第27回日本環境感染学会総会にて
2/3,4と第27回日本環境感染学会総会(於:福岡国際会議場、他)に参加してきました。
勿論、手ブラではありません。今回は院内感染について考える学会であるので、その関連で演題を絞り発表させて頂きました。
タイトルですが、『結核病棟を有する総合病院での結核感染防止対策』とまあ、結核感染防止に関係する内容です。
ご存知で無い方もいらっしゃるので一応概要を説明。
当院は神戸市唯一の結核指定医療機関であり、20の診療科がある総合病院に併設している結核病院です。年間約200名程度の活動性結核、結核後遺症の患者さんが入院します。よって外来患者もフォローも含め来院されます。当然ながら救急診療も市西地域の中核医療機関でやっております。まとめて言えば、地域に無くてはならない総合病院でありながら、多くの結核診療を行っているよう病院です。
なので、合併症を持つ結核患者も入院されます。合併症に関しては、透析が必要だったり、出産をしたり、外科手術をしたりと多様性があります。また、小児結核も積極的に診ています。
結核の感染防止対策大変ですよね?個室収容、N95、曝露者対策。疾患が重篤化するために非常にケアが慎重になってしまいます。加えて周囲に結核を知っている人が減ってきて、1例でたらもう大変な病院は多いと思います。
じゃあ、結核病院だから、陰圧個室が沢山あるから対策立てやすいよね?と勘違いされる方も居らっしゃるでしょうが、うううん、とんでもない。通常に使用出来る陰圧個室は3床。結核病棟に入院するには、市中病院と同様に条件が必要なので、やたらめったら結核病棟にというのは全く無理な話で、救急入院、通常入院と結核入院は分けて考えないといけません。また、結核診療に多く携わる機会のある職員とそうでない職員とでは結核感染防止対策に関しても少し疎い傾向にあります。
なので、病棟、検査、放射線、内視鏡、外来、栄養科、手術室など細部にわたり、空気感染対策、検査の方法、職員曝露者対策をマニュアル化してる(2年に1回改定)。
という事情を踏まえて、今回は現状での結核曝露者対策についてまとめました。
【概要】
1)神戸市の結核罹患率は18.6(地方自治体の集計で全国6番目)
2)結核排菌患者は約100名程度診る。
3)過去3年間で曝露事例は25件あり、接触者は述べ600名程度。QFT陽性者は6名(1.4%)、でも、発症者はなんと0人
4)定期健診として法令で定められている胸部レ線2回。全て直接です。
5)QFTは新規採用者(中途や移動も含む)と結核診療に携わる職員、結核患者と接触する機会の多い職員、結核菌を扱う職種などは毎年1回ベースラインを引く。残りは定期外にベースラインを引く。結果は本人宛に親展にて院内メールで送付。
6)QFT陽性者は画像や予防内服含めて呼吸器内科フォロー(診療内容がぶれないようにマニュアル作っています)。
7)結核曝露の多い場所としては病棟が最も多く、外来、内視鏡室の順番
8)曝露が多い疾患は肺結核と咽頭喉頭結核。咽頭喉頭結核は胸部レ線で映らないので事前把握は難しい。
9)曝露の多い肺結核に関しては、入院時の結核除外診断の基準が低かった、化学療法で入院中に肺結核が再燃したなど、OldTBを含めて肺結核の過小評価が半分。喉頭結核など結核と診断する前に既に曝露があった例が次に多く、他院より別疾患の精査加療目的で入院したけど結核だった(他院から転送時に結核の除外診断が出来てない)など。
10)当院の結核患者での統計ですが、2000人規模で調べたのですが悪性腫瘍がある患者は約100人。そのうち化学療法を受けての再燃は30人くらい居た。
【対策】
1)結核除外診断は徹底させる。特に痰の検査は3連あたりまえ。PCRもうち1回は必ず入れる。
2)OldTBの評価は確実にする。化学療法、生物製剤投与の場合は必ず。
3)他院から転送される場合も、結核は無いか聞くようにしてもらう。特に肺がんのオペ。
【結果】
曝露職員は3年で1/4になり、曝露のため個室の必要性が無いが、対策上個室収容へ切り替えた患者さんは1/10になった。
