract
扁平上皮が多い喀痰の中から肺炎球菌を見つけようと思うにも上手くいかないことが多いと思います。それは口腔レンサ球菌の存在です。口腔レンサ球菌は肺炎球菌と形状が非常に類似していて、長いレンサ状になっていない限りグラム染色像からは判断できません。また、肺炎球菌は明確に莢膜が確認されなければ確認し難いと思います。
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そういう時は無理をしないで肺炎球菌かの鑑別に時間を割かなくても良いと思います。
上記のような扁平上皮に付着しているような双球菌(またはレンサ状球菌)は、上気道に定着している口腔レンサ球菌のことが多く、これを口腔レンサ球菌か肺炎球菌かどうか鑑別が出来ませんので、別の診断検査(血液培養や尿中抗原)を参考にするのが良いでしょう。
この現象はグラム染色初級者(白帯)に多く見受けれる現象ですので、ある程度慣れた方に教えて貰うと良いと思います。こういう時は一度細菌検査室に訪れてみるのも良いかも知れません。
私はどこまで鑑別するかですが下記のようなグラム染色像も読んでしまいます。これは誤嚥性肺炎と肺炎球菌性肺炎を合併した患者の喀痰グラム染色です。そのままコメント報告しております。
来月の近畿学会ではこのような限界ギリギリの話で、ちょっとしたコツについて話をしたいと思っています。お時間のある方は聞きに来て下さい。
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