抗酸菌を見つけたら感受性まで必要か? 結核菌編
先日はSCANIC学術研究会でワンポイントレクチャーをさせて貰いました。
テーマは『抗酸菌の薬剤感受性試験』。
普段、結核菌を含めた抗酸菌検査を外部委託されている施設はあまり馴染みが無い分野とは思いますが、結核菌の治療には感受性検査は絶対に必要ですし、非結核性抗酸菌(NTM)も状況により、感受性検査は必要になってきます。
結核菌の感受性検査は、検出された菌についてバックオーダーで検査依頼をすると普通に返ってきますが、NTMについては返ってきた結果が治療に役立つものかどうか確認が必要になってきます。というのは、NTMの治療には結核の治療に使わないような抗結核薬や一般の抗菌薬を使用する場合があるからです。
結核菌の感受性は本当に必要なの?患者を結核指定医療機関に送ってしまったから、患者は居ないんだし、うちでやらなくて良いよねと思われていませんか。
結核の治療は複数の抗結核薬を数カ月以上服用することです。治療を終了するには、適切な治療が必要ですが、適切な治療とは副作用による服用が完全に出来ないことや、薬剤耐性菌で無いことが定義に入ってきます。
入院患者で見つかり、接触者検診をして抗結核薬の予防内服を開始する場合でも、その抗結核薬に耐性で無いという情報は必要になります。送った先の情報を貰うというのもありますが、送った先で結核菌が100%分離出来るという保証はありませんので、その場合は患者さんに迷惑がかかりますし、転送先の結核指定医療機関、接触者検診をしている病院や、保健所まで色々と問題点が出てきます。
なので、結核菌は可能な限り分離した施設で感受性まで行うことが良いと考えています。
感受性検査をする意義は、薬剤耐性菌かどうかの確認をし、適切に初期治療がおこなえているかどうか確認することです。
感受性方法は、日本では結核病学会が出している新結核菌検査指針2007、米国ではCLSI M24-A2というマニュアルがあり、それに準じて行われています。結果判定もそれぞれ特徴を持っています。
さて、日本で行われている感受性はどんな方法があるかですが、下記のものがあります。
1)絶対濃度法
日本が昔から行ってきた標準法。1薬剤で2-3濃度実施して判定する方法。小川培地を使っているので、結果にバラツキが生じることと、結果に時間がかかる。
2)比率法
米国では標準の方法。コントロールに比べて1%未満の発育を認めた場合は感受性と判定する方法。
4)スペクトル法
世界標準の比率法に合わせた感受性検査で、コントロールに比べて1%未満の発育を認めた場合は感受性と判定する方法。小川培地がベース。
5)液体培養法
1濃度の発育阻止を確認する方法、またはMICを測定する方法。
6)遺伝子検査法
RFPならrpoBという遺伝子変異の部位を確認する方法。検出する遺伝子変異と感受性の相関が高いものは参考になりやすい。rpoBは95%程の相関ですが、INHの場合は遺伝子変異の部分が複数なので1つ(例えばkatG)だけでは相関は低くなり参考になりにくい場合があります。
現在、汎用されているのが4)と5)です。
INH(イソニアジド)、RFP(リファンピシン)、EB(エタンブトール)、SM(ストレプトマイシン)、PZA(ピラジナミド)、RBT(リファブチン)・・・あとは調べてください。
4)の方法はINH、RFP、EB、SMの一次結核薬から、KM、PAS、TH、CS、LVFXの二次結核薬まで検査します。しかし、PZAは入っていないので別の方法で検査します。
5)はINH、RFP、EB、SMの一次結核薬から、KM、LVFX、CPFX、RBTの二次結核薬まで検査します。しかし、PZAは入っていないので別の方法で検査します。
そうです、PZAは感受性方法が大きく異なるので別の方法なんです。
ここで不思議と思われる方も居るでしょうが、結核の治療は複数の抗結核薬を服用するのに1剤ずつの感受性を測定して評価することが基本となることです。複数一緒にして感受性という訳にはいきません。当たり前ですが。
結核菌の薬剤耐性化は、遺伝子変異による突然変異です。INHであれば10の6乗に1回、RFPであれば10の8乗に1回の割合で起こると言われています。
複数服用することで、突然変異により発生する耐性菌の確率を低くして、治療を行っていくという、黄色ブドウ球菌や大腸菌とは全く違う点で行われます。
一方、4)の方法は小川培地でするので、時間がかかります(おおよそ培養の倍の時間なので早くても8週間ほどが目安)。5)の方法は培養陽性後2週間ほどで結果が出ますので、検体を提出してから早くて4週間程度で結果が出ます。早い方が良いわけですが、でも4週間。
じゃあ、遺伝子を調べたら良いよねという考えもありますが、汎用出来ないし、市販品はrpoBしかありません。受けてくれる外部委託先も少ないでしょうし、なかなか現実的な検査ではありません。CLSIのマニュアルには、遺伝子検査が重宝される場合は、既治療例の結核再燃例、現行の治療での効果が悪い場合、耐性結核菌排菌者との接触がある(蔓延国への渡航など)場合と記載があります。まさにその通りです。既に外国では結核菌とrpoBの変異を同時に見つける機械も販売されているようです。
つまり、抗酸菌が見えて、結核菌が陽性になりました。患者を送りました。接触者検診しました、INH予防内服もしました。終わり。ということで、数ヵ月後にINH耐性だったんですと判明して青ざめることの無いように、菌が出たら感受性の依頼をしたか、依頼の判断に迷う場合は、菌株を滅菌せずに一時保管をお願いするかしないといけませんね。
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