成果出ていましたのでしっかり発表しましたが、質問は座長からしかなく、シクシクしていました。
会場で他の演題を聞いていましたが、本当に結核感染対策はどの施設も悩ましいのが判りました。が、一言いうのであれば、もう少し掘り下げて考えて欲しいと思った次第です。
会場ではQFTをお題にした発表がありましたが、連呼されていたのが『コストが、コストが』。確かにお金がないと出来ませんがお金がないで片付けられた職員を放置するのは、自分の身になった場合どうか?と思いました。ベースを引かず2ヶ月後に陽性となった場合は今回の曝露に関係無く内服が必要になります。化学予防は当然副作用の出現は否定出来ません。QFTが陽性の人で、今回の曝露に関係ない事も考えらます。精神的負担も介入によりOverになってしまう場合もある。やっぱりQFTで評価をしようと思うのであればベースラインの測定は必要じゃないかとモンモンとしておりました。未だ未だ結核感染防止対策をしっかり考えないといけないとは思いました。
当院もまだまだ不完全です。もっと職員を安全に働ける場所を提供出来るようにしていきたいと思います。
長々となりましたが、スライド1枚添付します。
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コメント
大変勉強になります。ありがとうございます。
咽頭喉頭結核・・・こんな患者さんが外来に潜んでいたら・・・診断できる自信がありません。どういうパターンで診断がつくのでしょうか。A群β溶連菌?→迅速検査で陰性 アデノウイルス?→迅速検査で陰性 なんだろう、伝染性単核球症だろうか?→外注検査依頼 まさか、急性レトロウイルス感染症?→ごめんよと言いながら、詳しく根掘り葉掘り色々聞く その次くらいに、ま、まさか・・・咽頭喉頭結核?!・・・ というような感じでしょうか。そうすると、初診で見逃して、何度か通院するうちに、おかしい・・・ということになって、見つかって焦るパターンなのでしょうか。そんなになったら、いったい接触者がどれくらいに増えるのか、そら恐ろしいです。
そもそも、咽頭喉頭結核なんて見たことも、どんなになるのかも知らないので、見逃しそう・・・あんまり良くならないからって、クラビットを安易に使う先生なら、もっと後手後手に回りそうですね。う~ん、心配です。
投稿: 三省 | 2012年2月 8日 (水) 22時33分
三省さま
やはり長引く炎症性疾患がある場合は結核は頭から外してはいけないと毎日思っております。それは日本の結核罹患率が、他の先進国に比べて高いからであります。罹患する機会は高いと思います。
投稿: 師範手前 | 2012年2月16日 (木) 18時42分
検査技師のにしきんと申します。今日もおじゃましてます
。とても勉強になります。ありがとうございます。咽頭喉頭結核なんてどんなのか知らなかったです。三省さまのおっしゃるとおり、クラビットで後手後手に回って、その間に接触者がわんさか
って考えるとこわいです
。結核にかかわらず、各種感染防止対策って重要だと思います。
また、QFTに関して、新規採用者や結核診療に関係する職員に、「全くQFTを実施しない」ところや実施しても「新規採用時の1回きり」という施設さんが多い中、『毎年1回QFTベースラインを引く』って、さすがだなあ
と思いました。
環境感染学会での結核暴露に関する問題点と改善策のスライドに「PCR検査の時間短縮化」ってありますが、具体的にどのように短縮されるのですか。
投稿: にしきん | 2012年2月21日 (火) 00時58分
にしきん様
PCRの迅速化ですが、前処理が簡単なものに変更しました。
昔トータル4時間かかっていた検査ですが、今は早くて1時間くらいになりました。急いでってのが多いので、対応出来るようにしました。PCRの1回のサイクルが10秒程度と超早いものです。
投稿: 師範手前 | 2012年2月21日 (火) 19時28分